蛋白質溶液学(五次構造)
拡張前の仮置き場
拡張前の仮置き場
五次構造
蛋白質は四次構造まででは捉えきれない高次の集合状態をとります。凝集体や、沈殿物、アミロイド、液-液相分離液滴、ゲル、生体内凝縮体などは、いずれも複数分子が形成する、固有の秩序を持った状態であり、近年その重要性が急速に高まっています。これらを五次構造として、従来の構造階層に続く新たな分類指標として整理します。
◆タンパク質結晶
タンパク質結晶(protein crystal)とは、タンパク質分子が三次元的に規則正しく配列し、周期性をもつ固体相を形成した集合状態を指す(1)。アモルファス凝集や沈殿物とは異なり、結晶中ではタンパク質分子が特定の配向と分子間接触を保ちながら格子状に並ぶ。このため、X線回折や中性子回折によって分子構造を解析でき、構造生物学の基盤となっている。一方で、タンパク質結晶は低分子結晶と比べて水を多く含み、分子間接触も比較的弱く、柔らかく壊れやすい固体である。結晶化は、タンパク質溶液を過飽和状態にすることで誘導される
タンパク質結晶化は、溶液中のタンパク質濃度がその条件での溶解度を超えた過飽和状態において、結晶相が安定または準安定に形成される過程として説明される(2)。タンパク質分子は、結晶格子中で特定の接触面を介して配置されるため、結晶化には単に分子間引力が強いだけでなく、適度な強さと方向性をもつ相互作用が必要である。相互作用が弱すぎると核生成が起こらず、強すぎると不規則な凝集や沈殿に進みやすい。速度論的には、結晶化は過飽和の発生から核生成、結晶成長、熟成という段階を経る。
タンパク質結晶は構造生物学や製剤、精製において重要である。構造生物学では、タンパク質結晶はX線結晶構造解析の基盤であり、原子レベルの立体構造決定に用いられてきた。製剤分野では、インスリンなどのように結晶化を利用して安定性、濃縮性、徐放性を高める例がある。一方で、望まない結晶化は、保存中の析出、濁り、粒子形成、活性低下の原因にもなる。タンパク質結晶化は、主にタンパク質濃度とpH、イオン強度、沈殿剤で制御される(3)。特に、塩やPEGは水和状態や排除体積効果を変化させ、タンパク質間相互作用と溶解度を調整する。
参考文献
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◆タンパク質ガラス
タンパク質ガラス(protein glass)とは、乾燥や凍結乾燥、脱水などによって、タンパク質を含む溶液が分子運動の著しく制限された非晶質固体状態になったものを指す。結晶とは異なり、タンパク質分子は不規則な配置のまま固化している。また、アモルファス凝集とは異なり、糖類や高分子などのマトリクス中にタンパク質が分散し、全体として低運動性の固体様状態になったものとして理解される。タンパク質ガラスは、主に凍結乾燥製剤や乾燥食品のほか、種子や乾燥耐性生物の保護状態などで重要な役割を担う(1,2)。したがってタンパク質ガラスは、タンパク質が結晶化するのではなく、非晶質マトリクス中で運動性を失った保存安定化状態である。
タンパク質ガラスは、温度がガラス転移温度以下になる、または脱水によって系の粘度が極端に上昇することで、分子拡散や構造緩和が著しく遅くなった非平衡状態として説明される(3)。特にスクロースやトレハロースは、乾燥時に非晶質ガラスを形成しやすく、タンパク質の周囲に硬いマトリクスを作ることで分子運動を抑制する。この安定化機構は、主に二つの考え方で説明される。第一は、ガラス化によりタンパク質と周囲分子の運動性を低下させ、変性、凝集、化学劣化を遅らせる「vitrification」である。第二は、乾燥時に失われる水分子の代わりに糖がタンパク質表面と水素結合し、ネイティブ構造を保つ「water replacement」である(3)。また、極めて強い超遠心分離によってもガラス様のタンパク質濃縮物を作ることができる(4)。
バイオ医薬品では、凍結乾燥により水分を除き、スクロースやトレハロースなどの糖を用いてタンパク質をガラス状マトリクス中に固定することで、長期保存中の変性や凝集を抑制する(5)。食品では、乳粉、卵白粉末、酵素粉末、凍結乾燥食品などにおいて、ガラス転移温度と保存温度の関係が、粉末の固結、吸湿、粘着、反応性、食感変化に影響する(6,7)。タンパク質ガラスの安定性は、残存水分量、水分活性、糖の種類、糖の結晶化、タンパク質濃度、pH、塩、緩衝液成分、乾燥条件、保存温度によって制御される。特に水は可塑剤として働き、少量の吸湿でもガラス転移温度を低下させ、分子運動性と劣化速度を増加させる。
参考文献
1. Chang, L.; Shepherd, D.; Sun, J.; Ouellette, D.; Grant, K. L.; Tang, X.; Pikal, M. J. Mechanism of Protein Stabilization by Sugars during Freeze-Drying and Storage: Native Structure Preservation, Specific Interaction, and/or Immobilization in a Glassy Matrix? J. Pharm. Sci. 2005, 94, 1427–1444.
