Limits of Enlightenment Project

Limits of Enlightenment

A Project

SYNODOS TALKLOUNGE

啓蒙の限界プロジェクト

概要


シノドス・トークラウンジ「啓蒙の限界プロジェクト」


概要



 ネット上で知の言論空間を築いてきた「シノドス」では、2020年夏以来、オンライン型のトークイベント、「シノドス・トークラウンジ」を開催しています。これまでさまざまな方にご登壇いただきました。


https://synodos.jp/authorcategory/synodostalklounge


 私たちはこのシノドス・トークラウンジにて、新たな企画「啓蒙の限界プロジェクト」を立ち上げました。気候変動問題を受けて、私たちは消費者として、いかなる対応を模索すべきなのでしょう。以下に、このプロジェクトの概要についてご説明いたします。


***


IPCCの特別報告書(2018)によりますと、地球の温暖化を今後、産業革命以来1.5度の上昇に抑えるためには、CO2排出量が、2030年までに45%削減されなければならず、2050年頃には正味ゼロに達する必要があります。菅政権は202010月に、「2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロとする」目標を示しましたが、その方法は、次世代型太陽電池などのイノベーションや省エネ・再エネ、原子力政策などで、温暖化への対応は経済成長の制約ではないと表明しています。


(菅内閣総理大臣所信表明演説20201026

https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/statement/2020/1026shoshinhyomei.html


しかし本当に、エネルギーを中心としたイノベーションのみで、IPCCの報告書が示す削減の必要を達成できるのでしょうか。

 もし私たち日本人がIPCCの問題提起を深刻に受けとめて、CO2の排出量削減を産業構造の変化やそれぞれの行動変容によって負担しなければならないとすれば、消費者個人は、どのような対応を求められるのでしょうか。

「私たちは1950年代の生活水準に戻るべきだ」と主張する専門家もいます。しかしそのように主張する人が、実際に1950年代の生活水準に戻ることができているのかと言えば、どうも怪しいようにみえます。

 私たちの社会は現在、環境問題について啓蒙する人が、自分で啓蒙している内容を実践できていないという、「啓蒙の限界」に直面しているのではないか。あるいはまた、啓蒙される側の私たちも、気候変動問題について理性的に理解する一方で、十分に実践できていないのではないか。

 もちろん、もっと長期的にみれば、人類は技術革新とともに、CO2の排出量を実質ゼロにすることができるかもしれません。

 しかし例えばこの先の10年間、新しいさまざまな技術を導入することが実効的に難しい場合、私たち消費者は、ライフスタイルをどのように変更すべきなのでしょうか。

 マクロ指標についてはさまざまなシミュレーションがありますが、具体的に、たとえば自家用車にはどのくらい乗ってもいいのでしょうか。牛肉は、一年間にどれだけ食べていいのでしょうか。

 こうした問題に、すでに答えを出している報告書や論文があるかもしれません。あるいは反対に、答えを出すためには恣意的な前提を多く設定せざるを得ず、しかも簡単に計算することはできないのかもしれません。

 しかし恣意的な概算値であれ、答えを出す試みは、社会的な公論を刺激するでしょう。私たちは、環境問題を消費者の観点から切実なものとして受け止めるために、概算値を出すという観点から、環境消費の問題に迫りたいと考えています。

 グレタさんはある講演で、「あなたたち(支配層の人たち)に、パニックに陥ってほしい」と述べたことがあります。気候変動問題を深刻に受け止めると、私たちは生活を抜本的に見直さざるを得ず、パニックに陥るのが当然なのかもしれません。

 思想的な次元では、私たちはすでに「啓蒙の限界」に到達しているのかもしれません。しかし、地球温暖化を阻止することができなくても、私たちはこの問題を直視することが重要であると考えます。この問題をデータで直視しつつも「それでもなお!(dennoch!)」と受け止める実践意識と美意識が、新しい時代を生み出す原動力になるかもしれません。

私たちは「啓蒙の限界」状況とどのように向き合うべきなのか。このような大きな問題意識のもとに、具体的に消費者の観点から、先の問題を含めて、次のような諸問題を検討したいです

