蛋白質溶液学(製剤の設計)
緩衝液ひとつとっても選ばれる理由がある
緩衝液ひとつとっても選ばれる理由がある
緩衝液の選択
物質の緩衝作用は、その酸解離定数(pKa)の±1程度の範囲で最も強く働く。そのため、目的とするpHに近いpKaをもつ緩衝剤を選択するのが基本である。例えば、生理的条件(pH 7前後)では HEPES、MOPS、リン酸などが安定であり、酸性条件では クエン酸や MES、アルカリ性条件では Tris、CHES、CAPS などがよく用いられる。
イオン強度
緩衝液は同じモル濃度でも、構成イオンの価数や数によりイオン強度が異なる。イオン強度 I は式1のように定義される。
式1
ここでciはイオンのモル濃度、ziは電荷数である。したがって、二価や三価イオンを含む緩衝液は、単価イオン主体の緩衝液よりも高いイオン強度を示す。例えば、50 mMのTrisやMES緩衝液ではイオン強度は約40–50 mMだが、クエン酸やリン酸のように多価陰イオンを含む系では80–100 mM程度に達することがある。これは、緩衝液の導電性や静電的相互作用に影響する。
pH範囲と温度依存性
緩衝液のpHは温度に依存して変動する。一般に、酸・塩基の解離は吸熱反応であるため、温度上昇により解離が進み、pHは低下する傾向を示す。ただし、発熱的に解離する系(代表例としてリン酸)は、逆にpHが上昇する。実験では、実際の測定温度でpHを調整するか、温度補正を行うことが望ましい。温度変化によってほとんどpHが変化しない緩衝液としては、リン酸やクエン酸、MES、MOPSなどがあり、pKaの温度係数(ΔpKa/ΔT)が小さい。一方、Tris、ヒスチジン、酢酸などは温度変化に敏感である。特にTrisの温度係数は−0.028 pH / °C と、広く使われる緩衝液では最大であり、10 °C変化すると約0.3 pH単位変動する。
金属イオンとの相互作用
リン酸やクエン酸、ホウ酸などは金属イオンと沈殿または錯体を形成しやすい。そのため、金属酵素やMg²⁺、Ca²⁺を利用する反応系では避けた方がよい。一方で、イミダゾールやヒスチジンなどを添加剤として使う場合、金属との配位結合能をもち、酵素の金属補因子活性にも影響を与える可能性がある。逆に、金属を除去したい場合には、クエン酸などのキレート性を利用できる。
◆抗体のための中性緩衝液の選択
ヒスチジン緩衝液(His-HCl)
ヒスチジン緩衝液は、抗体医薬品、特に IgG タイプ抗体の最終製剤において最も広く採用されている緩衝系である。ヒスチジンの pKa(約 6.0)は、IgG が最も安定性を示す pH 5.0–6.5 の範囲と良好に重なっており、この領域で優れた緩衝能を発揮する。また、温度変化に伴う pH ドリフトが小さく、凍結融解や流通時の温度差が生じても製剤の液性が大きく変化しにくい点も利点である。典型的な使用濃度は 10–20 mM で、低イオン強度を維持できるため、抗体の凝集や粘度上昇を抑えやすい。ただし、濃度が高すぎるとイオン強度の過剰上昇により凝集リスクが増し、皮下注製剤では浸透圧に影響するため注意が必要である。一方、濃度が低すぎると緩衝容量が不足し、pH ドリフトが起こりやすくなる。ヒスチジンは生体適合性に優れ、イミダゾール環が酸化防御に寄与する報告もあるが、主要な採用理由は緩衝性能と安全性である。
トリス緩衝液(Tris-HCl)
トリス緩衝液は研究用途では広く普及しているものの、抗体医薬品の最終製剤にはほとんど採用されていない。最大の理由は、トリスの pH が温度に強く依存する点であり、pH 温度係数は約 −0.028 pH/°C と大きいため、冷蔵、輸送、凍結融解の過程で容易に 0.3–1.0 pH 程度の変動が生じる。この pH シフトは抗体の化学的不安定化(脱アミド、異性化)や凝集の誘発につながる。典型的な濃度は 10–20 mM であるが、高濃度ではイオン強度の上昇や金属イオンのキレートによる副作用が生じる。一方、低濃度では緩衝能が低下し、pH を保持できない。抗体製剤には不向きであるものの、pH 変動に比較的耐性のある核酸医薬品や酵素製剤では広く使用されている。
リン酸緩衝液(PBS など)