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◆相分離液滴・コアセルベート・コンデンセート
タンパク質が集合した五次構造と呼べる状態に付けられた名称として、相分離液滴は現象に基づく広い呼び方であり、コンデンセートは生体分子が濃縮した相を指す生物学的な呼び方、コアセルベートは高分子やコロイドの相分離で生じる濃縮液相を指す物理化学的な呼び方である。これに対して、アモルファス凝集は構造秩序をもたない不規則な粒子状または沈殿状の集合体であり、ゲルは分子や凝集体が三次元ネットワークを作り、水を保持した粘弾性の集合状態である。
◆相分離液滴
タンパク質の液-液相分離液滴(liquid–liquid phase-separated droplet)とは、均一に見えるタンパク質溶液が、タンパク質に富む濃厚液相とタンパク質に乏しい希薄液相に分かれ、その濃厚相が液滴として観察される集合状態を指す。これは、単なる可溶性凝集体や沈殿物とは異なり、濃厚相と希薄相の双方が液体としてふるまう点に特徴がある。液滴は球形をとりやすく内部成分の交換を示すことが多い。細胞内では、P顆粒、核小体、ストレス顆粒などの膜なしオルガネラを説明する概念として広く用いられている(1,2)。
液-液相分離は、均一相として存在するよりも、濃厚相と希薄相に分かれた方が混合自由エネルギーの上で安定になる現象として説明される(3)。タンパク質濃度、温度、塩濃度、pH、添加剤、核酸や多糖などの共存高分子が変化すると、タンパク質間相互作用とタンパク質–溶媒相互作用のバランスが変わり、相分離のしやすさが変化する。分子レベルでは、静電相互作用、疎水性相互作用、π–π相互作用、カチオン–π相互作用、水素結合、多価相互作用、対イオン放出など多様な駆動力がある。速度論的には、過飽和状態から濃度揺らぎが増幅され、核生成と成長、あるいはスピノーダル分解によって液滴が形成される。液滴は初期には液体的で可逆的であるが、時間経過とともにゲル化やアミロイド化、沈殿化へ進む場合がある(4)。
なお、液-液相分離はタンパク質製剤の安定性でも重要な状態である。細胞内では、バイオ医薬品では、高濃度抗体溶液のオパレッセンスや、低温保存時の白濁と関係する場合がある(5)。液-液相分離は多様な環境因子、例えば、pHや、イオン強度、塩種、糖、アミノ酸、アルギニン、界面活性剤、高分子、温度、タンパク質濃度によって制御できる。たとえば、電荷反発を高めるpH条件では相分離が抑制されやすく、短距離引力や多価相互作用が強まる条件では濃厚相が形成されやすい。糖やポリオールは水和や溶媒活量を変化させ、塩は静電遮蔽や特異的イオン効果を通じて相境界を移動させる。これらの知見は、液-液相分離液滴を単なる白濁や凝集前駆体としてではなく、タンパク質溶液の相挙動、濃縮、粘弾性、安定性を設計するための重要な現象として位置づけるものである。
参考文献
1. Brangwynne, C. P.; Eckmann, C. R.; Courson, D. S.; Rybarska, A.; Hoege, C.; Gharakhani, J.; Jülicher, F.; Hyman, A. A. Germline P Granules Are Liquid Droplets That Localize by Controlled Dissolution/Condensation. Science 2009, 324, 1729–1732.
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◆コアセルベート
タンパク質のコアセルベート(coacervate)とは、タンパク質が多糖、核酸、高分子電解質などと相互作用し、水中で高分子に富む濃厚液相を形成した状態を指す。典型的には、正電荷をもつ高分子と負電荷をもつ高分子が混合され、均一溶液から高分子濃度の高い液相と希薄相に分かれる。このうち濃厚な液体相がコアセルベートである。コアセルベートは特に複数の高分子電解質間の静電相互作用に基づくことが多い。沈殿物とは異なり、コアセルベートは水を多く含む液体状の相であり、流動性や融合性を示す場合が多い(1,2)。
コアセルベート形成は、高分子間の会合に伴うエンタルピー利得と、対イオンや水分子の放出に伴うエントロピー利得によって主に説明される(3)。反対電荷をもつ高分子同士が近づくと、電荷間の静電引力により複合体が形成される。同時に、それぞれの高分子に結合していた対イオンが溶液中に放出されるため、系全体の並進エントロピーが増加する。この対イオン放出は、複合コアセルベーションの重要な駆動力とされる。
コアセルベートは産業にも活用されている。食品では、タンパク質と多糖の複合コアセルベーションが、乳化安定化、食感制御、成分保持に関係する。製剤や材料分野では、核酸や酵素を濃縮・保護する液体状マトリクスとして利用される場合がある。一方で、望まないコアセルベーションは、タンパク質溶液の白濁、相分離、沈降、粘度上昇の原因にもなる。コアセルベートは、pHや温度、イオン強度、共存する添加剤などで制御できる。これらの知見は、コアセルベートを単なる高分子の白濁現象としてではなく、タンパク質と共存高分子が作る濃厚液相を設計するための重要な現象として位置づけるものである。
◆コンデンセート
タンパク質のコンデンセート(condensate)とは、タンパク質、RNA、DNA、代謝物などの生体分子が、膜に囲まれることなく局所的に濃縮されて形成する高次集合体を指す。相分離液滴とほぼ同じ意味で用いられるが、コンデンセートの方がより生物学的な意味合いが強く、しばしば生物学的コンデンセート(biomolecular condensate)という用語で使われる(4,5)。コンデンセートは、液-液相分離によって形成される場合が多いが、すべてが単純な液体とは限らない。。
コンデンセート形成は、多価相互作用をもつ生体分子の液-液相分離、またはネットワーク形成として説明される(4,5)。特に生物学的な文脈で、RNA結合タンパク質や天然変性領域をもつタンパク質による、荷電残基や芳香族残基、低複雑性領域が多点で弱く結合する。このような相互作用は一つ一つは弱いが、多価性によって全体として大きな会合能を生む。また、溶液環境だけでなく、コンデンセートを形成するタンパク質のリン酸化や、メチル化、アセチル化、ユビキチン化などの翻訳後修飾によっても、形成が制御されている(6)。コンデンセートは、細胞内を膜で区切らずに機能的に区画化する仕組みとして重要である。特定の酵素、基質、RNA、足場タンパク質を濃縮することで、反応速度、選択性、シグナル伝達、RNA代謝、リボソーム形成、ストレス応答を制御する。一方で、コンデンセートの異常な成熟や固体化は、神経変性疾患や異常凝集と関係することがある。
参考文献
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5. Alberti, S.; Gladfelter, A.; Mittag, T. Considerations and Challenges in Studying Liquid–Liquid Phase Separation and Biomolecular Condensates. Cell 2019, 176, 419–434.
