食品タンパク質
栄養素でもあるが、溶液設計の多様性が面白い
栄養素でもあるが、溶液設計の多様性が面白い
食品としてのタンパク質溶液
食品のおいしさは、味だけではなく、口どけや弾力、ふくらみ、なめらかさ、固まり方などによっても決まります。これらの性質は、タンパク質が溶液中で分散し、凝集し、油や空気との界面に吸着し、ゲル化や起泡などの多様な状態変化をとおしてできあがります。アイスクリームやラーメン麺、パン、卵白ゲルなど身近な食品は、いずれもこのような状態変化の過程をうまく制御してつくられたものです。しかし食品では、あくまで最終的なおいしさが評価の中心になるため、そこに至るタンパク質溶液としてのプロセス、すなわち我々が最も興味を持つ過程はあまり注目されなかったと思います。ここでは、蛋白質溶液学の視点を適用し、食材製剤の面白さをあらためて言葉で書くことで、共有してみたいと思います。この背後にあるより基礎的な考え方は、ほかのページに詳述していますので、あわせてご参照ください。
◆ヨーグルト
牛乳は、カゼインミセルと脂肪球が乳清中に分散したコロイド分散液であり、乳糖、カルシウム、リン酸などの低分子成分も含んでいる。牛乳の白濁は、主にカゼインミセルと脂肪球による可視光散乱に由来する。ヨーグルト製造では、このコロイド分散液を、乳酸発酵による緩やかなpH低下によって、カゼイン粒子が水相を抱えた酸性ゲルへ移行させる。このヨーグルトの製造過程を、著名な論文を追いながら(Lee 2010)、蛋白質溶液学の視点からそこで何が生じているのかを見ていきたい。
■原料乳の成分調整
製造では、まず原料乳を目的の組成に標準化する。具体的には、製品設計に応じて脂肪含量を調整し、脱脂粉乳、濃縮乳、乳タンパク質濃縮物などを加えて無脂乳固形分を高める。それぞれの成分の意味は次のように整理できる。
脂肪含量が高いほど、ゲル中に分散する脂肪球粒子の体積分率が増える。その後の均質化によって脂肪球はタンパク質で被覆されたコロイド粒子となる。そのため、脂肪が多いヨーグルトでは、口当たりが濃厚になり、クリーミーさやなめらかさが増す。
一方、酸性ゲルの骨格を主に作るのはカゼインミセルである。したがって、カゼイン濃度が高いほど、酸性化後に生じるカゼイン粒子間の接触点が増え、ゲルは硬く、粘性が高く、乳清分離が起こりにくくなる。すなわち、ヨーグルトの保形性や保水性は、脂肪よりもタンパク質濃度、とくにカゼインミセル濃度の影響を強く受ける。
さらに、カゼイン以外の乳タンパク質、すなわち乳清タンパク質は、加熱により天然構造を失い、β-ラクトグロブリンを中心に、κ-カゼインを含むカゼインミセル表面に結合する。その結果、乳清タンパク質はカゼイン粒子間を橋渡しし、酸性化後に生じるゲル網目を細かくする成分として働く。
■均質化と加熱処理
成分を標準化した乳は、均質化のため、55–65 ℃程度に加温した後、15–20 MPa程度の圧力で処理される(Asaduzzaman 2021; Arab 2023)。均質化により脂肪球は微細化され、表面積が増加する。その表面にはカゼインや乳清タンパク質が吸着するため、脂肪球は単なる油滴ではなく、タンパク質で被覆されたコロイド粒子、いわばタンパク質コロナをもつ脂肪球として酸性ゲルに参加する(Le Ba 2025)。
均質化後の乳は、通常の飲用乳よりも強い条件で加熱される。代表的な条件は、85 ℃で30分、または90–95 ℃で5分程度である。この加熱の第一の目的は殺菌だが、分子レベルでは乳清タンパク質をカゼインミセル表面に結合できる状態へ変える前処理でもある。β-ラクトグロブリンでは、加熱により疎水性領域や反応性チオール基が露出する。乳清タンパク質のα-ラクトアルブミンも熱で構造変化を受けるが、遊離チオール基をもたないため、β-ラクトグロブリンほどカゼインミセルを架橋する因子にはなりにくい。酸性ゲル骨格の補強には、β-ラクトグロブリンが主要な役割を担うと考えてよい。
カゼインは、コロイド状リン酸カルシウムを介して集合したミセル状粒子として分散している。そのため、典型的な球状タンパク質のように、加熱によって明瞭にアンフォールディングするわけではない。加熱後もカゼインミセルは粒子として残る。一方、ミセル表面層、水和状態、カルシウムとの結合状態はネイティブな分散状態から変化し、変性したβ-ラクトグロブリンなどの乳清タンパク質がミセル表面に結合する。これにより、酸性化時にミセル同士が連結しやすくなり、細かい網目をもち、水相を拘束しやすい酸性ゲルが生じやすくなる。
■乳酸発酵
加熱処理のあと、乳はスターター菌の増殖に適した40–45 ℃付近まで冷却される。一般に、ヨーグルトスターターとしては、Streptococcus thermophilus と Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus が用いられる。これらは高温域でよく増殖する乳酸菌であり、乳糖代謝により酸を生成する。また、S. thermophilus は発酵初期に速やかに増殖し、L. delbrueckii subsp. bulgaricus は乳タンパク質を分解してペプチドやアミノ酸を供給するため、両者は互いの増殖を助けながら酸生成を進める。
乳酸が蓄積すると、乳のpHは約6.7から4.6へ低下する。発酵温度や原料乳組成などによって酸生成速度は変わるが、42–45 ℃で培養する場合、通常は3–5時間程度で目的のpHに到達する。十分に加熱処理された乳では、最終pHに達する前のpH 5.2–5.4付近からゲル化が始まる。これは、加熱によりβ-ラクトグロブリンがミセル表面に結合できる状態となり、酸性化時の粒子間会合を促すためである。殺菌加熱していない乳でも酸性化によってカゼインミセルの分散安定性は低下するが、β-ラクトグロブリンがミセル表面に結合できる状態になっていないため、ゲル化の開始はより低いpH側になる。その場合、形成されるゲルは粗大なカゼイン凝集領域を含み、乳清分離を起こしやすい。
乳酸が蓄積するにつれて、カゼインミセル表面の負電荷は減少し、同時にコロイド状リン酸カルシウムの溶出が進む。その結果、ミセル内部構造も変化する。pHがカゼインの等電点に近い4.6付近へ近づくと、粒子間の静電反発はさらに低下し、主に疎水性相互作用によってカゼイン粒子間の接触が増える。粒子間の連結が試料全体に及ぶと、酸性ゲルが成立する。このとき、ゲルの空隙には乳清相が閉じ込められ、一部の水はタンパク質表面の水和層として拘束される。均質化された脂肪球は、タンパク質被覆脂肪球としてカゼイン骨格中の充填粒子となり、水、乳糖、塩類を含む乳清相は、ゲル空隙とタンパク質表面に分配される。
pHが約4.6になるとヨーグルトは冷却される。冷却は乳酸菌の活動を低下させ、乳酸生成を遅くし、過剰な酸生成とその後のゲル構造変化を抑える操作である。セットヨーグルトでは、容器内で固まった酸性ゲルを壊さずに冷却し、カゼイン骨格をそのまま保つ。一方、撹拌ヨーグルトでは、タンク内でいったん固まったゲルを撹拌やポンプ輸送によって部分的に壊し、破断されたゲル片を乳清相中に懸濁させる。これにより、保形性のある連続ゲルではなく、細かく破断されたゲル片が分散した、流動性のある弱ゲル系として仕上がる。
■離水
ヨーグルトの品質欠陥として重要なのが離水である。離水は、ゲル網目が水相を拘束できず、乳清が表面に分離する現象である。乳清分離を抑えるには、これまで述べてきた工程のうち、原料乳のタンパク質濃度を高めること、均質化によって脂肪球を微細化してタンパク質被覆脂肪球としてカゼイン骨格に取り込むこと、85 ℃で30分などの加熱殺菌でβ-ラクトグロブリンを十分に構造変化させ、カゼインミセル表面への結合を促すことが有効である。発酵温度と発酵時間は、酸生成速度とゲル収縮を左右する。高すぎる発酵温度や過発酵は、酸生成を進めすぎ、カゼイン骨格の収縮と乳清分離を起こしやすくする。したがって、発酵終了点をpH 4.6付近に置き、到達後に速やかに冷却することが、ゲル収縮を抑えるうえで重要である。
追加的には、急激な酸性化や過度の撹拌を避け、冷却を段階的に行い、ペクチン、ゼラチン、デンプン、カラギーナンなどの多糖類で水相を拘束する方法がある。これらの操作は、ゲル網目の孔径を小さくし、乳清相を閉じ込めやすくする。ただし、安定剤の過剰添加は、ヨーグルトらしい弱ゲル感を失わせ、ゼリー状の硬い食感を生じることがある(Arab 2023)。
■チーズとの比較
ヨーグルトとチーズは、どちらも牛乳中のカゼインミセルの安定性を変え、カゼインを連結させて食品構造を作る点で共通している。しかし、両者では水の扱いが異なる。この点を整理したい。
酸性ゲル型の発酵乳では、乳酸発酵によりpHを4.6付近まで下げ、カゼインミセルを水相を抱えた酸性ゲルに変える。形成されたゲルは、基本的にはそのまま食品構造として利用される。つまり、ヨーグルトでは、カゼイン骨格の空隙にホエイ、すなわち水を主成分とし、乳糖、可溶性塩類、乳酸、可溶性タンパク質などを含む乳清相を残すことが、保形性と口当たりを支える。これに対して、チーズ製造では、カゼイン骨格に脂肪球を取り込んだカードを作り、そのカードからホエイを抜くことで、タンパク質と脂肪を濃縮する。
代表的なレンネットチーズでは、まず乳にスターター菌を加えてレンネット凝固に適したpH域まで下げ、次にレンネット、すなわち凝乳酵素の混合物を加えてカード形成を開始させる。チーズ用スターター菌は、乳酸を生成してpHを下げる点ではヨーグルトスターターと共通するが、必ずしも同じ菌ではない。ここでの酸性化は、ヨーグルトのようにpH 4.6付近まで下げて酸性ゲルを作るためではなく、レンネット凝固を助け、その後のカード収縮とホエイ排出を進めやすくするためである。
レンネットは、伝統的には仔牛の第四胃から得られる凝乳酵素製剤であり、主要酵素であるキモシンがκ-カゼインを切断してカゼインミセルを凝集させる。現在では、微生物由来酵素や発酵生産キモシンも広く用いられる。キモシンは、カゼインミセル表面にあるκ-カゼインを特異的に切断する。κ-カゼインのC末端側には親水性が高く、糖鎖を含む領域がある。この層は、ミセル同士が近づきすぎることを防ぎ、立体反発と静電反発によってカゼインミセルの分散安定性を保っている。キモシンはこの親水性領域を切り離す。その結果、カゼインミセル表面の保護層が失われ、カルシウム存在下でカゼインミセル同士が接触しやすくなり、カードが形成される(Salvador 2022)。
ここで起こるのは、酸性化による段階的な安定性低下ではなく、酵素切断による保護層の除去である。ヨーグルトでは、pH低下によってカゼインミセル表面の負電荷が減少し、κ-カゼイン層による立体反発も弱まることで、ミセル同士が会合する。一方、レンネット凝固では、キモシンがκ-カゼインの親水性保護層を切り離し、ミセル表面の安定化機構を直接取り除く。したがって、ヨーグルトでは酸性化によって分散安定性が徐々に低下するのに対し、レンネットチーズでは酵素反応によってミセル表面の保護層が失われる。
カードが形成された後の処理も、ヨーグルトとは異なる。チーズ製造では、まずゲル状に固まったカードをカードナイフやワイヤーカッターで切断し、数 mmから1 cm程度の目で見えるカード粒にする。続いて加熱や撹拌を行うと、カード骨格が収縮し、ホエイが排出される。ヨーグルトではこのような水相の分離は離水として避けるべき現象であるが、チーズでは固形分を濃縮するために必要な工程である。さらに、排乳、加塩、圧搾によってホエイを除き、カゼインと脂肪を濃縮する。熟成チーズでは、その後の熟成中にタンパク質や脂質が分解され、硬さ、風味、組織が変化する(Li 2023)。
参考文献
Arab, M.; Yousefi, M.; Khanniri, E.; Azari, M.; Ghasemzadeh-Mohammadi, V.; Mollakhalili-Meybodi, N. A Comprehensive Review on Yogurt Syneresis: Effect of Processing Conditions and Added Additives. J. Food Sci. Technol. 2023, 60, 1656–1665.
