日本認知科学会の研究分科会「間合い−時空間インタラクション」(間合い研)は,実生活のあちらこちらで遭遇・体感する「間合い」という,曖昧模糊とした現象を対象に,身体知・コミュニケーション・アフォーダンス・共創システムなど(これらに限られるわけではありません)のさまざまな学問分野の考え方を持ちより,アプローチすることを目指して発足した分科会です.
第25回研究会では,「ふるまいとあいだ」というテーマを設け,塚本由晴氏(建築家/東京科学大学)と今宿未悠氏(詩人)に招待講演をお願いしています.
多くのご参加をお待ちしております.
[テーマ趣旨]
木村敏が提唱する概念である「あいだ」(ちくま学芸文庫、2005)をテーマとし、同概念に感銘を受けているさまざまなふるまい(人間の行為だけに限らない)を意識した実践や研究について、話題を提供していただき、ふるまいとあいだと間合いについて議論しましょう。「あいだ」は客観的な概念に基づく離散的な科学では扱うことが困難(あるいは不可能)な連続する現象(例えば、生命、知覚と行為を連携する主観など)に眼差しを向ける概念です。
(企画者:藤井晴行(東京科学大学))
日程:2025年3月8日(土)9:00-18:00
場所:東京科学大学 大岡山キャンパス 緑が丘6号館1階 緑が丘ホール
https://www.isct.ac.jp/ja/001/access
※本研究会のオンライン配信やアーカイブ公開はいたしません.
参加申込:不要
参加費用:無料
テーマ:「ふるまいとあいだ」および一般
招待講演:塚本由晴氏(東京科学大学教授/建築家)「建築のふるまい学」
今宿未悠氏(詩人)「詩作の渦に飛び込み、渦の中で(振る)舞う:身体感覚から環境を、環境から身体感覚を連鎖的に想起/創起する過程」
プログラム
9:00-9:05 開会挨拶・事務連絡
9:05-9:40
「間」と認知モード (発表原稿PDF)
向井理恵(高岡法科大学)
本発表は、木村敏氏の提唱する「メタノエシス」という概念を、言語使用における「間」に適応する試みである。認知文法の祖である Langacker の認知モデルは主客対峙の「観る・観られ関係」であるが、「観る」こと以前に焦点を当てた中村(2004他)の認知モードを援用し、「観る」ことと「観る」こと以前をダイナミックに行き来する認知のあり方(=「メタノエシス」)を浮かびあがらせることで、概念化者が「間」のいい言語表現(例 オクシモロン、パロディ、俳句、語り)を受容する際の心的動きを記述できると主張する。
9:40-10:15
かゆさの発話と搔く行動の相互行為分析
細馬宏通(早稲田大学)
かゆみは、わたしたちのさまざまな感覚の中で特異な位置を占めている。それは外部からの刺激というよりは、身体から来る。また、身体の内奥というよりは表面付近から来る。そして、痛みと違って、しばしば搔く欲求と繋がっている。身体に突発的に生じるかゆみは、会話の中でどう表現され、どのような時間を構成するのだろうか。また、発話と搔く行動とはどのように結びついているだろうか。本発表では、日本語日常会話コーパスから、話者がその場にいる自他のかゆみについて発話した例を取り上げ、「かゆい」発話と掻く行動の自然誌を素描する。
10:20-10:55
樹木の下の人々のふるまい (発表原稿PDF)
増井柚香子,塚本由晴(東京科学大学)
都市において、基壇や祠が設けられて日常的な人々の居場所となっている樹木がある。そこで見られる樹木の下の人々のふるまいは、両者が出会うことで生まれる樹木と人々の間合いとしても捉えることができるのではないか。また、そこでのふるまいが都市空間において人々に共有されているところに、各都市の共通感覚を見出すことができる。本研究では、アジアでの実地調査により事例を収集し、それらの実相を明らかにすることを目的とする。
10:55-11:30
小津映画「東京物語」の特に尾道での旅支度場面と熱海の堤防場面の台詞の間 (発表原稿PDF)
大木仁史(フリー)