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◆オパレッセント状態
タンパク質溶液のオパレッセント状態(opalescent state)とは、溶液中のタンパク質分子、可逆的なクラスター、微小液滴、あるいは微細な凝集体が光を散乱し、青白い乳光または白濁として観察される状態を指す。オパレッセンスは、それ自体が特定の分子集合体の名前ではなく、光散乱によって現れる観察上の状態である。したがって、オパレッセント状態の背後には、液-液相分離、可逆的自己会合、可溶性凝集体、濃度揺らぎなど複数の原因がありうる(1,2)。
オパレッセンスはタンパク質間相互作用が引力的に傾き、溶液中の濃度揺らぎが増大した状態として説明される。タンパク質分子間に弱い引力が働くと、分子は完全に沈殿する前に、可逆的な自己会合、クラスター、または微小な濃厚領域を形成する。これらの構造の大きさが可視光の波長に近づく、または屈折率差をもつ濃度揺らぎが大きくなると、光散乱が増加して乳光として見える。液-液相分離に近い条件では、臨界点近傍の濃度揺らぎや微小液滴が強い散乱を生じ、いわゆる臨界オパレッセンスに近い挙動を示す場合がある(3)。タンパク質濃度の濃厚な相分離液滴ができるのではなく、薄い液滴が形成されるようなオパレッセンス状態もある(4)。一方、相分離を伴わず、タンパク質間の可逆的自己会合だけでオパレッセンスが生じる場合もある(5)。pHが等電点に近づく、イオン強度が変化する、低温でタンパク質間引力が強まる、高濃度化によって分子間距離が短くなる、といった条件では散乱が増大しやすい。このように、オパレッセント状態は、タンパク質間引力、濃度揺らぎ、可逆的集合、微小相分離が光学的に現れた状態である。
オパレッセント状態は高濃度抗体製剤やタンパク質医薬品で重要な品質属性となる。オパレッセンスは外観上の濁りとして認識されるため、製剤の見た目、患者受容性、異物評価、保存安定性の判断に影響する。オパレッセンスは、主にpHや塩濃度、温度、タンパク質濃度で制御できる。たとえば、pHを等電点から離して電荷反発を高める、適度な塩添加で電荷パッチ間相互作用を弱める、アルギニンなどで弱い自己会合を抑える、といった設計が考えられる(6)。
参考文献
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◆液体・固体・粘弾性
液体と固体の違いを理解するには、粘性と弾性という二つの基本概念が重要である。実際の系では、応力に対するひずみの応答や、緩和時間、観察する時間スケール、レオロジーで測定される貯蔵弾性率 G′ と損失弾性率 G′′ を用いることで、これらの違いをより定量的に議論できる。
まず、液体とは、外から力を加えると形を変え、その力を除いても元の形を保てず、長時間では流れてしまう状態を指す。このようなふるまいを理解するために粘性という性質が必要になる。粘性は、流れに対する抵抗の大きさを表す量であり、たとえば水は粘性が低く、シロップは高い。どちらも液体だが、同じ力をかけたときの流れやすさが異なる。したがって、液体的という意味は、せん断応力を受けたときに持続的に変形し続けるという性質に対応しているものであり、一般的な意味での柔らかい・硬いというような見方では説明できないものである。
これに対して固体とは、力を加えても変形が限られ、力を除くと元の形に戻る状態を指す。このふるまいを理解するためには、弾性という性質が必要になる。弾性とは、変形によって蓄えられたエネルギーが、力を除いたときに回復力として現れる性質である。金属や結晶のような典型的な固体だけでなく、強い三次元ネットワークをもつゲルや、高密度に架橋した高分子材料も、固体的にふるまう。つまり、固体とは「硬い」ことだけで説明できず、変形に対して回復しようとする成分が支配的であることを意味する。
固体でも液体でもない状態も存在する。ゼリーや濃厚高分子溶液、コロイド分散系、ゲル、タンパク質のコンデンセートや凝集体などは、固体でもなく液体でもない。この状態を理解するためには、粘弾性の理解が必要である。粘弾性とは、粘性と弾性の両方をあわせもつ性質であり、短時間では固体のようにふるまい、長時間では液体のように流れる、といった中間的応答を示す。
◆貯蔵弾性率と損失弾性率
粘性や弾性を科学的に扱う分野としてレオロジーがある。レオロジー測定の結果として得られる代表的な量が、貯蔵弾性率 G′ と損失弾性率 G′′ である。G′ は弾性的成分であり、変形中にエネルギーを蓄える成分を表す。G′′ は粘性的成分であり、エネルギーを熱として散逸する成分を表す。一般に、G′′>G′ であればより液体的、G′>G′′ であればより固体的と解釈される。両者が同程度であれば、その系は典型的な粘弾性体であると考えられる。
タンパク質の凝集や液-液相分離を考えるときにも、この区別は重要である。顕微鏡で丸い形状が観察できるからといって、それが液-液相分離によって形成されたドロプレット(液滴)であるとは限らない。タンパク質のドロプレットの内部では、分子の再配列や、鎖の絡み合い、一時的な架橋などが組み合わさって粘弾性の性質があり、液体的・固体的という二分法では不十分であることが、現在では広く認識されている(1)。
液体でもなく固体でもない状態を理解するための現代の視点として、Tanakaらは、粘弾性相分離の枠組みから生体内の相分離を体系立てている(2)。相分離する二相のあいだに大きな分子運動性の差があると、遅い相が応力を支えてネットワーク状になりうる。特にRNA などの高分子成分の偏在がこの非対称性を強め、液滴状か網目状かという形態を決定する(2)。また、タンパク質やRNAなどの集合体をmechanobiology(力学生物学)の体系とみなう興味深い動きもある(3)。すなわち、生体分子の集合物は熱力学的に安定な状態として、いわば受動的に形成されるようなものではなく、相互作用によって物性と機能を能動的に結びつける役割があるというのが、生物学的相分離の物理学的な根拠になっている。
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◆ゲル
