蛋白質溶液学(粒子の計測)
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粒子の計測
タンパク質は水溶液中でモノマー(単量体)として存在するだけでなく、目では見えない小さな集合体から、0.1–100 µm程度のサブビジブル粒子、さらに肉眼で確認できる凝集体まで、さまざまな大きさの会合体として存在することがあります。
このページでは、タンパク質粒子を調べる代表的な方法を紹介します。DLSは粒子のブラウン運動による散乱光のゆらぎを解析し、粒子の大きさ(流体力学的半径)を求める方法です。少量の試料で短時間に測定できるのが特長です。SLSは散乱光の強さを解析し、分子量や分子どうしの相互作用の強さを評価できる方法です。濁度測定は溶液のにごり具合を光の減衰として測定する方法で、一般的な分光光度計を使って簡単に行えます。SECはサイズ排除の原理を用いて分子を分離し、モノマーやオリゴマー、可溶性凝集体の割合をクロマトグラムとして確認できるため、会合状態の解析によく使われます。NTAは1つ1つの粒子の動きを追跡して大きさと数を求める方法で、多分散系でも粒径分布を直接見ることができますが、装置はやや専門的です。AUCは強い遠心力のもとで粒子が沈む速さを解析し、分子量や会合状態を高い精度で評価できる方法ですが、装置や解析には高い専門性が求められます。
◆動的光散乱
動的光散乱(Dynamic Light Scattering; DLS)は、溶液中に分散した粒子の大きさを、散乱光の時間的なゆらぎから推定する手法である。粒子はブラウン運動によって絶えず位置を変えており、その運動に応じて散乱光の強度もわずかに変動する。この強度変動を時間相関関数として解析すると、粒子の並進拡散係数 Dが求められる。拡散係数から粒子サイズ(流体力学半径Rh)を導く際には、Stokes–Einstein式を用いる。
Rh=(kb T) / 6πηD
ここで、kBはボルツマン定数、Tは絶対温度、ηは溶媒粘度を表す。
DLSは前処理をせず溶液をそのまま測定できることが利点である。計測時間も数十秒程度であり、粒径や分布の時間変化を追跡する用途に適している。解析結果は強度分布・体積分布・数分布として表示されるが、実際の測定では強度分布が基礎データとなる。Rayleigh近似が成り立つ粒径領域での散乱強度は、粒径の約6乗に比例するため、ごく少量の大粒子や凝集体でも結果に強く反映されることは注意が必要となる。
サンプルの条件として、5 mg/mL程度よりタンパク質濃度が高くなる場合、多重散乱や粘度補正の影響が無視できなくなり、解析が複雑になる。得られた拡散係数が見かけ値となることもあるため、希釈条件や測定角度の設定には注意を要する。DLSが直接与える情報はあくまで拡散である。凝集の駆動力や安定性を議論するには、熱力学的パラメータや粘度測定などと組み合わせて解釈する必要がある。
◆静的光散乱
静的光散乱(Static Light Scattering; SLS)は、粒子から放出される散乱光の平均強度を解析することで、分子量や分子間相互作用を評価する手法である。時間的なゆらぎを扱うDLSとは異なり、SLSでは散乱強度の角度依存性および濃度依存性に着目した測定であり、計測時間も1回あたり数十分程度が必要になる。測定した強度をRayleigh–Debye理論に基づいて解析することで、溶液中分子の統計的性質を読み取る。
散乱強度は分子量と濃度に依存する。濃度系列を測定し、ゼロ濃度へ外挿することで重量平均分子量 Mwがもとめられる。同時に、濃度依存項から第二ビリアル係数 B22を算出できる。解析にはZimmプロットやDebyeプロットが用いられ、角度依存性を含めた整理によって精度の高い評価が可能になる。B22はタンパク質分子間の平均的な相互作用を反映する熱力学パラメータであり、正の値は反発、負の値は引力が支配的であることを示す。
タンパク質溶液の評価では、SLSは凝集傾向を予測するための有力な指標となる。抗体製剤の開発では、pHや塩濃度、添加剤条件に対する B22の変化を系統的に測定することで、長期安定性や高濃度条件での粘度や凝集のリスクを推定できる。
ただし、散乱強度は分子量の二乗に比例するため、微量の凝集体でも測定値に強く影響する。試料中のダストを除去しないままでは、分子量や B22が過大評価されることがある。測定前のフィルトレーションや遠心処理は、その意味で不可欠である。SLSはDLSやAUCと組み合わせて用いることで、凝集の「大きさ」と「相互作用」という両面から理解を深めることができる。
