33年ネット諸兄姉どの(2025.04.23)
赤沢亮正経済再生相が、ワシントンへ関税交渉に出発した翌日の記事である。
関税問題に関しては、大勢の経済学者の発言があるかと期待したが、ほとんどない中での発言であり、貴重な発言である。
わが母校などは、もっと発言すべきだろう。
「2025.04.17朝日新聞;経済季評 自由貿易の平和を乱すトランプ関税 多国協調で「報復の」一理あり」
・坂井 豊貴(さかい とよたか、1975年生まれ - 50歳、早稲田大学商学部(1998年卒業)、神戸大学大学院経済学研究科修士課程(2000年修了)2005年にロチェスター大学経済学博士課程を修了)は、日本の経済学者、実業家。専攻分野はメカニズムデザイン、マーケットデザイン、社会的選択、公正配分、クリプトエコノミクス。慶應義塾大学経済学部教授。受賞歴に義塾賞(2015年)、新書大賞4位(2016年)など。
「現代経済学の祖の一人であるレオン・ワルラスは、晩年自分がノーベル平和賞を得るべきだと考えたが、受賞には至らなかった。最初その話を知ったとき、私は不思議に思った。ワルラスは偉大だが、彼が打ち立てた交換経済の理論がどう平和に貢献したのかよく分からなかったからだ。
ワルラスを研究する学説史家のサンドゥモ氏によると、ワルラスが考える受賞の理由は次の二つである。まず交換経済の理驗とは、平和に資する自由貿易の理論であること。そしてワルラスが関税の廃止による自由貿易の促進を論じていたこと。そのようにワルラスの意を説明されると、なるほどという気もする。ワルラスの時代にノーベル経済学賞はなかったから、平和賞に関心が向いたのだろう。
自由貿易と平和を結び付ける考えは、ワルラスに端を発するわけではなく、 18世紀の思想家モンテスギユー、ヒューム、スミスにまでさかのる。貿易による相互依存の強化は、平和による利益を高めるからだ。こうした考えは、実利を重視し、人間理性によって社会を構築していこうとする啓蒙思想のなかで育まれた。
第2次世界大戦後の米国も、自由貿易を平和と結び つけて考えた。 1 9 2 9年の世界恐慌、関税同盟を通じて貿易相手を制限するブロツク経済が、戦争の主因の一つであったからだ。大戦で荒れた欧州を援助する米国のマーシャル・プランにも、自由貿易の推進は重要な項目として入っていた。なお、同プランを主導した国務長官のマ—シャルは後にノーベル平和賞を受賞している。
今月に入り、トランプ大頭領が関税の大幅な引き上げを発表した。この影響で世界同時株安が起こり、日経平均は 7日に年初来最安値の 3万 1 1 3 6円まで下落した。その後、同氏は中国以外の国への関税引き上げを一時停止したが、いつ朝令暮改が起こるかは分からない。市場の不確実は高いままだ。
日本への関税率が、予想を大きく上回る 24 %となったのは、驚きであった。これは米国で日本からの輸入品を買うと、 24 %の税率が価格をのませされるようなものだ。ホワイトハウスの主張を概観すると、日本は 46 %の関税率を米国に課しており、その約半分を米国は日本に課すということのようだ。しかも 46 %は、「米国の日本への貿易赤字額」を「米国の日本からの輸入額」で割った値であるようだ。その値は関税率と呼べるものではない。そもそも実際の関税率は品目によって異なっており、一つの数字で諭ずるのに向いていない。
トランプ氏は今後、各国と関税についてディール (交渉 )に入るのだという。だが、いったい何をディールするというのだろう。同氏は今回の関税を「相互関税」だという。しかし実際には米国が一方的に高い関税を課すことにしただけだ。だから互いに関税を下げようといったディールは最初から成立しないように思われる。
おそらくトランプ氏は安全 安全保障を含む離題について米国に有利な条件を求めてくるか、そもそもディールを成立させる気がないのではないか。実際、同氏が目指す減税や国境警備強化を実施するには、新たな財源が必要である。関税は一見、相手国だけから徴税していると見えがちなので課しやすい。実際には自国の消費者も物価高で負担を分け合うことになるのだが。
大統領経済諮問委員会のミラン委員長は、就任前に「世界貿易システム再構築のユーザーズ・ガイド」という長い論考を発表している。興味深いのは、そこにある最適関税理論の記述だ。通常は関税をかけると輸入品の物価が消費税のように上がり、関税をかけた国の消費者は不利になる。しかし購買力が強い大国の場合は、関税をかけても輸出国が関税の大半を値下げで吸収するので、関税をかけた国の消費者が不利にならない、というのが最適関税理輪である。ミラン氏は論考で国際経済学のハンドブックを引用し、米国の最適関税率は 20 %ほどだと述べている(トランプの目標値は20%なのだろうか?)。また、同氏は関税 50 %のほうが、関税ゼロの自由貿易より望ましいと述べている(地産地消の世界である)。今回のトランブ関税と、ミラン氏の最適璧理論についての記述は重なっている。(地産地消の世界である)
最適関税理論では通常、関税をかけた相手国が、報復関税を課してこないと仮定したうえで、自国の関税を最適に上げる。随分と図々しい仮定だが、トランプ氏が相手国に報復関税をするなと警告するのは、この仮定と合致する。また、ベツセント財務長官はブル ―ムバーグのインタビューで「相手国が報復関税を課さないならば、現在の関税率が上限だ」と話していた。この発言も同理論と非常に親和的だ。
とすると、「相互関税」が同理論に基づくという 前提の上でだが、報復関税には一定の理がある。相手国が報復関税をすると、トランプ氏は高い関税率を課す根拠を失うからだ。だから、もし今後「相互関税」が発動する事態が起こるならば、多国間で協調して報復関税を課すことが、強い対抗措置になりうる。多国間でというのは、一国だと交渉力が弱いからだ。無論そうした 事体は起きないことが望ましいが、そもそも現在の事態も起きないほうが望ましく、また想定外のものであった。
イチハタ