Asaduzzaman, M.; Mahomud, M. S.; Haque, M. E. Heat-Induced Interaction of Milk Proteins: Impact on Yoghurt Structure. Int. J. Food Sci. 2021, 2021, 5569917.
Le Ba, T.; Dam, M. S.; Nguyen, L. L. P.; Baranyai, L.; Kaszab, T. A Review of Processing Techniques and Rheological Properties of Yogurts. J. Texture Stud. 2025, 56, e70006.
Lee, W. J.; Lucey, J. A. Formation and Physical Properties of Yogurt. Asian-Australas. J. Anim. Sci. 2010, 23, 1127–1136.
Li, B.; Kelly, A. L.; McSweeney, P. L. H. Cheese Manufacture. In Handbook of Cheese Chemistry; Tunick, M. H., Ed.; Royal Society of Chemistry: Cambridge, 2023; Chapter 4, pp 62–86.
Salvador, D.; Acosta, Y.; Zamora, A.; Castillo, M. Rennet-Induced Casein Micelle Aggregation Models: A Review. Foods 2022, 11, 1243.
◆コーラ牛乳
牛乳にコーラを加えてしばらく置くと、白っぽい沈殿が生じ、上の液体が透明に近くなることがある。見た目には、コーラの褐色が消え、下に白色から褐色がかった沈殿がたまる現象として観察される。これはコーラ牛乳として知られている面白い現象で、YouTubeでもよく取り上げられている。YouTubeで最も再生されているのはヒカキンによるもので、900万回以上も再生されている(1)。
コーラ牛乳の透明化について、従来よく説明されてきた仮説は、主に次の二つである。まず、酸によるカゼイン凝固である(2)。牛乳中の主要タンパク質であるカゼインは、カゼインミセルとして分散している。pHが低下して等電点付近に近づくと、カゼイン粒子間の静電反発が弱まり、凝集しやすくなる。ヨーグルトや酸凝固チーズで見られる現象と同じように、酸性条件でカゼインが凝集・沈殿するという説明である。別の説として、リン酸またはリン酸塩による沈殿形成である(3)。コーラには酸味料としてリン酸が含まれているため、リン酸が牛乳中のカルシウムやカゼインと相互作用し、沈殿を促すと考えられてきた。また、沈殿したタンパク質やリン酸カルシウム様の成分が、コーラのカラメル色素などを巻き込んで沈降することで、上清が透明になるという説明もある。
これらの説明は、現象の大まかな理解としては有用である。しかし、牛乳にコーラを混ぜると、一定の比率になったときに強く沈殿するという特徴までは十分に説明できない。もし、ヨーグルトの製造と同じように酸による乳タンパク質の凝固であれば、コーラ濃度を上げるほど酸性化が進み、沈殿も単調に増えると予想される。ところが実際には、コーラ濃度が高くなると沈殿しにくくなるのである。
◆ポリリン酸による沈殿
コーラの濃度に依存したコーラ牛乳の沈殿現象は、リエントラント凝縮として理解できるという報告がある(4)。リエントラント凝縮とは、ある成分の濃度を上げていくと、溶液が分散していたものが沈殿し、ふたたび分散した状態になる現象である。この論文では、まず1%牛乳に対してコーラ濃度を変え、上清の濁度を測定している。その結果、酸性条件(pH 3.2–3.6)では、コーラ濃度30–40%付近で上清濁度が低下した。これは、乳タンパク質が沈殿し、上清が透明化したことを意味する。一方、低コーラ濃度や高コーラ濃度では白濁が残り、中性条件(pH 7.0–7.4)では明瞭な沈殿は見られなかった。
次に、牛乳の主要タンパク質であるカゼインに着目し、カゼインにコーラを加えることで同様の実験を行っている。その結果、カゼインだけを用いても、コーラ濃度の増加に伴って、上清中カゼイン濃度がいったん低下し、その後再び上昇する挙動が観察された。つまり、この沈殿と溶解の相挙動は、乳タンパク質全体ではなく、カゼインとして再現できることがわかった。
さらに、コーラ中の成分としてポリリン酸に注目している。ポリリン酸は負に帯電した多価アニオンであり、酸性条件では正に帯電したカゼインと静電的に相互作用できる。テトラリン酸とカゼインを用いた単純化モデルでも、リエントラント凝縮の振る舞いが観察されたのである。
すなわち、牛乳にコーラを混ぜると透明になる現象は次のように考えられる。低コーラ濃度では、酸性条件のカゼインは正に帯電しており、カゼイン同士は静電反発によって分散している。中間濃度のコーラでは、負に帯電したポリリン酸がカゼイン同士を架橋し、電荷中和によって沈殿が起こる。さらに高コーラ濃度では、過剰なポリリン酸がカゼイン表面に結合し、カゼイン複合体の電荷が負に反転する。その結果、今度は負電荷同士の反発によって再分散する。
◆リエントラント凝縮
リエントラント凝縮は、一見すると特殊な現象に見えるが、タンパク質溶液やコロイド分散系では広く関係する概念である(5)。添加剤は単に凝集の促進剤でも抑制剤でもなく、濃度依存的に振る舞う場合がある。典型的には、荷電タンパク質と多価イオンの組み合わせで起こる。低濃度の多価イオンは、タンパク質間を架橋したり、電荷を中和したりして凝縮を誘導する。しかし、さらに高濃度になると、タンパク質表面が過剰に同符号の電荷を帯び、電荷反転によって再び分散する、という原理である。例えば、抗体に高分子電解質を添加していくと沈殿が生じるが、さらに濃度を高めると溶解するような現象が見られるが、このような可逆性の高い沈殿物がバイオ医薬品の濃縮に使えるという提案がある(6)。
このような考え方は、食品の設計にも重要である。たとえば乳タンパク質の凝集、チーズやゲルの形成、タンパク質と多糖類の複合体形成、食品添加剤による沈殿制御などでは、添加剤濃度によって凝集と再分散が入れ替わる可能性がある(7)。したがって、食品添加剤を「固める成分」「溶かす成分」として固定的に考えるのではなく、相図を変える因子として考える必要がある。
また、リエントラント凝縮は、細胞内の液-液相分離や膜なしオルガネラの形成・消失とも関係する(8)。細胞内では、タンパク質、RNA、ポリリン酸、塩、低分子代謝物などが複雑に共存している。ある成分の濃度が時間とともに変化すると、凝縮体が形成され、さらに濃度が高くなると消失することがありうる。これは、細胞内の時間制御や局所的な反応場の形成を理解する上でも重要な視点である。
参考文献
1. HikakinTV. What Happened When I Mixed Milk With Coke? Then I Tried It! YouTube, 2014.
2. Lucey, J. A. Formation and Physical Properties of Milk Protein Gels. J. Dairy Sci. 2002, 85, 281–294.
3. Guo, C.; Campbell, B. E.; Chen, K.; Lenhoff, A. M.; Velev, O. D. Casein Precipitation Equilibria in the Presence of Calcium Ions and Phosphates. Colloids Surf., B 2003, 29, 297–307.