(1)いまの日本政府の対応では、どの程度、温暖化せざるを得ないのでしょうか。

(2)またその場合、気候変動による長期的な経済的損失は、どの程度になるのでしょうか。

(3)温暖化を抑えてより長期の経済的利益を最大化するために、私たちはいま、一時的にではあれ、どの程度生活水準を落とす必要があるのでしょうか。

(4)自家用車にはどのくらい乗っていいのでしょうか。飛行機を使った旅行は禁止されるべきでしょうか。

(5)具体的に牛肉を例にとると、一年間に何グラム食べていいのでしょうか。

(6)あるいはプラスチックは、どれだけ消費していいのでしょうか。具体的に、ペットボトルは、年間、何本買っていいのでしょうか。

(7)電力需要を減らすために、あるいは再エネの普及のために、電気代はいくらにすべきなのでしょうか。(あるいは使ってよい電力量を考えると、毎月の電気代をどの程度に抑えればよいのでしょうか。)

(8)以上のような問題にストレートな答えがない場合、これらの問題を検討する上で、間接的にどのような分析が役立つでしょうか。

(9)私たちは「賢い消費者」として、どのようなオルタナティヴ実践をすべきでしょうか。

 以上のような問題を考える上で、私たちが現時点で集めたサイト情報は、以下のようなものです。

【ヨーロッパ】

ScienceReducing food’s environmental impacts through producers and consumers

https://science.sciencemag.org/content/360/6392/987

It starts at home? Climate policies targeting household consumption and behavioral decisions are key to low-carbon futures

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2214629618310314

【デンマーク】

Climate friendly dietary guidelines

https://orbit.dtu.dk/files/110722384/Climate_friendly_dietary_guidelines.pdf

Food losses and food waste extent, underlying drivers and impact assessment of prevention approaches

https://static-curis.ku.dk/portal/files/169753425/IFRO_Report_254.pdf

National Inventory Report 2020Denmarks_National_Inventory_Report_2020.pdf

http://cdr.eionet.europa.eu/dk/Air_Emission_Inventories/Submission_UNFCCC/colxtiv9g/envxtiwsw/

Denmark's National Inventory Report 2020. Emission Inventories 1990-2018

https://www.dce.au.dk/udgivelser/vr/nr-351-400/abstracts/no-372-denmarks-national-inventory-report-2020-emission-inventories-1990-2018/

【イギリス】

The Climate Change Committee https://www.theccc.org.uk/

The Fifth Carbon Budget

https://www.theccc.org.uk/wp-content/uploads/2016/07/5CB-Infographic-FINAL-.pdf

UK Households’ Carbon Footprint: A Comparison of the Association between Household Characteristics and Emissions from Home Energy, Transport and Other Goods and Services (2013) http://ftp.iza.org/dp7204.pdf

【牛のメタンガス排出量の予測】

https://ocw.kyoto-u.ac.jp/ja/faculty-of-agriculture-jp/5240000/pdf/08.pdf

【プラネタリー・ヘルス・ダイエット】 地球にやさしい食事についての提案

https://eatforum.org/learn-and-discover/the-planetary-health-diet/

レポートは以下。

https://eatforum.org/content/uploads/2019/07/EAT-Lancet_Commission_Summary_Report.pdf

【日本】

国立環境研究所他AIMプロジェクトチーム(2020)「2050年脱炭素社会実現の姿に関する一試算」(20201214日)

https://www-iam.nies.go.jp/aim/projects_activities/prov/2020_2050Japan/2050_Japan_short_201214.pdf

地球環境戦略研究機関「ネット・ゼロという世界:2050年日本(試案)」

https://www.iges.or.jp/jp/pub/net-zero-2050/ja

平野勇二郎・井原智彦ほか(2017)「家庭における直接・間接CO2推計に基づく 低炭素型ライフスタイルの検討」環境科学会誌 304261273

https://www.jstage.jst.go.jp/article/sesj/30/4/30_300403/_pdf

「1.5Cライフスタイル-- 脱炭素型の暮らしを実現する選択肢」小出 瑠 • 小嶋 公史 • 渡部 厚志 https://www.iges.or.jp/jp/pub/15-lifestyles/ja

 他にも検討すべき事柄が多々あると恐れますが、専門家の皆様のお知恵を拝借させていただけますと幸甚です。ご登壇者の皆様には、ストレートな答えがない場合も、間接的な答えや分析がございましたら、お話をお伺いすることができますと幸いです。


