蛋白質溶液学(凝集)
立体構造を壊すと、もちろん凝集しやすくなるが
立体構造を壊すと、もちろん凝集しやすくなるが
凝集と凝集抑制剤
タンパク質溶液中で起こる凝集は、目に見える沈殿として現れるだけでなく、製剤の安定性や酵素活性の低下など、実用上も大きな影響を及ぼします。本ページでは、卵白リゾチームの加熱凝集をモデル系として取り上げ、凝集抑制剤の効果を比較する方法を紹介します。基本的には無機イオンやアミノ酸などの添加剤は、タンパク質凝集の経路そのものを変えるのではなく、凝集の律速段階に作用します。分光光度計と遠心機があればできるほど簡単な実験系ですが、このような系の作り方がわかれば、タンパク質や条件ごとにふさわしい凝集抑制剤を探索できます。
◆タンパク質凝集
タンパク質凝集とは、本来は溶液中に分散しているタンパク質分子が、分子間相互作用によって会合し、より大きな集合体を形成する現象である。凝集は、単量体から可溶性オリゴマー、サブビジブル粒子、不溶性沈殿へと連続的に進行する場合もあれば、特定の中間状態でとどまる場合もある。その出発点となるのは、多くの場合、部分変性や局所的な構造ゆらぎにより、通常は内部に隠れている疎水性領域や会合しやすい表面が露出することである。さらに、電荷分布の変化、ジスルフィド結合の組換え、酸化や脱アミド化などの化学修飾、界面への吸着などが加わると、分子間相互作用のバランスが崩れ、凝集が促進される。したがってタンパク質凝集は、単なる「沈殿」ではなく、タンパク質の構造安定性、コロイド安定性、化学安定性が重なり合って決まる溶液現象である。形成された凝集体はしばしば安定であり、とくに不可逆的な凝集では、条件を戻しても天然構造や単量体状態へ完全に回復しないことが多い。
◆加熱による凝集
加熱による凝集(thermal aggregation)は、温度上昇によってタンパク質の立体構造のゆらぎが大きくなり、内部に埋もれていた疎水性領域や凝集しやすい部分構造が露出することから始まる(1)。酸性凝集やアルカリ凝集が主にプロトン化状態の変化から始まるのに対し、加熱凝集では熱揺らぎによる部分 unfolding と疎水面の露出が出発点となる点に特徴がある。露出した疎水性残基は分子間で会合しやすくなり、疎水性相互作用を主要な駆動力として凝集が進行する。ただし、加熱凝集は疎水性相互作用だけで決まるものではなく、静電相互作用、水素結合、塩濃度による電荷遮蔽、さらにシステインを含むタンパク質ではジスルフィド結合の交換や再編成も関与する。そのため、凝集体は不可逆的になりやすく、加熱後に冷却しても元の単量体状態へ戻らない場合が多い(2)。生成する凝集体の構造はタンパク質や条件によって異なり、β構造の増加を伴う凝集体、非晶質凝集体、粒子状凝集体、ゲル状ネットワークなど多様である。凝集の速度や凝集体の性質は、温度、加熱時間、タンパク質濃度、pH、イオン強度、共存する添加剤や溶質の種類に大きく依存する。
◆酸性処理による凝集
酸性処理による凝集(acid-induced aggregation)は、pHの低下によりカルボキシル基がプロトン化され、タンパク質表面の負電荷が減少することから始まる。これにより、分子内塩橋や表面電荷分布が変化し、静電的な安定化が弱まるとともに、疎水面が露出しやすくなる。その結果、局所的な電荷反発は残るものの、疎水性相互作用や部分的に露出した会合面の寄与が大きくなり、凝集が進行する(3)。この過程では、多くのタンパク質がモルテン・グロビュール様の中間体、すなわち二次構造をある程度保持しながら三次構造がゆるんだ状態を経由することがある(4)。そのため、酸変性による凝集は、完全にランダムコイル化した分子の凝集というより、部分的に構造を保持した分子どうしの会合として理解される場合が多い。
◆アルカリ処理による凝集
アルカリ処理による凝集(alkali-induced aggregation)は、pHの上昇によりアミノ基、チオール基、フェノール性水酸基などが脱プロトン化され、タンパク質全体の電荷状態や分子内相互作用が大きく変化することから始まる。アルカリ条件でも、タンパク質によってはモルテン・グロビュール様の中間体を形成することがあり、酸性条件と同様に、二次構造をある程度保持しながら三次構造がゆるんだ部分変性状態が観察される場合がある(5)。ただし、強アルカリ条件や長時間処理では、S–S結合の再構成、チオールの反応、脱アミド化、ペプチド主鎖の部分的加水分解などの化学反応を伴いやすい。そのため、アルカリ処理による凝集は、単なる可逆的な構造ゆらぎにとどまらず、酸変性に比べて不可逆性が高く、構造崩壊度の大きい凝集体を与えやすい(6)。
参考文献
1.Chi, E. Y.; Krishnan, S.; Randolph, T. W.; Carpenter, J. F. Physical Stability of Proteins in Aqueous Solution: Mechanism and Driving Forces in Nonnative Protein Aggregation. Pharm. Res. 2003, 20, 1325–1336.
