科学も人間の活動

科学は今ではもっと冷静な活動であり,このような個人攻撃が過去のものになったのは幸運だった,と考える方があるかもしれないが,それは間違いだろう。科学は今でも人間そのものの活動であり,人間的な感情は依然として大きな役割を演じている。私のもっとも大事にしている記憶の1つは,オーストラリアの研究所に著名な学者がやってきてセミナーを開いたときのものだ。研究所長は訪問者の理論に不賛成で,セミナーがはじまってから5分もすると,最前列にあった席から立ち上がり,大声で「ばかな!」と叫び,出て行ってしまった。後に残された哀れな訪問者は割り当て時間をしどろもどろでやりすごしたのだった。

レン・フィッシャー 林 一(訳) (2009). 魂の重さは何グラム?—科学を揺るがした7つの実験— 新潮社 p.87