練習問題
お題があれば、いつでも解決に乗り出します
お題があれば、いつでも解決に乗り出します
『Protein Solutions』(Springer)と、『バイオ医薬品の溶液設計』(サイエンス&テクノロジー)に記載予定の練習問題の草案です(いずれも2027年春に出版予定です)。具体的なお題があれば、お気軽にメールください。ちょっとしたことで解決することがあると思います。
標準的な液状抗体製剤の組成を読み解く 章末問題
(『バイオ医薬品の溶液設計』(サイエンス&テクノロジー) 2章の草案)
Q2-1.ある抗体は pH 5.5 付近で最も安定であった。製剤の緩衝剤として、どのような基準に候補を選ぶとよいか?
A2-1. まず目的pHに近い pKa をもつ緩衝剤を候補とする。ヒスチジンは最も多くの抗体製剤に使われており、凍結時のpH変化も比較的小さく、第一候補となる。凍結時のpH変化が問題になる場合にはリン酸は避けた方がよい。金属イオンによる酸化が問題の場合、ヒスチジンによるキレート作用が効果的に働く可能性がある。特に酢酸をヒスチジンの代わりに使う最も明快な理由は、目的pHがより酸性側にある場合である。酢酸はpKaが4.8であり、より酸性側であるpH 4.5–5.5付近に適している。また酢酸は、構造が単純で金属との錯形成も比較的弱いことが特徴である。クエン酸は、複数のpKaをもち弱酸性域を広くカバーするが、SC投与では注射時疼痛が問題になりやすい。
Q2-2.10 mM CaCl₂ を添加すると抗体の溶解性が改善したが、10 mM NaCl では変化しなかった。この結果から Ca²⁺特異的な効果と結論してよいか? また、次にどの条件を調べるべきか?
A2-2. そのままでは結論できない。10 mM CaCl₂ のイオン強度は30 mMであり、10 mM NaClとはイオン強度が異なる。まず30 mM NaClと10 mM CaCl₂を比較することで、イオン強度をそろえるだけで溶解性が改善されたら、抗体間の静電引力が遮蔽されることで溶解性が改善されたと考えられる。一方、CaCl₂だけで効果がみられれば、Ca²⁺とタンパク質表面との特異的相互作用が関与する可能性を考える。具体的には、Ca²⁺とAsp/Glu側鎖のカルボキシラート基、あるいは露出したペプチド結合との局所的な相互作用があり得る。
Q2-3.皮下注射製剤の浸透圧を高くする必要があるが、抗体分子間の静電相互作用はなるべく変えたくない。どの添加剤を優先して検討するとよいか?
A2-3. スクロースなどの非電解質を優先して検討する。NaClを用いると、浸透圧を高めると同時にイオン強度も上昇するため、抗体分子間の静電相互作用まで変化する。静電反発によって分散状態が保たれている抗体では、NaClによる遮蔽によって自己会合や凝集が促進される可能性がある。一方、静電引力が自己会合に寄与している場合には、NaClによって会合が抑えられることもある。したがって、NaClを張度調整剤として用いると、浸透圧調整と抗体間相互作用の制御を同時に行うことになる。スクロースやソルビトールは非電解質であるため、イオン強度をほとんど変えずに浸透圧を調整できる。さらに、タンパク質表面から選択的に排除されることで、溶媒露出表面積の大きいアンフォールド状態を相対的に不利にし、ネイティブ構造を安定化する。このため、静電相互作用を大きく動かさずに、張度調整と構造安定化を同時に狙えることが利点となる。
Q2-4.200 mg/mL の抗体製剤の粘度が高い。アルギニンを添加する前に、どのような比較実験を行えば、粘度上昇の原因を推定できるか?
A2-4. NaCl、アルギニンなど性質の異なる添加剤を比較する。NaClでも粘度が大きく低下するなら、静電相互作用が粘度の原因であると考えられる。NaClでは変化が小さく、アルギニンで特に大きく低下する場合には、アルギニンが抑制しうるカチオン-π相互作用などの分子間接触の寄与を考える。NaClやアルギニンを添加しても粘度が下がらない場合には、もともと水溶性の高いタンパク質であり、添加剤がむしろ粘度を上げる原因になっていると考えられ、pHを等電点付近に近づけるか、添加剤をより少なくなるよう検討する。
Q2-5.冷蔵静置では安定な抗体製剤が、振とうすると粒子を形成する。この場合、最初にどの添加剤を検討し、その効果をどのように考えるか。
A2-5. ポリソルベート20(PS20)またはPS80などの非イオン性界面活性剤を検討する。抗体が空気–水界面などへ吸着して部分的に構造変化し、それが凝集・粒子形成につながっている可能性があるためである。これらは抗体製剤への適用例も多い。保護作用は必ずしもCMC以上でなければ現れないわけではなく、例えば0.005%(w/v)のPS20、すなわち0.05 mg/mLでも振とうによる凝集・沈殿を抑制した例がある。より大きな非イオン性界面活性剤としてポロキサマー188も抗体製剤やウイルス製剤に使用例がある。
Q2-6.保存中に抗体の酸化が増加した。酸化防止剤としてどのような物質を添加するとよいか?