ゲルとは、溶媒を多く含みながら、内部に三次元的な分子ネットワークをもつ状態である(1)。見た目には水分を多く含んだ柔らかい物質であるが、単なる高粘度液体ではない。ネットワーク構造が変形に抵抗し、力を除いたときにある程度元に戻ろうとするため、固体的な性質を示す。レオロジーでは、典型的なゲルでは貯蔵弾性率 G′ が損失弾性率 G′′ より大きくなり、弾性的応答が支配的になる。ただし、ゲルの内部では水や低分子は動くことができ、分子ネットワークも完全に固定されているわけではないため、時間スケールによって液体的な緩和も示す。この意味で、ゲルは「水を含んだ固体」というより、「溶媒を保持した粘弾性ネットワーク」と理解する方が適切である。
タンパク質や多糖類のゲルでは、ネットワークをつくる相互作用の種類が重要である(2)。共有結合によって架橋された化学ゲルでは、ネットワークは比較的安定で、弾性が強く現れる。一方、水素結合、疎水性相互作用、静電相互作用、金属イオン架橋、熱変性後の会合などによってできる物理ゲルでは、結合は可逆的であり、温度、pH、塩濃度、添加剤、せん断履歴によって構造が変化しやすい。食品のゼリー、卵白ゲル、乳タンパク質ゲル、寒天ゲル、アルギン酸ゲルなどは、このような物理ゲルまたはそれに近い状態として理解できる。したがって、ゲル化とは、単に「固まる」ことではなく、分子間相互作用が連結して、溶液全体にわたるネットワークが形成される過程である。
◆細胞内にあるコンデンセート
細胞内には、膜で囲まれていないにもかかわらず、特定のタンパク質やRNAを濃縮する領域が存在する(3)。これらは生体分子コンデンセートと呼ばれ、核小体、ストレス顆粒、P granule、転写関連凝縮体などが代表例である(4)。コンデンセートは、細胞内の分子を局所的に集め、反応、貯蔵、隔離、シグナル制御などを行う場として機能する。形成の基本には、多価性をもつタンパク質、天然変性領域、RNA、弱い静電相互作用、π–π相互作用、カチオン–π相互作用などが関与する液-液相分離がある。すなわち、細胞内のコンデンセートは、水と油のように完全に別の相に分かれる現象ではなく、水を多く含む生体高分子濃厚相として形成される。
ただし、細胞内コンデンセートを単純な液滴として理解するだけでは不十分である。形成直後のコンデンセートは液体的で、融合、丸まり、成分交換を示すことが多い。しかし時間の経過、分子濃度の上昇、RNAやタンパク質の組成変化、翻訳後修飾、変異などによって、粘性が上昇し、弾性成分が強くなり、ゲル状あるいは固体状へ移行することがある。この液体から固体への変化は、細胞機能の調節に関わる一方で、FUSなどの疾患関連タンパク質では不可逆的な凝集や病的沈着につながる可能性がある(5)。したがって、コンデンセートは「液体か固体か」という二分法ではなく、液体、粘弾性体、ゲル、凝集体の間を連続的に変化する動的な物質状態として捉える必要がある。
参考文献
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◆二状態モデル
二状態モデル(Two-State Model)とは、タンパク質のフォールディングや変性を、ネイティブ状態と変性状態の2つの状態のみで記述する単純化モデルである。このモデルでは、全体の分子集団が完全に折りたたまれた構造と完全に展開した構造との間で可逆的平衡を保ち、中間状態を明示的に考慮しないという仮定を置く。
二状態モデルの概念は、1930年代の Hsien Wu(1931) による「変性は可逆的な平衡過程である」という提案に始まる(1)。その後、Anson & Mirsky(1934) がリゾチームなどの再構成可能なタンパク質を用いて、構造変化が可逆であることを実験的に示し「N–Dの二状態平衡」という考え方を具体化した(2)。1950〜60年代には、Lumry & Eyring(1954) がタンパク質変性を速度論的にも可逆平衡反応として扱う理論を構築し(3)、さらに Tanford(1968) が化学変性剤による平衡解析にこのモデルを適用した(4)。1970年代以降、Privalov(1979) による DSC(示差走査熱量測定)解析が登場し、熱変性過程がほぼ完全な二状態転移として振る舞うタンパク質が多数確認されたことで、二状態モデルは熱力学的標準モデルとして確立した(5)。
二状態転移では、部分的な構造変化が存在せず、全分子が一斉に転移する。実際には、局所的な中間構造は存在しうるが、観測的に分離できない場合、実効的に二状態とみなされる。このような構造変化を協同性(cooporativity)という。多くの小型単量体タンパク質は二状態的に変性するが、大型多ドメインタンパク質や会合型タンパク質では、部分的変性状態(molten globule)や中間状態が存在し、多状態モデルが必要となる。
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◆モルテン・グロビュールモデル
モルテン・グロビュール(molten globule)状態は、タンパク質のフォールディング過程における代表的な中間状態として知られている。この概念は、1978年に大串と和田によって、ウマ血清アルブミンを用いた研究において初めて実験的に明確に提示された(1)。彼らは、酸性条件下でネイティブ構造が失われた状態でも、αヘリックス構造がかなり保持され、疎水性コアを部分的に形成しているが、側鎖の密なパッキングが欠如している状態を観測し、この状態をモルテン・グロビュールと名付けた。
モルテン・グロビュール(MG)は、完全に変性したU(unfolded)状態と、三次構造が確立したN(native)状態の中間に位置し、“U → MG → N” の三状態モデルで表される(2)。モルテン・グロビュール状態では、二次構造の形成が進んでいる一方、側鎖の秩序性は低く、分子内に動的柔軟性が残っている。溶媒アクセス可能表面積(ASA)はネイティブ状態より大きく、部分的に露出した疎水面が溶媒分子と相互作用することも特徴である(3)。
この状態はフォールディング中間体としてのみならず、タンパク質の構造安定化・ミスフォールディング・凝集・アミロイド形成の理解にも重要な役割を果たしている。特にシャペロンとの相互作用研究では、モルテン・グロビュール状態がシャペロンの認識対象となることが知られており、構造生物学的にも生物物理学的にも注目されている。今日では、このモデルはフォールディング研究における基盤概念の一つとして確立している。
参考文献
1. Ohgushi, M.; Wada, A. ‘Molten Globule State’: A Compact Form of Globular Proteins with Mobile Side-Chains. FEBS Lett. 1978, 90, 115–119.