4. Furuki, T.; Nobeyama, T.; Suetaka, S.; Matsui, R.; Fukuoka, T.; Arai, M.; Shiraki, K. Reentrant Condensation of a Multicomponent Cola/Milk System Induced by Polyphosphate. Food Chem. X 2024, 21, 101165.
5. Zhang, F.; Weggler, S.; Ziller, M. J.; Ianeselli, L.; Heck, B. S.; Hildebrandt, A.; Kohlbacher, O.; Skoda, M. W. A.; Jacobs, R. M. J.; Schreiber, F. Universality of Protein Reentrant Condensation in Solution Induced by Multivalent Metal Ions. Proteins: Struct., Funct., Bioinf. 2010, 78, 3450–3457.
6. Kurinomaru, T.; Shiraki, K. Aggregative Protein–Polyelectrolyte Complex for High-Concentration Formulation of Protein Drugs. Int. J. Biol. Macromol. 2017, 100, 11–17.
7. Schmitt, C.; Turgeon, S. L. Protein/Polysaccharide Complexes and Coacervates in Food Systems. Adv. Colloid Interface Sci. 2011, 167, 63–70.
8. Banerjee, P. R.; Milin, A. N.; Moosa, M. M.; Onuchic, P. L.; Deniz, A. A. Reentrant Phase Transition Drives Dynamic Substructure Formation in Ribonucleoprotein Droplets. Angew. Chem., Int. Ed. 2017, 56, 11354–11359.
◆卵白ゲル
ゆで卵は身近な卵白ゲルである。卵白は約90%の水と約10%のタンパク質からなる濃厚なタンパク質溶液であり、加熱によって白く固まったゲルへと変化する。食品として見れば、この変化は弾力のある状態に固まる調理現象である。一方、蛋白質溶液学の視点から見れば、これは加熱によるタンパク質の部分変性から、分子間会合、骨格形成へと連続して進む過程である。卵白を10倍ほど希釈すると、加熱によってタンパク質分子は会合するものの、会合体どうしが試料全体を支える連続相を作るには至らない。そのため、有限サイズの凝集粒子が水中に分散し、白く濁る。この白濁は、濁度測定によって定量しやすいため、凝集抑制剤や沈殿剤などの凝集現象を調べるよいモデルとなる(Chapter 5)。
卵白タンパク質の主成分はオボアルブミンであり、卵白タンパク質全体の約半分を占める。そのほか、卵白タンパク質にはオボトランスフェリン、オボムコイド、オボムチン、リゾチームなどが含まれる。多くは弱酸性側に等電点をもち、主要な塩基性タンパク質はリゾチームである(Abeyrathne 2013)。たとえば、オボアルブミンは酸性側に等電点をもち、中性から弱アルカリ性の卵白中では負電荷を帯びやすい。
卵白は、産卵直後から中性よりややアルカリ性であり、産卵直後の卵白pHはおよそ7.6–8.5である。その後、貯蔵中に二酸化炭素が卵殻の気孔を通じて放出されることで卵白pHは上昇し、貯蔵条件によってはpH 9.0–9.7程度に達する(Stadelman 1995)。このpH上昇は、室温保存では低温保存よりも速く進行する。すなわち、同じ加熱条件であっても、新鮮な卵白と貯蔵後の卵白では、加熱時の分子間反発が異なり、ゲルの硬さや保水性に違いが生じうる。
■加熱変性からゲル骨格へ
卵白ゲル化の第一段階は、加熱によるタンパク質の部分変性である。卵白の流動性はおよそ60 ℃付近から低下し、代表的には60–65 ℃付近と80–85 ℃付近に熱変性に対応する変化が現れる。前者は主に熱安定性の低いオボトランスフェリン、後者は主成分であるオボアルブミンの変性に対応するとされる(Alleoni 2006)。オボトランスフェリンは凝固開始に重要な役割をもち、オボアルブミンは高温側で変性してゲル骨格の形成に寄与する。
加熱によって天然状態の卵白タンパク質が部分的にほどけると、分子内部に埋もれていた疎水性領域や反応性の高い側鎖が表面に露出する。その結果、疎水性相互作用や静電相互作用などの非共有結合性相互作用だけでなく、ジスルフィド結合交換なども介してタンパク質どうしが会合する(Handa 2024)。露出した分子表面を介した会合が分岐を伴って進むと、タンパク質集合体は水相を貫く骨格へ成長する。一方、卵白を希釈したり、分子間相互作用を弱める添加剤を加えたりすると、会合体は粒子状の集合体として水中に分散し、白濁した凝集体になる。
卵白ゲルでは、変性分子が接触できるだけの会合性と、粗大化を遅らせるだけの反発性が同時に必要である(Razi 2024)。タンパク質どうしの静電反発が強い状態では、加熱によってアンフォールドしても変性分子間の接触頻度が低くなる。そのため、会合点の数が少なくなり、弱く疎な骨格になりやすい。反対に、等電点付近や高塩濃度のように静電反発が小さすぎる状態では、近接した変性分子だけで密な凝集塊を作る。この場合、タンパク質に富む領域が粗大化し、網目の大きさがそろわないため、白濁し、保水性の低いゲルになりやすい。
■溶液設計によるゲル構造の調整
pHは、卵白ゲルの構造を変える代表的な因子である(Croguennec 2002)。pHが変わると、タンパク質表面の正味電荷が変化し、加熱中の分子間反発と会合経路が変わる。卵白タンパク質の主要成分の多くは等電点が酸性側にあるため、pH 5付近では正味電荷が小さくなり、静電反発が弱くなる。その結果、変性分子間の接触頻度は高まるが、会合が無秩序に進みやすく、粗大なタンパク質ドメインを含む不均一なゲルになりやすい。このようなゲルは、保水性が低く、粘弾性も低くなりやすい。一方、中性から弱アルカリ性では、卵白タンパク質はより強い負電荷をもち、分子間の静電反発が残る。この反発は、過度な粗大化を抑え、変性したタンパク質が段階的に会合する時間的余裕を与える。そのため、pH 7やpH 9では、pH 5付近に比べて、より保水性と粘弾性に優れたゲルが形成されやすい。
塩は、卵白タンパク質の会合速度を変える。NaClが少量加わると、タンパク質表面の電荷が遮蔽され、変性分子間の静電障壁が下がる。卵白ゲルでは、1–3% NaCl、すなわち約0.17–0.51 M程度の範囲で、ゲルの硬さや弾性が高まる場合がある(Croguennec 2002)。これは、静電反発が弱まり、変性タンパク質どうしの接触点が増えるためである。NaCl濃度がさらに高くなると、効果は逆になる。たとえば6% NaClは約1.03 Mに相当し、食品としてはかなり強い塩濃度である。ここまで高くなると静電反発が過度に小さくなり、変性したタンパク質が近傍の分子と急速に会合する。会合速度が速すぎると、変性分子は遠くの分子と均一につながる前に、近くの分子だけで密な凝集塊を作る。その結果、連続相の中にタンパク質に富む領域と水に富む領域が生じ、離水しやすくなる。塩味として感じられる濃度域が、タンパク質間の静電反発を変える濃度域と重なる点が、卵白ゲルを食品として扱ううえで重要である。
■多糖類による保水と空間分布の調整
0.1%前後の多糖類添加でも、卵白ゲルの硬さと保水性は変わる。キサンタンガム0.20%では保水性が97.18%まで高まり、グアーガムとカラヤガムは0.01%でゲルを硬くする(Khemakhem 2019)。コンニャクグルコマンナンでは、0.06 wt%付近でゲル強度と保水性が最大となり、低磁場NMRで水の緩和挙動も変化する(Liu 2013)。キサンタンガムを0.06 wt%加えた卵白ゲルでは、硬さとばね性が高まり、水の緩和挙動も変化する(Zhang 2019)。この濃度域は、卵白タンパク質量に比べれば少量であるが、タンパク質濃度をほぼ変えずに、加熱中の水の移動とタンパク質会合の進み方を変える。
ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を加えた卵白ゲルでは、pH 7とpH 3で、卵白タンパク質とHPMCの空間分布が変わる。pH 7では、卵白タンパク質とHPMCを含む粒子状の会合体が大きくなりやすく、時間とともにタンパク質に富む領域とHPMCに富む領域へ分かれる。この会合体は、静電的な複合体ではなく、非イオン性のHPMCと卵白タンパク質が同じ水相中で均一に混ざり続けにくいことから生じるフロックである。pH 3では、卵白タンパク質が正電荷を帯びるため、タンパク質を含む会合体どうしの反発が残り、大きなフロックへ成長しにくい。加熱後も卵白タンパク質とHPMCが同じ領域に残りやすく、pH 7より硬く、ばね性の高いゲルになる(van den Berg 2015)。
■卵白ゲルを溶液設計として理解する
卵白ゲルの硬さ、白濁、保水性は、加熱中のタンパク質がどの速度で接触し、水相をどのスケールの網目で拘束するかによって決まる。pHは加熱中の分子間反発を決め、等電点に近いpHでは粗大なタンパク質ドメインを生じやすくし、中性から弱アルカリ性では静電反発を残して細かい骨格を作りやすくする。NaClはイオン強度を上げ、1%前後ではタンパク質間の接触点を増やすが、数%まで高くなると急速な会合と離水を促す。0.01–0.20%程度の多糖類は、水の移動、タンパク質粒子の成長、ゲル網目の細かさを変える。卵白ゲルは、pH、イオン強度、微量高分子添加によって、タンパク質凝集を食感へ変換する食品タンパク質ネットワークである。
参考文献
Abeyrathne, E. D. N. S.; Lee, H. Y.; Ahn, D. U. Egg White Proteins and Their Potential Use in Food Processing or as Nutraceutical and Pharmaceutical Agents—A Review. Poult. Sci. 2013, 92, 3292–3299.
Alleoni, A. C. C. Albumen Protein and Functional Properties of Gelation and Foaming. Sci. Agric. 2006, 63, 291–298.
Croguennec, T.; Nau, F.; Brulé, G. Influence of pH and Salts on Egg White Gelation. J. Food Sci. 2002, 67, 608–614.