2. Yang, M.; Dutta, C.; Tiwari, A.; Udgaonkar, J. B.; Leite, V. B. P.; Roy, S. Disulfide-Bond Scrambling Promotes Amorphous Aggregates in Lysozyme and Bovine Serum Albumin. J. Phys. Chem. B 2015, 119, 12568–12579.
3. Latypov, R. F.; Hogan, S.; Lau, H.; Gadgil, H.; Liu, D. Elucidation of Acid-Induced Unfolding and Aggregation of Human Immunoglobulin IgG1 and IgG2 Fc. J. Biol. Chem. 2012, 287, 1381–1396.
4. Acharya, N.; et al. Evidence for Dry Molten Globule-Like Domains in the pH-Induced Partially Unfolded State of a Multidomain Protein. J. Phys. Chem. Lett. 2016, 7, 4435–4441.
5. Wetlaufer, D. B.; Ristow, S. S.; Gerhart, J. C. Mechanism of Protein Denaturation. Alkali-Induced Unfolding and Disulfide Interchange in Ribonuclease A. J. Biol. Chem. 1961, 236, 3199–3203.
6. Goto Y, Fink AL. Conformational states of beta-lactamase: molten-globule states at acidic and alkaline pH with high salt. Biochemistry. 1989 Feb 7;28(3):945-52.
◆長期保存による凝集
長期保存中の凝集(aggregation during long-term storage)は、温度、pH、光、酸化、微量不純物、容器との界面接触など、わずかな環境要因の影響が時間とともに蓄積することで生じる(1)。急激な加熱や大きなpH変化による変性とは異なり、保存中の凝集は、部分的な構造ゆらぎ、局所的なアンフォールディング、酸化や脱アミド化などの化学的修飾、あるいは気液界面や固液界面への吸着を契機として、ゆっくり進行する。これらの変化により、通常は内部に隠れている疎水性領域や会合しやすい部位が一時的または持続的に露出し、分子間相互作用が蓄積して凝集核が形成される。初期には可溶性オリゴマーやサブビジブル粒子として検出されることが多く、さらに時間が経過すると、不溶性粒子や沈殿へと成長する場合がある。長期保存中の凝集は多くの場合、実用上は不可逆的に進行し、タンパク質製剤では有効性の低下、外観変化、粒子形成、免疫原性リスクの上昇につながる。
◆凍結融解による凝集
凍結融解による凝集(freeze–thaw-induced aggregation)は、水が氷として分離し、タンパク質が残された未凍結水相に濃縮されることから始まる(2)。凍結中のタンパク質は、単に低温に置かれているのではなく、高濃度のタンパク質、濃縮された塩や緩衝液成分、氷水界面や容器表面に囲まれた特殊な環境に置かれる。その結果、pHやイオン強度、浸透圧などの溶液の環境が変化し、タンパク質の構造安定性や分散安定性が低下する。この状態では、氷への吸着や未凍結水相での分子間距離の低下により会合体しやすくなる。融解後に溶液全体は再び均一に見えても、凍結中に形成された会合体や変性分子は完全には戻らず、不溶性粒子として残ることがある。特にリン酸緩衝液では、凍結中の塩の結晶化によってpHが大きく変化する場合があり、凍結融解による凝集を考えるうえで重要な要因となる。
◆凍結乾燥による凝集
凍結乾燥による凝集(lyophilization-induced aggregation)は、タンパク質を取り囲む水和環境が失われることで生じる(3)。水はタンパク質の表面を覆い、立体構造や分散状態を保つ役割を担っている。そのため、乾燥によって水和殻が失われると、分子内相互作用のバランスが変化し、タンパク質表面どうしが直接接触しやすくなる。その結果、乾燥中や再溶解時に、部分変性や分子間会合が起こる。凍結乾燥では、乾燥に先立つ凍結過程も重要である。氷が形成されると、タンパク質や塩は残された未凍結水相に濃縮される。さらに乾燥後の固体状態では、分子の動きは抑えられる一方で、再溶解時にすべての分子が元の分散状態へ戻るとは限らない。そのため、再溶解後に可溶性オリゴマーや微粒子が残ることがある。糖やポリオールは、水の代わりにタンパク質表面を保護し、ガラス状の固体マトリックスを形成することで、このような凝集を抑えるために用いられる。
◆振とうによる凝集
振とうによる凝集(agitation-induced aggregation)は、タンパク質が界面への接触によって進行する凝集である(4)。振とうによる界面接触は、特に気液界面での凝集が進みやすいが、容器との固液界面や、油との油水界面なども凝集の原因になる。タンパク質は両親媒性分子であるため、界面に吸着しやすい。吸着したタンパク質は、バルク溶液中とは異なる環境に置かれ、配向変化や部分的なアンフォールディングを起こすことがある。この状態では、通常は水に覆われていた疎水性領域や会合しやすい部位が露出し、界面上でタンパク質どうしの会合が起こりやすくなる。したがって、振とうによる凝集は、単なる「せん断力による破壊」というより、界面への繰り返し接触によって誘導される凝集として理解できる。タンパク質製剤では、充填や、輸送、保存、投与の過程で、容器壁、空気、シリコンオイル、フィルター、投与デバイスなどとの接触が避けられない。そのため、界面接触・振とうによる凝集は、サブビジブル粒子や可視粒子の形成に直結する重要なストレスである。
参考文献
1. Rahban M, Ahmad F, Piatyszek MA, Haertlé T, Saso L, Saboury AA. Stabilization challenges and aggregation in protein-based therapeutics in the pharmaceutical industry. RSC Adv. 2023, 13(51):35947-35963.
