食品タンパク質
栄養素でもあるが、溶液設計の多様性が面白い
栄養素でもあるが、溶液設計の多様性が面白い
食品としてのタンパク質溶液
食品のおいしさは、味だけではなく、口どけや弾力、ふくらみ、なめらかさ、固まり方などによっても決まります。これらの性質は、タンパク質が溶液中で分散し、凝集し、油や空気との界面に吸着し、ゲル化や起泡などの多様な状態変化をとおしてできあがります。アイスクリームやラーメン麺、パン、卵白ゲルなど身近な食品は、いずれもこのような状態変化の過程をうまく制御してつくられたものです。しかし食品では、あくまで最終的なおいしさが評価の中心になるため、そこに至るタンパク質溶液としてのプロセス、すなわち我々が最も興味を持つ過程はあまり注目されなかったと思います。ここでは、蛋白質溶液学の視点を適用し、食材製剤の面白さをあらためて言葉で書くことで、共有してみたいと思います。この背後にあるより基礎的な考え方は、ほかのページに詳述していますので、あわせてご参照ください。
◆コーラ牛乳
牛乳にコーラを加えてしばらく置くと、白っぽい沈殿が生じ、上の液体が透明に近くなることがある。見た目には、コーラの褐色が消え、下に白色から褐色がかった沈殿がたまる現象として観察される。これはコーラ牛乳として知られている面白い現象で、YouTubeでもよく取り上げられている。YouTubeで最も再生されているのはヒカキンによるもので、900万回以上も再生されている(1)。
コーラ牛乳の透明化について、従来よく説明されてきた仮説は、主に次の二つである。まず、酸によるカゼイン凝固である(2)。牛乳中の主要タンパク質であるカゼインは、カゼインミセルとして分散している。pHが低下して等電点付近に近づくと、カゼイン粒子間の静電反発が弱まり、凝集しやすくなる。ヨーグルトや酸凝固チーズで見られる現象と同じように、酸性条件でカゼインが凝集・沈殿するという説明である。別の説として、リン酸またはリン酸塩による沈殿形成である(3)。コーラには酸味料としてリン酸が含まれているため、リン酸が牛乳中のカルシウムやカゼインと相互作用し、沈殿を促すと考えられてきた。また、沈殿したタンパク質やリン酸カルシウム様の成分が、コーラのカラメル色素などを巻き込んで沈降することで、上清が透明になるという説明もある。
これらの説明は、現象の大まかな理解としては有用である。しかし、牛乳にコーラを混ぜると、一定の比率になったときに強く沈殿するという特徴までは十分に説明できない。もし、ヨーグルトの製造と同じように酸による乳タンパク質の凝固であれば、コーラ濃度を上げるほど酸性化が進み、沈殿も単調に増えると予想される。ところが実際には、コーラ濃度が高くなると沈殿しにくくなるのである。
◆ポリリン酸による沈殿
コーラの濃度に依存したコーラ牛乳の沈殿現象は、リエントラント凝縮として理解できるという報告がある(4)。リエントラント凝縮とは、ある成分の濃度を上げていくと、溶液が分散していたものが沈殿し、ふたたび分散した状態になる現象である。この論文では、まず1%牛乳に対してコーラ濃度を変え、上清の濁度を測定している。その結果、酸性条件(pH 3.2–3.6)では、コーラ濃度30–40%付近で上清濁度が低下した。これは、乳タンパク質が沈殿し、上清が透明化したことを意味する。一方、低コーラ濃度や高コーラ濃度では白濁が残り、中性条件(pH 7.0–7.4)では明瞭な沈殿は見られなかった。
次に、牛乳の主要タンパク質であるカゼインに着目し、カゼインにコーラを加えることで同様の実験を行っている。その結果、カゼインだけを用いても、コーラ濃度の増加に伴って、上清中カゼイン濃度がいったん低下し、その後再び上昇する挙動が観察された。つまり、この沈殿と溶解の相挙動は、乳タンパク質全体ではなく、カゼインとして再現できることがわかった。
さらに、コーラ中の成分としてポリリン酸に注目している。ポリリン酸は負に帯電した多価アニオンであり、酸性条件では正に帯電したカゼインと静電的に相互作用できる。テトラリン酸とカゼインを用いた単純化モデルでも、リエントラント凝縮の振る舞いが観察されたのである。
すなわち、牛乳にコーラを混ぜると透明になる現象は次のように考えられる。低コーラ濃度では、酸性条件のカゼインは正に帯電しており、カゼイン同士は静電反発によって分散している。中間濃度のコーラでは、負に帯電したポリリン酸がカゼイン同士を架橋し、電荷中和によって沈殿が起こる。さらに高コーラ濃度では、過剰なポリリン酸がカゼイン表面に結合し、カゼイン複合体の電荷が負に反転する。その結果、今度は負電荷同士の反発によって再分散する。
◆リエントラント凝縮
リエントラント凝縮は、一見すると特殊な現象に見えるが、タンパク質溶液やコロイド分散系では広く関係する概念である(5)。添加剤は単に凝集の促進剤でも抑制剤でもなく、濃度依存的に振る舞う場合がある。典型的には、荷電タンパク質と多価イオンの組み合わせで起こる。低濃度の多価イオンは、タンパク質間を架橋したり、電荷を中和したりして凝縮を誘導する。しかし、さらに高濃度になると、タンパク質表面が過剰に同符号の電荷を帯び、電荷反転によって再び分散する、という原理である。例えば、抗体に高分子電解質を添加していくと沈殿が生じるが、さらに濃度を高めると溶解するような現象が見られるが、このような可逆性の高い沈殿物がバイオ医薬品の濃縮に使えるという提案がある(6)。
このような考え方は、食品の設計にも重要である。たとえば乳タンパク質の凝集、チーズやゲルの形成、タンパク質と多糖類の複合体形成、食品添加剤による沈殿制御などでは、添加剤濃度によって凝集と再分散が入れ替わる可能性がある(7)。したがって、食品添加剤を「固める成分」「溶かす成分」として固定的に考えるのではなく、相図を変える因子として考える必要がある。
また、リエントラント凝縮は、細胞内の液-液相分離や膜なしオルガネラの形成・消失とも関係する(8)。細胞内では、タンパク質、RNA、ポリリン酸、塩、低分子代謝物などが複雑に共存している。ある成分の濃度が時間とともに変化すると、凝縮体が形成され、さらに濃度が高くなると消失することがありうる。これは、細胞内の時間制御や局所的な反応場の形成を理解する上でも重要な視点である。
参考文献
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◆卵白ゲル
ゆで卵を考えてみたい。卵白は約10%のタンパク質と約90%の水からなる濃厚なタンパク質溶液である。約半分を占めるオボアルブミンをはじめ、主要なタンパク質は弱酸性側に等電点を持つのが特徴である。加熱によって生じる卵白ゲルの硬さやなめらかさは、加熱によってタンパク質がほどける過程と、ほどけたタンパク質どうしが会合する過程のバランスで決まる。pH や塩濃度は、タンパク質表面の電荷、水和、分子間相互作用を変化させ、細かく均一なネットワークを形成するか、粗く白濁した凝集体へ進むかを左右する。卵白ゲルは、溶液条件によって食感、透明性、保水性を制御できる食品タンパク質ネットワークである。
