『障害と多様性:
医療職へのインクルージョン・ガイド』
リサ・ミークス、レスリー・ニール-ボイラン(編)
リサ・ミークス、レスリー・ニール-ボイラン(編)
Lisa M. Meeks、Leslie Neal-Boylan (編),
“Disability as Diversity:
A Guidebook for Inclusion in Medicine, Nursing, and the Health Professions”,
2020, Springer, New York
(Kindle版 もあります)
(表紙画像出典:amazon.co.jp/の同書ページ)
2020年に出版された、障害のある医療系学生の学習に関するガイドです。医療職集団自体が多様になることは、様々な特性をもつ人の医療アクセスを改善するという趣旨のもと、障害のある医療系学生のインクルージョンの重要性が述べられています。また、その方法に関しても、どのように現場で調整をして行ったら良いか、ヒントが沢山書かれています。
目次
1 インクルージョンのためのフレームワーク:変革期のアプローチ
2 障害のある人に対する健康格差:実践への示唆
3 交錯するアイデンティティ
4 文化的なインクルージョンにおけるプログラムを作る
5 健康と障害(Wellness and disability)
6 健康科学分野の学習環境における学術的な成功への認知
7 包摂のためのインストラクションデザインを通じて、アクセシビリティを高める
8 医療専門職と法律
9 テクニカルスタンダード
10 臨床での調整(配慮)とシミュレーション
11 もし学生が失敗をしたら:看護や医学における退学(dismissal)
12 医師免許、キャリア、実践
13 看護における免許、キャリア、実践
Youtube
Stanford Medicine ADIE チャンネルにて
リサ・ミークス博士らの関連講演を視聴できます。
“A New Frontier: Research on Disability in Medical Education”,
by Lisa Meeks, PhD and Kate Panzer
(2020/07/24)
同書、序言より引用
本書『障害と多様性:医療、看護、そして医療職へのインクルージョン・ガイド』のタイトルに表れる二つの言葉:すなわち、「障害」と「インクルージョン」はとても大きな力を秘めていると思います。ことにこの二語がいろいろとその内に含むところの意味あいは、組織が意欲をもってこの語の様々な理想を受け入れいれるようになると物凄い力を見せてくれます。ところで、私が生まれたのは前世紀つまりひとつ前のミレニアムで、障害を持つアメリカ人法(ADA法)の構想が生まれるより遥か以前、さらに言えば1973年にADA法ほど実効性がない連邦リハビリテーション法がやっとこの国に誕生しましたが、私が生まれたのはそれよりも前のことでした。私が若かりし頃は、あらゆる障害を持つ方々がひと目のつかない所へと追いやられていたものでした。そして障害を持って生まれた者、また若くして障害を持つようになった者はみな、自分の人生で成功をつかむチャンスはほんのわずかしかなく、誰にも平等なアクセス権があるという概念が社会にはないのだと、たちどころに悟ることになったのでした。障害のある人々は特別なスキルを要しない職へと追いやられ、社会から無視されていたのです。当事者たちの意思とは無関係に作られてしまった、この、お前たちはスキルを要しない仕事に就けといった思考は、総じて言えば、障害者は満ち足りた生活を自ら営む力に欠ける…というような観念を蔓延らせることにつながったのでした。でも私は例外的存在になれたのです。これはひとえに両親が私にあるはずのポテンシャルに縛りをかけないでいてくれたおかげです。父母たちは、私にも質の高い教育を受ける機会は平等に与えられているという主張を断固として進めた進歩的な人々でした。この50年間、私たちは医療専門職の教育と実践において、ゆっくりとではあるが着実にアクセスの平等性が広がってくるのを目にすることができました。それでもまだまだ道は半ばです。画期的な出来事であった1960年代の公民権法成立と同様、1990年の障害を持つアメリカ人法(ADA法)制定とその改正法(2008年)は障害を持つ人々が平等なアクセスと機会を得る上での強力な法的枠組みをもたらしてくれました。これらの法律の存在は、技術の進歩や裁判を通して勝ち取ったこと、多様な医療従事者がもたらす有用な点が注目を浴びるようになってきたことなどと相まって、障害を持つ医療職が増えてきたことに大いに貢献していると私は信じて疑いません。けれど、これらの法律の文言はまだまだ十分なものではありません。法が制定されることと、その法が目指すものを社会が積極的に受け入れるようになること、この二つは別の事柄です。2020年になっても、障害を持つ者たちは今なお平等なアクセスのために戦わざるをえず、医療機関や学術機関において指導的立場にある少なからずの方々は未だ障害者を受け入れ活かすこと(disability inclusion)によって、社会にもたらされうる恩恵や道徳的要請を受け入れて下さらなかったり、十分には理解をして頂けていないのが現状です。このような状況のもと、本書は機会の均等をさらに進めていく上でとても意義のあるものとなっています。本書は医療機関や学術機関で指導的立場にある方々、教員方、医療専門職を管理する立場の方々にとって必須となるであろう実用的な情報をもたらしてくれています。加えて本書は、社会にとって障害のある医療職がもっと必要であることの根拠をきちんと示すとともに、障害のある学生たちをいかに教育し医療現場へ送り出すかについて実用的な様々なやり方を提案してくれています。思えば先のミレニアムから、つまり私がまだ幼な子で、障害者であれば何か物事を成し遂げる機会はほとんどなかったような時代から考えると、今、世界では障害を取り込むことで社会が得るものは徐々に適切に評価されるようになってきており、また障害者が様々な機会に巡り合えるようになったことは、私どもの社会が大きく進歩したといえると思います。「障害のインクルージョン」これは、ひとかたならぬ広い影響力を秘めた概念でありましょう。私たちが真心を持って障害のある医療職・学生たちを受け入れるようになった時、はじめて我々は障害をより深く理解し、そしてさらには患者さん方に行う様々なケアのあり方をより優れた形に変える力をも引き出し得ます。この本は私たちがより善き道のりを歩んでいけるよう支えてくれる本です。ぜひよく読んで、理解を深め、活用してみてください。誰しも皆、何かしら得られるものがある本だというふうに読み解いて頂ければ幸いです。
フィリップ ザゾヴ
この序文を書いたPhilip Zazove医師(聴覚障害)の語り
Michigan Medicineチャンネルより
IHPI Member Profile: Philip Zazove (2015/01/22) 約5分
同じくPhilip Zazove医師の語り
Audiology Servicesチャンネルより
One of the First Deaf Physicians in The United States feat. Dr. Zazove | Michigan Medicine (2021/07/06) 約24分