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「シノドス・トークラウンジ」(2021年5月22日)

藤村コノヱ+加藤三郎+橋本努(聞き手)


 気候変動をめぐる問題は、今年一月からのNHKスペシャル・シリーズ番組「2030 未来への分岐点」でも取り上げられ、大きな話題になりました。

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の「特別報告書(2018年)」によると、閾値を超えた気候変動を防ぐためには、2030年までに二酸化炭素の排出量を45%削減し、2050年頃には正味ゼロにしなければならないとされています。

 ところが菅政権は、2020年10月に、「2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロとする」という目標を示したものの、その方法は、次世代型太陽電池などのイノベーションや省エネ・再エネ、原子力政策などであり、温暖化をめぐる日本政府の対応策は、経済成長の制約ではないとしています。この政府の対応では、IPCCの目標を達成することは難しいでしょう。

 先のNHKのシリーズ番組が警告するように、私たちが2030年問題を真剣に受け止めるべきだとすれば、いったい私たちは個人として、何をすべきなのでしょうか?

具体的な提案として、「私たちは1950年代の生活水準に戻るべきだ」と主張する専門家もいます。しかしそのように主張する人たちが、実際に1950年代の生活水準に戻ることができているのかと言えば、どうも怪しいようにみえます。

 私たちの社会は現在、環境問題について啓蒙する人たちが、自分で啓蒙している内容を実践できていないという、「啓蒙の限界」に直面しているのではないか。あるいは私たち市民は、何をすべきかについては分かっていても、それを実行できないという「啓蒙の限界」に到達しているのではないか。

シノドス・トークラウンジでは、新たに「啓蒙の限界プロジェクト」を立ち上げて、気候変動と私たちの生活の関係について、さまざまな識者にお話を伺います。

 第一回目は、日本の環境運動のネットワーク組織「グリーン連合」(2015年~)の設立の呼びかけ人であり、現在、その共同代表を務められている藤村コノヱ様(NPO法人「環境文明21代表」でもあります)、および、同じくNPO法人「環境文明21」の顧問を務める加藤三郎様に、お話をお伺いします。

 私たちは今回、九つの質問を用意しました。例えば「気候変動を抑えるために、牛肉は、毎年、何グラムまで食べてよいのでしょうか」といった素朴な質問であります。正しい答えはないのかもしれません。しかしこのような問いを通じて、地球レベルの大きな問題を、個人の生活の視点で考えるためのきっかけにしたいと考えています。皆様、どうぞよろしくご参加くださいませ。


<プロフィール>

藤村コノヱ(ふじむら このえ)

 大分県別府市出身。東京工業大学大学院博士後期課程修了。学術博士。小学校教師、環境庁臨時職員、団体職員、環境コンサルタント等を経て、平成2年会社設立。環境教育のパイオニアとして、環境庁、東京都等行政機関からの委託を受けて、環境学習に関する調査研究、リーダー養成講座の企画・実施を行うほか、市民や企業に対して、環境問題についての講演やワークショップの講師を行う。また中央環境審議会委員など各種委員会委員、大学等の非常勤講師等も務める。NPO法人環境文明21の設立に関わり、2018年より代表。環境NPOの連合組織であるグリーン連合(2015年6月5日)の設立を他団体に呼び掛け、現在共同代表を務める。


加藤三郎(かとう さぶろう)

東京大学工学系大学院修士課程を修了。厚生省、環境庁にて公害・環境行政担当。90年環境庁地球環境部の初代部長。地球温暖化防止行動計画の策定、地球サミットへの参画などを経て、93年退官。直ちに環境・文明研究所を設立するとともに「21世紀の環境と文明を考える会」(99年10月にNPO法人化し「環境文明21」と改称)主宰。早稲田大学環境総合研究センター顧問、SOMPO環境財団評議員、プレジデント社環境フォトコンテスト審査委員長、毎日新聞日韓国際環境賞審査委員、環境NPO連合組織「グリーン連合」顧問、全国浄化槽団体連合会監事、日本環境整備教育センター理事などを兼務。その他多方面で活躍。