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◆乾燥卵白のハイゲル化
乾燥卵白のハイゲル化とは、乾燥卵白を乾いた状態であらかじめ加熱し、再び水に溶かしてから加熱したときに、通常よりも強い卵白ゲルを形成させる改質技術である(Kato 1989)。卵加工の分野では、このような高いゲル形成能をもつ乾燥卵白を「ハイゲル乾燥卵白」と呼ぶ。乾熱処理によって生じる可溶性凝集体を手掛かりに、卵白ゲルの形成機構を理解したい(Handa 2024)。
乾燥卵白は、液卵白を脱糖した後に噴霧乾燥し、殺菌を兼ねて乾熱処理される。ハイゲル化では、この乾熱処理を 70–80 ℃で 1–4 週間程度行う。液卵白を 80 ℃で加熱すれば短時間でゲル化するが、乾燥卵白では水分が少ないため、同じ温度域で長期間加熱しても一気に流動性を失うわけではない。タンパク質分子の大規模な拡散と再配列が制限されるため、完全な不溶化には至らない範囲で、再び水に分散できる可溶性凝集体が蓄積する。この可溶性凝集体の形成が、ハイゲル化の中心となる(Kato 1989; Handa 2024)。
通常の液卵白を加熱すると、タンパク質はまず変性し、内部に埋もれていた疎水性領域や反応性基が露出する。卵白のようにタンパク質濃度が高い系では、変性した分子同士が衝突し、疎水性相互作用、ジスルフィド結合、その他の共有結合性架橋を介して連続した三次元ネットワークを形成する。その結果、溶液は流動性を失い、含水性のゲルとなる。一方、タンパク質濃度が低い場合や分子間相互作用が局所的に進む場合には、連続ネットワークを形成する前に分散した凝集体として成長し、白濁や沈殿として観察されやすい(Handa 2024)。
乾熱処理後の乾燥卵白では、再溶解した時点でタンパク質の一部が可溶性凝集体として存在している。この凝集体は、再加熱時に単量体から新たにゲルを作り始める系とは異なり、ゲル化前の初期構造を規定する前駆体として働く。処理が弱すぎれば可溶性凝集体は十分に形成されず、処理が強すぎれば不溶性凝集体が増え、再溶解性と均一なネットワーク形成が損なわれる。したがって、ハイゲル化では、不溶化しない範囲で可溶性凝集体を適度に形成させることが重要である。市販乾燥卵白製品でも、可溶性凝集体の平均分子量と加熱ゲル強度との間に強い相関が報告されている(Handa 2001)。ただし、平均分子量だけでゲル強度が決まるわけではなく、乾燥卵白の pH や凝集体表面の電荷状態もネットワーク形成に影響する(Handa 2001; Handa 2024)。
再溶解後に加熱してゲルを作る段階では、液卵白と共通する加熱ゲル化反応が進む。疎水性相互作用やジスルフィド結合に加え、ランチオニン結合やリジノアラニン結合などの共有結合性架橋もネットワークを固定する。液卵白の加熱ゲル化では、ランチオニン結合量がゲル硬さと強く相関することが報告されている(Koyama 2020)。一方、乾熱処理した乾燥卵白では、ランチオニン結合とリジノアラニン結合の両方が増加し、乾熱処理中の可溶性凝集体形成にも共有結合性架橋が関与する(Koyama 2021)。したがって、ハイゲル乾燥卵白の強いゲル形成能は、単に架橋点が増えるためではなく、乾熱処理で形成された可溶性凝集体が、再加熱時の過剰な凝集を抑えながら、細かく均一なネットワークへ組み込まれるためと考えられる(Koyama 2021; Handa 2024)。
引用文献
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◆卵白泡の溶液設計
調理でメレンゲと呼ばれる卵白泡は、卵白タンパク質が気液界面に吸着し、界面で展開・会合して粘弾性的な界面膜を形成することで安定化される。気液界面は、水相中のタンパク質にとって低極性の境界面であり、タンパク質が吸着すると、内部に埋もれていた疎水性領域が界面側へ露出しやすくなる。そのため、泡が形成されるには、タンパク質が水相から気液界面へ移動し、親水性領域を水相側に、疎水性領域を空気側に向けた両親媒性の膜をつくる必要がある。一方、形成された泡を長く保つには、気泡と気泡のあいだにある薄い水相が重力によって下へ抜けるのを抑え、液膜が薄くなりすぎないようにする必要がある。液膜が保たれると、隣り合う気泡の液膜破裂と合一が遅くなり、泡全体の崩壊も抑えられる(Razi 2023)。
卵白泡の溶液設計で最初に決める条件はpHである。卵白タンパク質の泡立ち性をpH 5、7、9で比較した実験では、pH 5で泡立ち容量と泡安定性が高くなる(Kuropatwa 2009)。これは、卵白の主要タンパク質にオボアルブミンなどの酸性タンパク質が多く、pH 5では卵白タンパク質全体の正味電荷が小さくなるためである。正味電荷が小さいと、気液界面に吸着したタンパク質間の静電反発が弱まり、分子同士が会合しやすくなる。その結果、界面に比較的密なタンパク質膜が形成され、気泡間の液膜が保たれやすくなる。pHを7や9へ上げると、卵白タンパク質は負に帯電し、界面に吸着した分子間の静電反発が大きくなる。この状態では、タンパク質が界面で密に詰まりにくく、気泡間の液膜が破れやすくなる。そのため、気泡の合一が進み、泡安定性は低下する(Kuropatwa 2009)。
このpH依存性は、卵白アルブミン濃度を変えた実験でも確認される。卵白アルブミン濃度とpHを組み合わせた実験では、0.1%よりも1%で泡立ちと泡安定性が高くなり、その効果はpH 4.0で最も強く現れる(Razi 2020)。低濃度では、気液界面を十分に覆うだけのタンパク質が不足し、泡を支える界面膜が形成されにくい。濃度を上げると界面に供給されるタンパク質量は増えるが、pH 7.0では分子間の静電反発が残るため、界面膜は密にまとまりにくい。これに対してpH 4.0では、界面被覆に必要なタンパク質量が確保され、さらに吸着分子間の静電反発も小さいため、界面での会合が進みやすい。その結果、1%卵白アルブミン、pH 4.0の条件で、泡立てによる体積増加と泡安定性がともに高くなる(Razi 2020)。
一方、牛乳由来のホエイタンパク質画分と卵白タンパク質を混合したモデル系では、pH 9で、卵白タンパク質単独またはホエイタンパク質単独の場合に比べて、泡が多く形成され、形成後の泡も保たれやすくなる(Kuropatwa 2009)。pH 9では、ホエイタンパク質は溶解性を保ったまま気液界面へ移動しやすい。卵白タンパク質側では、オボアルブミンなどの酸性タンパク質は負に帯電するが、リゾチームのように正電荷を残す塩基性タンパク質や、タンパク質表面の局所的な正電荷領域も存在する。そのため、泡立て前の水相中で、ホエイタンパク質と卵白タンパク質の間に局所的な静電的相互作用が生じ、単独成分とは異なる複合的な吸着種が形成される。この吸着種が、気液界面への移動速度、界面被覆の進み方、界面膜の構造を変えることで、pH 9における泡立ち性と泡安定性が高くなると考えられる。したがって、pHの最適値は卵白タンパク質の等電点で基本的には理解できるが、共存タンパク質との相互作用によっても変化する。
糖類も卵白泡の溶液設計に利用できる。グルコース、スクロース、マルトデキストリンを卵白に添加した実験では、3%の糖添加によって表面張力が低下し、泡容量と泡安定性が高まる(Sun 2022)。特に3%マルトデキストリンでは、泡容量と泡安定性が最も高くなり、小さく均一な気泡が形成される(Sun 2022)。糖類は、タンパク質のように気液界面へ吸着して膜を作るのではなく、主に連続相の物性を変えて泡に作用する。糖添加によって表面張力が低下すると空気は取り込まれやすくなるが、水相粘度の上昇はタンパク質の界面到達と界面展開を遅らせる。したがって、泡立ての初期過程では、糖類は起泡を助ける作用と遅らせる作用を同時にもつ。一方、泡立て後には、粘度の高い連続相が気泡間液膜からの排液を遅らせ、膜破裂と気泡合一を抑える。マルトデキストリンのような糖質ではこの効果が強く、気泡の成長や粗大化が抑えられるため、小さく均一な気泡が維持されやすい。このため、糖類は、起泡速度と泡立て後の安定性を同時に変える連続相改質成分として働く。
卵白泡に塩化ナトリウムとスクロースを共存させると、両者は泡形成と泡安定化の異なる段階に作用する(Raikos 2007)。塩化ナトリウムは、卵白タンパク質表面の電荷を遮蔽し、同じ電荷をもつ分子間の静電反発を弱める。そのため、タンパク質は気液界面に吸着した後、界面上で互いに接近しやすくなり、膜状に会合しやすくなる。塩化ナトリウム濃度を上げ、泡立て時間を長くすると泡形成が促進されるのは、静電遮蔽によってタンパク質間の反発が弱まり、界面上で膜状の会合体が形成されやすくなるためである。一方、スクロースは糖類一般の粘度効果を示し、起泡初期にはタンパク質の界面到達を遅らせるが、泡立て後には排液と合一を抑える。したがって、塩化ナトリウムは主に界面膜形成を助ける起泡促進成分、スクロースは泡立て後の液膜保持を助ける安定化成分として働く。
多糖類は、形成された泡を長く保つ安定化剤として利用できる。1%の卵白アルブミンに、0、0.5、1%の塩化ナトリウムと、0、0.1、0.3%のバジルシードガムを添加した系では、塩化ナトリウムと多糖類が泡形成と泡安定性に異なる作用を示す(Razi 2019)。塩化ナトリウムを加えると、オーバーランは増加し、泡密度は低下する。オーバーランは、泡立てによって空気が取り込まれ、試料体積がどれだけ増加したかを示す指標である。一方、バジルシードガムは泡密度と泡安定性を高めるが、オーバーランを低下させる。この挙動は、多糖類による連続相の増粘が空気の取り込みを遅らせる一方で、泡立て後には気泡間液膜からの排液を抑えることを示している。バジルシードガム単独の効果も、0.3–0.5%の卵白アルブミンと0.1–0.6%のバジルシードガムの範囲で検討されており、添加により泡安定性が改善される(Razi 2018)。したがって、多糖類は、界面被覆を速めて起泡量を増やす成分ではなく、連続相に粘性と保水性を与え、泡立て後の排液・合一・粗大化を抑える安定化剤として働く。
