写真家の前田真三氏と竹内敏信氏の作品に魅了され、25歳から本格的に写真を始めました。身近な北海道を再発見したく、30歳までの6年間に全道各地で約2万カットの風景写真を撮影しました。その中からお気に入りの16枚を紹介します。
1.ラベンダー色の街
夕暮れの小樽で撮影した私の一番のお気に入り。全体が紫色がかっているのはフィルターによるものではなく、シャッタースピードを遅くしたときの、このフィルムの発色特性による。そういうテクニカルなことは抜きにしても、雪の紫色と街灯の青緑が幻想的で最高に美しい仕上がりだ。
<撮影メモ>
日時場所:1995.01 小樽市
カメラ :Canon EOS630
レンズ :EF50mm F1.4
フィルム:フジクローム Velvia50 Pro.
2.黄金の利尻富士
オロロンラインをひたすら北上。サロベツ原野の稚咲内海岸で、利尻富士に沈む夕日を狙った。蛇行する河口をアクセントにした会心の一枚。余談ですが、この写真をぜひ買いたいという知人に、実費(プリント代と額縁の5千円)でお分けしました。
<撮影メモ>
日時場所:1994.08 豊富町
カメラ :Canon EOS630
レンズ :EF135mm F2.8
フィルム:フジクローム RDP-II
3.紫香るラベンダー
ラベンダーの香りや空気感を伝えたいと思い、さわやかな香りに誘われて蜜をすうチョウをとらえてみた。ラベンダーの香りには気持ちを沈静させる効果があるというが、写真の淡い紫色にも同じ効果があるのではないかと思う。
<撮影メモ>
日時場所:1996.08 中富良野町
カメラ :Canon EOS630
レンズ :EF135mm F2.8
フィルム:フジクローム Velvia50 Pro.
4.羊蹄の春
5月、晴天の羊蹄山。山麓は雪もすっかり解けているが、4合目以上は残雪の反射で白く輝いている。青い空とのコントラストが美しい。流れるひとつかみの雲が帽子のように山頂にかかった瞬間をとらえてみた。
<撮影メモ>
日時場所:1993.05 倶知安町
カメラ :Canon EOS630
レンズ :EF50mm F1.4
フィルム:フジクローム RD
5.網走港の朝
私の故郷・網走で撮影した一枚。早朝5時ごろの網走港では、日の出を合図に漁船たちが一斉に出漁していく。アーチ型クレーンを大胆に使った構図が、結果として力強い表現となった。
<撮影メモ>
日時場所:1997.05 網走市
カメラ :Canon EOS630
レンズ :EF50mm F1.4
フィルム:フジクローム Velvia50 Pro.
6.私の暮らす街
今度は現在私が住んでいる星置駅周辺。JRの跨線(こせん)橋から撮影した。鉄路に夕日が反射して美しい金線が優雅な弧を描いている。そこに通過する列車にシャッターをあわせた。ジャストタイミングだ!
<撮影メモ>
日時場所:1997.04 札幌市
カメラ :Canon EOS630
レンズ :EF135mm F2.8
フィルム:フジクローム Velvia50 Pro.
7.秀峰斜里岳
故郷の網走で撮影した斜里岳。残雪が夕日で美しく輝いている。鱒浦港の灯台を手前に配してワンポイントとした。ここから見る斜里岳はいつ見ても本当に美しい。左右に均整のとれた、なだらかな稜線(りょうせん)は絶品。まさしく秀峰といえる。
<撮影メモ>
日時場所:1996.05 網走市
カメラ :Canon EOS630
レンズ :EF135mm F2.8
フィルム:フジクローム Velvia50 Pro.
8.静寂の湖
夕暮れの裏摩周で撮影した一枚。この湖が持つ独特の「摩周ブルー」に夕焼け空の「オレンジ」が調和して絶妙の配色だ。湖の輪郭や木々はシルエットとして処理した。「神秘の湖」の一日がひっそりと終わろうとしている。
<撮影メモ>
日時場所:1996.08 清里町
カメラ :Canon EOS630
レンズ :EF50mm F1.4
フィルム:フジクローム Velvia50 Pro.
9.夜明けの摩周湖
摩周湖の撮影は難しい。濃霧もさることながら、晴れても「絵はがき的」な写真が多くなる。必然的に夜明けか夕暮れを狙うことになる。No.8の「静寂の湖」も、そうして撮った一枚。この湖のこういう性格が、私を引き付けてやまないのだろう。
<撮影メモ>
日時場所:1996.01 弟子屈町
カメラ :Canon EOS630
レンズ :EF50mm F1.4
フィルム:フジクローム Velvia50 Pro.
