リスクはゼロにならない

もちろん,私たち医師は「副作用が起こってもよい」と思っているわけではありません。ただ,「絶対に起こらない」などという幻想を信じていないだけなのです。交通事故だって,起こそうと思っている人など一人もいないのに,起きてしまいます。そのリスクにどう対処するかと知恵を絞った結果,シートベルトやエアバッグが付いているわけです。

交通事故を100パーセント回避するためには,車自体をなくせばいい。医療も,リスクを100パーセント回避するためには,手術をしない,薬も使わせないのがいちばんよいわけです。でも,それでは病気は治らないし,死を待つしかなくなります。

だから,リスクはあるけれども,病気の人に利益をもたらす可能性が高いものを薬として処方する。何度もいいますが,これが医療の発想,薬の本質です。

岩田健太郎 (2009). 麻疹が流行する国で新型インフルエンザは防げるのか 亜紀書房 p.162