2. Bhatnagar, B. S.; Bogner, R. H.; Pikal, M. J. Protein Stability during Freezing: Separation of Stresses and Mechanisms of Protein Stabilization. Pharm. Dev. Technol. 2007, 12, 505–523.
3. Roughton, B. C.; Topp, E. M.; Camarda, K. V. Protein Aggregation and Lyophilization. Curr. Pharm. Des. 2013, 19, 1–12.
4. Thirumangalathu, R.; Krishnan, S.; Ricci, M. S.; Brems, D. N.; Randolph, T. W.; Carpenter, J. F. Silicone Oil- and Agitation-Induced Aggregation of a Monoclonal Antibody in Aqueous Solution. J. Pharm. Sci. 2009, 98, 3167–3181.
◆界面凝集
界面凝集体(interface-induced protein aggregate)とは、タンパク質が空気–水界面、固体–水界面、油–水界面などに吸着し、界面上で部分変性、配向変化、局所濃縮、分子間会合を起こすことで形成される集合体を指す。タンパク質はバルク溶液中では安定に分散していても、界面では疎水性領域の露出や局所濃縮などが起こり凝集しやすくなる。
気液界面凝集体は、空気–水界面にタンパク質が吸着し、部分変性、配向変化、分子間会合によって形成される膜状または粒子状の集合体である。振とうや攪拌では、気泡やヘッドスペースによって界面面積が増大し、界面が繰り返し生成・変形・破断されるため、タンパク質の吸着、展開、脱離、再会合が進みやすい(1,2)。気液界面は、疎水性固体表面と同様にタンパク質の疎水性領域を引き出しやすいが、固体表面とは異なり、界面自体が変形し、気泡の合一や破裂によって動的な挙動を示す。気液界面凝集体は、食品の泡の安定化や、バイオ医薬品の振とう凝集などに関連する。
固液界面凝集体は、容器壁やフィルター、微粒子などの固体–水界面にタンパク質が吸着し、部分変性や分子間会合によって形成される集合体である。固液界面での吸着は、表面の疎水性のほか、電荷や形状の荒さなどにも関係する。吸着したタンパク質は、表面上で配向を変えたり、構造をゆるめたりすることで、凝集核となることがある(3)。固液界面は、気液界面のように大きく変形・破断される界面ではないが、容器や器具の表面として長時間タンパク質と接触することで、吸着層を形成しやすい点に特徴がある。特にバイオ医薬品のシリンジやフィルターとの吸着による凝集の原因になる。
油水界面凝集体は、油滴–水界面にタンパク質が吸着し、界面膜を形成した後、部分変性や分子間会合で形成される集合体である。タンパク質から見ると、油水界面も疎水性相と水相の境界であるため、気液界面と同様に疎水性領域の露出や配向変化を誘導しやすい。しかし、気液界面と異なり、油相は分子として存在し、油の極性や、粘度、共存する界面活性剤などが界面膜の構造と安定性に影響する。食品では、タンパク質は油滴表面に吸着して界面膜を形成し、乳化安定性を高める。一方、製剤では、プレフィルドシリンジ中のシリコーンオイル滴などが油水界面を作るために、タンパク質の凝集形成の原因となることがある(4)。
参考文献
1. Li, J.; Krause, M. E.; Chen, X.; Cheng, Y.; Dai, W.; Hill, J. J.; Huang, M.; Jordan, S.; LaCasse, D.; Narhi, L.; Shalaev, E.; Shieh, I. C.; Thomas, J. C.; Tu, R.; Wedmore, C.; Zamiri, C.; Read, E. K. Interfacial Stress in the Development of Biologics: Fundamental Understanding, Current Practice, and Future Perspective. AAPS J. 2019, 21, 44.
2. Koepf, E.; Eisele, S.; Schroeder, R.; Brezesinski, G.; Friess, W. Notorious but Not Understood: How Liquid–Air Interfacial Stress Triggers Protein Aggregation. Int. J. Pharm. 2018, 537, 202–212.
3. Perevozchikova, T.; Nanda, H.; Nesta, D. P.; Roberts, C. J. Protein Adsorption, Desorption, and Aggregation Mediated by Solid–Liquid Interfaces. J. Pharm. Sci. 2015, 104, 1946–1959.
4. Gerhardt, A.; McGraw, N. R.; Schwartz, D. K.; Bee, J. S.; Carpenter, J. F.; Randolph, T. W. Protein Aggregation and Particle Formation in Prefilled Glass Syringes. J. Pharm. Sci. 2014, 103, 1601–1612.