◆電気泳動光散乱
電気泳動光散乱(Electrophoretic Light Scattering; ELS)は、粒子の電気泳動移動度を光散乱法によって測定し、そこからゼータ電位を算出する手法である。粒子が水中に分散すると、表面電荷に応じて対イオンが集まり、固定層と拡散層からなる電気二重層が形成される。ゼータ電位は、この電気二重層におけるすべり面(slipping plane)の電位を示す指標であり、コロイド分散系の安定性を評価する重要なパラメータである。
測定では外部電場を印加し、粒子の電気泳動移動度を求める。その移動度を Smoluchowski 式などの理論式に基づいて換算することで、ゼータ電位 ζ を算出する。したがって、ゼータ電位は直接観測される量ではなく、電気泳動移動度を媒質の粘度および誘電率と関連づけて導かれる物理量である。
ゼータ電位の絶対値が大きい(一般に ±30 mV 以上)場合、粒子間に十分な静電反発が働き、分散は安定化しやすい。逆に、値が 0 mV に近づくと反発力が弱まり、凝集や沈殿が起こりやすくなる。タンパク質溶液では、pH が等電点(pI)に近づくとゼータ電位はゼロ付近となり、溶解度低下や凝集が生じやすい。
ただし、ゼータ電位は粒子表面の真の電荷そのものを示すわけではない。吸着した添加剤や界面活性剤、緩衝液イオンの影響を強く受けるため、値を解釈する際には溶液条件を明確にする必要がある。電気泳動光散乱は、DLSやSLSと組み合わせることで、サイズ・分子間相互作用・表面電荷という三つの側面からタンパク質分散系を総合的に評価できる手法である。Malvern Panalytical の Zetasizer などは、DLS・SLS・ELS の測定に対応している。
◆濁度測定
濁度測定とは、タンパク質溶液に可視光を透過させたときの減衰を指標として、溶液中の粒子による光散乱を評価する手法である。実験的には、試料を通過した光がどれだけ弱まったかを吸光度として測定する簡単なものである。
多くのタンパク質は可視域にほとんど吸収を示さないため、観察されるみかけの透過率の減少(吸光度の増加)は、主として散乱強度を反映する。タンパク質が凝集していれば散乱が起きるため、薄い0.01 mg/mLくらいでも計測は可能で、ゲルにならない程度の高濃度域でも散乱が微量であれば測定できる。
凝集が進行すると凝集体の粒径が増大し、散乱光強度も増加する。Rayleigh散乱が成立する範囲では散乱強度は粒径の6乗に比例するため、ごく少量の大粒子や初期凝集体でも測定値が大きくなる。
温度スキャンと組み合わせれば、熱変性や熱誘開始の温度を推定できる。熱ストレスのほか、pH変化や塩濃度変化などの溶液条件の変化も連続的に追跡できることは利点である。汎用的な分光光度計があれば実験系を構築できるため、初期のスクリーニングには使いやすい方法である。
ただし、濁り具合を透過光の減衰から推測するだけなので、粒径分布や分子量、分子間相互作用などが決定できるわけではない。気泡、ダスト、微量不純物の影響を受けやすいため、試料の清浄性や測定条件の統一が重要である。
◆サイズ排除クロマトグラフィー
サイズ排除クロマトグラフィー(Size Exclusion Chromatography; SEC)は、分子の大きさの違いを利用して分離する液体クロマトグラフィー法である。カラム内部には細孔をもつ担体が充填されており、分子がその孔にどの程度入り込めるかによって溶出時間が決まる。大きな分子は孔に入りにくいため早く溶出し、小さな分子はより長い経路を通るため遅れて溶出する。ここで分離されているのは厳密な分子量ではなく、溶液中での見かけの大きさ(流体力学半径)である。
SECで得られるのは溶出体積とピーク形状だが、単量体から二量体、多量体から微小な凝集体まで精度良く分離し、それぞれの割合を面積比から評価できることが利点となる。特に、抗体製剤などでは、単量体の純度が品質管理として重要であり、広く用いられる分析技術になっている。
実験室によくあるクロマト装置を使う方法だが、タンパク質同士や単体との弱い相互作用が影響するため、技術的には溶液の設計の知識が必要になる。カラムに注入すると試料が希釈されることにも注意が必要である。SECは実際に成分を分けることができるのに対し、DLSやSLS、濁度測定は、溶液中の平均的性質を測定する点が原理的に異なっている。実験には1サンプルの測定に1時間は必要となり、溶液設計も知識が必要となり、数をこなすのには向いていない。