タンパク質どうしの反発が強すぎると、分子が近づきにくくなり、十分な三次元ネットワークを形成しにくい。一方、引力が強すぎると、タンパク質は連続的なネットワークをつくる前に粗大な凝集体となり、水を保持しにくいゲルになる。卵白ゲルの物性は、タンパク質間に働く引力と斥力のバランスによって決まる(1)。
◆卵白ゲルとpH
pH は、卵白ゲルの構造を変える代表的な因子である(2,3)。pH が変わると、タンパク質表面の正味電荷が変化し、タンパク質どうしの反発や会合しやすさが変わる。卵白タンパク質の多くは等電点が酸性側にあるため、pH 5 付近では正味電荷が小さくなり、静電反発が弱くなる。その結果、タンパク質どうしは近づきやすくなるが、会合が無秩序に進みやすく、粗い凝集体を含むゲルになりやすい。このようなゲルは、保水性が低く、粘弾性も低くなりやすい。
一方、中性から弱アルカリ性では、卵白タンパク質はより強い負電荷をもち、分子間の静電反発が残る。この反発は、過度な凝集を抑え、変性したタンパク質が会合する時間的余裕を与える。そのため、pH 7 や pH 9 では、pH 5 付近に比べて、より保水性と粘弾性に優れたゲルが形成されやすい。Croguennec らは、pH 5 ではタンパク質が展開する前にランダムに凝集しやすく、水を保持しにくい凝固物を生じる一方、pH 7 や 9 では熱凝固が遅れ、タンパク質の展開後にネットワークが形成されるため、保水性と粘弾性に優れたゲルになりやすいと報告している(3)。
◆卵白ゲルの加熱条件
加熱条件は、卵白ゲルの構造と物性を決める主要因子である。卵白タンパク質は、成分ごとに異なる温度で変性する。卵白の流動性はおよそ 60 ℃付近から低下し、主な吸熱ピークは 60–65 ℃および 80–85 ℃付近に現れる。前者は主にオボトランスフェリン、後者は主にオボアルブミンの変性に対応するとされる(3)。オボトランスフェリンは卵白タンパク質の中でも熱安定性が低く、凝固開始に重要な役割をもつ。一方、オボアルブミンは卵白タンパク質の半分以上を占め、より高温側で変性してゲルネットワーク形成に大きく寄与する。
加熱中には、天然状態の卵白タンパク質が部分変性し、分子間相互作用を介して高分子量の凝集体を形成する。その後、疎水性相互作用や静電相互作用、水素結合、ジスルフィド結合交換など、タンパク質会合に関連する相互作用を介して、凝固物またはゲルネットワークが形成される(4)。相互作用レベルで見るとタンパク質のゲル化は凝集や相分離と同様であり、溶液設計が可能な対象である。
一般に、タンパク質ゲル化は、加熱による部分変性と、その後の変性タンパク質の会合という二段階で進む。卵白ゲルも加熱が急速に進むと、タンパク質が十分に広がって連続的なネットワークをつくる前に、局所的な凝集が進みやすい。その結果、粗い凝集塊を含むゲルとなり、白濁や保水性の低下を生じやすくなる。
◆卵白ゲルへの添加剤効果
塩はタンパク質表面の電荷を遮蔽し、分子間の静電反発を弱める。そのため、塩化ナトリウムを加えると、タンパク質どうしが近づきやすくなり、会合やゲル化が促進される場合がある。一方、塩濃度が高すぎると塩析作用が働き、タンパク質どうしが無秩序に凝集しやすくなる。NaClを添加すると、タンパク質と水との相互作用よりもタンパク質間相互作用が強まり、秩序だったネットワークよりもランダムな凝集によるゲルが形成されやすい(5)。実際にに、NaClの影響は、1–3% 程度では弾性を高める場合があるが、6% 程度になるとランダム凝集と保水性の低下が見られる。塩の添加によりゲルの保水性が低下する場合があり、この効果は高塩濃度で顕著になる(6)。6% NaCl では保水性が無添加の 90.03% から 65.73% まで低下した。これは、イオン強度が高くなることでタンパク質間の反発が抑制されるとともに、塩析作用があらわれ、ランダム凝集が進みやすくなったと考えられる。
多糖類は親水基を多くもつため、水を保持しやすく、卵白ゲルの保水性を高める場合がある。たとえば、ジェランガムを添加した卵白加熱ゲルでは、pH 4 および pH 7 のいずれでも保水性が向上したと報告されている(6)。多糖類の効果は、種類、濃度、電荷、pH によって変わる。ヒドロキシプロピルメチルセルロースを加えた卵白ゲルでは、pH 3.0 の方が pH 7.0 より硬いゲルとなり、反対電荷をもつ複合粒子の形成が関与すると考えられている(7)。Razi らの総説では、キサンタンガム、ジェランガム、セスバニアガム、バジルシードガム、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどの多糖類が、卵白ゲルの硬さ、保水性、弾性率、微細構造を変える例として整理されている(1)。多糖類は単なる増粘剤ではなく、水の保持、タンパク質―多糖類相互作用、相分離、複合体形成を通じて、卵白ゲルのネットワーク構造を制御する添加剤である。
参考文献
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◆乾燥卵白のハイゲル化
乾燥卵白のハイゲル化とは、乾燥卵白をあらかじめ乾いた状態で加熱処理し、再び水に溶かして加熱したときに、通常よりも強いゲルを形成できるようにする改質技術である(1)。卵加工の分野では、このような高いゲル形成能をもつ乾燥卵白を「ハイゲル乾燥卵白」と呼ぶ。ゲル形成に影響を及ぼすのは可溶性凝集体である。可溶性凝集体とは、タンパク質同士がある程度会合して大きくなっているが、沈殿せず、水中に分散できる状態を指す。この状態を事前に作っておくと、再溶解後に加熱したときのゲル化の進み方が大きく変わる。
乾燥卵白を 70–80 ℃で 1–4 週間程度乾熱処理すると、タンパク質は完全には不溶化せず、可溶性凝集体を形成する。液卵白であれば 80 ℃で短時間加熱するとゲル化するが、水分の少ない乾燥状態では、タンパク質間の相互作用は進んでも、沈殿やゲル化には至りにくい。つまり、不溶化しない程度の凝集が、再溶解後の加熱ゲル強度を高める。実際、市販の乾燥卵白製品では、可溶性凝集体の平均分子量とゲル強度との間に強い相関が報告されている(2)。
卵白ゲルの強度は、疎水性相互作用やジスルフィド結合だけで決まるわけではない。加熱中には、ランチオニン結合やリジノアラニン結合といった共有結合性架橋も形成される。半田らは、これらの結合が加熱温度の上昇とともに増加し、ゲル強度と強く相関することを示している(3)。したがって、卵白ゲルの強さは、タンパク質がどれだけ変性したかだけでなく、加熱前にどのような可溶性凝集体が形成され、加熱中にどのような分子間架橋がどの程度形成されるかによって決まると考えられる。
1. Kato, A.; Ibrahim, H. R.; Watanabe, H.; Honma, K.; Kobayashi, K. New Approach to Improve the Gelling and Surface Functional Properties of Dried Egg White by Heating in Dry State. Journal of Agricultural and Food Chemistry 1989, 37, 433–437.
