第23回研究会

第23回研究会では,「治療やケアの間合い」というテーマを設け,野間俊一氏(のまこころクリニック 医師)と海老田大五朗氏(新潟青陵大学福祉心理子ども学部社会福祉学科 教授)に招待講演をお願いしました


 医療や福祉の現場では、専門家と非専門家との間で、複数の関係者との間で、治療やケアという実践が行われています。例えば、医師と患者との言葉を介した関わりは、相手の理解や治療に結び付いていたり、療養者の歩みを支える介護者の同伴には、相手の歩く力やバランスが現れています。そして、これらの営みに見られる、沈黙や繰り返し、タイミングなどは、ある種の意味を生み出す隠れた機能をもっています。
 今回の研究会では、治療やケアの実践における隠れた「間合い」に着目します。
 招待講演では、医師として治療に携わっている野間先生、そして社会福祉の調査をしている海老田先生に、それぞれが探究されている実践の分析を紹介いただきます。治療やケアをつくる固有の間合いについて、参加者ともに議論をする機会となりますことを期待しております。

(企画者:西村ユミ(東京都立大学))

2023年9月17日(日)13:00-17:00

東京都立大学 荒川キャンパス 校舎棟186教室

無料

「治療やケアの間合い」および一般

野間俊一氏(のまこころクリニック 医師)

「精神科臨床での「診立て」の間合いと「セラピー」の間合い」

海老田大五朗氏(新潟青陵大学福祉心理子ども学部社会福祉学科 教授)

「日報を介した精神障害者と職員の間合い:障害者就労継続支援における道具的存在論」

13:00-13:05 開会挨拶・事務連絡

13:05-14:30 テーマセッション「治療やケアの間合い」

13:05-13:10 テーマ趣旨説明

西村ユミ(東京都立大学)

13:10-13:50

「ある診察時の音声における無言時間(間)についての分布と時系列解析」(発表原稿PDF)

大木仁史(フリー)

診察時の医師患者間の無言時間(間)についての分布とその時系列ついて検討した。間の時間の時系列の状態表現を、どのように表現することが適切であるか考察を行なった。無言時間は両者の発話が継続するために自ら犯す危険(Risk)として捉え、それを故障解析を用いることで推定できることを確かめた報告である。

13:50-14:30

「訪問介護場面におけるヘルパーの間合いについて」(発表原稿PDF)

八木裕子(東洋大学),細馬宏通(早稲田大学)

介護関係を通して展開されるホームヘルプサービスにおける認知症高齢者の利用者とヘルパーとの相互行為に着目し、ホームヘルパーの専門性に資する何らかの方法を見つけることを目的とした。その結果、ヘルパーは発話だけでなく,ジェスチャーなどの身体動作やオノマトペを活用しながら、注意の分散に関する障害がみられる利用者に対して,間合いを取りながら、特定の対象へと誘導し、利用者の主体性の醸成を工夫していることが明らかになった。

14:45-15:45 招待講演1

「日報を介した精神障害者と職員の間合い:障害者就労継続支援における道具的存在論」(発表スライドPDF)

海老田大五朗氏(新潟青陵大学)

この報告では、はじめに就労継続支援実践者たちがまさに「労働時間の調整」や「勤務状況の安定」の鍵とみなしている「日報」の使われ方を分析する。そして、精神保健医療領域で使用される文書の在り方を明らかにする。本研究では、このL社で使用される「日報」の4つの在り方を示す。こうした文書の在り方は、精神障害がある人びとの就労継続の適切な「間合い」や「見守り」を可能にするものとして機能することを示唆する。

16:00-17:00 招待講演2

「精神科臨床での「診立て」の間合いと「セラピー」の間合い」(発表原稿PDF)

野間俊一氏(のまこころクリニック)

精神医療の現場では、治療者(援助者)の患者との「間合い」が治療経過に大きな影響を及ぼす。人間学的精神病理学は、患者との出会いにおける治療者の直接的な経験から患者のあり方の理解を試み、そこには診立てのための「間合い」が存在する。精神療法では、個々の技法よりも、患者本来の「回復力」を活性化するような治療的な「間合い」が重要になる。精神科臨床での研鑽とは、まさに「間合い」を極めることなのかもしれない。