リン酸緩衝液は、製造工程におけるクロマトグラフィー、UF/DF、Diafiltration などの操作で広く用いられている。pH の温度依存性が小さく、工程条件の再現性を確保しやすい点が利点である。典型的な濃度は 5–20 mM で、工程操作においては十分な緩衝能を発揮する。しかし、Ca²⁺ や Mg²⁺ と沈殿(リン酸カルシウム・リン酸マグネシウム)を形成しやすいこと、高イオン強度では抗体の凝集を促進する可能性があることから、最終製剤として採用される例はきわめて少ない。濃度が高すぎる場合は沈殿、凝集、溶解性低下のリスクが増大し、逆に低すぎる場合は工程中の pH 安定性が低下する。薬事上の安全性というよりも、物理化学的な安定性の観点から最終製剤には適さない緩衝系である。
Good’s buffer 系(HEPES, MES, MOPS, PIPES など)
Good’s buffer 系緩衝液は、生化学研究では理想的な緩衝特性(高い溶解性、温度依存性の小ささ、金属との弱い相互作用など)をもつため、細胞培養、in vitro 試験、安定化スクリーニングに広く使用されている。典型的な濃度は 10–50 mM で、HEPES は pH 6.8–8.2、MES は pH 5.5–6.7 など、各種バッファーは特定の pH 域に最適化されている。しかし、Good’s buffer はヒトへの投与歴がほとんどなく、安全性データが乏しいため、薬事上の理由から注射剤としての抗体医薬品にはほぼ使用されない。また、濃度が高すぎる場合は光照射によるラジカル形成(HEPES など)や金属イオンキレートによる酵素・抗体の影響があり、低すぎる場合は緩衝能不足による再現性低下が生じる。したがって、開発初期の試験系には有用であるものの、最終製剤への採用は実質的に困難である。
◆抗体のための酸性緩衝液の選択
クエン酸緩衝液(Citrate)
クエン酸緩衝液は、pH 3.0–6.2 の弱酸性領域をカバーする緩衝系であり、低 pH でのウイルス不活化工程(低 pH viral inactivation)や、特定の抗体の安定化スクリーニングに用いられる。典型的な濃度は 5–20 mM で、三価カルボン酸構造に由来する金属キレート能を有し、Ca²⁺ や微量金属の除去に寄与する。しかし、このキレート作用は反面として、注射剤としての最終製剤ではタンパク質構造や金属酵素活性に影響を与える可能性がある。濃度が高すぎる場合は金属依存性の不安定化、pH 低下時の凝集促進が起こり、逆に濃度が低すぎると pH 5 付近での緩衝能が不足し、化学変性(脱アミドなど)が加速する。クエン酸は生体適合性が高く、製剤によっては採用例があるが、大多数の抗体医薬品ではヒスチジン緩衝液が優先される。
酢酸緩衝液(Acetate)
酢酸緩衝液は、pH 3.5–5.5 の酸性域で有効な緩衝系で、古くからタンパク質製剤に使用されてきた。典型的濃度は 10–20 mM。酢酸イオンは比較的小さく、イオン強度による凝集促進作用が穏やかであるため、一部の抗体では安定化に有利に働くことがある。しかし、pH 温度依存性はヒスチジンよりやや大きく、凍結融解工程で pH ドリフトが生じる場合がある。また、濃度が高い場合は浸透圧上昇により皮下注製剤での注射痛が懸念され、濃度が低すぎると酸性域での化学変性(特にメチオニン酸化)の抑制が不十分になる。近年の抗体医薬では利用頻度が減少しつつあるが、特定の mAb では依然として有力な選択肢である。
グリシン緩衝液(Gly-HCl / Gly-Na)
グリシン緩衝液は、pH 2.0–3.5 の非常に酸性域をカバーする特殊な緩衝系で、主に Protein A からの酸性条件での抗体溶出や不活化プロセス後の中和工程など、製造工程で使用される。典型濃度は 10–50 mM。最終製剤として利用されることはほとんどないが、工程用途としては非常に安定しており、抗体の変性を最小限にしながら低 pH を精密に制御できる点が利点である。濃度が高すぎる場合は浸透圧上昇やタンパク質の部分変性を助長し、低すぎる場合はウイルス不活化の再現性が低下する。製剤そのものではなく、製造工程の安全性・再現性の確保に不可欠な緩衝液である。
