蛋白質溶液学
毎日加筆してます。参考になれば幸いです。
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【蛋白質溶液の基礎】
凝集 ◆タンパク質凝集◆加熱による凝集◆酸性処理による凝集◆アルカリ処理による凝集◆長期保存による凝集◆凍結融解による凝集◆凍結乾燥による凝集◆振とうによる凝集◆界面凝集体◆Lumry–Eyringモデル/加熱凝集の記述◆Hevehan–Clarkモデル/リフォールディングの記述◆リゾチームの加熱凝集◆残存活性と可溶性凝集体◆添加剤効果の分析:アルギニン◆添加剤効果の分析:アルギニンエチルエステル◆添加剤効果の分析:アミン・変性剤・イオン◆共凝集◆共凝集と添加剤の効果◆β-ラクトグロブリンとリゾチームの共凝集◆オボアルブミンとリゾチームの共凝集◆オボトランスフェリンとリゾチームの共凝集
安定性 ◆タンパク質のネイティブ構造◆ネイティブ構造の安定化因子◆タンパク質変性◆尿素変性◆塩酸グアニジン変性◆熱変性◆圧力変性◆有機溶媒変性◆酸変性◆アルカリ変性◆自発的フォールディング◆どのようなタンパク質がリフォールディングするのか?◆二状態転移の実験◆熱力学の体系へ◆熱力学パラメータの解釈◆事例:耐熱性タンパク質の安定性の原理◆ネイティブ構造安定性とイオン強度
五次構造 ◆タンパク質結晶◆タンパク質ガラス◆相分離液滴・コアセルベート・コンデンセート◆相分離液滴◆コアセルベート◆コンデンセート◆オパレッセント状態◆液体・固体・粘弾性◆貯蔵弾性率と損失弾性率◆ゲル◆細胞内にあるコンデンセート◆二状態モデル◆モルテン・グロビュールモデル◆液–液相分離◆タンパク質の相図◆アモルファス凝集◆アミロイド◆共凝集◆サブビジブル粒子◆核形成–伸長モデル
粘度 ◆低濃度と高濃度の違い◆粘度とは◆タンパク質濃度と粘度の関係◆アンドレード式◆分子間相互作用と粘度制御◆事例:アルギニンを用いた粘度低下の方法
溶解度と相図 ◆溶解度◆過飽和◆水◆低分子の溶解度測定◆低分子の溶解度を測る実験例◆タンパク質結晶の溶解度測定◆タンパク質結晶の溶解度測定◆ハンセン溶解度パラメータ
フリーのアミノ酸の性質 ◆アミノ酸の構造と性質◆側鎖の性質による分類と特徴◆溶ける現象の熱力学的理解◆アミノ酸の水への溶解度◆移相自由エネルギーの算出◆アミノ酸側鎖の疎水性◆アミノ酸のハイドロパシー◆アミノ酸の二次構造の取りやすさ◆タンパク質の構造階層◆一次構造◆二次構造◆三次構造◆四次構造◆五次構造◆20種類のアミノ酸が選ばれた理由◆タンパク質を構成するアミノ酸◆初期アミノ酸セットの特徴◆フォールダビリティとアミノ酸◆アミノ酸から見たタンパク質
【添加剤の性質】
卵白を使った溶液設計例 ◆タンパク質凝集◆卵白の凝集◆卵白の凝集への添加剤の効果◆添加剤のメカニズム◆卵白の加熱凝集へのホフマイスター効果◆卵白の加熱凝集の濃度依存性◆卵白へのアルギニンの添加効果
相互作用と添加剤 ◆静電遮蔽◆疎水性◆疎水性相互作用/疎水効果◆疎水性相互作用とファンデアワールス相互作用◆親水性◆コンフォメーションエントロピー◆塩橋◆ジスルフィド結合◆水素結合◆疎水性相互作用◆静電相互作用◆ファンデルワールス力◆π–π相互作用◆カチオン–π相互作用◆双極子–双極子相互作用◆金属配位◆水和◆タンパク質間に主に働く相互作用◆タンパク質の凝集抑制剤・アルギニン・アミン化合物・アミノ酸・カオトロープ・コスモトロープ・糖類・ポリオール・オスモライト・界面活性剤・尿素・塩酸グアニジン◆タンパク質の沈殿剤・高分子・コスモトロープ・糖類やポリオール・有機溶媒・多価金属イオン◆アルギン酸◆アルギン酸プロピレングリコール(PGA)◆イソフムロン◆ペクチン◆カラギーナン◆CMC◆キサンタンガム◆レシチン◆エピガロカテキンガレート◆クルクミン◆アラントイン◆1,6-ヘキサンジオール◆二価カチオンとホフマイスター効果◆二価カチオンの塩溶効果◆オスモライト◆適合溶質◆変性剤◆選択的相互作用◆選択的相互作用の理論◆選択的水和◆選択的排除◆枯渇効果◆分子クラウディング効果◆浸透圧効果