ペプチド添加は、タンパク質とは異なる界面吸着成分を加える設計として位置づけられる。卵白粉末に大豆ペプチドを3–12%添加し、pH 4.0–8.5で泡立ち性を比較した実験では、9%以上の大豆ペプチド添加で泡立ち性が改善され、pH 7.0で最も安定な泡が形成される(Tang 2022)。ペプチドは卵白タンパク質よりも速く気液界面へ移動しやすく、界面の初期被覆を助ける。その後、卵白タンパク質とともに界面膜を形成することで、卵白タンパク質単独とは異なる膜構造をつくると考えられる。卵白泡の溶液設計では、pHでタンパク質間反発を調整し、塩で界面膜形成を助け、糖と多糖類で排液と気泡合一を遅らせ、ペプチドで界面被覆の初期過程を補う、というように、各成分が作用する段階を分けて組み合わせる。
参考文献
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◆ラーメンの麺
ラーメンの麺は、小麦粉と水、塩、かん水を基本として作られる。小麦粉に水を加えて練ると、小麦粉中の主要な貯蔵タンパク質であるグリアジンとグルテニンが水和し、練りの力を受けながら互いに絡み合い、麺の骨格となるグルテンネットワークを形成する。グリアジンは比較的流動性が高く、生地に伸びやすさを与える。一方、グルテニンは分子間の結合や絡み合いによって弾性的な性質を生み、生地に戻ろうとする力を与える。この二つの性質が組み合わさることで、麺らしい粘弾性的な特徴になる(1)。麺の製造では、ここに塩とかん水が加わる。
麺に添加される塩の主な役割は、塩味をつけることも重要だが、歯応えを出すためにも重要な役割がある。グルテンタンパク質の表面には、荷電アミノ酸残基が存在する。水だけの条件では、これらの荷電部位どうしの反発や引力が強いが、塩を加えることで静電遮蔽効果により、過度な静電反発を弱める。その結果、グルテンタンパク質どうしが近づきやすくなり、生地は締まり、まとまりやすくなるのである(2)。
かん水は、炭酸ナトリウムや炭酸カリウムを主成分とするアルカリ性の塩であり、麺に特有の硬さや弾力を与える重要な成分である(3)。黄色い理由もかん水である。小麦粉に水を加えると、グリアジンとグルテニンが水和してグルテンネットワークを形成する。ここにかん水が加わると、生地のpHがアルカリ側に傾く。その結果、タンパク質どうしの相互作用が変わって生地は締まる。麺をゆでる過程では、グルテンタンパク質の会合やジスルフィド結合の再編成が進み、麺の構造が固定されると考えられている。中華麺が伸びにくいのは、かん水と塩によってグルテンネットワークが締まり、ゆで加熱後も麺の骨格が保たれやすいからである。
グルテンネットワークは、麺の食感を決める中心的な構造である。ネットワークが弱ければ、ゆでたときに表面がぬめり、歯切れも悪くなる。たとえば、時間が経ってスープの中で伸びた麺では、内部の構造がゆるみ、でんぷんや可溶性成分が表面に出やすくなる。その結果、麺の表面にぬめりが生じ、噛んだときの輪郭がぼやけた食感になる。逆に、グルテンネットワークが強すぎると、麺は硬く、弾力はあるが、噛み切りにくくなる。これは、低加水で強く締めた麺や、過度に強力な小麦粉を用いた麺で起こりやすい。噛んだときに反発は強いが、歯が入りにくく、食感がゴムのように感じられる場合がある。
◆濃厚つけ麺と豚骨ラーメン
現実にあわせてもう少し説明すると、つるつる麺は、主にでんぷんの糊化状態および圧延による表面の平滑性の組み合わせが重要である。しかし、でんぷんが過度に溶け出すと、滑らかさではなくぬめりになるため、つるつる麺は冷水でよく締めた方がよい。一方、もちもち麺は、糊化したでんぷんが水を抱え込んで生じる粘りと、それを支えるグルテンネットワークの弾性が組み合わさって生まれる。
濃厚なつけだれには太麺があう。太麺には強いグルテンネットワークと十分な水分保持が重要になる。さらに多加水の設計にすると、糊化でんぷんが水を抱え込みやすくなり、もちもち感と同時につるつる感が強くなる。この両者を生かすためには、太麺かつ多加水麺が理想的である。
一方、とんこつラーメンに使われる細麺は、つけ麺の太麺とは思想が異なり、歯切れが重視されるさくさく麺である。これは、低加水で作られた細い麺に特徴的な食感である。加水率が低いと、生地中の自由な水が少なくなり、グルテンネットワークとでんぷん粒が密に詰まった構造になる。そのため、ゆでた後も麺の内部に水が入りにくく、弾力よりも硬さと歯切れが目立つようになる。
参考文献
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◆グリアジンとグルテニン
小麦粉の主要な貯蔵タンパク質は、グリアジンとグルテニンである。両者はまとめてグルテンタンパク質と呼ばれるが、溶解性と分子集合の性質が異なる。古典的には、グリアジンは水を含むアルコールに溶けやすい単量体性タンパク質群、グルテニンはアルコールに溶けにくく、ジスルフィド結合を介して高分子量の重合体をつくるタンパク質群として区別される。いずれもグルタミンとプロリンに富むため、水中で完全に折りたたまれた球状タンパク質というより、部分的に柔軟で、会合しやすい高分子状タンパク質としてふるまう(1,2)。
グルテンネットワークはこの2種類のタンパク質が水和と混練によって形成されるタンパク質の状態であり、製麺のほか、製パンでも重要になる。グリアジンは比較的分子量が小さく、分子間の共有結合性ネットワークを作りにくいため、生地に粘性、流動性、伸展性を与える。いわば伸びやすさを与えるのがグリアジンである。これに対してグルテニンは、高分子量グルテニンサブユニットと低分子量グルテニンサブユニットがジスルフィド結合などで連結した巨大なポリマーを形成し、生地に弾性や凝集性を与える(3)。グルテニンは弾力を担う成分である。レオロジーの観点からは、グルテンは粘性と弾性を併せもつ粘弾性材料である。グルテニンが多い生地では、弾性が強く、噛んだときの反発やコシが出やすい。一方、グリアジンの比率が高いと、生地は伸びやすくなるが、強度や弾性は低下しやすい(4,5)。
麺の性質を考えると、グルテニンネットワークが弱い場合には、ゆで加熱中に構造が崩れ、でんぷんや可溶性成分が流出しやすく、伸びやすい麺になる。逆にグルテニンが強すぎると、弾力は出るが、噛み切りにくいゴムのような性質になる。そのため、理想的な麺は、グルテニンによる骨格形成と、グリアジンによる可塑性が釣り合った配合が必要である。グリアジンとグルテニンの相互作用は、水分やイオン強度、混練や圧延、加熱によって相互作用を制御することができる。
参考文献
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◆グルテンネットワークの制御技術
グルテンネットワークは、グリアジンとグルテニンが混練や圧延、加熱などの処理で形成する動的なタンパク質集合体である。水を加えることでタンパク質が水和し、混練や圧延によって分子が引き伸ばされ、配向し、接触頻度が高まる。その過程で、非共有結合性相互作用やジスルフィド結合の組み替えが進み、連続的なネットワークが形成される(1)。
麺の食感は、このような物理的な過程のほか、イオン強度やpH、添加剤などにも影響を受ける。もっとも基本的な制御因子は食塩である(2)。食塩を加えると、Na⁺やCl⁻がグルテンタンパク質を遮蔽するとともに、タンパク質どうしの静電反発を弱める。その結果、タンパク質どうしの反発が弱まり、混練中にグルテン分子が相互作用しやすくなる。その結果、生地は過度に軟化せず、混練や圧延によって引き伸ばされながら、まとまりのあるネットワークを形成しやすくなる(3)。その結果、製麺では、食塩を加えることで生地が締まり、圧延しやすくなる。
ラーメン麺では、かんすいがさらに重要な役割をもつ。かんすいは炭酸ナトリウムや炭酸カリウムを主成分とするアルカリ塩である(4)。pHがアルカリ性になると、グルテンタンパク質中のチオール基の反応性が上がり、混練や加熱の過程でジスルフィド交換反応が進みやすくなる。さらにアルカリ条件では、デヒドロアラニンを介したランチオニンやリジノアラニン型の架橋が生じやすくなる。このような反応によって、かんすいを加えることで、ゆで加熱後のグルテンネットワークはより強くなり、ラーメン麺らしい弾力や歯切れが生まれる。
そのため、グルテンネットワークを制御するために酸化還元剤を使うことができる(5,6)。酸化剤はチオール基を酸化してジスルフィド結合を形成させるため、グルテンネットワークの再架橋を進める。この効果によって、弾性や混練耐性が高まる。逆に、L-システインやグルタチオンのような還元剤は、ジスルフィド結合の切断や交換を促し、生地を軟化させ、伸展性を高める。酸化還元制御は、グルテンを強める方向にも、ほぐす方向にも働く調整技術である。製麺では、強すぎるグルテンを適度に緩めることも、食感設計の重要な選択肢となる。
酵素を用いた架橋も麺の特性を制御するために有効である。トランスグルタミナーゼは、グルタミン残基とリシン残基の間に共有結合性の架橋を作る酵素であり、特に、卵白や大豆タンパク質などを併用する系で有効に働く場合がある(7)。また、グルコースオキシダーゼのような酵素は、反応中に生じる過酸化水素を介してチオール基の酸化を促し、間接的にグルテンネットワーク形成を助ける(1)。これらは、タンパク質間の弱い相互作用を、酵素反応によってより安定なネットワークへ変換する技術といえる。