啓蒙の限界プロジェクト「第2回 各家庭で求められる温暖化対策とは」

「シノドス・トークラウンジ」(2021年6月26日)15:00-16:30

金森有子+根本志保子(聞き手)

https://peatix.com/event/1925519

 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の「特別報告書(2018年)」によると、閾値を超えた気候変動を防ぐためには、2030年までに二酸化炭素の排出量を45%削減し、2050年頃には正味ゼロにしなければならないとされます。

 ところが菅政権は、2020年10月に「2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロとする」という目標を示したものの、その方法は、次世代型太陽電池などのイノベーションや省エネ・再エネ、原子力政策などであり、温暖化をめぐる日本政府の対応策は、経済成長の制約ではないとしています。この政府の対応では、IPCCの目標を達成することは難しいでしょう。

 私たちが2030年問題を真剣に受け止めるとすれば、いったい私たちは、日常生活のなかで何をすべきなのでしょうか?

 私たちの社会は現在、環境問題について啓蒙する人たちが、自分で啓蒙している内容を実践できていないという、「啓蒙の限界」に直面しているのではないか。あるいは私たち市民は、何をすべきかについては分かっていても、それを実行できないという「啓蒙の限界」に到達しているのではないか。

 シノドス・トークラウンジでは、「啓蒙の限界プロジェクト」と題して、気候変動と私たちの生活の関係について、さまざまな識者にお話を伺います。

 第2回目は、国立環境研究所主任研究員の金森有子様をお迎えします。金森様は、ライフスタイルと環境負荷発生量の関係に関するモデリングをご専門とされています。各家庭で地球温暖化を防ぐために、どのような対処をすべきなのか。前回に引き続き、九つのシンプルな質問を素材に議論します。例えば「気候変動を抑えるために、牛肉は、毎年、何グラムまで食べてよいのでしょうか」といった素朴な質問であります。現在の専門研究の水準で、こうした問いにどこまで迫ることができるのでしょう。明らかにしたいと思います。皆様、どうぞよろしくご参加くださいませ。


<プロフィール>

金森有子(かなもり ゆうこ)

国立環境研究所社会システム領域・主任研究員/東京工業大学工学院・連携准教授。2007年に京都大学工学研究科で博士(工学)を取得。その後国立環境研究所に入所し、現在に至る。専門は環境工学。AIM(Asia-pacific Integrated Model)の開発チームの一員であり、主に家庭や生活からの環境負荷の発生に関する分析やモデル構築を行う。論文・書籍(共著を含む)に、「家庭でできる温暖化対策」『ココが知りたい地球温暖化』2, 112-119 (2010)、「エネルギーサービスの需給バランスを考慮した家庭部門のエネルギー消費量推計について」『地球環境研究論文集』18:131-142 (2010)、「家庭部門における地域別エネルギー消費特性を考慮した二酸化炭素排出削減目標の達成可能性」『土木学会論文集G』73(5):I_121-I_130 (2017)、W.(WU Wenchao), Kanamori Y.(金森有子), Zhang R., Zhou Q., Takahashi K.(高橋潔), Masui T.(増井利彦), “Implications of declining household economies of scale on electricity consumption and sustainability in China, Wu,” Ecological Economics, 184:106981 (2021)、など。


<司会・根本志保子・プロフィール>

日本大学経済学部教授。2004年に一橋大学経済学研究科で博士(経済学)を取得。専門は環境経済論。倫理的消費、環境消費者運動の歴史と思想。論文・書籍に、「消費-消費は環境に責任があるか」橋本努編『現代の経済思想』勁草書房(2014)、所収。Socio-economic Thought of the Teikei Movement and the Early Organic Agriculture in Japan: Overcoming ‘Natural and Human Alienation’, Bulletin of Research Institute of Economic Science College of Economics Nihon University51, 107-121 (20021) 。「「生の循環」構築のための責任ある消費者」橋本努編『ロスト欲望社会』勁草書房(2021.6.)所収、など。


第3回 温室効果ガス実質ゼロに向けた私たちの消費生活は-シミュレーションデータはどこまで迫れるか

 閾値を超えた気候変動を防ぐためには、2030年までに二酸化炭素の排出量を45%削減、2050年頃には正味ゼロにしなければならないとされています。このIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の「特別報告書(2018年)」を受けて、私たちの社会や生活は大きな変容を迫られています。