小津映画作品における間は、評価が高い。特に役者「笠智衆」の台詞の言い回しは、独特である。感情表現を生業にしている役者が演技する際に、その位置と仕草そして台詞の間合いなどが人々を感銘させるのだが、一般の人と間の取り方が異なるのか、サンプルが少なくても適応できるワイブル確率を適用し、そして会話時の並びが関係するのかを言及する。
(昼休み)
12:30-12:40
テーマ趣旨説明・招待講演者紹介
藤井晴行(東京科学大学)
12:40-13:40 招待講演1
建築のふるまい学
塚本由晴氏(東京科学大学教授/建築家)
建築の「ふるまい学」では、人だけでなく、自然の摂理に従った光、風、熱、湿気にも、道に沿って反復する建物にもふるまいを見出し、それらを響き合わせ、ストレスなく反復できる均衡を探す。いずれのふるまいも特定の構造、あるいは資源との出会いによって生産されるので、ふるまいは「あいだ」にあると言える。その実相は空間型の想像力では捉えられず、事物連関型の想像力を必要としている。講演では、建築デザインの実践を紹介しながら、建築の「ふるまい学」について原論的に述べる。
13:50-14:50 招待講演2
詩作の渦に飛び込み、渦の中で(振る)舞う:身体感覚から環境を、環境から身体感覚を連鎖的に想起/創起する過程
今宿未悠氏(詩人)
本講演では、詩作を「渦」として捉え、その内部で身体と環境が相互に作用しながら言葉が生まれるプロセスを探究する。詩を書く行為は、身体感覚が環境を喚起し、環境が新たな身体感覚を生み出すという連鎖的な運動の中にある。講演者自身の経験や具体的な詩作の実践を交えながら、この渦の中で主体はいかに振る舞い、言語・身体・環境の関係のなかで詩が生まれるのか、その過程を深掘りする。
15:00-15:35
現代の茅葺実践において再構築された「結」の批評性 (発表原稿PDF)
大山亮,塚本由晴(東京科学大学)
茅葺屋根の再生のために現代的な「結」を再構築しようとする近年の試みは、茅を取り巻く事物の「間合い」に成立する地縁血縁を超えた人々の集まりであり、概念としての「コミュニティ」を公・共・私の関係を空間図式として定義するモデルを相対化する可能性を秘めている。本研究では、現代の茅葺実践を対象とした実地・聞き取り調査をもとに、再構築された「結」の実相を明らかにし、建築におけるこれまでのコミュニティの議論に批評的に位置づけることを目的とする。
15:35-16:10
フリースペーススタッフと利用者との間合い:話しかけに先立つスタッフの歩行の様態 (発表原稿PDF)
執行治平(東京大学)
フリースペーススタッフにとって、スペースの利用者との他愛のない雑談をすることそれ自体が職務のひとつとなっており、スタッフは頻繁に利用者への話しかけを行う。他方、話しかけに際して、スタッフは(たいていの場合なんらかの活動に従事している)利用者との間の「間合い」を適切に管理する必要がある。つまり間合いを見極めたり、測ったり、詰めたり、とったりすることは、スタッフ自身の日々の職務にとって重要な実践となっている。本発表では、話しかけに先立って見られるスタッフの歩行の様態に着目し、これによって間合いの管理がいかにして行われているのかを明らかにする。
16:10-16:45
抽象的な「かたち」を生成するスケッチにおける間合いの分析 (発表原稿PDF)
吉田快馬(慶應義塾大学)
幼児の落書きや抽象芸術はどのようにかたちを生み出しているのか。この研究は、抽象的なかたちを描くスケッチ(抽象スケッチ)における間合いの様態を明らかにする。スケッチの過程を知覚と行為がカップリングした単位である身振りの連鎖過程としてコーディングした。描画者が間合いを失うとき、次の一手も失う〈間延び〉と呼ぶ事象が生じる。間延びから間合いを回復するプロセスを、なぞることといった過去の身振りを模倣することに見出して、抽象スケッチの多元的な時間構造を示す。
16:55-18:00
総合討論
本研究分科会では紙媒体での資料集などは作成しておりません.締切日までにご提出いただいた原稿につきましては,このページから研究会前にダウンロードしていただけるようにします.
本件に関するお問い合わせは,日本認知科学会研究分科会「間合い―時空間インタラクション」事務局(maai-admin [at] googlegroups.com)までお願いいたします.