◆Lumry–Eyringモデル/加熱凝集の記述
Lumry–Eyringモデルは、タンパク質の不可逆的な失活・凝集を記述する古典的な速度論モデルである。Lumry と Eyring は、タンパク質がまず可逆的な構造変化によって反応性の高い状態へ移行し、その後に不可逆過程を経て最終状態(変性体・凝集体)へ至るという二段階の枠組みを提示した(1,2)。最も単純な反応スキームはスライドの式で表される。
ここで N はネイティブ状態、U は部分的に構造がアンフォールドした状態、A は不可逆的に生成する凝集体を表す。N と U の相互変換は可逆であり、温度や pH、溶媒条件に応じて一時的な構造ゆらぎや部分展開が生じる。したがって N↔U の分布は、主として熱力学的平衡で規定される。いわゆる安定性とは、この N↔U 平衡定数 K を用いて、-RT ln (K)で決まるギブス自由エネルギー差(ΔG)のことをいう。
一方、U から A への移行は不可逆であり、U 同士の会合や化学的変性などを介して凝集が進行する段階に対応する。したがって添加剤の効果を議論する際、N↔U の ΔG(安定性)だけでは不十分であり、U→A の速度も独立に影響を及ぼすのである。この枠組みは、例えば、「熱安定化」と「長期保存での凝集抑制」が必ずしも一致しない理由を整理する上での基本モデルとなる。
凝集の律速段階は条件により変化する。もし U の生成が小さい(N↔U の平衡が強く N 側に偏る)場合、凝集速度は主に N↔U の平衡に支配されるため、ΔG を増大させる安定化剤が有効になりやすい。例えば、糖質やコスモトロープ類、オスモライト類の多くはタンパク質表面から優先的に排除され、ネイティブ状態を相対的に安定化することが知られている(3)。
これに対して、U が十分に存在し、U 同士の会合(U→A)が支配的な場合には、凝集速度論を下げる、すなわちタンパク質間相互作用や界面相互作用を弱める添加剤が有効になりうる。代表例としてアルギニンやカオトロープ類は、弱い相互作用の集積としてタンパク質間の相互作用を低下させ、凝集を抑制する添加剤として広く用いられている(4)。
◆Hevehan–Clarkモデル/リフォールディングの記述
HevehanとDe Bernardez Clarkが提示した凝集モデルは、タンパク質のフォールディングと凝集を速度論的競合として整理した枠組みである(5)。このモデルでは、還元変性状態 U が中間体 I を経てネイティブ状態 N に至る経路をプロダクティブな経路とし、I から凝集体 A に至る経路を副反応の経路としている。折りたたみは分子内の一次反応で濃度に依存しないのに対し、凝集は分子間反応であり高次反応として振る舞う点が本質である。
本研究は、具体的には還元変性したリゾチームの酸化的リフォールディング収率を高濃度条件下で向上させることを目的としている。変性剤である塩酸グアニジンの濃度依存性や、グルタチオンやDTTによる酸化還元条件の最適化、さらにアルギニン添加の効果を検討し、1から5 mg/mL という比較的高濃度での挙動を解析している。
活性回復の時間変化を速度論的にフィッティングした結果、凝集は実質的に三次反応として記述できることが示されている。すなわち、中間体形成(U→I)は実験観測時間よりはるかに速い時間スケールで進行すると考えられるため、速度論的解析ではこれを事実上瞬時過程として扱っている。したがって、実際に競合するのは I→N の正しいフォールディング(一次反応)と I→A の凝集形成(三次反応)である。この整理により、高濃度条件で収率が低下する理由が、熱力学的安定性ではなく、折りたたみと凝集の速度論的分岐に起因することが明確に示された。
参考文献
1. Lumry, R.; Eyring, H. Conformation Changes of Proteins. J. Phys. Chem. 1954, 58, 110-120.
2. Sánchez-Ruiz, J. M. Theoretical analysis of Lumry–Eyring models in differential scanning calorimetry. Biophys. J. 1992, 61, 921-935.
3. Kendrick, B. S.; Cleland, J. L.; Lam, X.; Nguyen, T.; Randolph, T. W.; Manning, M. C.; Carpenter, J. F. A Transient Expansion of the Native State Precedes Aggregation of Recombinant Human Interferon-γ. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 1998, 95, 14142-14146.
4. Hamada, H.; Shiraki, K. l-Argininamide Improves the Refolding More Effectively than l-Arginine. J. Biotechnol. 2007, 130, 153-160.
5. Hevehan, D.L., De Bernardez Clark, E., 1997. Oxidative renaturation of lysozyme at high concentrations. Biotechnol. Bioeng. 54, 221–230.