2. Ptitsyn, O. B. Molten Globule and Protein Folding. Adv. Protein Chem. 1995, 47, 83–229.
3. Kuwajima, K. The Molten Globule, and Two-State vs. Non-Two-State Folding. Protein Sci. 2020, 29, 512–525.
◆ファネルモデル
タンパク質フォールディングは、まず単純な二状態転移モデルで記述され、研究が深まった。しかし、多くの天然タンパク質では、二状態転移では説明できない中間体的状態が観測されることもあった。こうした個々の現象を包括的に説明する理論的枠組みとして提案されたのが、ファネルモデル(funnel model)、すなわちエネルギーランドスケープモデル(energy landscape model)である。
Onuchic と Wolynes ら(1997)は、フォールディングを多次元エネルギー地形上の確率的過程として表現した(1)。アンフォールド状態では無数の構造が存在でき、その中を揺らぎながら安定な構造を探索するが、全体として低エネルギー方向へ傾斜した漏斗(funnel)のような地形に導かれ、最終的に一つの安定なネイティブ構造に収束する。これにより、Cyrus Levinthal が指摘した「構造空間が天文学的に広大であるにもかかわらず、タンパク質が短時間で折りたたまれるのはなぜか」というLevinthalのパラドックスを自然に解決できる(2)。
ファネルモデルでは、モルテン・グロビュールや局所的なサブドメイン形成は、エネルギー地形上の谷に位置づけられる(3)。フォールディング経路は一意ではなく、複数の経路が同時に進行しうるが、すべての経路は最終的にファネルの底、すなわち天然構造へと向かう。フォールディング速度の分布や中間体の存在は、地形の傾斜や障壁の形に対応し、ミスフォールディングやアミロイド化などの異常経路は、地形上の局所的極小(kinetic trap)として理解される。
今日では、ファネルモデルは「フォールディングとはエネルギー地形の形状を分子が動的に探索していく過程である」という考え方として定着している(4)。二状態転移の協同性、モルテン・グロビュールの存在、そして階層的形成過程はいずれも、このエネルギーランドスケープの局所的特徴として統一的に理解されるようになった(5)。
フォールディングは、一本のポリペプチド鎖が膨大な数の立体構造をとりうる中で、自由エネルギーが最小となる構造へ自発的に収束する過程である。これは集合知の理論にたとえられる。つまり、個々のアミノ酸残基の相互作用は局所的で偶然的なゆらぎを含むが、それら多数の微小な力の「平均的な結果」として、全体として最も安定な構造が選び出されるのである。
参考文献
1. Onuchic, J. N.; Luthey-Schulten, Z.; Wolynes, P. G. Theory of Protein Folding: The Energy Landscape Perspective. Annu. Rev. Phys. Chem. 1997, 48, 545–600. https://doi.org/10.1146/annurev.physchem.48.1.545
2. Levinthal, C. How to Fold Graciously. In Mössbauer Spectroscopy in Biological Systems: Proceedings of a Meeting Held at Allerton House, Monticello, Illinois; Debrunner, P., Tsibris, J., Münck, E., Eds.; University of Illinois Press: Urbana, IL, 1969; pp 22–24.
3. Bryngelson, J. D.; Wolynes, P. G. Spin Glasses and the Statistical Mechanics of Protein Folding. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 1987, 84 (21), 7524–7528.
4. Dill, K. A.; Chan, H. S. From Levinthal to Pathways to Funnels. Nat. Struct. Biol. 1997, 4, 10–19.
5. Dill, K. A.; MacCallum, J. L. The Protein-Folding Problem, 50 Years On. Science 2012, 338, 1042–1046.
◆液–液相分離
液–液相分離(Liquid–Liquid Phase Separation, LLPS)とは、タンパク質や核酸などの生体高分子が、均一な溶液状態から濃縮相(dense phase)と希薄相(dilute phase)の二つの液体相に分離する現象を指す。熱力学的には、濃度と温度を軸とした相図上で二相共存領域(binodal)とその内部の不安定領域(spinodal)として表される。この現象は、疎水性相互作用、静電相互作用、π–πおよびカチオン–π相互作用などの弱い多価相互作用(multivalent interaction)によって駆動される。
細胞内では、このような相分離が膜をもたないオルガネラ(membraneless organelles)の形成原理として機能し、転写や翻訳、シグナル伝達、ストレス応答などの局所反応場を制御している。LLPS の概念を細胞レベルで初めて実証したのは Brangwynne らによる報告である (1)。彼らは線虫 C. elegans の胚で観察される P granule が、温度依存的に溶解と凝縮を繰り返す液滴として振る舞うことを示し、細胞質内構造の可逆的形成が液–液相転移によって説明できることを明らかにした。この研究は、生体内の空間組織化を熱力学的原理に基づいて理解するという新しいパラダイムを提示した。さまざまな細胞現象が LLPS の枠組みで再解釈されるようになっている (2)。
病態生物学の観点からも、LLPS が疾患発症メカニズムに関与することを示す証拠が蓄積している。変異型 FUS タンパク質は、液滴形成後に液–固転移を経て凝集体やフィブリル化を引き起こし、ALS(筋萎縮性側索硬化症)に関連する細胞内沈着および神経毒性を誘発することが報告されている (3)。さらに、低分子薬が核内コンデンセートへの取り込み方により分配され、薬効や標的アクセスが変化することが示されており (4)、創薬においても相分離という新しい視点が求められている。LLPS の理解は、タンパク質の機能発現を「いつ・どこで・どのように」制御するかを定量的に説明する新たな枠組みを提供している。
参考文献
1. Brangwynne, C. P.; Eckmann, C. R.; Courson, D. S.; Rybarska, A.; Hoege, C.; Gharakhani, J.; Jülicher, F.; Hyman, A. A. Germline P Granules Are Liquid Droplets That Localize by Controlled Dissolution/Condensation. Science 2009, 324, 1729–1732.
2. Shin, Y.; Brangwynne, C. P. “Liquid phase condensation in cell physiology and disease.” Science 2017, 357, eaaf4382.
3. Patel, A.; Lee, H. O.; Jawerth, L.; Maharana, S.; Jahnel, M.; Hein, M. Y.; Stoynov, S.; Mahamid, J.; Saha, S.; Franzmann, T. M.; et al. A Liquid-to-Solid Phase Transition of the ALS Protein FUS Accelerated by Disease Mutation. Cell 2015, 162, 1066–1077.
4. Klein IA, Boija A, Afeyan LK, et al. Partitioning of cancer therapeutics in nuclear condensates. Science. 2020;368(6497):1386-1392.
