日本認知科学会の研究分科会「間合い−時空間インタラクション」(間合い研)は,実生活のあちらこちらで遭遇・体感する「間合い」という,曖昧模糊とした現象を対象に,身体知・コミュニケーション・アフォーダンス・共創システムなど(これらに限られるわけではありません)のさまざまな学問分野の考え方を持ちより,アプローチすることを目指して発足した分科会です.
第26回研究会では,「身体運動の主観的な感覚」というテーマを設け,清水知恵氏(福岡教育大学)と草場千紘氏(慶應義塾大学大学院文学研究科)に招待講演をお願いしています.
多くのご参加をお待ちしております.
[テーマ趣旨]
ラバン(1)は舞踊理論として、「時間 time」「空間 space」「強さ weight」をあげている。時間は動きの速さやリズム、持続時間などの主観的な速度の感覚を表わす。空間は身体が移動する方向、軌跡、広がりの感覚である。強度は動きの重さ、強さ、解放の仕方など、動きに込められたエネルギーの内的な質をさす。さらにこれらは他者との関わりにおいて組み替えられる。他者の反応と相互作用して、新たな状態へ構成されたり異なる状態へ組み替えられたりする。ラバンによれば、舞踊はステップやポーズとして切り取られた身体の部分的な動きの連続ではなく、生きられた身体の動きである。
本テーマセッションでは、舞踊に限らず、歩き方や座り方、スポーツ、コミュニュケーションなど広範囲な身体運動において、実践者が経験している主観的な感覚に関する研究を募集する。
(1) ルドルフ・ラバン『身体運動の習得』、神沢和夫訳、白水社、1985年。
(企画者:榎本美香(東京工科大学))
日程:2025年12月21日(日)12:40-18:00
場所:東京工科大学 蒲田キャンパス 12号館 5階 M512多目的室
※本研究会のオンライン配信やアーカイブ公開はいたしません.
参加申込:不要
参加費用:無料
テーマ:「身体運動の主観的な感覚」および一般
招待講演:清水知恵氏(福岡教育大学)「【からだ蘇生術】:身体に余白を生み出すムーブメント・アプローチ(仮題)」
草場千紘氏(慶應義塾大学大学院文学研究科)「バレエ指導における「間」と身体感覚の外化:主観的感覚の指導事例から」
プログラム
12:40-12:45 開会挨拶・事務連絡
12:45-13:20 一般セッション
12:45-13:20
日本語入門クラスにおける「間合い」の生成:縦断的会話分析の視点による考察
李嘉,古谷礼子(名古屋大学)
本発表では、大学の日本語入門クラスにおいて、日本語母語話者の教員と複数名の学習者が交わす相互行為を3週間にわたり追跡収録し、会話の時空間的構成(「間合い」)がいかに生成されていくのかを、縦断的会話分析の観点から検討する。分析の焦点は、学習者の応答行動および修復シークエンスに置く。分析からは、授業の進行に伴って、教員・学習者双方が発話タイミング、沈黙の長さ、促しの方法、応答に割り当てられる空間を微調整しつつ、「発話を交わす/待つ」「促す/反応する」といった行為の時間・空間・力の配置が再編されていく様子が観察された。本研究は、3週間の初級日本語クラスという短期間かつ教室空間という制約のある場においても、「間合い」が形成・変化し得ることを示し、教室会話において間合いがどのように立ち上がり、相互行為能力と結びついていくのかを、時空間インタラクションの視点から捉えるための実証的知見を提供する。
13:25-18:00 テーマセッション「身体運動の主観的な感覚」
13:25-14:00
協奏しあう舞手の身体運動と太鼓のリズム:熊本県南小国に伝わる吉原岩戸神楽を例に
榎本美香(東京工科大学)
熊本県阿蘇郡南小国にある小さな小さな神社には吉原岩戸神楽というものが伝わっている。江戸時代後期に村の者が豊後地方(大分県)へ出向いて習ってきたそうである。神楽は近年まで、特定の家の長男が一子相伝で受け継いできた。しかし、人口の減少に伴い、最近では参加したいという者には門戸が開かれている。舞の種類は33座あり、もっとも基本の座である「五方礼始」「平國」から、大トリの「八雲払」まで毎年10座程度が選ばれ奉納される。真剣を使う「八雲払」の素戔嗚尊の舞手は、いまだ一人しかできないと言われている。本研究では、その素戔嗚尊の舞手の緩急のある身体運動に対して、太鼓の名手である古老が、リズムをどのように呼応させていくのかを分析する。
14:00-14:35
「ビデオ・エスノグラフィー」における道具としての身体
岡田光弘(成城大学),加戸友佳子(摂南大学),南保輔,西澤弘行(成城大学),坂井田瑠衣(公立はこだて未来大学)
本報告では,高齢女性のカートによる「歩行」と視覚障害者の雪上での「歩行」の映像を提示して「能動」と「受動」に還元できない「動き/動かされる」身体という「根源的な嵌入性(キアスム)」について明らかにする.「観察可能な秩序」(Garfinkel 2002)を解明するビデオエスノグラフィーの研究手順は,「体験」と「研究による客観化」という対立を乗り越え,身体をめぐる「体験をそのまま研究するという」希望の現実化を目指している.