A2-6. まず、どの残基が酸化されているかを特定する必要がある。メチオニン残基の酸化に酸化種が関与しているならL-メチオニン、微量金属が関与するならEDTAやDTPAが候補となる。トリプトファン酸化ではL-メチオニンだけでは十分でない可能性があり、研究レベルではN-アセチルトリプトファンによってトリプトファン残基の酸化を抑制した例もある。抗酸化剤は、一律に効果があるのではなく、酸化経路を診断して選択する必要がある。
Q2-7.ベクティビックスは、20 mg/mLのパニツムマブを、約50 mM酢酸塩、約100 mM NaCl、pH 5.8で製剤化した比較的単純な処方で、糖、ポリオール、アミノ酸、PS20やPS80を含まない。このことは、これらの添加剤がパニツムマブに対して効果がないことを意味するか?
A2-7. 意味しない。実際には、糖、アルギニン、PS80などを含む処方でもパニツムマブの安定性は得られている。しかし、より単純な処方でも必要な保存安定性が確保されたため、実製剤では必須でない成分を省いたと解釈できる。添加剤を増やすと、その添加剤自身の分解やロット差、他成分との相互作用など新たな検討項目も増える。したがって、可能であれば添加剤を入れないことも製剤設計である。
ベクティビックスがこのような単純な製剤で成立するのは、20 mg/mLと比較的低濃度であり、高濃度製剤で問題になりやすい粘度上昇や強い自己会合のリスクが小さいことに加え、約50 mMの酢酸塩でpH 5.8を維持し、約100 mMのNaClが等張化と分子間相互作用の調整を担っているためと考えられる。実際、ソルビトール、スクロース、アルギニン、PS80などを加えた処方でも安定性は得られているが、これらを含まない単純な処方でも必要な保存安定性が確保された。したがって、添加剤が無効なのではなく、製品として必要な安定性を達成するために必須ではなかったと解釈するのが適切である。
抗体の液状製剤の設計指針 章末問題
(『バイオ医薬品の溶液設計』(サイエンス&テクノロジー) 3章の草案)
Q3-1.高濃度抗体製剤の粘度を下げるため、抗体の pI から最適な pH を決めようと考えた。pI と製剤 pH の関係だけから、高粘度になりにくい pH を予測できるか?
Q3-2.5 ℃で長期保存する抗体製剤について、30 ℃と 40 ℃の加速試験で処方間の安定性の順位が異なった。冷蔵保存の候補処方を選ぶには、どちらの結果を重視すべきか?
Q3-3.冷蔵保存した抗体製剤を SEC で測定すると、18 か月後もモノマーの減少は 0.1%程度であった。一方、サブビジブル粒子や目視粒子は増加していた。この製剤を「ほぼ変化していない」と判断してよいか?
Q3-4.少量の抗体試料を用いた DLS 測定で、低濃度での kD が大きな正の値を示した。この結果から、150 mg/mL の製剤でも低粘度になると判断してよいか?
Q3-5.抗体の脱アミド化を抑えるために製剤 pH を低下させた。この変更によって化学安定性が改善したと判断してよいか?
Q3-6.40 ℃の加速試験でほとんど変化が認められなかったため、冷蔵保存で 24 か月の有効期間を設定したい。この加速試験データだけを根拠に設定できるか?
Q3-7.高濃度抗体に NaCl を添加すると粘度が約 3 分の 1まで低下した。しかし、NaCl 濃度をさらに高めると強い乳光が現れた。製剤条件をどのように決めればよいか?