 シノドストークラウンジ「シリーズ:啓蒙の限界プロジェクト」では、第1回にて、気候変動問題への対応に向けて私たちの「社会が受けるであろう影響や意識変容の必要」について、第2回にて、2050年脱炭素社会に向けた「内外の社会経済シナリオが示す私たちの家庭生活への示唆」について、AIM(アジア太平洋統合評価モデル)の研究成果などをまじえて議論を進めてきています。

 このような大きな社会経済変容に際して、果たして新たな技術、個々の意識改革や工夫のみで、本当に「2050年の温室効果ガス正味ゼロ」は達成できるのでしょうか。実際には、私たちの社会や日常生活は、何を、どこまで、どのように、変えることが求められているのでしょうか。それらを「数値」として知ろうとする分野の一つに、社会経済と環境影響の関係をマクロ的に俯瞰するシミュレーションモデルや、製品やサービスのゆりかごから墓場までの環境影響を評価するライフサイクルアセスメント(LCA)という研究手法があります。

 第3回目は、東京大学大学院新領域創成科学研究科環境システム学専攻准教授の井原智彦先生をお迎えします。井原先生は、ライフサイクル思考に基づいて、地域・個人レベルでの具体的な対策を立案し、社会全体への有用性をデータで評価する研究を専門としています。内外の最新のシミュレーションモデル研究は、温室効果ガス実質ゼロに向けた私たちの消費生活について、どこまで明らかにしているのでしょうか。前回に引き続き、九つのシンプルな質問を素材に議論します。例えば「気候変動を抑えるために、牛肉は、毎年、何グラムまで食べてよいのでしょうか」といった素朴な質問です。現在の専門研究では、このような問いにどこまで迫ることができるのでしょうか。

 皆様、どうぞご参加ください。

【プロフィール】

井原智彦(いはらともひこ)

東京大学大学院新領域創成科学研究科環境システム学専攻 准教授/国立研究開発法人産業技術総合研究所 安全科学研究部門 社会とLCA研究グループ 客員研究員併任。2004年に東京大学大学院工学系研究科地球システム工学専攻博士課程修了 博士(工学)。専門はライフサイクル思考の都市気候および消費者行動への応用。論文(共著含む)に、Yujiro Hirano(平野勇二郎), Tomohiko Ihara(井原智彦), Masayuki Hara(原政之), Keita Honjo(本城慶多),“Estimation of Direct and Indirect Household CO2 Emissions in 49 Japanese Cities with Consideration of Regional Conditions”Sustainability 12(11) 4678 – 4678(2020)、Yida Jiang(姜怡達), Yin Long(龍吟), Qiaoling Liu(劉巧玲), Kiyoshi Dowaki(堂脇清志), Tomohiko Ihara(井原智彦), “Carbon emission quantification and decarbonization policy exploration for the household sector - Evidence from 51 Japanese cities”Energy Policy 140, 111438(2020)、平野勇二郎, 井原智彦, 戸川卓哉, 五味馨, 奥岡桂次郎, 小林元「家庭における直接・間接CO2推計に基づく低炭素型ライフスタイルの検討」『環境科学会誌』30(4) 261 – 273(2017)、など。


第4回 温暖化と脱炭素化社会を考える

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の「特別報告書(2018年)」によると、閾値を超えた気候変動を防ぐためには、2030年までに二酸化炭素の排出量を45%削減し、2050年頃には正味ゼロにしなければならないとされます。

これを受けて自民党の菅政権は、2020年10月に「2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロとする」という目標を示しました。しかしその後の政府の取り組みは、十分なものなのでしょうか。菅政権は、次世代型太陽電池などのイノベーションや省エネ・再エネ、原子力政策などを強調し、温暖化をめぐる日本政府の対応策は、経済成長の制約ではないとしましたが、このような対応の仕方で、私たちはIPCCの目標をどこまで達成することができるでしょうか。

私たちは現在、気候変動問題という大きな問題に直面しています。この問題の難しさは、問題を警鐘している専門家や知識人たちが、実は自分でも啓蒙している内容を実践できていないという、「啓蒙の限界」にあるのかもしれません。あるいは私たち市民は、何をすべきかについては分かっていても、それを実行できないという「啓蒙の限界」に到達しているのかもしれません。