多糖類や親水コロイドも、グルテンネットワークに影響する。キサンタンガム、アルギン酸、カラギーナン、カルボキシメチルセルロース(CMC)、グアーガム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)などは、水を保持し、生地の粘度や保水性を変える(8)。アニオン性多糖類は、グルテンタンパク質との静電相互作用を通じてネットワーク形成に関わることがあり、非イオン性多糖類は主に水素結合や水分保持を通じて作用する。多糖類は、保水性を高めてゆで溶けを抑える方向に働く。また、添加量が増えすぎると粘度が上がり、麺の表面が重く、べたついた食感になる。
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◆市販ラーメンの食品表示
食塩はグルテン表面の電荷を遮蔽し、生地を締める。かんすいはpHとイオン環境を変え、中華麺らしい硬さ、弾力、黄色味を与える。小麦たん白はグルテン骨格を補強し、卵粉は加熱凝固や風味、色調に関与する。加工でん粉やリン酸塩は、水分保持、表面の滑らかさ、もちもち感の調整に関わる。このような「ラーメンめがね」をかけて食品表示からラーメンの麺を比較し、設計思想を見てみたい。
日清食品チルドの「天下一品 濃厚鶏白湯」では、1人前あたりの食塩相当量は7.0 gであるが、そのうち麺側は0.8 g、スープ側は5.3 gである。したがって、この商品で麺が塩辛く感じられるとしても、それは麺そのものに特別多量の塩が入っているためというより、濃厚なこってりスープが麺表面に強く付着し、スープ中の塩味・うま味・脂質・増粘成分を麺の味として感じるためと考えられる。
「日清のラーメン屋さん 博多風豚骨」では、1人前あたりの食塩相当量7.2 gのうち、麺側が2.3 g、スープ側が4.9 gである。これは、天下一品監修品よりも麺側の塩分が高い例である。博多風豚骨の細麺では、もちもちした多加水麺よりも、低加水で密に詰まった、ぱつんと切れる歯切れが求められる。そのため、食塩、かんすい、小麦たん白、卵粉などを用いて、生地を締め、グルテンネットワークを補強し、短時間ゆででも輪郭のある食感になるよう設計されていると考えられる。
「つけ麺の達人 濃厚魚介醤油」は、1人前196 gあたり炭水化物91.6 g、たんぱく質16.5 g、食塩相当量8.2 gであり、通常のラーメンよりも麺量が多い。麺の原材料には、小麦粉と食塩に加えて、小麦外皮、加工でん粉、かんすい、リン酸塩Naなどが含まれる。ここでは、太麺としての存在感と、糊化でんぷんによるもちもち感、表面のつるつる感、ゆで後の水分保持が重視されていると読める。
◆ラーメン麺の設計思想
この3商品を蛋白質溶液学の視点で比較すると、イオン強度の視点から、グルテンネットワークが置かれている溶液環境を推測できる。麺は固体のように見えるが、内部ではグルテン、でんぷん、水、塩、かんすい、補助成分が高濃度に共存している。したがって麺の食感は、タンパク質量だけでなく、水がどの成分にどれだけ分配され、塩やアルカリがタンパク質表面の相互作用をどの程度変えるかによって決まる。
たとえば、「天下一品 濃厚鶏白湯」では、1人前173 gに対して麺側の食塩相当量は0.8 gであり、単純計算では麺重量あたり約0.46%である。一方、「日清のラーメン屋さん 博多風豚骨」では、1人前131 gに対して麺側の食塩相当量は2.3 gであり、麺重量あたり約1.8%になる。この差は、味の差だけでなく、グルテン表面の静電相互作用の差として考えられる。塩濃度が高い条件では、荷電アミノ酸残基間の静電反発が遮蔽され、グルテンタンパク質どうしが近づきやすくなる。その結果、水和したグルテン鎖はより密に会合し、生地は締まりやすくなる。博多風豚骨のような細麺では、このような高めの塩分環境により、短時間ゆででも輪郭のある、ぱつんと切れる食感が生じやすい。
一方、天下一品の麺では、麺側の食塩量は比較的低いにもかかわらず、食べたときには濃く、塩味が強く感じられることがある。これは、麺内部のイオン強度よりも、麺表面に付着する高粘度スープの寄与が大きいと考えられる。麺内部ではグルテンとでんぷんが構造を支え、麺表面では糊化でんぷん、可溶化した小麦成分、スープ中のタンパク質・脂質・多糖様成分が相互作用して、濃厚な液相を保持する。したがって、天下一品型の麺では、麺そのものを強く塩で締めるよりも、スープを表面に保持しやすい水和状態や表面粗さが重要になる。
「つけ麺の達人 濃厚魚介醤油」では、1人前196 g、炭水化物91.6 g、たんぱく質16.5 gであり、麺そのものの高分子量が大きい。ここでは、細麺のように水を制限して脆性的に切れる構造を作るよりも、グルテンネットワークと糊化でんぷんが水を抱え込むことで、粘弾性的なもちもち感を作る必要がある。太麺では、ゆで加熱中に表面から内部へ水が拡散する距離が長いため、表面だけが過度に糊化してぬめり、内部が硬いまま残るという不均一性が起こりやすい。そのため、加工でん粉やリン酸塩Naのような成分は、水分保持、でんぷんの膨潤制御、表面の滑らかさの調整に寄与している可能性がある。
◆乳化とは
乳化とは、本来は混ざりにくい水と油の一方が、もう一方の中に細かな液滴として分散した状態をいう。牛乳は乳化の典型例であり、水を主成分とする連続相の中に、乳脂肪が微小な脂肪球として分散している。厳密には、乳脂肪球は乳脂肪球膜に包まれており、さらに牛乳中にはカゼインミセルなどのコロイド粒子も存在するため、牛乳は単純な油水混合物ではなく、複雑な食品コロイド系である。
マヨネーズやドレッシング、クリーム、アイスクリーム、ソース、コーヒークリーマーなども、食品中に見られる代表的な乳化系である。多くの場合、食品の乳化は、水の中に油滴が分散した O/W 型エマルションである。一方、バターやマーガリンのように、油脂の中に水滴が分散した W/O 型エマルションもある。
乳化系では、油滴が小さいほど白く濁って見え、口当たりや粘度、風味の感じ方にも影響する。ただし、水と油を機械的に混ぜるだけでは、液滴は時間とともに合一して分離してしまう。そのため、食品ではタンパク質、リン脂質、低分子乳化剤、多糖類などが界面に働き、液滴を安定化している。乳化とは、単に水と油を混ぜることではなく、微小な液滴をつくり、その分散状態を保つ現象である。
◆タンパク質が乳化剤になる理由
タンパク質が乳化剤として機能するには、油水界面へ吸着できる両親媒性に加えて、油滴表面に吸着膜を形成する性質、さらに静電反発や立体反発によって油滴どうしの合一を防ぐ性質が重要である。ここでは、この3点からタンパク質の乳化性を整理する。
水と油を混合すると、新しく油水界面が生じる。この界面は熱力学的に不安定であり、油滴どうしは時間とともに合一し、最終的には水相と油相に分離しやすい。タンパク質は分子内に親水性部分と疎水性部分をあわせ持つため、水相中に溶けていたタンパク質は油水界面へ移動し、疎水性部分を油側に、親水性部分を水側に向けるように吸着する。その過程で、タンパク質は界面に適応するように部分的に構造を変化させ、油滴表面に吸着膜を形成する(1)。その結果、界面張力が低下し、細かな油滴が形成されやすくなる。
油滴表面に吸着したタンパク質は、界面で分子どうしが相互作用しながら、粘弾性的な膜を形成する。この膜は、油滴どうしが接近したときに、油滴表面が直接接触して合一するのを防ぐ。つまり、タンパク質は低分子乳化剤のように界面張力を下げるだけでなく、高分子として油滴表面を物理的に覆い、界面に保護層をつくる点に特徴がある(2)。
このようにしてタンパク質で覆われた油滴は、表面電荷による静電反発や、吸着層の厚みによる立体反発によって安定化される。コロイド粒子やタンパク質凝集体の場合と同様に、溶液の pH が等電点から離れていれば油滴表面に電荷が残り、油滴どうしは反発しやすくなる。一方、pH が等電点に近づいたり、塩濃度が高くなって電荷が遮蔽されたりすると、油滴間の反発は弱まり、凝集やクリーミングが起こりやすくなる。このように、タンパク質の界面特性はエマルションの形成と安定性を直接左右するため、界面をどのように設計するかが重要になる(3)。
この視点から見ると、乳化性はタンパク質分子だけでなく、溶液の設計によっても調節できる。たとえば、等電点から離れた pH では静電反発を利用して分散性を高められる(4)。逆に、塩濃度が高くなると、電荷遮蔽やタンパク質間相互作用を変えるため、基本的には会合しやすい方向に働く。多糖類との複合化は、吸着膜の性質や油滴間相互作用を変え、エマルションの安定化に寄与する場合がある(5)。そのため、食品タンパク質の乳化性を高めるには、タンパク質そのものの選択だけでなく、タンパク質が界面でどのようにふるまうかを制御する溶媒設計が重要である。
参考文献
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◆カゼインとカゼインナトリウム
牛乳が白く見えるのは、光を散乱するコロイド粒子が含まれているためである。主な散乱体は、乳脂肪球とカゼインミセルである。牛乳中の脂肪は通常約3〜4%含まれ、その多くは直径およそ0.1〜10 µm程度の乳脂肪球として分散している。乳脂肪球はカゼインミセルより大きく、全乳の強い白濁や、わずかにクリーム色を帯びた外観に寄与する。
一方、脱脂乳でも白く見えることからわかるように、牛乳の白さは乳脂肪球だけでは説明できない。牛乳中のタンパク質は通常約3.0〜3.5%含まれ、その約80%がカゼインである。カゼインは牛乳中で単独分子として存在するのではなく、直径およそ50〜500 nm、平均では100〜150 nm程度のカゼインミセルとして分散している(1,2)。このサイズは可視光の波長に近いため、カゼインミセルも光を散乱し、脱脂乳に残る白濁の主要因となる。つまり、乳脂肪球は油滴、カゼインミセルはタンパク質性のコロイド粒子であり、両者は牛乳中に共存する別々の分散粒子である。