◆タンパク質の相図
タンパク質の相図(phase diagram)とは、温度、濃度、pH、塩濃度、圧力、クラウディング(macromolecular crowding)などの条件変化に応じて、タンパク質がどのような物理的状態をとるかを体系的に示したものである。熱力学的には、自由エネルギー最小化の観点から相平衡が定義され、二相共存領域(binodal)、臨界点(critical point)、スピノダル領域(spinodal)などによって相転移の境界が表される。この枠組みを用いることで、タンパク質の液–液相分離(LLPS)、凝集、線維化など、複雑な集合現象を統一的に理解できる(1)。
近年、タンパク質の相図は、生体分子の相転移挙動を可視化し、細胞内外の構造変化を定量的に評価するための有効な手法として注目されている。In vitro と in cell の条件を比較した研究では、細胞内環境の違いが自由エネルギー地形および転移点を変化させることが示されている(2)。また、アミノ酸配列中の芳香族残基や荷電残基の分布パターンが、液–液相分離の臨界温度や転移境界を決定づける要因となることが、粗視化シミュレーションによって明らかにされた(3)。さらに、温度・圧力・クラウディングを変数とする三次元相図の解析により、クラウディングの増加が臨界点を低温側へシフトさせることが確認されている(4)。これらの知見は、タンパク質が多様な環境因子のもとでどのように構造や集合状態を変化させるかを、相図という統一的な枠組みで説明できることを示している。
最近では、タンパク質相図の解析が単一成分系から多成分系へと拡張され、異種分子間の相互作用や界面構造の寄与が重要視されている。異なるタンパク質から構成される凝縮体では、液滴内部の内的相互作用と、界面での分子吸着や再配向に起因する界面効果が、相挙動を協奏的に制御することが示されている(5)。また、ポリ(L-リシン)/ATP 系における液–液相分離の実験的解析では、組成や濃度に応じて相境界が系統的に変化することが明らかとなり、得られた相図に基づく設計指針(diagram-based strategy)が提案されている(6)。これらの成果は、タンパク質相図を単なる平衡図としてではなく、分子設計・材料開発・生体系制御のための設計図として活用できることを示している。
参考文献
1. Zeigler, T. M.; Mackerell, A. D.; Goh, G. B. Protein Phase Separation: Physical Models and Phase Diagrams. Front. Mol. Biosci. 2021, 8, 693565.
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3. Dignon, G. L.; Best, R. B.; Mittal, J. Sequence Determinants of Protein Phase Behavior from a Coarse-Grained Model. PLoS Comput. Biol. 2018, 14 (1), e1005941.
4. Gasic, A.; Boob, M. M.; Prigozhin, M. B.; Homouz, D.; Daugherty, C. M.; Gruebele, M.; Cheung, M. S. Critical Phenomena in the Temperature-Pressure-Crowding Phase Diagram of a Protein. Phys. Rev. X 2019, 9, 041035.
5. Nobeyama, T.; Yoshida, T.; Shiraki, K. Interfacial and Intrinsic Molecular Effects on the Phase Separation/Transition of Heteroprotein Condensates. Int. J. Biol. Macromol. 2024, 254, 128095.
6. Nobeyama, T.; Furuki, T.; Shiraki, K. Phase-Diagram Observation of Liquid–Liquid Phase Separation in the Poly(L-lysine)/ATP System and a Proposal for Diagram-Based Application Strategy. Langmuir 2023, 39 (48), 17043–17049.
◆アモルファス凝集
タンパク質のアモルファス凝集(amorphous protein aggregation)とは、部分的に変性したタンパク質分子が、構造秩序を持たないランダムな集合体として沈殿する現象を指す。この過程は、熱やpH変化、機械的撹拌、高濃度条件下で誘発され、医薬品タンパク質や酵素製剤の安定性に深刻な影響を及ぼす。アモルファス凝集は、一般に可逆的な液滴形成やβシート型の秩序構造を伴うアミロイド線維化とは異なり、ランダムな相互作用の積み重ねにより非晶質な凝集体を形成する。光散乱や遠心沈降、電子顕微鏡観察などでは、これらの凝集体が球状または不定形の粒子として検出され、明瞭な内部秩序を欠くことが特徴である(1)。
熱力学的には、アモルファス凝集は部分変性状態からの非特異的分子会合として説明される(2)。タンパク質が熱や化学変性剤により部分的に開いた構造をとると、通常は水に埋もれていた疎水性残基が露出し、分子間の疎水性相互作用が急激に強化される。これにより、分子はランダムな多量体化を経て沈殿を形成する。速度論的には、アモルファス凝集は可溶性オリゴマーを経ず、拡散律速的な一次反応に近い挙動を示す(3)。また、静電的反発が十分に弱い条件(等電点付近や高塩濃度環境)では凝集が促進され、逆に高電荷状態では分子間反発によって凝集が抑制される(4)。このように、アモルファス凝集は、疎水性相互作用と静電相互作用のバランスに強く依存するプロセスであり、タンパク質固有の電荷分布や立体構造安定性によっても大きく変化する。
工業的な観点からは、アモルファス凝集はしばしば熱凝集として観察される。加熱時、タンパク質は熱変性温度の近傍で構造のゆらぎを増し、部分変性したタンパク質が蓄積する。この中間体は分子間で非特異的に結合し、可溶性オリゴマーを経ずに沈殿化するため、凝集体は拡散性の低い不均一な粒径分布をもつ。アモルファス凝集は添加剤によってある程度は抑制できることが知られており、立体構造を安定化する糖類や、ハイドロトロープの性質のあるアルギニンやポリアミン、低濃度の変性剤や界面活性剤、カオトロープなどが利用される(4)。これらの知見は、アモルファス凝集を単なる変性副反応としてではなく、タンパク質溶液の設計指針を導く上での重要な現象として位置づけるものである。