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◆卵白泡の溶液設計
卵白泡は、卵白タンパク質が気液界面に吸着し、そこで強い界面膜を形成することで安定化される。気体は溶液中のタンパク質からみると極めて疎水性の高い表面と考えてよい。泡を多くつくるには、タンパク質が水相から気液界面へすばやく移動し、界面張力を下げる必要がある。一方、泡を長く保つには、界面に吸着したタンパク質膜が、排液を抑え、気泡の合一や破壊を抑える必要がある(1)。
pH は、卵白タンパク質の電荷や表面疎水性を変えるため、泡立ちを制御する基本条件である。卵白タンパク質単独では、pH 5、7、9 の比較において、等電点に近い pH 5 で泡立ち容量や泡安定性が高くなると報告されている(2)。これは、オボアルブミンやオボムコイドの正味電荷が小さくなり、気液界面でタンパク質どうしが密に相互作用しやすくなるためである。一方、ホエイタンパク質と混合した場合には、pH 9 で相乗的な泡立ち性が観察されており、pH の最適値は共存タンパク質にも依存する。
卵白アルブミン濃度と pH を組み合わせた実験では、0.1–1% の卵白アルブミンを pH 4.0 と pH 7.0 で比較し、pH 4.0、かつ 1% アルブミンで泡安定性とオーバーラン(泡立てによる体積増加率)が高かったと報告されている(3)。したがって、卵白泡では、単に酸性または中性を選ぶのではなく、タンパク質濃度とpHを組み合わせた設計にし、界面吸着や分子間相互作用を制御する必要がある。塩化ナトリウムはタンパク質表面の電荷を遮蔽し、気液界面への吸着を助ける添加剤である。スクロースと塩化ナトリウムの比率を変えた実験によると、塩化ナトリウムの増加と泡立て時間の延長で泡形成を促進するという報告がある(4)。一方、、スクロースは泡形成を遅らせるが、形成後の泡の安定性には寄与するという(4)。
多糖類は、泡を多く立てるというより、泡を長く保つための添加剤として重要である。 1%(w/v)の卵白アルブミンに対して、 0、0.5、1%(w/v)の塩化ナトリウムおよび 0、0.1、0.3%(w/v)のバジルシードガムを加えた泡を調べた(5)。この系では、塩化ナトリウムはオーバーランを増加させ、泡密度を低下させた。一方、バジルシードガムは泡密度と泡安定性を高めたが、オーバーラン を低下させた。これは、多糖類が空気の取り込みを抑制したためである。バジルシードガム単独の効果についても、 0.3–0.5%(w/v)卵白アルブミンと 0.1–0.6%(w/v)バジルシードガムの範囲で検討された報告がある(6)。この実験でも、バジルシードガムの添加により泡の安定性が改善されている。したがって、多糖類は、泡の立ちやすさを高める添加剤というより、排液を抑え、気泡構造を維持するための安定化剤として位置づけられる。
糖類も泡の溶液設計に使える。グルコースやスクロース、マルトデキストリンを卵白に添加し、糖濃度による泡特性の変化を調べた報告がある(7)。卵白への3%の糖添加で表面張力が低下し、泡容量と泡安定性が高まった。特に3%のマルトデキストリンの添加では、最も良好な泡特性と、小さく均一な気泡が得られている。他にペプチド添加も有効な設計因子である。卵白粉末に大豆ペプチドを3-12%添加し、pH 4.0-8.5で泡立ち性を比較した報告がある(8)。その結果、9% 以上の大豆ペプチドで泡立ち性が改善され、pH 7.0が最も安定な泡を形成することがわかった。これは、ペプチドが気液界面への吸着を助け、卵白タンパク質だけでは得にくい界面膜構造を形成するためと考えられる。
1. Razi, S. M.; Fahim, H.; Amirabadi, S.; Rashidinejad, A. An Overview of the Functional Properties of Egg White Proteins and Their Application in the Food Industry. Food Hydrocolloids 2023, 135, 108183.
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◆ラーメンの麺
ラーメンの麺は、小麦粉と水、塩、かん水を基本として作られる。小麦粉に水を加えて練ると、小麦粉中の主要な貯蔵タンパク質であるグリアジンとグルテニンが水和し、練りの力を受けながら互いに絡み合い、麺の骨格となるグルテンネットワークを形成する。グリアジンは比較的流動性が高く、生地に伸びやすさを与える。一方、グルテニンは分子間の結合や絡み合いによって弾性的な性質を生み、生地に戻ろうとする力を与える。この二つの性質が組み合わさることで、麺らしい粘弾性的な特徴になる(1)。麺の製造では、ここに塩とかん水が加わる。
麺に添加される塩の主な役割は、塩味をつけることも重要だが、歯応えを出すためにも重要な役割がある。グルテンタンパク質の表面には、荷電アミノ酸残基が存在する。水だけの条件では、これらの荷電部位どうしの反発や引力が強いが、塩を加えることで静電遮蔽効果により、過度な静電反発を弱める。その結果、グルテンタンパク質どうしが近づきやすくなり、生地は締まり、まとまりやすくなるのである(2)。
かん水は、炭酸ナトリウムや炭酸カリウムを主成分とするアルカリ性の塩であり、麺に特有の硬さや弾力を与える重要な成分である(3)。黄色い理由もかん水である。小麦粉に水を加えると、グリアジンとグルテニンが水和してグルテンネットワークを形成する。ここにかん水が加わると、生地のpHがアルカリ側に傾く。その結果、タンパク質どうしの相互作用が変わって生地は締まる。麺をゆでる過程では、グルテンタンパク質の会合やジスルフィド結合の再編成が進み、麺の構造が固定されると考えられている。中華麺が伸びにくいのは、かん水と塩によってグルテンネットワークが締まり、ゆで加熱後も麺の骨格が保たれやすいからである。
グルテンネットワークは、麺の食感を決める中心的な構造である。ネットワークが弱ければ、ゆでたときに表面がぬめり、歯切れも悪くなる。たとえば、時間が経ってスープの中で伸びた麺では、内部の構造がゆるみ、でんぷんや可溶性成分が表面に出やすくなる。その結果、麺の表面にぬめりが生じ、噛んだときの輪郭がぼやけた食感になる。逆に、グルテンネットワークが強すぎると、麺は硬く、弾力はあるが、噛み切りにくくなる。これは、低加水で強く締めた麺や、過度に強力な小麦粉を用いた麺で起こりやすい。噛んだときに反発は強いが、歯が入りにくく、食感がゴムのように感じられる場合がある。
◆濃厚つけ麺と豚骨ラーメン
現実にあわせてもう少し説明すると、つるつる麺は、主にでんぷんの糊化状態および圧延による表面の平滑性の組み合わせが重要である。しかし、でんぷんが過度に溶け出すと、滑らかさではなくぬめりになるため、つるつる麺は冷水でよく締めた方がよい。一方、もちもち麺は、糊化したでんぷんが水を抱え込んで生じる粘りと、それを支えるグルテンネットワークの弾性が組み合わさって生まれる。
濃厚なつけだれには太麺があう。太麺には強いグルテンネットワークと十分な水分保持が重要になる。さらに多加水の設計にすると、糊化でんぷんが水を抱え込みやすくなり、もちもち感と同時につるつる感が強くなる。この両者を生かすためには、太麺かつ多加水麺が理想的である。
