- 2017年の日記 -
2017年05月27日
5月3日、羊蹄山に写真を撮りに出かけたことを、前回のこのブログに書きました。また行きたいと思い、今度は父の形見のキャノンEFで羊蹄山を撮影しようと思い立ちました。
父の形見は、今でもカメラとしては機能しますが、さすがに44年が経過し、レンズの絞り羽根が動かなくなったりと、ガタが出てきているので、今回はフィルム装填(そうてん)はしないことにしました。フィルム撮影はできずとも、最高の被写体の前に連れ出し、自慢の機械式シャッターを切ってあげるだけで、おやじの形見は喜んでくれることでしょう。
▼5月20日、キャノンEFを連れ出し、前回のブログの場所に行きカメラを構えました。前回の撮影から約2週間、手前の牧場はすっかり新緑に覆われ、羊蹄山の雪渓も小さくなっています。
▼ファインダーで羊蹄山にピントを合わせます。レンズのフォーカスリングをゆっくり回転させていくと、「スプリット」という中心の円に、雪渓の細部がくっきりと像を結んでいきます。この手動のピント合わせこそが、今のカメラでは決して味わうことができないレトロな感覚です。同時にファインダーの隅々まで目を凝らし、フレーミング(構図)を決めていきます。右の目盛りの露出計で明るさが測定でき、下側がシャッター速度表示です。44年前の当時のカメラとしては最先端の機能。昔のカメラファンには、たまらなく懐かしいことでしょう。
▼フィルムを通していないので、フィルムカバーを開けてシャッターを解放にして、レンズが結ぶ羊蹄山を直接見ることができます。
▼原理的には「人間の目の水晶体と網膜」と同じで、上下左右が逆像でフィルムに感光されます。上下に2本ずつ平行に「フィルムが走る銀のレール」も確認できます。
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▼帰り道、私が今愛用しているコンパクトデジカメ(キャノン PowerShot SX130)で、羊蹄山のスナップを撮影しました。今回の撮影で、一番のお気に入りです。程よい残雪で少しモヤがかかった羊蹄山。手前の古い小屋の存在や、その間の畑や木々も含め、写真全体に人間味や土着感が出ていて、春の雰囲気を醸し出しています。
▲若い頃は、フィルムが高価でもったいなく、こういうスナップ的な写真は決して撮影しませんでした。デジタル時代になり自由度が増え、写真の好みは昔とずいぶん変わってきました。今度この写真を大きくプリントして、自宅のリビングの「24年前の羊蹄山」の隣に飾っておこうと思います。こうして並べると、やっぱり羊蹄山の雄姿は変わっていませんね。▼
今回2度にわたり羊蹄山に出向き、このブログを書きながら、わかったことがあります。それは「昔も今も変わらず、自分は写真が好き」という単純な事実です。好きなことを続けられるのは、それだけで、じゅうぶん幸せなんだと、この年齢になってやっと気付きました。
(文と写真・立花幹彦)
2017年05月04日
20代の頃、私は写真撮影が好きで、特に小樽から羊蹄山周辺は、よく撮影に出かけていました。
当時はデジタルカメラはなく、フィルム一眼レフでの撮影でした。ネガフィルムでの撮影が一般的でしたが、プロのカメラマンや商業写真家はリバーサルフィルム(ポジフィルム、スライドフィルムともいいます)を使う人が多かったので、フィルム代が高価でしたが、私もリバーサルフィルムで撮影していました。
▼お気に入りの写真は大きく引き伸ばして額に入れ、今でも自宅に飾っています。1993年の5月に撮影した羊蹄山のこの写真は、最も気に入っている一枚です。
数年前から「この写真は、羊蹄山周辺の、どのあたりで撮影したのだったかな?もう一度5月の残雪の頃、こんな羊蹄山を撮影してみたいな」と思うようになりました。撮影当時は、若気の至りで「いい写真を撮りたい」という思いばかりが先行して撮影場所の記録はなく、今では記憶にも残っていません。
少し話がそれますが、先日、映画「LION/ライオン ~25年目のただいま~」を劇場で鑑賞しました。インドの貧困地域に生まれ、兄と仕事を探しに行く途中、5歳で迷子になりオーストラリアの裕福な家庭で養子として育った青年が、幼い頃の記憶を頼りに「Google Earth(グーグル・アース)」で自分がかつて住んでいたインドの家を25年ぶりに見つけ出すという、実話をベースにしたヒューマンストーリーです。
この映画にヒントを得て、昔の羊蹄山の写真の、尾根や谷の位置、ふもとの町の場所などをもとに、グーグルマップで、当時のおおよその撮影場所がわかるかもしれないなと思い、航空写真に切り替えたり、拡大・縮小・ストリートビューなどを駆使して、撮影当時の記憶も頼りに、「この場所で撮影したのかもしれないな」という牧場エリアを特定できました。
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GWの後半、快晴に恵まれた昨日5月3日、スマホ片手に「その場所」に出かけてみました。
▼下の場所が、当時撮影したであろう牧場の全景です。この場所から見る羊蹄山は、残雪の白い輝きまでも含めて当時と変わらぬ雄姿でした。しかしながら、この牧場は2010年に宮崎県で発生した家畜伝染病の口蹄疫(こうていえき)流行などの影響もあり、一般人の立ち入りはできなくなっていました。おそらく24年前は立ち入ることが許可されていて、私はこの牧場のどこかの樹をアクセントにして、あの羊蹄山の写真を撮影したんだろうと思います。
▼24年前の羊蹄山の写真と、今回の写真を拡大して比較すると、山の稜線(りょうせん)や残雪の分布などから、ほぼ同じ位置からの撮影であることが確認できます(上は24年前、下が今回の写真)。
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24年が経過し、カメラはすっかりデジタルにとってかわり、人も、町も、私自身も、何もかもが変わっていくなかで、羊蹄山は変わることなく、その雄姿を私に見せてくれました。
24年前の写真は、色補正やトリミング直しができない高価なスライドフィルムだったからこそ、集中して気合を入れ「真剣勝負」で撮影できた一枚であり、もしも当時デジタルカメラで撮影していたら、あの写真は撮れなかったと思います。24年を経て、あらためて「アナログ」の価値を再発見しています。とは言え、グーグルマップという「デジタル・ツール」がなければ、またこの風景に再会することもできなかったことでしょう。
自然の偉大さ・時代の流れを実感しながら、「(若いころから)ずいぶん遠くに来てしまったな~」と、春の羊蹄山に話しかけている自分がいました。
(文と写真・立花幹彦)