参考文献
1. Wang, W. Protein Aggregation and Its Inhibition in Biopharmaceutics. Int. J. Pharm. 2005, 289, 1–30.
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◆アミロイド
アミロイド凝集(amyloid aggregation)とは、部分的に変性したタンパク質分子が自己組織化し、βシートを主構成要素とする高度に秩序化された線維状の集合体(アミロイド線維, amyloid fibril)を形成する現象を指す(1)。電子顕微鏡観察では直径約10 nmの線維構造を示し、X線回折や固体NMR測定によって、ペプチド主鎖のβストランドが分子間で整列したcross-β 構造をとることが明らかにされている(2)。この構造は、アミロイドβ、α-シヌクレイン、ハンチンチン、プリオンタンパク質など疾患に関連するとされるタンパク質に限らず、配列や機能の異なる多くのタンパク質に共通して観察される(3)。特に酸性条件で57˚Cで保温すると、プロテアーゼやヒストン、アルブミン、酵素など多くのタンパク質がアミロイドを形成することが報告されている(4)。
アミロイドとアモルファス凝集体は、形態が異なるほか、安定化の原理も異なる。アミロイドでは、ポリペプチド主鎖どうしが規則的に水素結合し、cross-β構造を形成することで、線維軸方向に連続したβシート構造が安定化される。そのため、アミロイド線維は高い秩序性と機械的安定性をもつ。一方、アモルファス凝集は、変性したタンパク質が不規則に会合した凝集体であり、アミロイドのような明確な線維構造や周期的βシート構造をもたない。形成条件としては、ゆっくりと部分変性し、分子が再配列する時間がある場合にはアミロイド線維へ進みやすいのに対し、急速な加熱、極端なpH変化、高塩濃度、界面変性などによって疎水面が一斉に露出すると、構造化する前にランダムな会合が進み、アモルファス凝集になりやすい(5)。おおざっぱには、前者は「秩序化した凝集」、後者は「不規則な凝集」である。
アミロイド凝集は、核形成(nucleation)と成長(elongation)からなる典型的な速度論的プロセスとして記述され、核形成にはしばしば変性中間体やオリゴマーが関与する(6)。熱力学的には、アミロイド構造は天然状態よりも自由エネルギー的に安定であり、可溶性単量体からアミロイド線維への転移は不可逆的なエネルギー勾配に沿って進行する。アミロイドの形成初期には可溶性オリゴマーやプロトフィブリルが出現し、これらが分子の再配置を経て高秩序な線維構造へと成長する。
オリゴマー種の一部は細胞毒性を示すことが知られており、神経変性疾患の主要な病理因子と考えられている(1)。さらに近年では、アミロイド形成性タンパク質が液-液相分離により高濃度の液滴状の凝縮体を形成し、その内部でアミロイド形成が促進されるという見方も広がっている。たとえばFUSでは、低複雑性領域による液滴の形成が固体状凝集体へ移行しやすくなることが示されている(7)。またαシヌクレインでも、塩濃度や分子環境に依存して液-液相分離が起こり、その液滴状態がアミロイド線維形成や線維多形性に影響することが報告されている(8)。この見方では、毒性は完成したアミロイド線維だけにあるのではなく、液滴、オリゴマー、ゲル状中間体、線維化中間体を含む動的な凝集過程に分布すると考えられる。
参考文献
1. Chiti, F.; Dobson, C. M. Protein Misfolding, Amyloid Formation, and Human Disease: A Summary of Progress over the Last Decade. Annu. Rev. Biochem. 2017, 86, 27–68.
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7. Patel, A.; Lee, H. O.; Jawerth, L.; Maharana, S.; Jahnel, M.; Hein, M. Y.; Stoynov, S.; Mahamid, J.; Saha, S.; Franzmann, T. M.; Pozniakovski, A.; Poser, I.; Maghelli, N.; Royer, L. A.; Weigert, M.; Myers, E. W.; Grill, S.; Drechsel, D.; Hyman, A. A.; Alberti, S. A Liquid-to-Solid Phase Transition of the ALS Protein FUS Accelerated by Disease Mutation. Cell 2015, 162 (5), 1066–1077.
8. Hardenberg, M. C.; Sinnige, T.; Casford, S.; Dada, S.; Poudel, C.; Robinson, E. A.; Fuxreiter, M.; Kaminski, C. F.; Kaminski Schierle, G. S.; Nollen, E. A. A.; Dobson, C. M.; Vendruscolo, M. Observation of an α-Synuclein Liquid Droplet State and Its Maturation into Lewy Body-like Assemblies. J. Mol. Cell Biol. 2021, 13 (4), 282–294.
◆共凝集
タンパク質の共凝集(protein co-aggregation)とは、二種類以上のタンパク質分子が混在した状態で、同一の凝集体あるいは連結したネットワークを形成する現象を指す。モデル実験例として、オボアルブミン(OVA)とリゾチーム(LYZ)の二成分系があり、加熱や pH 変化により一方あるいは双方が部分的に変性し、相互作用しながら混合凝集体として沈殿する過程が詳細に解析されている(1)。形成される凝集体は、液滴状の複合コアセルベート(coacervate)として液–液相分離を示す場合と、固体様のアモルファス共凝集体(coaggregate)として液–固相分離を示す場合があり、同じ組み合わせのタンパク質であっても、タンパク質構造の変性状態やイオン強度、混合比などに応じて形態が切り替わる(2)。
一種類のタンパク質溶液と比較すると、二種類のタンパク質を混合した系では凝集のしやすさが大きく変化する場合がある。β-ラクトグロブリン(BLG)および LYZ の系では、BLG 単独および LYZ 単独では凝集が生じにくい 70 ℃ の加熱条件であっても、両者を混合すると凝集の速度定数が桁違いに増大し、短時間で大量の沈殿が生成することが報告されている(3)。このような混合タンパク質系では、中性付近の pH で BLG が負電荷、LYZ が正電荷を帯びるため、異種タンパク質間に働く静電的引力によりタンパク質が相互作用しやすくなり、凝集が進みやすくなると解釈できる。こうした結果は、食品や生体内のような多成分環境では、タンパク質の組み合わせが凝集の経路や感受性を決める要因となることを示している。
OVA と LYZ による共凝集を詳細にみると、変性環境に対して不安定な OVA が部分的に壊れることが初期トリガーとなり、この変性種が他方のタンパク質(LYZ など)と静電的引力を足掛かりとして接触し、近距離ではたらく疎水性相互作用やジスルフィド交換を介して複合体を形成、階層的なネットワークとして成長していく(1)。同様の現象はオボトランスフェリンと LYZ の混合系でも観察されている(4)。さらに、アミロイドにおいても、アミロイドβ、タウ、α-シヌクレイン、TDP-43 など異なる疾患関連タンパク質が同一の沈着部位で共存し、クロスシーディングや線維同士の会合を通じて凝集を促進する例が多数報告されている(5,6)。
参考文献
1. Iwashita, K.; Handa, A.; Shiraki, K. Co-Aggregation of Ovalbumin and Lysozyme. Food Hydrocoll. 2017, 67, 206–215.
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3. Oki, S.; Iwashita, K.; Kimura, M.; Kano, H.; Shiraki, K. Mechanism of Co-Aggregation in a Protein Mixture with Small Additives. Int. J. Biol. Macromol. 2018, 107 (Pt B), 1428–1437.
