18歳未満の女性の婚姻は、女子差別撤廃条約や子どもの権利条約といった国際条約により禁止されていますが、現在、世界の約6500万人の女性が18歳未満で結婚していたと推計されています(UNICEF 2018)。それらの女性の多くは、南アジア地域(44%)とサブサハラアフリカ地域(18%)に居住しています(UNICEF 2018)。18歳未満の子どもの婚姻は、児童婚(child marriage)や早婚(early marriage)と呼ばれますが、本稿では早婚と呼ぶこととします。
女性本人の意思によらず婚姻の時期や相手の選択がなされることは、女性の人権侵害にあたります。また、早婚は未成年の妊娠・出産につながり、女性やその子どもの健康へのリスクが高まります。さらに、早婚に伴って女性は家事労働等のため学校を中途退学する他、配偶者との年齢差等から、家庭における意思決定におけるジェンダー格差や、また女性本人の行動・決定にかかる制限が配偶者により強いられる場合もあります。早婚は女性本人のみならず、世代を越えてその子どもに負の影響を及ぼします(Delprato 2016)。
多くの低所得国や低中所得国は1980年代以降、18歳未満の子どもの婚姻を禁止あるいは制限してきましたが、婚姻可能最低年齢を引き上げることで早婚はどの程度減少したのでしょうか。今回は、エチオピアにおける婚姻可能最低年齢の引上げを含む家族法(family law)の改正による女性の婚姻年齢への影響を研究したMcGavock(2021)をご紹介したいと思います。
エチオピアにおける婚姻可能最低年齢は男性が18歳、女性が15歳でしたが、連邦政府は2000年7月に家族法を改正し、女性の婚姻可能最低年齢を18歳に引き上げました。ただし、何らかの特別な事情と保護者の同意があれば、例外措置として16歳から18歳でも婚姻することは可とされました。従って、改正家族法により、女性にとっての実質的な婚姻可能最低年齢は16歳となったと言えます。
エチオピアは、連邦国家ですので、連邦政府による家族法の改正の施行には州政府による採択が必要とされました。オロミア州、アムハラ州、南部諸民族州では、家族法の改正にかかる採択は2000年から2005年の間に行われました。続いて、ベニシャングル・グムズ州、ティグライ州、ハラリ州、ガンベラ州において2005年から2009年の間に施行されました。なお、アファール州とソマリ州では2021年時点ではまだ採択されていませんでした。
McGavock(2021)は、エチオピアの州間における改正家族法の施行時期の相違に着目し、女子の婚姻可能最低年齢の引上げによる女子の早婚への影響を、差分の差法(Difference in Differences)により分析しました。分析におけるデータとして、McGavock(2021)は、USAIDにより実施されている人口・保健調査(Demographic and Health Survey: DHS)のデータ(2000年、2005年、2011年、2016年)を用いました。DHSでは、婚姻の有無と、調査対象者がいつから配偶者と住み始めたかが調査され、調査対象者が婚姻している場合、婚姻した時点は配偶者と住み始めた時点からとみなされました。
回帰分析の結果、婚姻可能最低年齢の引上げ施行により、16歳未満で結婚した女性の割合が平均して3.4%ポイント減少したことが示されました。婚姻可能最低年齢の引上げ前の時点において16歳未満で結婚した女性の割合は41%でしたが、3.4%ポイントの減少幅は、41%の約8%に相当します。また、16歳または17歳で結婚した女性の割合に変化がなかった一方、18歳以上で結婚した女性の割合は平均して2.2%ポイント増加しました。
改正家族法の施行による女子の婚姻年齢への影響は、主に改正家族法の施行前の女性の平均婚姻年齢が16歳未満であった州においてみられました。改正家族法の施行前に女性の平均婚姻年齢が16歳未満であった州においては、家族法の改正施行前に女子の平均婚姻年齢が16歳以上であった州よりも、法施行により16歳未満で結婚した女性の割合が平均して6.8%ポイント減少、16歳及び17歳で結婚した女性の割合が平均して7.3%ポイント増加しました。これは、改正家族法の施行前に女性の平均婚姻年齢が16歳未満であった州においては、改正家族法の施行により、女性が16歳となることをまって婚姻する女性の割合が増えたであろうことを示しています。
McGavock(2021)の分析結果を我々はどのようにうけとめるべきなのでしょうか。本来法令により早婚がなくなるべきと考えれば、改正家族法の施行にも関わらず、16歳未満で結婚した女性の割合が平均して3.4%ポイントしか減少しなかった、とみなすのが妥当ではないかと私は考えます。Delplato et al.(2016)は早婚が生じる背景として貧困、社会・文化通念が挙げています。法令により最低婚姻年齢を引き上げても人々の行動はなかなか変わらない。ここに教育開発援助の必要性や実施の意義があるように私には思われます。
参考文献
Delplato, Marcos, Kwame Akyempong, and Mairead Dunne. 2016. “Intergenerational Education Effects of Early Marriage in Sub-Saharan Africa.” World Development, Vol. 91: 173-192.
https://doi.org/10.1016/j.worlddev.2016.11.010
McGavock, Tamara. 2021. “Here waits the bride? The effect of Ethiopia’s child marriage law.” Journal of Development Economics, 149: 102580.
https://doi.org/10.1016/j.jdeveco.2020.102580
UNICEF 2018. Child Marriage: Latest trends and future prospects. Retrieved from
https://reliefweb.int/report/world/child-marriage-latest-trends-and-future-prospects?gclid=EAIaIQobChMI5fepxY2q-AIVjKqWCh0jFgDFEAAYASAAEgJeKPD_BwE