◆抗体製剤に使われる成分
典型的には、10 mMヒスチジン、200 mMスクロース、0.05%ポリソルベートが使われる。ヒスチジンは、pH 5–6 付近での緩衝機能を担い、生体への安全性や、温度依存性が小さいことがあげられる。また、スクロースは、タンパク質の水和シェルの構造を保ち、タンパク質の水溶液中での構造安定化や、凍結や凍結乾燥での保護作用を持つ。0.01%–0.05%ポリソルベート20またはポリソルベート80は、空気と液体の界面や容器との界面でのタンパク質の吸着と変性、凝集核の形成を抑制する働きがある。
凍結乾燥をする場合には、スクロースの代わりにトレハロースが使われているケースがある。数百mM程度のトレハロースを添加しておくと、凍結乾燥時にガラス状マトリックスを形成し、水分子を補完して立体構造を固定することで乾燥品の長期保存安定性を高めることができる。凍結乾燥状態からの再溶解後も、トレハロースはタンパク質の構造安定化に寄与する。
ヒスチジンに酢酸を組み合わせることで、より酸性側での緩衝能を獲得できるよう工夫されている組成もある。酢酸が組み合わさることで、ヒスチジン単独よりも pH 調整の自由度が高く、製剤開発の過程で二成分バッファーが採用されていると解釈できる。
典型的なヒスチジン・スクロース・ポリソルベート系に、メチオニンを添加した製剤用バッファーもある。酸化ストレスに対して、添加したメチオニンが酸化されることで、抗体の持つメチオニン残基やトリプトファン残基の酸化を抑制する働きを狙っていると考えられる。
アルギニンを加えた処方は、高濃度の皮下投与 mAb 製剤に用いられることがある。アルギニンは凝集抑制および粘度低減に寄与する。特に 100 mg/mL を超える高濃度抗体製剤では、Arg の添加によって流動性を高めると同時に、シリンジ使用時の粘性や輸送時の界面での変性などを防ぐ働きが期待されている。
典型的な使用濃度
10-20 mM ヒスチジン:pH 5–6 付近での緩衝、および低い温度依存性
100-250 mM スクロース:水和シェ維持、凍結・乾燥ストレス耐性、浸透圧調整
0.01%-0.05% ポリソルベート:界面安定化
20-150 mM アルギニン(20–150 mM):高濃度 mAb の 粘度低減、凝集抑制
10 mM メチオニン:酸化ストレス耐性
https://www.jpharmsci.org/article/S0022-3549(23)00144-2/pdf
◆抗体製剤例
・ヒスチジン+スクロース+ポリソルベート系
Pembrolizumab(Keytruda)静注製剤は、25 mg/mL 抗体に対して L-ヒスチジン約 10 mM、スクロース約 0.2 M(70 mg/mL)、ポリソルベート80 0.2 mg/mL、pH 5.5である。最も典型的な抗体製剤用バッファー。
https://www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/label/2016/125514s012lbl.pdf
Atezolizumab(Tecentriq)静注製剤は、ヒスチジン約 20 mM、スクロース約 0.12 M、ポリソルベート20 を含み、pH 5.8である。
https://www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/label/2019/761034s021lbl.pdf
Nivolumab SC(Opdivo Qvantig)の皮下投与用の原薬溶液では、ヒスチジン 20 mM、スクロース 250 mM、ポリソルベート80 0.05%(w/v)、pH 6.0である。
https://www.bms.com/assets/bms/ca/documents/productmonograph/OPDIVO-SC_EN_PM.pdf
・ヒスチジン+トレハロース+ポリソルベート系