4. Iwashita, K.; Handa, A.; Shiraki, K. Co-Aggregation of Ovotransferrin and Lysozyme. Food Hydrocoll. 2019, 89, 416–424.
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◆サブビジブル粒子
サブビジブル粒子(subvisible particles)とは、肉眼では観察できないが溶液中で検出可能な微細なタンパク質凝集体を指し、一般に粒径は 約 0.1–10 µm の範囲に位置づけられる。これは可視凝集体(>100 µm)より小さく、サブミクロン粒子(<0.1 µm)より大きい中間領域である。このサイズ区分は、医薬タンパク質の安定性研究において2000年代初頭からRandolph–Carpenter 系のレビューで体系化された(1)。彼らは、サブビジブル粒子が製剤工程から保存の多段階で生じ、かつ免疫原性に関与し得ることを早期から指摘し、以後の品質評価の基準のひとつとなっている。
サブビジブル粒子は、凍結融解や、剪断、攪拌、容器や気液界面との接触、温度変動などのストレス下で部分的に変性分子が多量化し、構造秩序に乏しいアモルファス微粒子として形成される(2)。抗体製剤(とくに高濃度IgG)では、粘度上昇や分子間相互作用の強化により粒子化が進みやすく、安定性および免疫安全性の観点から重要な品質特性(CQA)とみなされる。検出には、マイクロフローイメージング(MFI)を中心に、動的光散乱やナノ粒子トラッキング解析など複数手法の併用が推奨される。MFI は概ね 1–100 µm の範囲で粒子数と形態を同時評価でき、サブビジブル領域の標準的評価法として確立している(3)。
サブビジブル粒子の形成の抑制のためには、ポリソルベート80の適正使用や、pH・イオン強度最適化、凍結・解凍プロセス制御、容器材質の選択などの総合的対策が有効と整理されている(4)。添加剤による制御については、アルギニンが多くのタンパク質のアモルファス凝集を抑制することが知られる一方、IgGの酸変性や熱変性に伴うサブビジブル粒子の形成は抑制できないことが報告されており(5)、新しいクラスの添加剤の開発が期待されている。近年、ポリリン酸がγグロブリンのサブビジブル粒子を有意に抑制することが示されている(6)。
参考文献
1. Chi, E. Y.; Krishnan, S.; Randolph, T. W.; Carpenter, J. F. Physical Stability of Proteins in Aqueous Solution: Mechanism and Driving Forces in Nonnative Protein Aggregation. Pharm. Res. 2003, 20 (9), 1325–1336.
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◆核形成–伸長モデル
タンパク質の凝集過程は、しばしば核形成–伸長モデル(nucleation–elongation model)によって説明される。このモデルは、可溶性モノマーがまず臨界サイズを持つ核を形成し、その後、形成された核の表面にモノマーが次々と結合して凝集体が成長するという二段階機構を想定している。核形成は熱力学的障壁を伴う確率的な過程であるため、凝集反応の初期にはラグ相が観察され、核が形成された後に反応速度が急増する結果、全体としてシグモイド状の凝集曲線が得られる。
このモデルの概念的起源は、1950年代後半にOosawaらが提案した、線状および螺旋状マクロ分子の重合理論に求められる(1)。彼らはアクチンやチューブリンのような線維性タンパク質の重合反応を解析し、核形成および伸長の速度論を理論的に記述した。この考え方はその後、アミロイド線維の形成や一般的なタンパク質凝集現象にも拡張され、核形成–伸長モデルとして定着した。特に、HarperとLansburyはアルツハイマー病の病因タンパク質であるアミロイドβの凝集をこのモデルで説明し、病理学的タンパク質凝集の速度論的理解を広めた(2)。
21世紀に入ると、KnowlesらはOosawa理論を発展させ、核形成–伸長モデルを解析的に解いた速度論的マスター方程式モデルを提示した(3)。このモデルでは、一次核形成と伸長に加えて、既存のフィブリル表面で新たな核が形成される二次核形成を導入し、アミロイドβ線維形成のシグモイド曲線を定量的に再現した。さらにCohenらは、フィブリルの断片化や枝分かれなどの過程を組み込んだ包括的速度論モデルを提案し(4)、多様なアミロイド系で観測される凝集挙動を統一的に説明できることを示した。これらのモデルは、単なる経験的曲線ではなく、個々の反応経路の速度定数を定量的に抽出できる点で重要である。
核形成–伸長モデルは、秩序立った線維性凝集(ordered aggregation)に特に適している。一方、アモルファス凝集(amorphous aggregation)では、部分変性したタンパク質の疎水面がランダムに相互作用して不定形な凝集体を形成するため、明確な核形成段階が観測されにくい。ただし、アモルファス凝集はタンパク質の種類や凝集ストレスによって多様であり、すべての系で核形成が完全に欠如するわけではない点に留意が必要である。
参考文献
1. Oosawa, F.; Kasai, M. A Theory of Linear and Helical Aggregation of Macromolecules. J. Mol. Biol. 1962, 4, 10–21.
2. Harper, J. D.; Lansbury, P. T. Models of Amyloid Seeding in Alzheimer's Disease and Scrapie: Mechanistic Truths and Physiological Consequences of the Time-Dependent Solubility of Amyloid Proteins. Annu. Rev. Biochem. 1997, 66, 385–407.
3. Knowles, T. P. J.; Waudby, C. A.; Devlin, G. L.; Cohen, S. I. A.; et al. An Analytical Solution to the Kinetics of Breakable Filament Assembly. Science 2009, 326, 1533–1537.
4. Cohen, S. I. A.; Linse, S.; Luheshi, L. M.; et al. Proliferation of Amyloid-β42 Aggregates Occurs through a Secondary Nucleation Mechanism. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 2013, 110, 9758–9763.