沈殿と添加剤 ◆無機塩による沈殿◆ホフマイスター系列◆コスモトロープ◆カオトロープ◆ハイドロトロープ◆二価カチオンとホフマイスター効果◆二価カチオンの塩溶効果◆イオン濃度と沈殿作用 ◆タンパク質の等電点から離れたpH中でのイオンの効果◆タンパク質の等電点に近いpH中でのイオンの効果◆アルコールによる沈殿◆アルコール変性◆高分子による沈殿◆等電点沈殿の設計:pH応答性CspBタグ◆曇点◆タンパク質結晶の溶解度◆タンパク質結晶の溶解度を測る実験例◆タンパク質の相図◆タンパク質濃度–沈殿剤濃度の相図◆温度–タンパク質濃度の相図◆pH–塩濃度の相図◆添加剤による相図の変化◆相図に描く曲線の意味◆時間依存的に変化するタンパク質相図の例
アルギニン ◆添加剤としての発見の経緯◆凝集抑制のメカニズム◆アルギニンのその他のメカニズム◆アルギニンと水和◆新しい凝集抑制剤を開発する◆ポリアルギニン◆ハイドロトロープと界面活性剤との関係◆カチオン-π相互作用の証明◆芳香族化合物の溶解度の向上◆タンパク質を溶かす◆アルギニンの使い方◆タンパク質と緩衝液とアルギニンの関係◆アルギニンが凝集抑制剤として機能する条件◆サブビジブル粒子の形成への添加剤の効果◆階層的凝集モデルへのアルギニンの効果
【身近な計測法】
吸収分光法 ◆吸収分光◆濁度◆タンパク質の吸収スペクトルの例◆凝集抑制剤の効果の濁度による比較◆残存タンパク質量による凝集抑制剤の比較
蛍光分光法 ◆内因性蛍光測定◆ANS蛍光◆ThT蛍光◆事例:タンパク質の持つTrp残基の蛍光◆事例:天然構造と加熱変性構造の比較◆例:遊離Trpの蛍光スペクトル
円二色性スペクトル ◆遠紫外CDスペクトル◆等吸収点◆サンプル調整◆近紫外CDスペクトル◆熱変性◆溶液状態の変化の判別◆サンプル調整
凝集体の計測 ◆サイズ排除クロマトグラフィー◆光散乱◆動的光散乱DLS◆静的光散乱SLS◆電気泳動光散乱・ゼータ電位◆等温滴定型熱量系ITC◆熱力学パラメータによる相互作用の解釈◆示差走査熱量測定◆DSCによるIgGの分析◆濁度による加熱凝集体の検出◆濁度による加熱凝集と凝集抑制剤の計測◆濁度を用いたアルギニンの凝集抑制機構の考察◆第二ビリアル係数◆拡散ビリアル係数
【酵素溶液の設計】
酵素の性質 ◆酵素とは◆代謝とは◆酵素のパラメータ◆ミカエリス-メンテン式を読み解く◆平均的な酵素の姿◆生成物阻害◆生成物阻害:プロテアーゼの例◆生成物阻害:ヘキソキナーゼの例◆生成物阻害:乳酸脱水素酵素の例◆温度と酵素活性◆pHと酵素活性◆イオン強度と酵素活性◆事例:酵素活性の補償とサバティエの法則◆事例:化学走性 (分析法、アロステリック効果、阻害)
酵素の活性化 ◆溶液設計による酵素活性化◆酵素活性化のアイデア・構造と会合状態・熱力学的環境の制御・反応速度論・空間的組織化◆酵素と第三成分◆ホフマイスター系列のイオン効果◆セリンプロテアーゼの酵素活性◆事例:キモトリプシンの活性と無機イオン◆事例:キモトリプシンの活性とアミン化合物◆アミン化合物の添加による活性化メカニズム◆事例:キモトリプシンの活性と高分子電解質◆活性化の酵素学的分析◆活性化のメカニズム解明◆事例:乳酸脱水素酵素と酸性での解離◆乳酸脱水素酵素の高分子電解質による安定化◆添加剤による酵素活性化とは
酵素の液-液相分離 ◆一般論としての液-液相分離と酵素活性◆ドロプレットによる酵素活性化のメカニズム◆酵素の連続反応と代謝の理解◆乳酸酸化酵素と液-液相分離◆代謝酵素の連続反応
【産業への応用】
バイオ医薬品の製剤設計 ◆緩衝液◆抗体のための中性緩衝液の選択◆抗体のための酸性緩衝液の選択◆抗体製剤に使われる成分◆抗体製剤例◆Tris緩衝液を使ったバイオ医薬品の製剤例◆アデノウイルス製剤例◆アデノウイルス製剤の見方◆血清アルブミンの製剤例◆ポリソルベート◆スクロース・トレハロース・ソルビトール・マンニトール◆製剤に含まれるアミノ酸◆製剤の新規添加剤の候補◆スプレードライ製剤の凍結融解試験:エクトインとヒドロキシエクトイン◆加熱加速試験:サルコシン◆長期冷蔵保存:天然オスモライトによる抗体の冷蔵保存◆長期保存試験:スクロースとアルギニン◆長期保存試験:ポリリン酸◆加熱・光酸化ストレス試験:タウリン◆アルコール保存剤ストレス試験:TMAO◆TMAOを製剤添加剤として使う際の注意点◆抗体溶液のオパレッセンス◆オパレッセンスの添加剤による制御