一方、とんこつラーメンに使われる細麺は、つけ麺の太麺とは思想が異なり、歯切れが重視されるさくさく麺である。これは、低加水で作られた細い麺に特徴的な食感である。加水率が低いと、生地中の自由な水が少なくなり、グルテンネットワークとでんぷん粒が密に詰まった構造になる。そのため、ゆでた後も麺の内部に水が入りにくく、弾力よりも硬さと歯切れが目立つようになる。
参考文献
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◆グリアジンとグルテニン
小麦粉の主要な貯蔵タンパク質は、グリアジンとグルテニンである。両者はまとめてグルテンタンパク質と呼ばれるが、溶解性と分子集合の性質が異なる。古典的には、グリアジンは水を含むアルコールに溶けやすい単量体性タンパク質群、グルテニンはアルコールに溶けにくく、ジスルフィド結合を介して高分子量の重合体をつくるタンパク質群として区別される。いずれもグルタミンとプロリンに富むため、水中で完全に折りたたまれた球状タンパク質というより、部分的に柔軟で、会合しやすい高分子状タンパク質としてふるまう(1,2)。
グルテンネットワークはこの2種類のタンパク質が水和と混練によって形成されるタンパク質の状態であり、製麺のほか、製パンでも重要になる。グリアジンは比較的分子量が小さく、分子間の共有結合性ネットワークを作りにくいため、生地に粘性、流動性、伸展性を与える。いわば伸びやすさを与えるのがグリアジンである。これに対してグルテニンは、高分子量グルテニンサブユニットと低分子量グルテニンサブユニットがジスルフィド結合などで連結した巨大なポリマーを形成し、生地に弾性や凝集性を与える(3)。グルテニンは弾力を担う成分である。レオロジーの観点からは、グルテンは粘性と弾性を併せもつ粘弾性材料である。グルテニンが多い生地では、弾性が強く、噛んだときの反発やコシが出やすい。一方、グリアジンの比率が高いと、生地は伸びやすくなるが、強度や弾性は低下しやすい(4,5)。
麺の性質を考えると、グルテニンネットワークが弱い場合には、ゆで加熱中に構造が崩れ、でんぷんや可溶性成分が流出しやすく、伸びやすい麺になる。逆にグルテニンが強すぎると、弾力は出るが、噛み切りにくいゴムのような性質になる。そのため、理想的な麺は、グルテニンによる骨格形成と、グリアジンによる可塑性が釣り合った配合が必要である。グリアジンとグルテニンの相互作用は、水分やイオン強度、混練や圧延、加熱によって相互作用を制御することができる。
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◆グルテンネットワークの制御技術
グルテンネットワークは、グリアジンとグルテニンが混練や圧延、加熱などの処理で形成する動的なタンパク質集合体である。水を加えることでタンパク質が水和し、混練や圧延によって分子が引き伸ばされ、配向し、接触頻度が高まる。その過程で、非共有結合性相互作用やジスルフィド結合の組み替えが進み、連続的なネットワークが形成される(1)。
麺の食感は、このような物理的な過程のほか、イオン強度やpH、添加剤などにも影響を受ける。もっとも基本的な制御因子は食塩である(2)。食塩を加えると、Na⁺やCl⁻がグルテンタンパク質を遮蔽するとともに、タンパク質どうしの静電反発を弱める。その結果、タンパク質どうしの反発が弱まり、混練中にグルテン分子が相互作用しやすくなる。その結果、生地は過度に軟化せず、混練や圧延によって引き伸ばされながら、まとまりのあるネットワークを形成しやすくなる(3)。その結果、製麺では、食塩を加えることで生地が締まり、圧延しやすくなる。
ラーメン麺では、かんすいがさらに重要な役割をもつ。かんすいは炭酸ナトリウムや炭酸カリウムを主成分とするアルカリ塩である(4)。pHがアルカリ性になると、グルテンタンパク質中のチオール基の反応性が上がり、混練や加熱の過程でジスルフィド交換反応が進みやすくなる。さらにアルカリ条件では、デヒドロアラニンを介したランチオニンやリジノアラニン型の架橋が生じやすくなる。このような反応によって、かんすいを加えることで、ゆで加熱後のグルテンネットワークはより強くなり、ラーメン麺らしい弾力や歯切れが生まれる。
そのため、グルテンネットワークを制御するために酸化還元剤を使うことができる(5,6)。酸化剤はチオール基を酸化してジスルフィド結合を形成させるため、グルテンネットワークの再架橋を進める。この効果によって、弾性や混練耐性が高まる。逆に、L-システインやグルタチオンのような還元剤は、ジスルフィド結合の切断や交換を促し、生地を軟化させ、伸展性を高める。酸化還元制御は、グルテンを強める方向にも、ほぐす方向にも働く調整技術である。製麺では、強すぎるグルテンを適度に緩めることも、食感設計の重要な選択肢となる。
酵素を用いた架橋も麺の特性を制御するために有効である。トランスグルタミナーゼは、グルタミン残基とリシン残基の間に共有結合性の架橋を作る酵素であり、特に、卵白や大豆タンパク質などを併用する系で有効に働く場合がある(7)。また、グルコースオキシダーゼのような酵素は、反応中に生じる過酸化水素を介してチオール基の酸化を促し、間接的にグルテンネットワーク形成を助ける(1)。これらは、タンパク質間の弱い相互作用を、酵素反応によってより安定なネットワークへ変換する技術といえる。
多糖類や親水コロイドも、グルテンネットワークに影響する。キサンタンガム、アルギン酸、カラギーナン、カルボキシメチルセルロース(CMC)、グアーガム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)などは、水を保持し、生地の粘度や保水性を変える(8)。アニオン性多糖類は、グルテンタンパク質との静電相互作用を通じてネットワーク形成に関わることがあり、非イオン性多糖類は主に水素結合や水分保持を通じて作用する。多糖類は、保水性を高めてゆで溶けを抑える方向に働く。また、添加量が増えすぎると粘度が上がり、麺の表面が重く、べたついた食感になる。
参考文献
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◆市販ラーメンの食品表示
食塩はグルテン表面の電荷を遮蔽し、生地を締める。かんすいはpHとイオン環境を変え、中華麺らしい硬さ、弾力、黄色味を与える。小麦たん白はグルテン骨格を補強し、卵粉は加熱凝固や風味、色調に関与する。加工でん粉やリン酸塩は、水分保持、表面の滑らかさ、もちもち感の調整に関わる。このような「ラーメンめがね」をかけて食品表示からラーメンの麺を比較し、設計思想を見てみたい。
日清食品チルドの「天下一品 濃厚鶏白湯」では、1人前あたりの食塩相当量は7.0 gであるが、そのうち麺側は0.8 g、スープ側は5.3 gである。したがって、この商品で麺が塩辛く感じられるとしても、それは麺そのものに特別多量の塩が入っているためというより、濃厚なこってりスープが麺表面に強く付着し、スープ中の塩味・うま味・脂質・増粘成分を麺の味として感じるためと考えられる。