シノドス・トークラウンジでは、シリーズ「啓蒙の限界プロジェクト」と題して、気候変動と私たちの生活の関係について、さまざまな識者にお話を伺いしています。

第4回目は、国立環境研究所の江守正多様をお迎えいたします。江守様は、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第5次および第6次評価報告書の主執筆者であり、気候変動研究の第一人者であります。これまでのご研究の一端を、ご著書「異常気象と人類の選択」「地球温暖化の予測は『正しい』か?」などにまとめられています。トークラウンジでは江守様といっしょに、地球温暖化問題をめぐって、素朴な疑問から出発してさまざまに深堀したいと思います。皆様、どうぞよろしくご参加くださいませ。

江守正多(えもり・せいた)

1970年神奈川県生まれ。1997年に東京大学大学院 総合文化研究科 博士課程にて博士号(学術)を取得後、国立環境研究所に勤務。2021年より地球システム領域 副領域長。社会対話・協働推進室長。東京大学 総合文化研究科 客員教授。専門は気候科学。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次および第6次評価報告書 主執筆者。著書に「異常気象と人類の選択」「地球温暖化の予測は『正しい』か?」、共著書に「地球温暖化はどれくらい『怖い』か?」「温暖化論のホンネ」等。

【日時等の詳細】

開催日時:2021年11月10日(水)20:00~21:30

ゲスト:江守正多

ホスト:橋本努

場所:Zoom

料金:1500円(税込)※高校・大学・大学院生は無料です。

※後日、アーカイブの準備が整い次第、Peatixより動画へのリンクをお送りします。リンク送付後、1週間アーカイブ視聴が可能です。

https://peatix.com/event/3047791


第5回 カーボンニュートラルを制する者が世界のマネーを制する

 2021年4月から始まったシノドス・トークラウンジ「啓蒙の限界プロジェクト」では、第1回「未来への分岐」(藤村コノヱさん・加藤三郎さん、環境文明21)、「第2回 各家庭で求められる温暖化対策とは」(金森有子さん、国立環境研究所)、「第3回 温室効果ガス実質ゼロに向けた私たちの消費生活は-シミュレーションデータはどこまで迫れるか」(井原智彦さん、東京大学)、「第4回 温暖化と脱炭素化社会を考える」(江守正多さん、国立環境研究所)と議論を重ねてきました。

 そこでは、私たちのライフスタイルにおける個人的な努力を超えて、すべての自動車や熱源の電化、再エネを中心としたエネルギー源の完全な脱炭素化、あらゆる箇所での徹底的な省エネなど、私たちの社会の抜本的で構造的な変容が求められていることがわかってきました。2021年のバイデン政権誕生以降、世界の気候変動政策や産業界の動きは加速しつつあります。私たちの新しい社会、産業、仕事、生活は、実際のところどのようになるのでしょうか。

 第5回目は、ジャーナリストの森川潤さんをお迎えします。森川さんは2021年9月に『グリーン・ジャイアント-脱炭素ビジネスが世界経済を動かす』(文春新書)を出版されました。そのメッセージは「カーボンニュートラルを制する者が世界のマネーを制する」。森川さんは新たにエネルギー業界の盟主へと躍り出てきた企業たちを「グリーン・ジャイアント(再エネの巨人)」と呼び、2020年について「この1年間でこれまでの経済の前提を揺るがす大きなシフトが、あらゆる業界で同時多発的に動き始めている」と書いています。再エネの中国企業、ESG投資と世界のファンドマネー、電気自動車テスラ。2021年12月にはトヨタも2030年までの30車種のEV車発売を発表しました。森川さんの言う「『未来を作る側』の企業や人物」が日本からも出るのでしょうか。トークラウンジでは、脱炭素をめぐる世界企業の潮流に迫るとともに、NYから参加される森川さんに「アメリカの今」もお聞きしたいと思います。皆様、どうぞご参加ください。


森川 潤 もりかわ・じゅん

1981年米国生まれ。トロント大学留学、京都大学文学部卒業後、産経新聞を経て、2011年週刊ダイヤモンド、2016年にNewsPicksに参画。テクノロジー業界とともにエネルギー業界、思想カルチャーまでをカバー。2019年から副編集長、ニューヨーク支局長。米経済メディアQuartzの日本版の創刊編集長も。著書に『アップル帝国の正体』(共著、文藝春秋)、『誰が音楽を殺したか』(共著、ダイヤモンド社)など。