◆リゾチームの加熱凝集
卵白リゾチームをモデルに加熱凝集と凝集抑制剤の探索について整理したい(1)。具体的な実験として、1 mg/mlのリゾチーム溶液を100 mMのリン酸緩衝液 pH 7.1の条件で多数のチューブに分注し、98 ℃の恒温槽に同時に加熱した。およそ30秒程度ごとに1本ずつ取り出して4˚Cに冷却した。その後に遠心分離を行い、上清に残ったタンパク質濃度を求めた。上清に残った濃度を、もとのタンパク質濃度から引くことで、凝集したタンパク質量を算出した。
その結果、加熱開始から約200秒まではほぼ凝集が生じなかったが、200秒を境に急速に凝集が進み、single exponential式で極めてよく表された。このことは、可溶性のタンパク質から沈殿画分へ移行する過程が、見かけ上は一次反応速度論に従っていることを示唆する。
ここで注意すべき点は、single exponential 式に一致することが、凝集そのものが単分子反応であることを意味するわけではない、ということである。本実験で観測しているのは、凝集体の会合数そのものではなく、遠心分離後の上清に残った可溶性タンパク質量の減少である。したがって、変性して凝集活性をもつ状態 U が生じる過程が律速であり、その後の U 同士の会合や沈殿化が相対的に速い場合には、全体としては見かけ上一次反応速度式、すなわち single exponential 式で表される。言い換えれば、ここで得られた指数関数的な挙動は、凝集が多段階過程でありながら、その中に単一の見かけの律速段階が存在することを示している。
一次反応速度式に従うということは、可溶性タンパク質の消失を支配する見かけ上の単一律速段階が存在することを意味する。これは、可溶性状態 N から凝集活性をもつ状態 U が生成する過程、あるいはその直後の不可逆化過程が全体速度を決めている場合に対応する。この現象は、古典的な Lumry–Eyring モデルと整合する。
N ←→ U → A
ここで、Nはネイティブ状態などの可溶な状態、Uは変性した不安定な状態、Aは遠心分離で沈殿する不可逆凝集体を意味する。高温では N→U の平衡がU側に傾いており、U がある閾値を超えて蓄積すると、凝集が不可逆に進行する。このとき、U の生成が全体の律速段階であれば、上清に残る可溶性タンパク質量は見かけ上、一次反応速度式にあう形で減少することになる。凝集は多分子の会合による高次過程であるが、加熱凝集はU の形成が律速になっているために、単純な指数関数にしたがうと解釈できる。
もうひとつの特徴として、加熱開始から200秒程度のあいだ可溶性量が変化しない理由としては、二つの説明が考えられる。まず、チューブ内の溶液が実際に98 ℃へ到達するまでの物理的な温度立ち上がりの影響である。リゾチームの熱変性温度は75˚C程度であるので、それ以下の温度では凝集は実質的には生じない。さらに、ネイティブ構造が破綻し、凝集活性状態の U が一定量以上蓄積するまでに一定時間が必要であるという、分子レベルの過程を反映している可能性である。いずれにせよ、このラグタイムを経たのちに、不可逆的な凝集反応が一次反応速度式にしたがって進行し、上清中のタンパク質量が単調に減少するという描像が得られる。
ここで、Nはネイティブ状態などの可溶な状態、Uは変性した不安定な状態、Aは遠心分離で沈殿する不可逆凝集体を意味する。高温では N→U の平衡がU側に傾いており、U がある閾値を超えて蓄積すると、凝集が不可逆に進行する。このとき、U の生成が全体の律速段階であれば、上清に残る可溶性タンパク質量は見かけ上、一次反応速度式にあう形で減少することになる。凝集は多分子の会合による高次過程であるが、加熱凝集はU の形成が律速になっているために、単純な指数関数にしたがうと解釈できる。
もうひとつの特徴として、加熱開始から200秒程度のあいだ可溶性量が変化しない理由としては、二つの説明が考えられる。まず、チューブ内の溶液が実際に98 ℃へ到達するまでの物理的な温度立ち上がりの影響である。リゾチームの熱変性温度は75˚C程度であるので、それ以下の温度では凝集は実質的には生じない。さらに、ネイティブ構造が破綻し、凝集活性状態の U が一定量以上蓄積するまでに一定時間が必要であるという、分子レベルの過程を反映している可能性である。いずれにせよ、このラグタイムを経たのちに、不可逆的な凝集反応が一次反応速度式にしたがって進行し、上清中のタンパク質量が単調に減少するという描像が得られる。
◆残存活性と可溶性凝集体
この実験で上清に残ったリゾチームの残存活性を求めることで、ネイティブ構造の残存する割合を算出できる。その結果、残存活性も時間とともに単純な一次反応式に従って減少した。すなわち、ネイティブ構造を保った分子は、一定の速度定数で指数関数的に失活したのである。
ここで、ある時点 t において、凝集した割合と活性が残る割合を足すと、合計が100%にならないという現象が現れる。典型的には、両者を足しても全体の80%程度にしかならず、残りの20%前後は、遠心しても上清に残っているにもかかわらず、すでに酵素活性を失っている分子として存在していることを意味する。これらは遠心分離では沈殿しない失活した分子であると理解できる。
この挙動を理解するには、単純な N → A の二状態モデルではなく、その間に変性しているが沈殿はしていない I を仮定する必要がある。加熱条件下では、N はまず部分変性や局所的な構造崩壊を経て I に移行し、この段階で活性部位の立体配置が崩れるため酵素活性は失われる。しかし I の段階では、全体としてはまだ溶液中に分散して存在できるため、遠心しても沈殿しない。その後、I がさらに会合を進めて巨大な凝集体 A を形成すると、初めて遠心により沈殿画分として検出されるようになる。
◆添加剤効果の分析:アルギニン
同じ条件に 100 mM アルギニンを添加して加熱をした。その結果、加熱開始後のラグタイム(立ち上がり時間)はほとんど変化しないが、指数関数的減少の速度定数が約半分に低下し、凝集成長が遅くなるという結果が得られた。この特徴的な挙動は、アルギニンが凝集そのものに強い抑制効果を及ぼすにもかかわらず、部分変性の開始温度や初期の構造破綻にはほとんど影響を与えないという性質を反映していると考えられる。この点を結果をもとに考察してみたい。
