「やっていいこと」をせよ

太平洋戦争の記録を読んでいて,僕がとても気になるのは,「やってみなければわからない」という言葉です。当時の日本人は重大局面でしばしばそう口にしましたが,これは単に経験のない人間が口にする言葉です。

重大な局面において「やってみなければわからない」ことをやってはいけません。「やってみなければわからないこと」は教育の場でこそやるべきです。

教育の場では失敗が許されます。やってみて,しくじって,反省をフィードバックして学び,またやってみる。このような学習のサイクルを通じて人は,自分のできることを知り,眼前の問題を的確にとらえる能力を高めて,何をやってよいのか,何をやってはダメなのかを経験的に知ります。そして重大な局面においてはできるだけ,「やっていいこと」をする。そのためのトレーニングが教育です。

鈴木光司 (2009). 情緒から論理へ ソフトバンク クリエイティブ p.187-188