「日清のラーメン屋さん 博多風豚骨」では、1人前あたりの食塩相当量7.2 gのうち、麺側が2.3 g、スープ側が4.9 gである。これは、天下一品監修品よりも麺側の塩分が高い例である。博多風豚骨の細麺では、もちもちした多加水麺よりも、低加水で密に詰まった、ぱつんと切れる歯切れが求められる。そのため、食塩、かんすい、小麦たん白、卵粉などを用いて、生地を締め、グルテンネットワークを補強し、短時間ゆででも輪郭のある食感になるよう設計されていると考えられる。
「つけ麺の達人 濃厚魚介醤油」は、1人前196 gあたり炭水化物91.6 g、たんぱく質16.5 g、食塩相当量8.2 gであり、通常のラーメンよりも麺量が多い。麺の原材料には、小麦粉と食塩に加えて、小麦外皮、加工でん粉、かんすい、リン酸塩Naなどが含まれる。ここでは、太麺としての存在感と、糊化でんぷんによるもちもち感、表面のつるつる感、ゆで後の水分保持が重視されていると読める。
◆ラーメン麺の設計思想
この3商品を蛋白質溶液学の視点で比較すると、イオン強度の視点から、グルテンネットワークが置かれている溶液環境を推測できる。麺は固体のように見えるが、内部ではグルテン、でんぷん、水、塩、かんすい、補助成分が高濃度に共存している。したがって麺の食感は、タンパク質量だけでなく、水がどの成分にどれだけ分配され、塩やアルカリがタンパク質表面の相互作用をどの程度変えるかによって決まる。
たとえば、「天下一品 濃厚鶏白湯」では、1人前173 gに対して麺側の食塩相当量は0.8 gであり、単純計算では麺重量あたり約0.46%である。一方、「日清のラーメン屋さん 博多風豚骨」では、1人前131 gに対して麺側の食塩相当量は2.3 gであり、麺重量あたり約1.8%になる。この差は、味の差だけでなく、グルテン表面の静電相互作用の差として考えられる。塩濃度が高い条件では、荷電アミノ酸残基間の静電反発が遮蔽され、グルテンタンパク質どうしが近づきやすくなる。その結果、水和したグルテン鎖はより密に会合し、生地は締まりやすくなる。博多風豚骨のような細麺では、このような高めの塩分環境により、短時間ゆででも輪郭のある、ぱつんと切れる食感が生じやすい。
一方、天下一品の麺では、麺側の食塩量は比較的低いにもかかわらず、食べたときには濃く、塩味が強く感じられることがある。これは、麺内部のイオン強度よりも、麺表面に付着する高粘度スープの寄与が大きいと考えられる。麺内部ではグルテンとでんぷんが構造を支え、麺表面では糊化でんぷん、可溶化した小麦成分、スープ中のタンパク質・脂質・多糖様成分が相互作用して、濃厚な液相を保持する。したがって、天下一品型の麺では、麺そのものを強く塩で締めるよりも、スープを表面に保持しやすい水和状態や表面粗さが重要になる。
「つけ麺の達人 濃厚魚介醤油」では、1人前196 g、炭水化物91.6 g、たんぱく質16.5 gであり、麺そのものの高分子量が大きい。ここでは、細麺のように水を制限して脆性的に切れる構造を作るよりも、グルテンネットワークと糊化でんぷんが水を抱え込むことで、粘弾性的なもちもち感を作る必要がある。太麺では、ゆで加熱中に表面から内部へ水が拡散する距離が長いため、表面だけが過度に糊化してぬめり、内部が硬いまま残るという不均一性が起こりやすい。そのため、加工でん粉やリン酸塩Naのような成分は、水分保持、でんぷんの膨潤制御、表面の滑らかさの調整に寄与している可能性がある。
◆乳化とは
乳化とは、本来は混ざりにくい水と油の一方が、もう一方の中に細かな液滴として分散した状態をいう。牛乳は乳化の典型例であり、水を主成分とする連続相の中に、乳脂肪が微小な脂肪球として分散している。厳密には、乳脂肪球は乳脂肪球膜に包まれており、さらに牛乳中にはカゼインミセルなどのコロイド粒子も存在するため、牛乳は単純な油水混合物ではなく、複雑な食品コロイド系である。
マヨネーズやドレッシング、クリーム、アイスクリーム、ソース、コーヒークリーマーなども、食品中に見られる代表的な乳化系である。多くの場合、食品の乳化は、水の中に油滴が分散した O/W 型エマルションである。一方、バターやマーガリンのように、油脂の中に水滴が分散した W/O 型エマルションもある。
乳化系では、油滴が小さいほど白く濁って見え、口当たりや粘度、風味の感じ方にも影響する。ただし、水と油を機械的に混ぜるだけでは、液滴は時間とともに合一して分離してしまう。そのため、食品ではタンパク質、リン脂質、低分子乳化剤、多糖類などが界面に働き、液滴を安定化している。乳化とは、単に水と油を混ぜることではなく、微小な液滴をつくり、その分散状態を保つ現象である。
◆タンパク質が乳化剤になる理由
タンパク質が乳化剤として機能するには、油水界面へ吸着できる両親媒性に加えて、油滴表面に吸着膜を形成する性質、さらに静電反発や立体反発によって油滴どうしの合一を防ぐ性質が重要である。ここでは、この3点からタンパク質の乳化性を整理する。
水と油を混合すると、新しく油水界面が生じる。この界面は熱力学的に不安定であり、油滴どうしは時間とともに合一し、最終的には水相と油相に分離しやすい。タンパク質は分子内に親水性部分と疎水性部分をあわせ持つため、水相中に溶けていたタンパク質は油水界面へ移動し、疎水性部分を油側に、親水性部分を水側に向けるように吸着する。その過程で、タンパク質は界面に適応するように部分的に構造を変化させ、油滴表面に吸着膜を形成する(1)。その結果、界面張力が低下し、細かな油滴が形成されやすくなる。
油滴表面に吸着したタンパク質は、界面で分子どうしが相互作用しながら、粘弾性的な膜を形成する。この膜は、油滴どうしが接近したときに、油滴表面が直接接触して合一するのを防ぐ。つまり、タンパク質は低分子乳化剤のように界面張力を下げるだけでなく、高分子として油滴表面を物理的に覆い、界面に保護層をつくる点に特徴がある(2)。
このようにしてタンパク質で覆われた油滴は、表面電荷による静電反発や、吸着層の厚みによる立体反発によって安定化される。コロイド粒子やタンパク質凝集体の場合と同様に、溶液の pH が等電点から離れていれば油滴表面に電荷が残り、油滴どうしは反発しやすくなる。一方、pH が等電点に近づいたり、塩濃度が高くなって電荷が遮蔽されたりすると、油滴間の反発は弱まり、凝集やクリーミングが起こりやすくなる。このように、タンパク質の界面特性はエマルションの形成と安定性を直接左右するため、界面をどのように設計するかが重要になる(3)。
この視点から見ると、乳化性はタンパク質分子だけでなく、溶液の設計によっても調節できる。たとえば、等電点から離れた pH では静電反発を利用して分散性を高められる(4)。逆に、塩濃度が高くなると、電荷遮蔽やタンパク質間相互作用を変えるため、基本的には会合しやすい方向に働く。多糖類との複合化は、吸着膜の性質や油滴間相互作用を変え、エマルションの安定化に寄与する場合がある(5)。そのため、食品タンパク質の乳化性を高めるには、タンパク質そのものの選択だけでなく、タンパク質が界面でどのようにふるまうかを制御する溶媒設計が重要である。
参考文献
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◆カゼインとカゼインナトリウム
牛乳が白く見えるのは、光を散乱するコロイド粒子が含まれているためである。主な散乱体は、乳脂肪球とカゼインミセルである。牛乳中の脂肪は通常約3〜4%含まれ、その多くは直径およそ0.1〜10 µm程度の乳脂肪球として分散している。乳脂肪球はカゼインミセルより大きく、全乳の強い白濁や、わずかにクリーム色を帯びた外観に寄与する。