リゾチームのような小型の球状タンパク質が98 ℃まで加熱されると、ネイティブ構造は速やかに崩れるが、その後に生じる疎水面の会合は、部分変性状態 U の形成速度と、U 同士の会合確率の双方に依存する。ここで、アルギニンを添加すると、U 状態が他の分子と接触して凝集核を形成する確率を有意に減少させる。アルギニンははタンパク質表面の芳香族側鎖や疎水領域と弱く相互作用し、分子同士の直接接触を妨げることができるので、アルギニンは凝集抑制剤として働くことができる(2)。
アルギニンの添加により加熱による凝集の速度定数が約半分にまで低下するという現象は、凝集の律速段階がU 状態の会合確率に強く依存していることを示すものである。実際に還元変性したリゾチームを、希釈することでネイティブ状態にリフォールディングさせる実験においても、アルギニンは凝集の形成だけを遅め、ネイティブ状態へのリフォールディングには影響しないという結果もある(3)。
さらに、全体のタンパク質濃度から、凝集体とネイティブ構造の濃度を引くと、40%程度が残存することがわかった。すなわち、アルギニンを添加すると、遠心では沈殿しないような可溶性凝集体が蓄積することを意味する。このリゾチームでの結果は、IgGにアルギニンを添加して加熱すると可溶性凝集体が増えるという別のタンパク質でも実証されている(4)。つまり、アルギニンはタンパク質の不溶性凝集体になるまでの成長は有意に抑制できるが、可溶性凝集体の形成は抑制しないということを意味する。これらの実験データは、多数のタンパク質系で報告されている「Arg は変性温度を大きく変えないが、不可逆的凝集だけを選択的に抑制する」という一般的特徴とも一致している。
◆添加剤効果の分析:アルギニンエチルエステル
同じ加熱条件下で、100 mM の塩化ナトリウムやアルギニン、アルギニンエチルエステル、ポリアミン、塩酸グアニジン、塩化ナトリウムなど各種添加剤を加えたときの加熱凝集および加熱失活の時間変化を一次速度式にフィッティングし、その見かけの速度定数を比較した結果が報告されている(1)。興味深いことに、どの添加剤条件においても時間変化は一次反応式に一致し、single exponential で記述できることが示されている。これは、添加剤の有無によらず、リゾチームの熱変性や凝集が基本的には同じ経路にしたがって進行しており、添加剤はその経路を変えるのではなく、主として律速過程の速度定数だけを変化させていることを意味する。
添加剤がない場合の凝集の速度定数に対し、アルギニンを 100 mM 添加すると、その値はおよそ半分に低下し、凝集速度が抑制されることは前項で述べた。さらに、アルギニンのカルボキシル基をエチルエステル化したアルギニンエチルエステルを添加すると、凝集の速度定数は添加剤なしの場合より約 1 桁小さくなり、格段に強い凝集抑制効果を示した。
アルギニンは、グアニジニウム基によるカチオン–π相互作用や弱い疎水性相互作用を通じて芳香族残基や疎水面に吸着しつつ、正電荷を持つことでタンパク質間の相互作用を緩和すると考えられている(2)。アルギニンエチルエステルは、カルボキシル基をエステル化して電荷を中和した分だけ全体としてより強いカチオン性を持つため、変性リゾチーム表面の疎水領域への親和性が高まる。その結果、タンパク質同士がぶつかったとしても直接の疎水面の接触に至るまでに越えなければならない障壁が高くなり、凝集の速度定数が 1 桁程度まで大きく低下したと解釈できる。
◆添加剤効果の分析:アミン・変性剤・イオン
同様に、多価カチオンであるスペルミンを加えた場合も、アルギニンエチルエステルと同程度の強い凝集抑制が観測された。スペルミンやスペルミジンなどのポリアミンが、リゾチームを含む多くのタンパク質の加熱凝集を顕著に抑制することはすでに報告されており(5)、今回の結果もそれとよく整合している。スペルミンのような多価ポリアミンは、高い正電荷密度と柔軟な鎖構造によって、水になじみやすい負電荷の領域と疎水性の高い芳香族アミノ酸側鎖とも相互作用することができ、変性タンパク質の周囲にいわば動的な保護殻のようなものを形成することで、凝集核形成を強く抑制していると考えられる(6)。
一方、塩酸グアニジンは典型的なタンパク質変性剤として知られているが、本実験のような 100 mM 程度の低濃度では、リゾチームを完全変性させるための数十分の1の濃度しかない。この低濃度条件下では、塩酸グアニジンの凝集および失活への影響はアルギニンと同程度であり、変性剤としての強い構造破壊作用というよりは、むしろ弱いカオトロープとして水構造やタンパク質表面との相互作用をわずかに変化させ、部分変性状態どうしの凝集を抑制していると解釈する方が妥当である。このように変性剤は、タンパク質を変性させない濃度では、タンパク質分子間相互作用の抑制剤として働くことができる(7)。
塩化ナトリウムを 100 mM 添加した場合の凝集と失活の速度定数は、添加剤なしの場合とほとんど変化しなかった。もともとの系が 100 mM リン酸緩衝液中であり、イオン強度としては既にそれなりに高い条件であるため、さらに 100 mM 程度の NaCl を追加しても、静電相互作用の遮蔽やデバイ長の短縮といった効果が、凝集の律速段階には顕著に現れなかったと考えられる。言い換えれば、立体構造が壊される高温、高濃度のコスモトロープ緩衝液であるリン酸が含まれた中性溶液条件では、リゾチームの熱凝集は主として疎水性相互作用に支配されており、静電的な反発や遮蔽効果は添加剤によってほとんど影響しないことを意味する。
参考文献
1. Shiraki, K.; Kudou, M.; Nishikori, S.; Kitagawa, H.; Imanaka, T.; Takagi, M. Arginine ethylester prevents thermal inactivation and aggregation of lysozyme. Eur. J. Biochem. 2004, 271, 3242–3247.