カゼインミセルは、カゼイン分子とリン酸カルシウムを主成分とする集合体である。カゼインには、主にαS1-カゼイン、αS2-カゼイン、β-カゼイン、κ-カゼインの4種類がある。これらはいずれもプロリンやグルタミンに富み、分子量はおよそ19〜25 kDaであるが、それぞれ性質が異なる。αS1-カゼイン、αS2-カゼイン、β-カゼインはリン酸化部位を介してカルシウムやリン酸カルシウムと相互作用しやすい。一方、κ-カゼインはC末端側に糖鎖を含む親水的な領域を持ち、ミセル表面で水との親和性を高め、ミセルの分散安定性に重要な役割を果たす(3)。
食品素材として用いられるカゼインナトリウムは、カゼインを酸沈殿などで分離した後、ナトリウム塩として可溶化・分散しやすくした素材である。カゼインナトリウムは水に分散しやすく、油水界面に吸着して油滴を安定化する乳化剤として働く。カゼイン分子は、一般的な球状タンパク質のように硬く折りたたまれた構造ではなく、比較的柔軟な構造をもつ。また、分子内に疎水性領域と親水性・荷電領域をあわせ持つため、油水界面に吸着しやすい。
このような性質により、カゼインは油水界面に比較的すばやく移動し、界面で分子の向きや広がり方を変えながら、油滴表面を覆うことができる。吸着したカゼインは油滴表面に高分子性の吸着膜を形成し、油滴どうしが直接接触して合一するのを防ぐ。さらに、pHが等電点から離れていれば、油滴表面には電荷が残り、静電反発によって分散状態が保たれやすくなる(4)。したがって、カゼインの乳化力とは、単に油と水を混ぜる力ではなく、界面に吸着して油滴を包んだ構造のまま、分散状態を保つ機能を持っている。
カゼインミセルの内部構造については、X線結晶構造解析や核磁気共鳴法などの構造分解能の高い分析が難しいこともあり、さまざまなモデルが提案されてきた。初期には、αS-カゼインやβ-カゼインからなるコアをκ-カゼインが覆うというコート・コアモデルが提案された(5)。その後、ミセル内部に10 nm程度の小さなサブミセルがあり、それらがカルシウムやリン酸カルシウムによって結合しているとするサブミセルモデルが広く知られるようになった(6)。このモデルは説明しやすく、教科書的にも使われてきたが、クライオ電子顕微鏡などで明確なサブミセル構造が観察されにくいことから、現在では単純化されたモデルと考えられている。
現在、有力な考え方の一つは、Holtらによるリン酸カルシウムナノクラスターモデルである。このモデルでは、カゼインミセルは規則的なサブミセルの集合体ではなく、アモルファスなリン酸カルシウムナノクラスターと柔軟なカゼイン分子からなる水和したネットワークとして理解される(7)。リン酸化カゼインはカルシウムリン酸ナノクラスターに結合し、それを安定化するとともに、ミセル内部の骨格形成に関与する。さらに、カゼイン分子どうしの疎水性相互作用、静電相互作用、水素結合など、複数の弱い相互作用が組み合わさることで、カゼインミセルは柔らかく多分散なコロイド粒子として存在している。
このような見方は、カゼインを天然変性タンパク質として捉える最近の考え方とも相性がよい。カゼインはプロリンに富み、一般的な球状タンパク質のような安定な立体構造をとりにくい。CarverとHoltは、カゼインの機能的な会合と凝集を、天然変性タンパク質の性質から整理している(8)。また近年、カゼインミセルを細胞外で形成される液-液相分離型の凝縮体として理解できるのではないか、という仮説も提案されている(3)。この見方では、カゼインミセルは硬い粒子ではなく、多価相互作用によって形成された流動性のあるタンパク質性集合体として捉えられる。
この構造の柔軟性は、カゼインの食品機能とも深く関係している。カゼインは、リン酸カルシウムを水中に分散させるための天然のキャリアであると同時に、油水界面へ吸着し、油滴を安定化する優れた乳化タンパク質でもある。ヨーグルトやチーズは、乳中のカゼインミセルの安定性を変化させることで作られる食品である。乳酸菌による発酵では乳酸が生じ、pHが低下する。カゼインの等電点であるpH 4.6付近に近づくと、カゼインミセル間の静電反発が弱まり、ミセルが凝集してゲルを形成する。これがヨーグルトの基本的な構造形成である。チーズでは、酸性化に加えて、レンネットによるκ-カゼインの切断、塩の添加、熟成中のタンパク質分解などが加わり、より複雑な構造と食感が生じる。
参考文献
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3. Horvath, A.; Fuxreiter, M.; Vendruscolo, M.; Holt, C.; Carver, J. A. Are Casein Micelles Extracellular Condensates Formed by Liquid–Liquid Phase Separation? FEBS Lett. 2022, 596, 2284–2295.
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◆大豆タンパク質の乳化力の改良
タンパク質は、水と油の界面に吸着することで乳化剤として働く。そのためには、油水界面に吸着しやすい両親媒性、界面で広がるための構造の柔らかさ、さらにタンパク質どうしが過度に凝集しない分散性が必要である。実際、加熱変性させた大豆タンパク質では、油水界面への吸着挙動が変化し、加熱条件や乳化条件によって油滴径や界面吸着量が変わることが報告されている(1)。ここでは、添加剤を「タンパク質溶液に加えて乳化を助ける成分」としてではなく、「タンパク質を乳化に適した状態へ加工するための溶媒設計」として使った例を見てみたい。
この考え方に関連する古典的な研究として、変性処理による大豆タンパク質の乳化性改良がある。Nirらは、大豆タンパク質を熱、尿素、塩酸グアニジン、ジスルフィド結合の還元などで変性させ、表面性質と乳化挙動を調べた(2)。その結果、変性処理によってタンパク質の表面疎水性や界面活性が変化し、乳化性が改善される場合があることを示した。ただし、強い変性は凝集も誘導しうるため、乳化性の向上には、構造をほどくことと分散性を保つことのバランスが重要である。
そこで、立体構造をほどきながら分散性を高めることを目的として、アルギニンを添加剤として活用し、より精密に市販の大豆タンパク質分離物の乳化力を高めた研究を見てみたい(3)。この研究では、大豆タンパク質分離物にアルギニンを加え、121 ℃で10分間加熱した後、透析によってアルギニンを除去している。つまり、アルギニンを最終的な乳化成分として使ったのではなく、加熱中の大豆タンパク質の構造変化を制御する添加剤として使った点に特徴がある。
この処理の狙いは、次のように整理できる。タンパク質を加熱すると、立体構造が部分的にほどけ、内部に隠れていた疎水性アミノ酸残基が表面に露出する。この変化は、油水界面への吸着には有利である。しかし、疎水性部分が露出しすぎると、タンパク質どうしが結合し、大きな凝集体を形成する。凝集したタンパク質は油滴表面に均一に吸着しにくく、場合によっては油滴どうしの会合も進めてしまうため、エマルションを不安定化する。そこで、大豆タンパク質の加熱時にアルギニンを添加しておくことで、凝集抑制剤としてアルギニンが働くことで、タンパク質間の過度な会合が抑えられるのではという着想に至っている。
このように添加剤を含んだ溶液中で加熱処理した大豆タンパク質は、油水界面に吸着しやすい程度に構造変化しながらも、大きな凝集体にはなりにくい特徴を持つことがわかった。すなわち、アルギニンはタンパク質を単純に安定化するのではなく、乳化に有利な構造変化を許しつつ、不要な凝集を抑える役割を果たしていると考えられる。
実際、アルギニン存在下で加熱した大豆タンパク質は、未処理品や添加剤なしで加熱したものに比べて、より小さな油滴を作り、フロック形成も少なかった。また、油水界面張力も低下しており、タンパク質が界面に効率よく吸着していることが示された。乳化力を高めるには、疎水性部分を界面吸着に必要な程度に露出させながら、タンパク質どうしの過度な凝集を防ぐことが重要である。アルギニン存在下での加熱処理では、このバランスが保たれたと考えられる。
一方、アルギニンの代わりに塩酸グアニジンを用いた試料では、乳化力は十分に高まらなかった。塩酸グアニジンは強い変性剤であるため、タンパク質の疎水性部分を過剰に露出させる。その結果、添加剤を除去した後にタンパク質どうしの凝集が進みやすくなり、このタンパク質を用いても油水界面に均一に吸着する構造を作れなかったと考えられる。なお、尿素処理ではアルギニン処理と同程度に高い乳化性が示されたが、食品応用を考えると、アミノ酸であるアルギニンを用いる処理のほうが実用性は高い。
参考文献
1. Cui, Z.; Chen, Y.; Kong, X.; Zhang, C.; Hua, Y. Emulsifying Properties and Oil/Water (O/W) Interface Adsorption Behavior of Heated Soy Proteins: Effects of Heating Concentration, Homogenizer Rotating Speed, and Salt Addition Level. J. Agric. Food Chem. 2014, 62, 1634–1642.