一方、脱脂乳でも白く見えることからわかるように、牛乳の白さは乳脂肪球だけでは説明できない。牛乳中のタンパク質は通常約3.0〜3.5%含まれ、その約80%がカゼインである。カゼインは牛乳中で単独分子として存在するのではなく、直径およそ50〜500 nm、平均では100〜150 nm程度のカゼインミセルとして分散している(1,2)。このサイズは可視光の波長に近いため、カゼインミセルも光を散乱し、脱脂乳に残る白濁の主要因となる。つまり、乳脂肪球は油滴、カゼインミセルはタンパク質性のコロイド粒子であり、両者は牛乳中に共存する別々の分散粒子である。
カゼインミセルは、カゼイン分子とリン酸カルシウムを主成分とする集合体である。カゼインには、主にαS1-カゼイン、αS2-カゼイン、β-カゼイン、κ-カゼインの4種類がある。これらはいずれもプロリンやグルタミンに富み、分子量はおよそ19〜25 kDaであるが、それぞれ性質が異なる。αS1-カゼイン、αS2-カゼイン、β-カゼインはリン酸化部位を介してカルシウムやリン酸カルシウムと相互作用しやすい。一方、κ-カゼインはC末端側に糖鎖を含む親水的な領域を持ち、ミセル表面で水との親和性を高め、ミセルの分散安定性に重要な役割を果たす(3)。
食品素材として用いられるカゼインナトリウムは、カゼインを酸沈殿などで分離した後、ナトリウム塩として可溶化・分散しやすくした素材である。カゼインナトリウムは水に分散しやすく、油水界面に吸着して油滴を安定化する乳化剤として働く。カゼイン分子は、一般的な球状タンパク質のように硬く折りたたまれた構造ではなく、比較的柔軟な構造をもつ。また、分子内に疎水性領域と親水性・荷電領域をあわせ持つため、油水界面に吸着しやすい。
このような性質により、カゼインは油水界面に比較的すばやく移動し、界面で分子の向きや広がり方を変えながら、油滴表面を覆うことができる。吸着したカゼインは油滴表面に高分子性の吸着膜を形成し、油滴どうしが直接接触して合一するのを防ぐ。さらに、pHが等電点から離れていれば、油滴表面には電荷が残り、静電反発によって分散状態が保たれやすくなる(4)。したがって、カゼインの乳化力とは、単に油と水を混ぜる力ではなく、界面に吸着して油滴を包んだ構造のまま、分散状態を保つ機能を持っている。
カゼインミセルの内部構造については、X線結晶構造解析や核磁気共鳴法などの構造分解能の高い分析が難しいこともあり、さまざまなモデルが提案されてきた。初期には、αS-カゼインやβ-カゼインからなるコアをκ-カゼインが覆うというコート・コアモデルが提案された(5)。その後、ミセル内部に10 nm程度の小さなサブミセルがあり、それらがカルシウムやリン酸カルシウムによって結合しているとするサブミセルモデルが広く知られるようになった(6)。このモデルは説明しやすく、教科書的にも使われてきたが、クライオ電子顕微鏡などで明確なサブミセル構造が観察されにくいことから、現在では単純化されたモデルと考えられている。
現在、有力な考え方の一つは、Holtらによるリン酸カルシウムナノクラスターモデルである。このモデルでは、カゼインミセルは規則的なサブミセルの集合体ではなく、アモルファスなリン酸カルシウムナノクラスターと柔軟なカゼイン分子からなる水和したネットワークとして理解される(7)。リン酸化カゼインはカルシウムリン酸ナノクラスターに結合し、それを安定化するとともに、ミセル内部の骨格形成に関与する。さらに、カゼイン分子どうしの疎水性相互作用、静電相互作用、水素結合など、複数の弱い相互作用が組み合わさることで、カゼインミセルは柔らかく多分散なコロイド粒子として存在している。
このような見方は、カゼインを天然変性タンパク質として捉える最近の考え方とも相性がよい。カゼインはプロリンに富み、一般的な球状タンパク質のような安定な立体構造をとりにくい。CarverとHoltは、カゼインの機能的な会合と凝集を、天然変性タンパク質の性質から整理している(8)。また近年、カゼインミセルを細胞外で形成される液-液相分離型の凝縮体として理解できるのではないか、という仮説も提案されている(3)。この見方では、カゼインミセルは硬い粒子ではなく、多価相互作用によって形成された流動性のあるタンパク質性集合体として捉えられる。
この構造の柔軟性は、カゼインの食品機能とも深く関係している。カゼインは、リン酸カルシウムを水中に分散させるための天然のキャリアであると同時に、油水界面へ吸着し、油滴を安定化する優れた乳化タンパク質でもある。ヨーグルトやチーズは、乳中のカゼインミセルの安定性を変化させることで作られる食品である。乳酸菌による発酵では乳酸が生じ、pHが低下する。カゼインの等電点であるpH 4.6付近に近づくと、カゼインミセル間の静電反発が弱まり、ミセルが凝集してゲルを形成する。これがヨーグルトの基本的な構造形成である。チーズでは、酸性化に加えて、レンネットによるκ-カゼインの切断、塩の添加、熟成中のタンパク質分解などが加わり、より複雑な構造と食感が生じる。
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◆大豆タンパク質の乳化力の改良
タンパク質は、水と油の界面に吸着することで乳化剤として働く。そのためには、油水界面に吸着しやすい両親媒性、界面で広がるための構造の柔らかさ、さらにタンパク質どうしが過度に凝集しない分散性が必要である。実際、加熱変性させた大豆タンパク質では、油水界面への吸着挙動が変化し、加熱条件や乳化条件によって油滴径や界面吸着量が変わることが報告されている(1)。ここでは、添加剤を「タンパク質溶液に加えて乳化を助ける成分」としてではなく、「タンパク質を乳化に適した状態へ加工するための溶媒設計」として使った例を見てみたい。
この考え方に関連する古典的な研究として、変性処理による大豆タンパク質の乳化性改良がある。Nirらは、大豆タンパク質を熱、尿素、塩酸グアニジン、ジスルフィド結合の還元などで変性させ、表面性質と乳化挙動を調べた(2)。その結果、変性処理によってタンパク質の表面疎水性や界面活性が変化し、乳化性が改善される場合があることを示した。ただし、強い変性は凝集も誘導しうるため、乳化性の向上には、構造をほどくことと分散性を保つことのバランスが重要である。
そこで、立体構造をほどきながら分散性を高めることを目的として、アルギニンを添加剤として活用し、より精密に市販の大豆タンパク質分離物の乳化力を高めた研究を見てみたい(3)。この研究では、大豆タンパク質分離物にアルギニンを加え、121 ℃で10分間加熱した後、透析によってアルギニンを除去している。つまり、アルギニンを最終的な乳化成分として使ったのではなく、加熱中の大豆タンパク質の構造変化を制御する添加剤として使った点に特徴がある。
この処理の狙いは、次のように整理できる。タンパク質を加熱すると、立体構造が部分的にほどけ、内部に隠れていた疎水性アミノ酸残基が表面に露出する。この変化は、油水界面への吸着には有利である。しかし、疎水性部分が露出しすぎると、タンパク質どうしが結合し、大きな凝集体を形成する。凝集したタンパク質は油滴表面に均一に吸着しにくく、場合によっては油滴どうしの会合も進めてしまうため、エマルションを不安定化する。そこで、大豆タンパク質の加熱時にアルギニンを添加しておくことで、凝集抑制剤としてアルギニンが働くことで、タンパク質間の過度な会合が抑えられるのではという着想に至っている。