食品蛋白質 ◆コーラ牛乳◆ポリリン酸による沈殿◆リエントラント凝縮◆卵白ゲル◆卵白ゲルとpH◆卵白ゲルの加熱条件◆卵白ゲルへの添加剤効果◆乾燥卵白のハイゲル化◆卵白泡の溶液設計◆ラーメンの麺◆濃厚つけ麺と豚骨ラーメン◆グリアジンとグルテニン◆グルテンネットワークの制御技術◆市販ラーメンの食品表示◆ラーメン麺の設計思想◆食べる蛋白質としての乳化・ゲル・起泡◆乳化とは◆タンパク質が乳化剤になる理由◆大豆蛋白の乳化力の改良◆アイスクリームとカゼイン◆理想のアイスクリーム◆脂肪球界面膜の制御◆未凍結水相の制御
深共晶溶媒 ◆水◆天然深共晶溶媒◆深共晶溶媒の発見の経緯◆天然深共晶溶媒◆生体内と深共晶溶媒◆天然深共晶溶媒が作る相互作用◆深共晶溶媒の中の水の役割◆深共晶溶媒と酵素◆酸化還元酵素◆ラッカーゼ◆アルコール脱水素酵素◆リパーゼ◆プロテアーゼ◆リゾチーム◆深共晶溶媒を用いる物質の抽出・ポリフェノールの抽出・多糖の抽出・タンパク質の抽出 ◆深共晶溶媒研究におけるコンピュータ活用
【生命現象の理解(本)】
相分離生物学(大学院生向け10コマ分の教科書。概念の把握にちょうどよいサイズ)
相分離生物学の全貌(110名の専門家とまとめた79の研究プラン。最初期の大部です)
はじめに
タンパク質は、水に溶けたときにはじめて本来の性質をあらわします。構造を保ち、機能を発揮し、ときに凝集したりゲルになったり、環境に応じてそのふるまいを変えます。したがって、蛋白質を理解し、設計するためには、タンパク質分子そのものだけではなく、タンパク質溶液を対象とする視点が必要です。
タンパク質溶液は、多くの産業に関わっています。たとえば、大麦パンをどうすればふくらませられるのか、乳タンパク質だけでなめらかなアイスクリームをつくれるのか、卵白を加熱してもゲル化しないようにできるのか、年齢髪にやさしいシャンプーはどういう成分なのか、美白効果をもつ水に溶けにくい分子をどう溶かすのか、高濃度にした抗体薬の粘度をどうやったら下げられるのか、常温でタンパク質の薬を保存できる製剤ができるのか、洗剤に入っている酵素をどうすれば安定化できるのか、などの多くの課題があります。これらは一見すると別々の課題に見えますが、いずれもタンパク質を溶液中でどのように分散させ、会合を制御し、機能を保つかという共通の問題です。
たとえば、ある抗体溶液で「抗体の濃度を上げるとなぜ粘度が上昇したのか」という問いがあったとします。この現象は、物理化学や流体物性の言葉である程度説明できます。しかし、「そこにアルギニンを添加するとなぜ粘度が低下したのか」「リジンを添加すると、なぜ粘度が上がる場合があるのか」という問いに答えるためには、分子構造、分子間相互作用、添加剤との選択的相互作用、コロイド安定性、溶液物性をつなげて考える必要があります。そのような考え方ができれば、抗体溶液で得られた知識を、卵白ゲルの凝固抑制や酵素の活性化など、別の課題にも応用できるかもしれません。こうした可能性を整理するためにも、タンパク質溶液を横断的に理解する体系が求められます。
蛋白質溶液学は、タンパク質の溶液状態を統一的に扱うことを目指す体系です。構造生物学が明らかにする分子構造、生物物理学・物理化学・熱力学が与える安定性の原理、コロイド科学や界面科学が扱う分散・会合・界面挙動、酵素学が扱う機能発現、さらに製剤学や食品科学が求める実用的な溶液設計を、タンパク質溶液の理解のもとで結びつけます。
このサイトでは、われわれの研究成果だけでなく、必要な文献を広く引用しながら、蛋白質溶液学の視点からタンパク質に関連する実験方法や理論、考え方、応用例などを整理しています。研究や開発の参考にしていただければ幸いです。集中講義や講演なども歓迎です。