14:35-15:10
ラバンのeffortを視点とした舞踊作品の分析
柿沼美穂(東京工芸大学)
ラバンは、私たちがeffortを通じて、そのmovementを行う人の内面、すなわち感覚や感情を知ることができると考えている。それは、「すべての人間の動作はわかちがたくeffortに結び付いている」からであり、「effortとは動作の根源、つまり、内的な面だからである」。そしてこのeffortは、movementを見る側の人にも、予測できないほどの影響力をもつことがある。effortの視点から行われた舞踊の分析に沿って考察を行う。
15:20-16:20 招待講演1
バレエ指導における「間」と身体感覚の外化:主観的感覚の指導事例から
草場千紘氏(慶應義塾大学大学院文学研究科)
本講演では、クラシックバレエの指導場面を対象に、複数のダンサーの動きのタイミングや回転中に生じる身体感覚といった主観的な感覚が、どのように指導の中で外化され、受講者に向けて提示されているのかを見ていく。カウントイン(count-in)や沈黙といった、動きに入る前後の時間の設計、ピルエット(pirouette)指導における身体感覚の伝え方の事例を取り上げ、踊りの時間的な流れの中に「間」と「身体感覚」の共有がどのように組み込まれているのかを、映像例とともに考える。
16:30-18:00 招待講演2
【からだ蘇生術】:身体に余白を生み出すムーブメント・アプローチ(仮題)
清水知恵氏(福岡教育大学)
舞台空間では演者の身体や意識と動き,音,光,衣装,美術,劇場空間,観客の身体や意識に相互作用がおこり,一瞬にして全てが組み替えられながら,時空間芸術を成立させる.演者の主観的感覚や緩み(余白)の度合いは,劇場内の全時空間との調和度合いにも直結する.本WSでは,長く踊っている演者の動きの秘密の一つである「全身連動性」を元に,操体法(身体調整法)も背景に取り入れたアプローチを体験する.個々人のもつ違和感や不定愁訴,内的感覚の気づきをもとに,「快」感覚に導かれながら,身体に生じている歪みを可能な限り減少させる.身体に余白を生み出し,快適さを取り戻す心身の感覚や,変化する身体感覚のプロセスも味わう.
<もってくるもの(理想)>
・床に寝ても良い,窮屈でない,気楽な気持ちになれるウェア,パンツ,ジャージ.
・タオル(自分用:床にうつ伏せになったりする場合があるため,床に敷きたい方.なくてもよい)
・清潔な靴下(自分用:2人組になったりするので,当日の,履きかえ用を持参してください).
※ ブルーシートとウェットシートを用意しています
本研究分科会では紙媒体での資料集などは作成しておりません.締切日までにご提出いただいた原稿につきましては,研究会HPから研究会前にダウンロードしていただけるようにします.
本件に関するお問い合わせは,日本認知科学会研究分科会「間合い―時空間インタラクション」事務局(maai-admin@googlegroups.com)までお願いいたします.