【日時等の詳細】

開催日時:2022年2月2日(水)20:00~21:30

場所:Zoom

料金:1500円(税込)※高校・大学・大学院生は無料です(数量限定)。

※後日、アーカイブの準備が整い次第、Peatixより動画へのリンクをお送りします。


【注意事項】

ご利用のインターネット環境による映像・音声の乱れが発生しても責任を負いかねますのでご了承ください。

ズームのリンクを、他の方と共有したり、SNS等で拡散したりしないよう、お願いいたします。

主催者以外による録画・録音はご遠慮ください。

https://peatix.com/event/3122074


第6回 グリーンニューディールと2050年カーボン・ニュートラルへのシナリオ

 2021年4月から始まったシノドス・トークラウンジ「啓蒙の限界プロジェクト」は6回目を迎えます。「2050年温室効果ガス実質ゼロ」の姿を把握すべく、これまで5回にわたり、シミュレーション分析、ライフサイクル思考、日本の政策対応と社会変容、環境技術とビジネスについて議論を重ねてきました。そこからは「2050年実質ゼロ」への対応が、私たちの個人的なライフスタイルをはるかに超えて、すべての自動車や熱源の電化、再エネを中心としたエネルギー源の完全な脱炭素化、あらゆる箇所での徹底的な省エネなど、抜本的で構造的なエネルギーと産業の変容を求めていることがわかってきました。さらには、これらの環境市場に対応する技術と企業が世界のビジネスで生き残る、その現状と将来についてもお伺いしてきました。

 第6回は、国際的な環境経済学をご専門とする明日香寿川先生をお迎えします。明日香先生は、(2021)「レポート2030:グリーン・リカバリーと2050年カーボン・ニュートラルを実現する2030年までのロードマップ」(未来のためのエネルギー転換グループ、https://green-recovery-japan.org/)、(2021)『グリーン・ニューディールー世界を動かすガバニング・アジェンダ』岩波新書を発表されました。現在も最新のシナリオと内外の環境政策評価に基づき、政治学、経済学、経営学、社会学、哲学、倫理学など幅広い社会科学の観点から政策提言をされています。ちなみに「グリーンニューディール」とは、環境投資による経済活性化と雇用創出のことですが、その背景には「気候正義」や「公正な移行」(気候対応によって失われる雇用を他の産業等に移行する支援策)など、社会や世代間の公正性についての議論が存在しています。

 第6回では、まず明日香先生の最新のシナリオ分析に基づいて、「電化・省エネ・再エネの技術と産業構造の転換で2050年ネットゼロは可能か」、「生産および消費の量と質の転換は、何をどこまで求められているのか」、「ライフスタイルや生活実践については」など、これまでのトークラウンジでの論点を確認します。その後、「気候変動とグリーンニューディール政策の内外の動向」、「気候正義と公正な移行」、加えて「今後のカーボンプライシング政策の可能性」、「ネットゼロの議論における政治あるいは倫理に関する思想論争」などについてもお伺いする予定です。

これまでに続き、「2050年温室効果ガス実質ゼロ」のあらゆる論点が詰まった今回の第6回に、皆様、どうぞご参加ください。


明日香寿川

東北大学東北アジア研究センター教授、東北大学環境科学研究科環境科学政策論教授(兼任)。博士号(学術)。東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻博士課程単位取得退学。主な著書・論文に、『グリーン・ニューディールー世界を動かすガバニング・アジェンダ』(2021年、岩波新書)、「レポート2030:グリーン・リカバリーと2050年カーボン・ニュートラルを実現する2030年までのロードマップ」(2021年、未来のためのエネルギー転換グループ、共著、https://green-recovery-japan.org/)。他に、『脱「原発・温暖化」の経済学』(中央経済、2018年、共著)、『地球温暖化:ほぼすべての質問に答えます!』(岩波ブックレット、2009年)など。


