組織の中で

全体の中の自分を見なおす----と言ってしまえば簡単だが,これは実際には不可能に等しい。たとえばあるサラリーマンが,地球上の一切を正しく把握し,その正しく把握した地球上における日本国の位置を正しく措定し,その中で自分が所属する企業を正しく位置づけし,ついでその企業における自己の位置と役割を正しく認識して,それに基づいて自己規定をする,などということは実際にはできない。

現在は言論も自由,報道も自由,自由なる新聞は毎日のように正しい情報をみなに提供しているはずである。しかし,それだからといって,人びとに前記の自己規定ができるかといえば,もちろん否である。人は大体,自分の属している組織の中で,有形無形の組織内の組織に制御されて自己を規定している。現実の行動の規範はそれ以外にない。

山本七平 (2004). 日本はなぜ敗れるのか----敗因21ヵ条 角川書店 p.39