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◆乳タンパク質だけでアイスクリームをつくる場合の課題
アイスクリームは、乳脂肪球、氷晶、気泡、未凍結水相が共存する複合食品コロイドである。カゼインや乳清タンパク質は、均質化によって生じた脂肪球界面に吸着し、油滴を水相中に分散させる。また、凍結撹拌中には気泡界面にも吸着し、空気を取り込んだ凍結フォームの形成に関与する。さらに連続相では、タンパク質の水和、分散状態、分子間相互作用が粘度や流動性を変える。したがって、乳タンパク質は、脂肪球表面では乳化膜をつくり、気泡表面では泡膜形成に関与し、未凍結水相では粘度と水和状態を変える成分である(Goff 1997a)。しかし、乳タンパク質だけでアイスクリームを組み立てようとすると、いくつかの課題が生じる。
・脂肪球表面のタンパク質膜が合一を抑えすぎる。均質化直後の脂肪球は、カゼインや乳清タンパク質に覆われ、静電反発や立体反発によって合一しにくいコロイド粒子になる。この性質は、ミックスを保存し、均一な乳化状態を保つには有利である。一方、アイスクリームでは、凍結撹拌中に脂肪球どうしが適度に連結し、気泡を支える脂肪球ネットワークを形成する必要がある。タンパク質膜が強固に残ると、脂肪球どうしが衝突しても界面膜が破れにくく、部分合一が進みにくい。その結果、気泡表面を覆う脂肪球ネットワークが疎になり、凍結フォームの骨格が形成されにくくなる(Goff 1997b)。
・気泡表面を支える脂肪球ネットワークが形成されにくい。アイスクリームは凍結した乳化物であると同時に、空気を含むフォームである。凍結撹拌中に取り込まれた気泡は、気泡表面に吸着した乳タンパク質と、そこへ集まる部分合一脂肪球によって支えられる。また、未凍結水相の粘度は、気泡周囲からの液相排出を遅らせる。脂肪球の連結が不足すると、気泡表面を覆う脂肪球クラスターが少なくなり、気泡の合一、収縮、液相排出が進みやすくなる。その結果、オーバーランが低くなり、重く湿った組織になり、融解時の形崩れも速くなる(Zhang and Goff 2004)。
・氷晶間に残る濃厚な連続相の粘度と拡散性を、乳タンパク質だけでは十分に調整しにくい。乳タンパク質は水を保持し、連続相の粘度を上げるが、少量で強い増粘性や氷晶再結晶化抑制を示す多糖類安定剤とは作用が異なる。凍結が進むと、水の一部は氷晶として分離し、残された未凍結水相には糖、塩、タンパク質、乳糖などが濃縮される。この水相の粘度が低く、水や溶質が移動しやすい状態にあると、保存中の温度変動によって小さな氷晶が溶け、大きな氷晶へ成長する。その結果、ざらつきが生じる。乳タンパク質だけでは、氷晶再結晶化、融解時の液相排出、乳糖結晶化が進みやすくなる(Regand and Goff 2003)。
・同じ乳タンパク質が、脂肪球界面、気泡界面、未凍結水相で異なる要求を同時に受ける。脂肪球界面では、乳タンパク質は油滴を分散させる吸着膜をつくる。気泡界面では、空気と水相の境界に吸着して泡膜形成に関与する。未凍結水相では、タンパク質間相互作用、カゼインミセルの分散性、カルシウムとの相互作用が連続相の粘度や流動性を変える。つまり、脂肪球を合一させずに保ちたい条件、凍結撹拌中には部分合一させたい条件、気泡を保持したい条件、氷晶成長を遅らせたい条件が、同じ乳タンパク質に集中する。
・加工履歴への依存が大きくなる。乳化剤や多糖類安定剤を使わない場合、脂肪球の部分合一は、脂肪含量、脂肪の結晶化状態、均質化条件、エージング温度と時間、凍結撹拌時のせん断条件に強く左右される。したがって、乳タンパク質だけで構造を作る場合には、配合よりも加工履歴の影響が大きくなり、同じ硬さ、口どけ、融解挙動を再現することが難しくなる(Segall and Goff 2002)。
◆現在の対処:添加剤と溶液設計
現在のアイスクリーム製法では、乳タンパク質だけに構造形成を集中させず、低分子乳化剤で脂肪球表面のタンパク質膜を置換し、多糖類安定剤で未凍結水相の粘度と拡散性を変え、糖質で凍結点と氷量を調整し、エージングと凍結撹拌で脂肪球の部分合一を誘導する。蛋白質溶液学の視点から見ると、現在の製法は、脂肪球表面の界面膜、気泡表面の支持構造、未凍結水相の粘度、氷晶の再結晶化を別々の成分と工程で調整する操作である。
・低分子乳化剤による脂肪球界面膜の再編成。モノグリセリド、ジグリセリド、ポリソルベート、レシチンなどの低分子乳化剤は、脂肪球表面に吸着した乳タンパク質を部分的に置換する。これにより、脂肪球表面のタンパク質膜は薄くなり、変形しやすく、せん断で破れやすい状態になる。その結果、凍結撹拌中に脂肪球どうしが衝突したとき、完全な合一ではなく部分合一が起こりやすくなる。ここでの乳化剤は、単に乳化を安定化する添加剤ではなく、アイスクリームでは脂肪球を制御された不安定状態へ移すための界面膜置換剤である(Goff and Jordan 1989)。
この点は、一般的な乳化食品とは異なる。多くの乳化食品では、油滴をできるだけ安定に分散させることが望ましい。しかし、アイスクリームでは、均質化後からエージング中までは脂肪球を分散状態に保ち、凍結撹拌中には脂肪球どうしを連結させる必要がある。したがって、アイスクリームの脂肪球は、安定な乳化粒子であると同時に、凍結撹拌で界面膜が破れて部分合一する準安定粒子でなければならない。低分子乳化剤は、この状態変換を起こしやすくする。
・エージングによる脂肪結晶化と界面膜再編成。均質化後のミックスを低温で保持すると、脂肪球内部の脂肪が部分的に結晶化し、タンパク質と乳化剤からなる界面膜も再配置される。脂肪球内に脂肪結晶が存在すると、凍結撹拌中に結晶が界面膜を局所的に破り、隣の脂肪球との連結を促す。乳化剤を使わない場合でも、加工条件を調整すれば、ある程度の脂肪不安定化を誘導できる。ただし、その場合には、脂肪組成、均質化圧、エージング条件、凍結撹拌条件の影響が大きくなる(Segall and Goff 2002)。
・多糖類安定剤による未凍結水相の増粘と拡散抑制。ローカストビーンガム、グアーガム、カラギーナン、アルギン酸、ペクチン、キサンタンガムなどの水溶性多糖類は、少量で未凍結水相の粘度を高め、水と溶質の移動を遅らせる。これにより、保存中の温度変動で生じる氷晶再結晶化が遅くなり、融解時の液相排出も抑えられる。多糖類安定剤は、脂肪球界面を直接変える成分ではなく、氷晶間の連続相を増粘し、水と溶質の移動を遅らせる成分である(Regand and Goff 2003)。
ただし、多糖類安定剤は多ければよいわけではない。過剰に添加すると、ミックスの粘度が高くなりすぎ、凍結撹拌中の空気導入や脂肪球の衝突頻度が下がる。口の中では、ねばつきや糊っぽさとして感じられ、アイスクリーム本来の軽い口どけが失われる。したがって、多糖類安定剤は、氷晶再結晶化を遅らせる量と、気泡形成や口どけを妨げない量との間で決められる。
・糖質による凍結点と未凍結水相濃度の調整。ショ糖、グルコース、フルクトース、乳糖、転化糖、水あめなどは、甘味を与えるだけでなく、水の凍結点を下げ、凍結後に残る未凍結水相の量と濃度を変える。糖質が少なすぎると氷の割合が増え、硬く、ざらついた組織になりやすい。糖質が多すぎると氷の割合が減りすぎ、柔らかく、溶けやすく、甘すぎる製品になる。乳糖は乳固形分として水相濃度を高めるが、溶解度が低いため、過剰になると乳糖結晶による砂状感を生じる(Goff and Hartel 2013)。
・タンパク質素材の種類と状態の変化。乳タンパク質として、カゼインミセル、カゼインナトリウム、乳清タンパク質濃縮物、脱脂粉乳などをどの形で使うかによって、脂肪球界面への吸着量、気泡界面への吸着挙動、連続相の粘度が変わる。カゼインは柔軟で油水界面に吸着しやすく、脂肪球の初期乳化安定性を高める。乳清タンパク質は加熱によって部分変性し、界面吸着や連続相の粘度を変える。したがって、乳タンパク質は単なる栄養成分ではなく、界面膜と水相物性を変える構造形成成分として扱う必要がある(Goff et al. 1989)。
・気泡表面での脂肪球ネットワーク形成。アイスクリームでは、空気が取り込まれ、気泡が形成されることで、軽さ、硬さ、融解挙動が決まる。気泡界面には乳タンパク質が吸着し、さらに部分合一した脂肪球が集まって気泡表面を補強する。脂肪球ネットワークが疎であれば、気泡の合一、液相排出、形崩れが進む。一方、脂肪球凝集が過剰であれば、粗大な脂肪塊が生じ、バター状の食感になる。したがって、気泡界面は、タンパク質の泡形成能だけでなく、脂肪球の部分合一と結びつけて組み立てる必要がある(Zhang and Goff 2004)。
乳タンパク質だけでアイスクリームをつくる場合の本質的な難しさは、乳タンパク質が脂肪球を安定化しすぎる一方で、アイスクリームには凍結撹拌中の部分合一が必要になる点にある。さらに、乳タンパク質だけでは、未凍結水相の粘度を十分に高めにくく、水と溶質の移動を遅らせにくいため、氷晶再結晶化、融解時の液相排出、乳糖結晶化が進みやすい。現在の製法では、この限界を補うために、低分子乳化剤で脂肪球界面のタンパク質膜を弱め、多糖類安定剤で未凍結水相を増粘し、糖質で凍結点と氷量を調整し、エージングで脂肪結晶化と界面膜再編成を進めるという設計になっている。
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