◆ナノ粒子追跡解析法
ナノ粒子追跡解析法(Nanoparticle Tracking Analysis; NTA)は、レーザーで照射されたナノ粒子を顕微鏡で観察し、ブラウン運動を動画として記録することで粒子径を求める手法である。画面上に見える粒子を1つずつ追跡し、フレーム間の移動量から平均二乗変位を算出する。そこから並進拡散係数 D を求め、Stokes–Einstein式を用いて流体力学的半径へ換算する。
DLSが散乱光を統計的に処理するのに対し、NTAでは粒子を個別に解析する。この違いは結果の性質に直結する。DLSが強度平均を与えるのに対し、NTAは数ベースの粒径分布を出力する。すなわち、NTAは、何nmの粒子が何個存在するか、というような分布を評価できる。
測定可能な粒径範囲は30 nmから1 μm程度で、比較的大きなタンパク質凝集体の検出に向く手法である。解析は個々の粒子追跡に基づくため、DLSなどのように少数の大粒子が分布全体を過度に支配しにくい。蛍光も利用できるため、夾雑系で特定の標識粒子を選択的に検出することができ、これも利点である。
測定には適切な粒子濃度が必要で、濃度が高すぎると粒子像が重なり分析できない。そのため、例えば高濃度抗体製剤をそのまま評価するなどには向いていない。
位置づけとしては、NTAは粒子数とサイズ分布を可視化して数える手法である。サイズの平均値を与えるDLS、形態情報を与えるMFIなどと組み合わせることで、凝集体の大きさと数を両面から評価できる。単独で完結するというより、粒子数情報を補う補完的手法と考えるのが適切である。
◆分析超遠心法
分析超遠心法(Analytical Ultracentrifugation; AUC)は、強い遠心分離により溶液中の分子を沈降させ、その挙動を時間分解的に観測することで分子量や会合状態を評価する手法である。遠心によって生じる濃度分布の変化を光学的に追跡し、そこから分子の運動特性を読み取る。検出には主に紫外吸収が用いる。
代表的な測定モードは、沈降速度法(sedimentation velocity; SV)と沈降平衡法(sedimentation equilibrium; SE)の2つである。SVでは、沈降境界の移動速度から沈降係数 sを求める。この値は分子量だけでなく、分子形状や溶媒との摩擦係数にも依存する。SEでは、遠心力と拡散がつり合った平衡分布を解析することで、分子量を直接求めることができる。
AUCが与える情報は多岐にわたる。沈降係数分布 c(s)、分子量、会合定数、モノマー・オリゴマー比などが代表的である。光散乱法のように信号が粒径の6乗に依存するわけではないため、小さなタンパク質凝集体の定量に有用である。可逆的自己会合系では、濃度依存性を系統的に測定することで会合平衡定数の推定も可能となる。単なる大きさではなく、会合の平衡そのものを扱える点がAUCの強みである。
タンパク質溶液の解析において、AUCは会合体の量と分布を同時に評価できる数少ない非破壊的手法に位置づけられる。
一方で、測定には長時間を要し、装置操作およびデータ解析には専門的知識が必要である。したがって、迅速なスクリーニングよりも、会合機構の解明や精密な定量評価に適した手法と考えるのが妥当である。
参考文献
・サブビジブル粒子の課題に対する総説
Sharma, D. K.; King, D.; Oma, P.; Merchant, C. Micro-Flow Imaging: Flow Microscopy Applied to Sub-visible Particulate Analysis in Protein Formulations. J. Pharm. Sci. 2009, 98(9), 3058–3066.
・多様な計測法による抗体の凝集の分析例
Kasahara, J.; Furuki, T.; Aikawa, S.; Ueda, H.; Shiraki, K. Polyphosphate as a Novel Aggregation Suppressor of Gamma Globulin. J. Pharm. Sci. 2025, 114(7), 103818.
・超遠心分析の著名な総説
Modern analytical ultracentrifugation in protein science: A tutorial review. Lebowitz et al., Protein Sci. 2002, 11, 2067-2079.