抗体の凍結乾燥製剤の設計指針 章末問題
(『バイオ医薬品の溶液設計』(サイエンス&テクノロジー) 4章の草案)
Q4-1. 凍結時間を短くするために抗体製剤を急速凍結したところ、凍結乾燥後の凝集が増加した。凝集のメカニズムと対処法を考えよ。
A4-1. 急速凍結すると多数の小さな氷結晶が形成され、氷―凍結濃縮相界面の面積が増加するため、抗体が界面で部分変性しやすくなる。さらに、凍結によってタンパク質や塩、緩衝剤が未凍結相に濃縮され、局所的な高濃度化やpH・イオン強度の変化も起こる。これらのうち、急速凍結による凝集増加では界面積の増大が主な原因と考えられる。凍結時の部分変性は融解だけなら可逆的でも、乾燥を経ることで不可逆的な凝集につながり得る。対処法としては、凍結を過度に速くしないこと、またPS20やPS80などの界面活性剤を加えて氷―凍結濃縮相界面での変性を抑えることが挙げられる。
Q4-2.同じ抗体製剤について二次乾燥時間を変えたところ、残存水分0.5%の製剤は2.0%の製剤よりガラス転移温度(Tg)が高かった。しかし、保存後の凝集量は0.5%の製剤の方が多かった。この結果をどのように解釈するか。
A4-2. 水は非晶質固体を可塑化するため、一般には残存水分を減らすとTgが上昇し、分子運動が抑えられる。しかし、残存水分が低いほど必ず安定になるわけではない。乾燥そのものがタンパク質にとってストレスとなり、過度に水を除くとかえって安定性が低下する場合がある。また、保存温度がTgより十分低い場合には、Tgそのものと保存安定性が対応しないこともあり、局所的な分子運動性や自由体積も関係する。したがって、Tgや残存水分だけから最適条件を決めず、実際の保存安定性を測定して最適な二次乾燥条件を決める必要がある。
Q4-3.凍結乾燥抗体製剤には、スクロースとマンニトールの両方を含むものがある。糖とポリオールは類似しているが、なぜか?
A4-3. スクロースとマンニトールは、溶液中では抗体の構造安定化に寄与するが、凍結乾燥後には異なる役割がある。スクロースは非晶質相に残って抗体を乾燥から保護する。一方、マンニトールは結晶化しやすく、凍結乾燥後のケーキを支える骨格となる。両者を併用することで、抗体の保護とケーキ形成を別の添加剤に分担させることができる。実際、マンニトールを結晶化させて多孔質構造を支えつつ、スクロースを非晶質相に残すことで、スクロース単独より高い温度で一次乾燥できた例がある。
Q4-4.高濃度抗体の凍結乾燥製剤に水を加えたところ、再溶解に20分以上かかった。再溶解時間を改善するためにどのように溶液設計するとよいか?
A4-4. 高濃度抗体製剤では、抗体濃度が高くなるほどケーキの濡れ、水和、崩壊が遅くなり、再溶解時間が長くなる。とくにタンパク質/糖質量比が1を超えると再溶解時間が急激に長くなる傾向があるため、糖量を増やしてタンパク質/糖比を下げることが一つの対策となる。また、マンニトールを結晶性バルキング剤として利用すると、ケーキが水に濡れやすくなり、水が内部へ侵入しやすく、ケーキも崩れやすくなるため、再溶解を速められる。
抗体製剤の清澄化から原薬までの溶液設計 章末問題
(『バイオ医薬品の溶液設計』(サイエンス&テクノロジー) 5章の草案)
Q5-1.Protein Aからの低pH溶出で抗体の凝集が増加した。回収率を保ちながら凝集を減らすには、どのような溶出条件の工夫が考えられるか?
A5-1. pHを低下させるとProtein A―抗体間の結合は弱くなるが、同時に抗体自身の構造も不安定化する。そこで、低pHへの曝露を避けるため、アルギニンを溶出液に加える方法がある。アルギニンはProtein A―抗体間の相互作用を弱め、通常より高いpHでも抗体を溶出できる例が報告されている。
Q5-2.低pHウイルス不活化中には抗体の凝集がほとんど見られなかったが、中和後に凝集が増加した。これはなぜか? また、どのような条件にすると抑えられるか?
A5-2. 低pHでは抗体が部分的に構造変化していても、分子間の静電反発が強いため単量体として存在する場合がある。中和すると静電反発が弱まり、構造変化した抗体同士が会合して凝集する。このため、ウイルス不活化を確保できる範囲でpHを必要以上に下げないことに加え、スクロースなどの構造安定化剤を加えて、低pHでの抗体の構造変化を抑える方法も考えられる。例えば10% (w/v)スクロースの添加によって、低pH処理時の凝集が抑制された例がある。
Q5-3.ウイルス除去膜で十分なウイルス除去性能は得られているが、抗体溶液の流束が低い。膜を変更せずに流束を改善するには、どのような溶液条件を検討するとよいか?
A5-3. まずpHとイオン強度を検討する。Planova 20Nでは、低イオン強度で正に帯電したIgGと負に帯電した膜との静電引力が強くなり、流束が低下する場合がある。NaClなどでイオン強度を高めて静電相互作用を遮蔽すると流束が増加し、100 mMアルギニンの添加によってさらに流束が改善した例も報告されている。
Q5-4.20 mMヒスチジン緩衝液で十分な回数DFを行ったのに、最終的な抗体溶液のヒスチジン濃度が20 mMより低かった。DFが不十分だったのか?