Trastuzumab(Herceptin)の凍結乾燥製剤。440 mgのmAb、400mgのトレハロース、0.9 mgのヒスチジン塩酸塩、6.4 mgのヒスチジン、1.8 mgのポリソルベート20が含まれている。これを20 mLの溶液に溶かして使用するが、溶液中には58 mMトレハロース、2.3 mMヒスチジン、0.01%ポリソルベート20。ヒスチジンが比較的低濃度。
https://www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/label/2010/103792s5250lbl.pdf
・ヒスチジン+酢酸+スクロース+ポリソルベート系
Atezolizumab(Tecentriq)の静注製剤は、1200 mg/20 mL バイアルの組成で、20 mMのL-ヒスチジン、0.12 Mのスクロース、14 mMの無水酢酸、0.04 %ポリソルベート20、pH 5.8 である。
https://www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/label/2019/761034s021lbl.pdf
・ヒスチジン+スクロース+メチオニン+ポリソルベート系
Atezolizumab(Tecentriq SC)皮下注製剤は、20 mM ヒスチジン、240 mM スクロース、0.06% ポリソルベート、10 mM メチオニンを製剤バッファーとして用いている。
https://assets.roche.com/f/173850/x/f755c679e7/tecentriq-sc_pm_cie.pdf
・ヒスチジン+スクロース+ポリソルベート+アルギニン系
Dupilumab (Dupixent)皮下注製剤(300 mg/2 mL)には、20 mM ヒスチジン、150 mM スクロース、25 mM アルギニン塩酸塩、0.2% ポリソルベート80 が含まれている。pH 5.9。
https://academic.oup.com/abt/article/6/4/265/7308788
◆Tris緩衝液を使ったバイオ医薬品の製剤例
中性から弱塩基性では Tris 緩衝液が最も扱いやすいが、Tris は pH の温度依存性が大きく、凍結・解凍や流通時の温度変化によって 0.3〜1 pH ユニット程度の変動が生じうる。また、タンパク質との化学修飾の可能性や、抗体医薬品としての承認実績の乏しさから、モノクローナル抗体の最終製剤バッファーとしてTris緩衝液pH 8の条件は採用されることはほとんどない。一方、mRNA製剤やペプチド製剤にいは使用例が見られる。Trisの濃度は10 mMから50 mMが見つかる。
・Comirnaty(ファイザー/BNT162b2)
有効成分:0.1 mg/mL mRNA
緩衝剤:10 mM Tris (pH 7.4)
賦形剤:300 mM scrose
投与形態:脂質ナノ粒子分散液、筋注用
https://www.health.govt.nz/system/files/2022-02/h202117877_response.pdf
・ELEVIDYS(delandistrogene moxeparvovec,DMD核酸製剤)
有効成分:AAVrh74ベクター
緩衝剤:20 mM Tris(pH 7.5)
添加剤:200 mM NaCl、1 mM MgCl₂ (イオン強度が高い)
界面活性剤:0.001% Poloxamer 188
バイアル容量:10 mL
・APIDRA®(インスリンアナログ製剤)
有効成分:インスリン グルリジン
緩衝剤:50 mM Tris (pH 7.3)(濃度がかなり高い)
電解質:5 mg/mL NaCl
防腐剤:3.15 mg/mL メタクレゾール
界面活性剤:0.01 mg/mL ポリソルベート20
https://www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/label/2007/021629s010lbl.pdf?utm_source=chatgpt.com
◆アデノウイルス製剤例
・Merck 系のA195緩衝液(WO2001 066137)原典の製剤
緩衝剤:5–10 mM Tris(pH 7.4–8.0)