2. Miyatake, T.; Yoshizawa, S.; Arakawa, T.; Shiraki, K. Charge state of arginine as an additive on heat-induced protein aggregation. Int. J. Biol. Macromol. 2016, 87, 563–569.
3. Hamada, H.; Takahashi, R.; Noguchi, T.; Shiraki, K. Differences in the effects of solution additives on heat- and refolding-induced aggregation. Biotechnol. Prog. 2008, 24, 436–443.
4. Yoshizawa, S.; Arakawa, T.; Shiraki, K. Thermal aggregation of human immunoglobulin G in arginine solutions: Contrasting effects of stabilizers and destabilizers. Int. J. Biol. Macromol. 2017, 104, 650–655.
5. Kudou, M.; Shiraki, K.; Fujiwara, S.; Imanaka, T.; Takagi, M. Prevention of Thermal Inactivation and Aggregation of Lysozyme by Polyamines. Eur. J. Biochem. 2003, 270 (22), 4547–4554.
6. Shiraki, K.; Tomita, S.; Inoue, N. Small Amine Molecules: Solvent Design toward Facile Improvement of Protein Stability against Aggregation and Inactivation. Curr. Pharm. Biotechnol. 2016, 17 (2), 116–125.
7. Hamada, H.; Arakawa, T.; Shiraki, K. Effect of Additives on Protein Aggregation. Curr. Pharm. Biotechnol. 2009, 10 (4), 400–407.
◆共凝集
タンパク質の凝集(aggregation)に関する研究は、これまで主として単一種類のタンパク質を対象として行われてきた。しかし、実際の生体内環境や食品・医薬品製造の場では、複数のタンパク質が共存している。では、2種類のタンパク質が混在する場合、その凝集挙動はどのように変化するのだろうか。この現象は「共凝集(co-aggregation)」と呼ばれる。
◆共凝集と添加剤の効果
まず、1種類のタンパク質溶液と2種類のタンパク質を含む混合溶液を比較してみよう。タンパク質はそれぞれ固有の等電点(pI)をもち、溶液のpHがpIより低ければ正電荷を、高ければ負電荷を帯びる。したがって、単一タンパク質溶液中では静電的反発が働き、凝集が進行するにはその反発力を上回る疎水性相互作用が必要となる。一方、正電荷をもつタンパク質と負電荷をもつタンパク質が共存する場合、異種タンパク質分子間に静電的引力が生じる。その結果、共凝集体は単一タンパク質の凝集よりも形成されやすくなる傾向がある。すなわち、酸性タンパク質と塩基性タンパク質を中性条件で混合した溶液は凝集しやすい特徴を備えていることを意味する。種類が増えれば確率的に、正電荷を持つタンパク質と負電荷を持つタンパク質の両方が増える可能性が増すので、基本的には凝集しやすいことを意味する。
◆β-ラクトグロブリンとリゾチームの共凝集
具体例として、10 mMの広域緩衝液(pH 7)中で、ウシ由来β-ラクトグロブリン(BLG、pI ≈ 5.2)と卵白リゾチーム(LYZ、pI ≈ 11.0)の共凝集を調べた研究を見てみたい(1)。それぞれ単独では、タンパク質溶液は透明で安定である。つまり、LYZもBLGも水溶液中によく分散していることを意味する。BLG や LYZ の単独溶液を 70 ℃に保持し、分光光度計で 400 nm 付近の濁度を追跡しても、少なくとも 2000 秒程度の時間スケールでは白濁はほとんど観察されなかった。なお、70˚Cは両者のタンパク質の変性温度よりわずかに低い温度である。
ここで、両者をさまざまな比率で混合したあと70˚Cで加熱すると、共凝集が起こった。共凝集量は両タンパク質の混合比によって変化し、両者がほぼ等量で存在する条件で最大の凝集が起こった。比率が偏ると凝集量は大きく減少し、単一のタンパク質だけが含まれる条件だと凝集がほとんど見られなかった。この挙動は共凝集の典型的特徴である。
さらに、BLGとLYZの共凝集は、さまざまな添加剤により効果的に抑制できることもこの論文では示されている。共凝集は大きく三つの段階──(i)変性、(ii)凝集前駆体の形成、(iii)凝集体の成長──から構成され、濁度を観察すると、濁りが観察できないラグタイムのあと急速に濁りが観察されるフェーズに入ることがわかる
この条件に0.5 M の NaCl を加えると、共凝集のラグタイムがおよそ 2 桁程度延び、見かけの凝集速度は約 100 分の 1 まで低下した。これは、イオン強度の上昇による静電遮蔽効果によって、BLG と LYZ 間の静電引力が弱まり、会合の初期過程が大きく抑制されるためだと推測できる。また同時に、この系での凝集は静電引力が律速になっていることも示唆している。
