災害時は従順になる

実際に災害に直面すると、群集は概してとても物静かで従順になる。もちろん,9・11に階段にいた人たちはだれも,タワーが崩壊するとは思っていなかった。もしそのことを知っていたら,彼らがどんな行動をとったかは,知るよしもない。だが明らかにもっと悲惨な状況においてさえ,群集はいわれのないパニックに陥ることはない。たいてい,人々は一貫して整然としていて——親切である。普段よりもずっと親切になる。体重が135キロを超えているゼデーニョの同僚の1人は,車椅子に乗っていた。彼は1993年にも2001年にも,69階で働いていた。どちらのときも,彼の同僚は車椅子の男を抱えて延々と階段を降りていったのである。

アマンダ・リプリー 岡真知子(訳) (2009). 生き残る判断 生き残れない行動:大災害・テロの生存者たちの証言で判明 光文社 p.45