塩:75 mM NaCl
浸透圧調整・凍結ストレス保護:5% (w/v) ≒ 0.15 M sucrose
カプシド安定化:1 mM MgCl₂
界面安定化:0.005–0.02% (w/v) polysorbate 80
キレート剤:100 µM EDTA
・ICVB-1042(腫瘍溶解性アデノウイルス)ethanolが含まれた例
緩衝剤:10 mM Tris + 10 mM histidine(pH 7.4)
塩:75 mM NaCl
浸透圧調整・凍結ストレス保護:5% (w/v) sucrose
界面安定化:0.02% polysorbate-80
狙いが不明:0.5% ethanol
カプシド安定化:1 mM MgCl₂
キレート剤:100 µM EDTA
https://www.nature.com/articles/s42003-024-06839-6?utm_source=chatgpt.com
・IFN-α2b 遺伝子治療薬 ADSTILADRIN(nadofaragene firadenovec)複雑な製剤例
緩衝剤:11.6 mM Tris
緩衝剤:9 mM phosphate
補助的緩衝能・キレート作用による安定化:0.14 mM citrate
浸透圧調整・凍結ストレス保護:50 mM sucrose
凍結ストレス保護・カプシド安定化:0.9 M glycerol
疎水相互作用の遮断・カプシド安定化:5.6 mM Hydroxypropyl-β-cyclodextrin
カプシド安定化:1.7 mM MgCl₂,
界面安定化:0.048% (w/v) polysorbate-80
細胞膜透過性向上:0.95 mg/mL Syn3
https://www.fda.gov/media/164029/download
◆アデノウイルス製剤の見方
抗体製剤は、基本的には単一のタンパク質分子を安定化するための標準的な製剤設計で十分であり、これまでに承認実績のある製剤組成がモデルとして踏襲される場合が多い。一方、アデノウイルス製剤は、DNA を内包した巨大なカプシド構造体を対象とするため、多角的な視点からカプシド全体を物理的に保護する必要がある。
抗体は一般に pH6 付近で最も安定とされ、緩衝剤としてはヒスチジンが多用される。これに対し、アデノウイルスのカプシドは酸性側では六量体ヘキソン間の相互作用が弱まりやすく、中性から弱塩基性条件で安定である。このため、Tris 緩衝液などが用いられる例が多い。
マグネシウムイオンはカプシド内部のDNAの安定化や、粒子表面の静電相互作用の遮蔽を通じて、間接的にウイルス粒子の物理的安定性に寄与すると考えられており、実際の製剤や精製工程でも添加される例が多い。
抗体製剤と比較して、アデノウイルス製剤にはポリオールや糖質が高濃度で含まれている点も特徴である。これは凍結ストレス緩和やカプシドの物理的安定化に必須であるからだと考えられる。
マグネシウムイオンよりも低濃度のキレート剤を共存させることで、金属触媒による酸化反応を抑制する設計が採られている点も、アデノウイルス製剤に特有の特徴である。鉄イオンによる活性酸素の発生によって酸化することがウイルスの失活の要因となるため、EDTAを添加する製剤例が多い。ただし、マグネシウムイオンを添加する場合には、それより低濃度のEDTAを添加する必要がある点には留意が必要である。具体的には1 mM MgCl₂に対して0.1 mM EDTAが多い。
エタノールについては、0.5% 付近に安定化の至適値が報告されている例があるが、この濃度では誘電率低下による静電相互作用の変化は限定的であり、むしろ界面張力の低下や界面活性剤との界面挙動の相互作用など、複合的な物理化学効果による可能性が高いと考えられる。
アデノウイルスの長期低温保存ではメチオニンの添加が好効果を及ぼすケースがある。トリプトファンの併用でなお効果が高まるため、メチオニン添加の効果としては犠牲的抗酸化剤として機能するからだと推測できる。(下記文献)
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S002235491930735X