同じ濃度の NaSCN を加えるとラグタイムの延長は約 1 桁程度にとどまるのに対し、Na₂SO₄ では 3 桁近い延長が観察された。一般に NaSCN はタンパク質構造を不安定化するカオトロープ、Na₂SO₄ は構造を安定化するコスモトロープに分類されることから、部分変性に伴って凝集側に傾きやすい共凝集では、構造を安定化するコスモトロープの方が、むしろ強い凝集抑制効果を示すことが分かる。
さらに、同じ 0.5 M のアルギニン塩酸塩を加えると、NaCl や Na₂SO₄、NaSCN のいずれよりも顕著にラグタイムが延長し、共凝集の成長段階(初期速度)も強く抑制されることがわかった。無機塩や糖は主として核生成段階(ラグタイム)に類似した効果をもたらすのに対し、アルギニンは核生成と成長の両方の過程を特異的に抑制することを意味する。すなわち、このような共凝集が起こりやすい環境における弱い熱ストレスに対しては、アルギニンは無機イオン、コスモトロープ/カオトロープ、糖、変性剤などと比較して、最も強力な共凝集抑制添加剤として働く。
このような、正電荷と負電荷をもつタンパク質の共凝集系での添加剤効果を調べると、単一タンパク質溶液に比べて、添加剤による凝集抑制効果が際立って大きく観察される。これは次のように整理できるだろう。1種類のタンパク質の加熱凝集では、十分な凝集を起こすために高温・長時間の条件が必要であり、そのような強いストレス条件では添加剤の効果が相対的に見えにくい。これに対して、BLG–LYZ 混合系ではもともと凝集が起こりやすい条件にあるため、同じ添加剤でも比較的弱い作用が大きな差として現れる。
◆オボアルブミンとリゾチームの共凝集
オボアルブミン(OVA)と卵白リゾチーム(LYZ)の共凝集を調べた研究では、上述どおり、両者の混合比によって加熱に伴う凝集挙動が大きく異なる(2,3)。すなわち、一方だけのタンパク質では加熱しても凝集しないが、両者を混合すると凝集しやすくなり、混合比がおよそ同じ重量比になるときに最も凝集しやすくなる。この過程で生じる凝集の時間変化を調べてみると、次のような興味深い現象が観察された。なお、OVA(分子量 ≈ 45 kDa、pI ≈ 4.6、変性温度 ≈ 75 °C)は酸性タンパク質で、LYZ(分子量 ≈ 14 kDa、pI ≈ 11.0、変性温度 ≈ 72 °C)は塩基性タンパク質であ
LYZの濃度を50 µMに固定してOVA濃度を0–50 µMの範囲で変化させたのち、70 °Cで加熱すると、OVA濃度の増加に伴いLYZの共凝集量も増加した。一方、OVAを50 µMに固定してLYZ濃度を変化させて加熱しても、OVAの凝集量はほとんど変化しなかった。すなわち、OVAは単独でも凝集するが、LYZはOVAに巻き込まれて共凝集することがわかった。このように巻き込む側と巻き込まれる側になる違いは、両者のタンパク質の安定性や大きさによって決まる凝集しやすさに依存すると考えられる。
このプロセスを電気泳動やクロマトグラフィによって丁寧に調べてみると次のようなことがわかった。まず、共凝集過程では、加熱によってOVAの立体構造が崩壊し、そこにLYZが静電相互作用や疎水性相互作用を介して結合する。続いてLYZ自身の構造も部分的に壊れ、分子間でシステイン残基同士がジスルフィド結合を形成する。その結果、非還元条件下ではOVA–LYZ複合体はネイティブPAGEで高分子凝集体として観察されるが、SDS–PAGE(還元条件)では単量体に解離する。
◆オボトランスフェリンとリゾチームの共凝集
同様の現象は、オボトランスフェリン(OVT、pI ≈ 6.1、変性温度 ≈ 80 °C)とLYZの組み合わせでも確認されている(4)。OVAやOVTはいずれも自己凝集能をもち、構造変性時にLYZを巻き込んで共凝集体を形成することが示された。メカニズムは、BLG–LYZ系やOVA–LYZ系と同様に、静電的引力を基盤とした共凝集で説明できる。pH 9.0においてOVTは負電荷、LYZは正電荷を帯びるため、LYZは負に帯電したOVT凝集体の表面に結合しうる。その結果、OVT凝集体同士の静電反発が弱まり、コロイド安定性が低下して疎水性相互作用が優位となり、大きな不溶性共凝集体へと成長すると考えられる。
参考文献
1. Oki, S.; Iwashita, K.; Kimura, M.; Kano, H.; Shiraki, K. Mechanism of Co-Aggregation in a Protein Mixture with Small Additives. Int. J. Biol. Macromol. 2018, 107 (Pt B), 1428–1437.
2. Iwashita, K.; Handa, A.; Shiraki, K. Co-aggregation of ovalbumin and lysozyme. Food Hydrocolloids 2017, 67, 206–215.
3. Iwashita, K.; Handa, A.; Shiraki, K. Coacervates and Coaggregates: Liquid–Liquid and Liquid–Solid Phase Transitions by Native and Unfolded Protein Complexes. Int. J. Biol. Macromol. 2018, 120 (Pt A), 10–18.
4. Iwashita, K.; Handa, A.; Shiraki, K. Co-aggregation of Ovotransferrin and Lysozyme. Food Hydrocoll. 2019, 89, 416–424.