10.25歳「デビュー作」
風景写真を始めてから、初めて自分で満足のいく仕上がりとなった私の思い出の作品。この過程で「風景写真は引き算」(不要なものをフレームからはずす、シャドーでつぶす、ハイライトで飛ばす)という基本を習得した。25歳の頃です。
<撮影メモ>
日時場所:1992.08 石狩市
カメラ :Canon EOS100
レンズ :EF50mm F1.4
フィルム:コダック Ektar 25
11.轟音(ごうおん)
荒れ狂う日本海の波が、防波堤に容赦なくたたきつける。自然のなかでは、人間は何てちっぽけな存在だと思い知らされる瞬間だ。
<撮影メモ>
日時場所:1996.08 浜益町
カメラ :Canon EOS630
レンズ :EF50mm F1.4
フィルム:フジクローム Velvia50 Pro.
12.羽ばたくとき
故郷のとうふつ湖。雄大な斜里岳に向かって白鳥たちが一斉に旅立つ。渡り鳥は地磁気を頼りに飛行するというが、なんとコンパクトなレーダー、そして高性能なナビゲーションなんだろう。次の目的地へ仲間たちと、いざテ-クオフ!
<撮影メモ>
日時場所:1997.01 網走市
カメラ :Canon EOS630
レンズ :EF50mm F1.4
フィルム:フジクローム Velvia50 Pro.
13.海の貴婦人
小樽港に寄港する日本丸。その優雅で均整のとれたプロポーションは「海の貴婦人」にふさわしい。最高の芸術作品といえる。
<撮影メモ>
日時場所:1995.05 小樽市
カメラ :Canon EOS630
レンズ :EF135mm F2.8
フィルム:フジクローム Velvia50 Pro.
14.蒼(あお)い岬
厳寒の祝津岬。蒼(あお)い色が「寒さ、静けさ、寂しさ」を物語っている。私の最近のお気に入りの一枚。
<撮影メモ>
日時場所:1998.01 小樽市
カメラ :Canon EOS630
レンズ :EF50mm F1.4
フィルム:フジクローム Velvia50 Pro.
15.落日の港
夏の夕暮れ、小樽埠頭(ふとう)で撮影。水面のゆったりとした、おだなかな波のリズムと柔らかい潮騒は、都会の喧騒(けんそう)を忘れさせ私をリラックスへと導く。
<撮影メモ>
日時場所:1997.08 小樽市
カメラ :Canon EOS630
レンズ :EF135mm F2.8
フィルム:フジクローム Velvia50 Pro.
16.無音の街
音もなく降り続いた雪がやみ、マチ全体がパウダースノーに包まれている。実に静かな夜。時間もゆっくり流れているようだ。
<撮影メモ>
日時場所:1995.01 小樽市
カメラ :Canon EOS630
レンズ :EF50mm F1.4
フィルム:フジクローム Velvia50 Pro.
<あとがき>
フィルム写真に魅了され
1990年代、まだデジタルカメラがない時代です。高価なカメラには手が届かず、中古の一眼レフを手に入れ、レンズは50ミリと135ミリの2本に限定しました。ただ、フィルムだけは一級品にこだわり、鮮やかな色が再現できるプロ仕様の製品を使いました。高価なフィルムをムダにしないよう被写体と真剣勝負で向き合うのですが、満足のいく写真はなかなか撮れませんでした。
年に数回、シャッターチャンスが巡ってきます。いい被写体に出会うと、自分の足を使って絵になる場所をひたすら探し求めます。
望遠レンズを持っていないので、被写体の大小は自分の立ち位置で調整するしかありません。「ここだ!」という場所を見つけ、三脚を立ててカメラをセッティング。ファインダーに全神経を集中し、気合を入れシャッターを切ります。デジタルと違い、あとから直しがきかない「一発撮り」。私にとって風景写真の撮影とは、集中力と体力勝負でした。若い頃だからこそ、できたのでしょう。
こうして撮影した作品は、大きくプリントして額に入れ自宅のリビングに飾っています。十数年を経ても、見るたびに撮影時の緊張感や空気感がよみがえります。デジタル全盛時代においても、フィルム写真はこの先も変わることなく、私を魅了し続けることでしょう。
(2012年9月 立花幹彦)
ご鑑賞ありがとうございました