特性不安とパニック

それでは酸素供給源をはぎ取ろうとするのはどんな人たちだろうか?このような行動を予測する何らかの方法はあるだろうか?モーガンは25人の消防士を研究所に招いてテストした。それぞれに呼吸装置を付けて,(トレーニング用の)トレッドミルを10分間高速で走らせた。案の定,そのうちの何人かが苦しんで突然酸素マスクをはぎ取り,空気が十分に吸えないと文句を言った——酸素マスクが正常に機能していたにもかかわらず。モーガンは,酸素マスクをはぎ取る6人の人物をあらかじめ予測していた。が,予測ははずれた。はぎ取ったのは5人だけだったのだ。とはいうものの,それはかなり見事な予測ではあった。

どうして彼はわかったのだろう?トレッドミルに乗せる前に,モーガンは消防士たちの不安度を測定するためにありふれた心理テストをした。概して不安は2種類に分類される。1つ目は「状態不安」で,人が大事な試験や交通渋滞のようなストレスの多い状況にいかに反応するかを表わしている。もう1つは「特性不安」で,そもそも物事をストレスに満ちているとみなす一般的な傾向をさす。つまり,特性不安は,いかなる日にも存在している平常時の不安ともいうべきである。

より大きな特性不安を抱えている人は,酸素マスクをはぎ取る可能性が高くなっていることを,モーガンは発見した。幸運なことに,スキューバ・ダイバーや消防士になっている人のほとんどには,もともと特性不安が少ない。だが全員がそういうわけではない。スキューバ・ダイバーに同じテストをすると、83パーセントの確率でだれがパニックに陥るかを予測できることがわかった。特定の人々は、肉体的なストレスを受けると、本質的に現実に少し疎くなりがちであることが判明した。彼らの脳は、状況に圧倒されて、さまざまな反応のデータベースを仕分けし——その上で不適切なものを選んでしまうのだ。そのような人々は将棋倒しや集団パニックを引き起こすことはないかもしれないが,少なくとも突発的な極度の危険に身をさらすことにはなるだろう。パニックのもっとも純粋な形である過剰反応を起こしてしまうのである。

アマンダ・リプリー 岡真知子(訳) (2009). 生き残る判断 生き残れない行動:大災害・テロの生存者たちの証言で判明 光文社 pp.279-280