A5-4.高濃度の抗体溶液では、膜を通過できない荷電した抗体によってイオンの分配が偏るGibbs–Donnan効果が生じる。また、抗体が大きな体積を占めるため、低分子成分が存在できる水相の体積も変化する。その結果、10%程度の濃度差が生じる可能性はある。最終組成が重要な場合、投入したDF液の組成よりも、実際の保持液中の濃度を測定して設計する必要がある。
次世代抗体の溶液設計 章末問題
(『バイオ医薬品の溶液設計』(サイエンス&テクノロジー) 7章の草案)
Q7-1.ある二重特異性抗体を高濃度化したところ、もとの2種類の抗体より粘度が高くなった。溶液設計から、どのような改善を検討するとよいか?
A7-1.まず簡便な溶液設計として、100~150 mM程度のArgやNaClを加え、分子間相互作用を弱めることで粘度が低下するかを調べる。実際、ある二重特異性IgGでは150 mM NaClで粘度が約30%、150 mM Arg-HClで約50%低下し、Arg-HClの方が大きな効果を示した例がある。
Q7-2.IgGにscFvを付加した二重特異性抗体を保存したところ、断片化が増加した。どのような溶液の改善を検討するとよいか?
A7-2. まず溶液条件として、pHを酸性側へ下げることを考える。高pHではAsnの脱アミド化などの化学反応が進みやすく、リンカー周辺の化学的劣化に関与する可能性がある。初期検討では、pH 5.0~6.0程度の弱酸性領域、まずpH 5.5前後を中心に検討するとよい。また、pH 8.5、500 mM NaClのような高pH・高イオン強度条件で断片化が増加した例があるため、イオン強度についても低い側を含めて検討する。
Q7-3.眼内投与のように、投与体積が0.05 mL程度に限られる場合、同じ液量でより多くの抗原結合分子を投与するには、どのような分子設計・製剤設計が考えられるか?
A7-3. 抗体を小型化し、さらに高濃度化する方法が考えられる。分子量を小さくすれば、同じ質量濃度でもモル濃度を高くできる。加えて、高濃度まで安定に製剤化できれば、限られた投与体積にさらに多くの分子を含められる。実際、約48 kDaのranibizumabは10 mg/mLで約0.21 mMであるのに対し、約26 kDaのscFvであるbrolucizumabは120 mg/mLで約4.6 mMとなり、同じ投与体積に約22倍のモル量を含む。
Q7-4.trastuzumabをADC化したT-DM1では、元の抗体より凝集しやすくなった。イオン強度を上げれば改善すると考えてよいか?
A7-4.両方の可能性がある。分子間の静電引力が自己会合の原因であれば、塩による静電遮蔽によって引力が弱まり、分散性が改善する場合がある。一方、T-DM1のようにADC化によって疎水性引力が強くなっている場合には、もともと分子間に働いていた静電反発を塩で遮蔽すると、疎水性引力が相対的に優勢となり、自己会合や凝集が増えることがある。実際、trastuzumabとT-DM1では、pH 6.0の低イオン強度条件で静電反発が認められ、T-DM1ではその反発がtrastuzumabより弱かった。したがって、最適なイオン強度は一律には決められず、低イオン強度と高イオン強度を実験的に比較して決めるのが簡便である。
Q7-5.疎水性ペイロードをもつADCで凝集が問題となった。どのような添加剤を検討するとよいか?
A7-5.まず、PS20やPS80などの非イオン性界面活性剤が候補となる。ADCでも界面での凝集は標準IgGと共通するためで、実際にPS20によってtrastuzumabとT-DM1の振とう凝集が抑制された例がある。また、疎水性ペイロードを直接意識した添加剤として10 mMの桁のシクロデキストリンの添加も候補になる。
Q7-6.高用量の抗体を皮下投与したいが、抗体濃度を上げると粘度が高くなってしまう。高濃度化以外に、どのような製剤設計が考えられるか?
A7-6. 抗体と組換えヒトヒアルロニダーゼを共製剤化し、皮下投与できる液量そのものを増やす方法がある。ヒアルロニダーゼは皮下組織のヒアルロン酸を一時的に分解し、薬液を組織内へ拡散しやすくする。そのため、10 mLを超える製剤でも皮下投与が可能となり、抗体を極端に高濃度化せずに高用量を投与できる。PHESGOではpertuzumabとtrastuzumabにrHuPH20を加え、この方法で皮下投与を実現している。