このように添加剤を含んだ溶液中で加熱処理した大豆タンパク質は、油水界面に吸着しやすい程度に構造変化しながらも、大きな凝集体にはなりにくい特徴を持つことがわかった。すなわち、アルギニンはタンパク質を単純に安定化するのではなく、乳化に有利な構造変化を許しつつ、不要な凝集を抑える役割を果たしていると考えられる。
実際、アルギニン存在下で加熱した大豆タンパク質は、未処理品や添加剤なしで加熱したものに比べて、より小さな油滴を作り、フロック形成も少なかった。また、油水界面張力も低下しており、タンパク質が界面に効率よく吸着していることが示された。乳化力を高めるには、疎水性部分を界面吸着に必要な程度に露出させながら、タンパク質どうしの過度な凝集を防ぐことが重要である。アルギニン存在下での加熱処理では、このバランスが保たれたと考えられる。
一方、アルギニンの代わりに塩酸グアニジンを用いた試料では、乳化力は十分に高まらなかった。塩酸グアニジンは強い変性剤であるため、タンパク質の疎水性部分を過剰に露出させる。その結果、添加剤を除去した後にタンパク質どうしの凝集が進みやすくなり、このタンパク質を用いても油水界面に均一に吸着する構造を作れなかったと考えられる。なお、尿素処理ではアルギニン処理と同程度に高い乳化性が示されたが、食品応用を考えると、アミノ酸であるアルギニンを用いる処理のほうが実用性は高い。
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◆アイスクリームとカゼイン
アイスクリームは、牛乳やクリームを凍らせた食品である。より正確にいうと、乳脂肪球や糖、乳清タンパク質のほか、微細な氷晶や気泡が含まれた複雑な食品コロイドである(1)。
食品として好ましいアイスクリーム構造は、脂肪球が完全に独立して分散している状態でも、逆に脂肪球が完全に融合して油相が分離した状態でもない。その中間にある部分合一(partial coalescence)呼ばれる状態が重要である。多くの乳化食品では、油滴どうしが合一せず、細かく分散した状態を保つことが望ましい。しかし、アイスクリームでは事情が異なる。製造の最初は、脂肪球はカゼインや乳清タンパク質、乳化剤によって覆われ、水中に安定に分散している。一方、冷却・熟成によって脂肪球内部の一部が結晶化し、さらに凍結撹拌によって脂肪球どうしが衝突すると、脂肪球表面の界面膜が局所的に破れて、連結する。このとき、脂肪球が完全に一つの大きな油滴へ融合するのではなく、それぞれの粒子の形をある程度保ったまま集まる。この状態が、アイスクリームにおける部分合一である(2)。
この部分合一した脂肪球は、気泡の表面に集まり、気泡どうしの合一や液相の排出を抑える骨格のように働く。つまり、脂肪球ネットワークは、アイスクリーム中の空気を保持し、融解時の形崩れを遅らせ、なめらかな口どけや適度な硬さに寄与する。脂肪球が完全にばらばらのままだと、気泡を支える構造が弱くなり、溶けやすく、湿った弱い組織になりやすい。反対に、脂肪球の凝集が進みすぎると、粗大な脂肪塊やバター状の粒子が生じ、口当たりが悪くなり、油っぽさや相分離につながる。
◆理想のアイスクリーム
理想のアイスクリームとは、微細な氷晶と、安定な気泡、適度に連結した脂肪球、高濃度のタンパク質や糖質が含まれた未凍結水相がバランスよく組み合わさった食品コロイドである。つまり、分散の安定性、界面膜の制御、水和や凍結濃縮の3つが課題になる。
分散安定性:均質化によって乳脂肪は微細な脂肪球となり、新たに大きな油水界面が形成される。この界面には、カゼインや乳清タンパク質などの乳タンパク質が吸着し、脂肪球表面にタンパク質性の吸着膜を形成する。吸着膜は、脂肪球間に立体反発や静電反発を与え、脂肪球どうしの直接接触、合一、クリーミングを抑制する。したがって、この段階の脂肪球は単なる油滴ではなく、タンパク質によって相互作用ポテンシャルが調整されたコロイド粒子としてふるまう(3)。
界面膜の制御:カゼインは柔軟な構造を持ち、油水界面に吸着しやすいため、均質化直後の脂肪球を安定化する。しかし、タンパク質性の界面膜が強すぎると、凍結撹拌中に脂肪球どうしが接触しても部分合一が起こりにくくなる。そこで、モノグリセリドやジグリセリド、ポリソルベートなどの低分子乳化剤が重要になる。これらの乳化剤は、脂肪球表面のタンパク質膜を部分的に置換し、界面膜を薄く変形しやすい状態へ変える。その結果、脂肪球は凍結撹拌中に部分合一しやすくなり、気泡を支える脂肪球ネットワークを形成する(4)。
水和や凍結濃縮:アイスクリームミックスの水相には、乳タンパク質のほか、糖、塩、多糖類安定剤が存在し、水和状態や連続相の粘度を変える。冷却・熟成中にはタンパク質や多糖類の水和が進み、凍結が始まると水の一部は氷晶となる。その結果、残された未凍結水相にはタンパク質や糖、塩、多糖類が濃縮され、粘度や浸透圧、イオン強度、水分活性が変化する。この高濃度の水相は、氷晶成長、脂肪球や気泡の運動性、融解時の液相排出を左右する(5)。
アイスクリームの溶液設計は、一見すると成分を混合するプロセスのように見えるが、その背後にはタンパク質を含むコロイド分散系の状態を制御するロジックがある。均質化では、脂肪球を微細化し、カゼインなどの乳タンパク質によって初期の乳化安定性を与える。熟成では、脂肪結晶化や水和、乳化剤による界面膜の再編成が進む。さらに凍結撹拌では、せん断と脂肪結晶の作用によって脂肪球の部分合一が誘導され、気泡を支える脂肪球ネットワークが形成される。
参考文献
1. Goff, H. D. Colloidal Aspects of Ice Cream—A Review. International Dairy Journal 1997, 7, 363–373.
2. Goff, H. D. Instability and Partial Coalescence in Whippable Dairy Emulsions. Journal of Dairy Science 1997, 80, 2620–2630.
3. Goff, H. D.; Kinsella, J. E.; Jordan, W. K. Influence of Various Milk Protein Isolates on Ice Cream Emulsion Stability. Journal of Dairy Science 1989, 72 (2), 385–397.
4. Segall, K. I.; Goff, H. D. A Modified Ice Cream Processing Routine That Promotes Fat Destabilization in the Absence of Added Emulsifier. Int. Dairy J. 2002, 12, 1013–1018.
5. Regand, A.; Goff, H. D. Structure and Ice Recrystallization in Frozen Stabilized Ice Cream Model Systems. Food Hydrocoll. 2003, 17, 95–102.
◆未凍結水相の制御
未凍結水相は、アイスクリームを構成する氷と気泡とをつなぐ部分のことをいう。理想的な設計は次のようになる。第一に、氷晶の成長を抑えるだけの粘度と水保持能を持つこと。第二に、気泡と脂肪球ネットワークを支える連続相として働くこと。第三に、融解時に液体が急激に流れ出さず、ゆっくり崩れること。第四に、口の中では冷たさとともに速やかに流動化し、ねばつきや重さを残さないこと。この四つの条件がそろうと、なめらかで、すくいやすく、溶けにくく、口どけのよいアイスクリームになる。
まず、凍結水相は、適度に濃いが流動性をある程度は保つ必要がある。すなわち、水相が薄すぎると、氷晶が成長しやすく、保存中に粗い氷の粒が生じる。また、融解時に液体がすぐに流れ出し、アイスクリームは水っぽく、形崩れしやすくなる。一方、水相の粘度を高めすぎると、凍結撹拌時に空気が入りにくくなり、また、脂肪球どうしの衝突や部分合一も起こりにくくなる。その結果、重く、ねばついた食感になり、口どけも悪くなる。
未凍結水相の制御には、まず糖質の種類と量を調整する。糖質は、種類によって甘味の強さが異なる。ショ糖を基準にすると、フルクトースはより甘く、グルコースはやや甘味が弱く、乳糖はかなり甘味が弱い。したがって、同じ凍結点降下を得ようとしても、どの糖を使うかによって、甘さの印象は大きく変わる。たとえば、フルクトースや転化糖を使うと凍結点を下げやすく、なめらかで柔らかい食感を作りやすいが、甘味が強くなりやすい。グルコースはショ糖より甘味が弱い一方で凍結点降下作用は大きいため、甘味を抑えながら硬さを調整する目的で使いやすい。乳糖は甘味が弱く、乳固形分として水相濃度を高めるが、溶解度が低いため、多すぎると乳糖結晶による砂状感の原因になる。
粘度の面でも糖質の選択は重要である。低分子の糖は水相の固形分濃度を高め、未凍結水相を濃縮することで粘度を上げる。ただし、多糖類安定剤のように少量で強く増粘するわけではなく、主な効果は水の凍結を抑え、凍結後の濃厚な液相を作ることにある。凍結点降下は、おおまかには溶液中の溶質分子の数で決まるため、単糖と二糖類では、同じ重量で入れた場合、氷の生成量は原理的には2倍程度効果が異なる。よって、糖質が少なすぎると氷の割合が増え、ざらついた食感になりやすい。逆に糖質が多すぎると氷の量が減りすぎ、溶けやすく柔らかい、甘すぎるアイスになる。
多糖類安定剤も候補になる。広く用いられているローカストビーンガムや、グアーガム、カラギーナン、アルギン酸、ペクチンなどの水溶性の高い多糖類は、水を保持し、未凍結水相の粘度を高める。グアーガムは、比較的安価で水和しやすく、少量で未凍結水相の粘度を高められるため、アイスクリーム用安定剤として広く用いられている。一方、ローカストビーンガムは氷晶再結晶の抑制やなめらかな食感の付与に優れるが、一般にグアーガムより高価である。そのため実際の設計では、グアーガムを基礎に、ローカストビーンガムやカラギーナンを組み合わせて、水相の粘度、氷晶成長、乳タンパク質の分散性を調整することが多い。これにより、保存中の氷晶再結晶が抑えられ、融解時の液相排出も遅くなる。とくにアイスクリームでは、製造直後の氷晶が小さくても、保存中の温度変動によって小さな氷晶が溶け、大きな氷晶へ成長することが問題になる。多糖類安定剤は、この水分移動と拡散を遅らせることで、ざらつきの発生を効果的に抑える働きになる。
多糖類安定剤を添加すると粘度が高くなりすぎるため注意が必要である。粘度が過度に高くなると、凍結撹拌中の空気の取り込みが悪くなり、口の中でべたつきや糊っぽさが残り、アイスクリーム本来のなめらかな口どけが損なわれる。したがって、多糖類安定剤は、氷晶成長を抑えるためには効果的だが、なめらかな口どけを保つためには好ましくない。
さらに、タンパク質と多糖類の相互作用にも注意が必要である。乳タンパク質は多糖類や糖、塩類、カルシウムイオンなどと未凍結水相に存在している。そのため、多糖類の効果は、多糖類そのものの増粘性だけでなく、未凍結水相の濃度、pH、イオン強度、カルシウム濃度によって大きく変化する。特に pH やイオン強度は、タンパク質表面の電荷や静電反発を変えるため、酸味や塩味の調整だけでなく、溶液の特性を変えることにも注意する必要がある。特に、カルシウムイオンはカゼインミセルの構造やタンパク質間相互作用に影響するため重要な制御因子になりえる。
◆脂肪球界面膜の制御
脂肪球界面膜の制御について考えてみたい。アイスクリームでは、脂肪球を安定に分散させるだけでは不十分であり、凍結撹拌の段階では、脂肪球どうしが適度に接触して部分合一する必要がある。したがって、脂肪球表面を覆うタンパク質膜は、強すぎても弱すぎても望ましくない。強すぎれば脂肪球はばらばらのままで気泡を支える構造ができにくく、弱すぎれば過剰な合一が起こり、粗大な脂肪塊や油相分離につながるからである。
この問題は、脂肪球を「タンパク質で被覆されたコロイド粒子」として扱うことで理解が深まり、制御の可能性を考察できる。脂肪球表面に吸着したカゼインや乳清タンパク質は、静電反発や立体反発を生み出し、脂肪球間の相互作用ポテンシャルを変化させる。脂肪球をより安定させたいのであれば、pHであれば等電点から離す、または凝集抑制剤として働くアミノ酸などを用いるなどの方法が想定できる。一方、低分子の乳化剤を添加すると、タンパク質膜に入り込むことで、界面膜を剪断しやすい状態へ変える。
低分子乳化剤はごくわずかでも効果があるため、多くのアイスクリームにはモノグリセリド、ジグリセリド、ポリソルベート、レシチンなどが含まれている。ここでの乳化剤は、一般的な意味で乳化を安定化する成分ではなく、アイスクリームではむしろ脂肪球を部分合一しやすくする成分として添加されている。乳化剤が少なすぎると、脂肪球は安定なままで気泡を支えるネットワークを作りにくい。逆に多すぎると、脂肪球が過剰に凝集し、バターのような油っぽさの原因になる。
低分子乳化剤を使わなくても、アイスクリームを作ることはできる。しかし、その場合には、脂肪球界面膜を適度に弱めて部分合一を誘導する仕組みを、別の方法で補う必要がある。乳タンパク質は脂肪球を分散させる力に優れるが、安定化が強すぎると、凍結撹拌中に脂肪球どうしがつながりにくくなる。したがって、低分子乳化剤を添加しない自然なアイスクリームを作るためには、脂肪量や脂肪結晶化の調整と、卵黄成分であるレシチンや多糖類安定剤などを組み合わせ、エージングや撹拌条件を検討する。
なお、ここで述べた低分子乳化剤とは別に、水溶性の多糖類安定剤が添加されることが多い。低分子乳化剤が主として脂肪球界面を制御するのに対し、多糖類安定剤は主として水相を制御する。多糖類安定剤を使わず、乳タンパク質だけでアイスクリームを作ることもできるが、この場合、タンパク質は脂肪球界面の安定化には寄与するが、多糖類に比べると水を抱え込み氷の成長をおさえる力は弱い。そのため、作りたてはなめらかでも、温度変動を受けると氷晶が粗大化し、ざらつきや形崩れが生じやすくなる。乳タンパク質だけで設計する場合、未凍結水相を安定に保持するため、タンパク質の予備的な処理をほどこすとともに、氷の結晶をふせぐ糖類や、タンパク質相互作用を安定に保つはたらきのあるアミノ酸類が増えるような素材の設計がよい。