【日時等の詳細】

開催日時:2022年7月6日(水)20:00~21:30

場所:Zoom

料金:1500円(税込)※高校・大学・大学院生は無料です(数量限定)。

※後日、アーカイブの準備が整い次第、Peatixより動画へのリンクをお送りします。

【注意事項】

ご利用のインターネット環境による映像・音声の乱れが発生しても責任を負いかねますのでご了承ください。

ズームのリンクを、他の方と共有したり、SNS等で拡散したりしないよう、お願いいたします。

主催者以外による録画・録音はご遠慮ください。


第7回 気候民主主義――温暖化を阻止する市民会議の作り方

啓蒙の限界プロジェクト「第7回 気候民主主義――温暖化を阻止する市民会議の作り方」三上直之(著者)+橋本努(聞き手)

 2018年にスウェーデンのグレタ・トゥーンベリさんが「気候変動のための学校ストライキ」を始めたのは、彼女が15歳のときでした。その翌年から、ヨーロッパの国や自治体では、「気候市民会議」と呼ばれるミニ・パブリクスが盛んに開かれるようになっています。くじ引きによって、できるだけ多様な市民に集まっていただき、議論を通じて、最終的に温暖化対策に必要な政策を提案します。この試みは、私たちの代表制民主主義を補う試みとして、あるいはまた、代表制民主主義よりもうまく機能する「直接制民主主義」の試みとして、いま政治的に注目されています。

 日本でも2020年に、「気候市民会議さっぽろ2020」が開催されました。この会議は日本で初めての気候市民会議の取り組みとして、大いに注目を集めました。シノドス・トークラウンジの「啓蒙の限界」では、この企画を担った運営者の一人である三上直之さんをお招きして、氏の近著『気候民主主義――次世代の政治の動かし方』(岩波書店、2022年5月刊)をめぐって議論します。三上さんはこれまで、例えばゲノム編集作物をめぐる市民の話し合いなど、環境と市民社会をめぐるフィールドワーク研究をご専門とされてきました。本書では、ヨーロッパでの気候市民会議の動向を詳しく紹介し、また札幌での市民会議の運営方法とその成果について伝えています。

 例えばイギリス政府は2019年に、国全体の温室効果ガス排出量を2050年までに実質ゼロにするという目標が法制化しました。これを受けてイギリスでは「気候市民会議」が開催され、約100人の市民が議論を繰り返して、130項目の提案書を政府に提出しました。ところが政府からの応答は、この中の30%の提案に対してのみだったそうです。政府は例えば、食肉・乳製品の消費削減や、生産から消費・廃棄に至るまでに排出される温室効果ガス量の表示(カーボンラベルの導入)については、何も応じませんでした。

 このように市民会議を開催しても、その提案がそのまま政府の政策に採用されるわけではありません。むしろ否定される部分の方が多いでしょう。それでもこうした「くじ引きによる市民会議」をたくさん開催して、世論を動かしていく道はあるかるしもれません。

 ブラジルのポルトアレグレでは、1989年に「参加型予算」と呼ばれる制度を導入しました。地域における直接制民主主義の仕組みを制度化して、これを代表制民主主義のなかに取り入れる仕組みです。このような取り組みは、いま世界中の国や地域に広がっている、と三上さんは指摘します。では市民会議を活かして政治を変えるには、どんな知恵が必要でしょう。また地球温暖化を阻止するためには、私たちにはどんなライフスタイルが必要で、どんな政策提言が必要なのでしょう。例えば札幌市の二酸化炭素排出量の37%は、家庭部門によるものです。これを2050年までにゼロにするには、どうすればいいのでしょうか。途方に暮れる問題ではありますが、トークラウンジでは、三上さんといっしょに議論を深めたいと思います。みなさま、どうぞよろしくご参加ください。

三上直之(みかみ・なおゆき)

北海道大学高等教育推進機構准教授、同大学大学院理学院准教授。東京大学文学部卒、同大学大学院新領域創成科学研究科博士課程修了。博士(環境学)。北海道大学CoSTEP特任准教授などを経て、2008年から現職。専門は環境社会学、科学技術社会論。無作為選出型の市民会議(ミニ・パブリックス)を、環境政策や新たな科学技術の問題に応用する可能性を研究している。2020年には代表を務める研究プロジェクトの一環として、札幌市などとともに国内初の「気候市民会議」を開いた。著書に『気候民主主義―次世代の政治の動かし方』(2022年、岩波書店)、『リスク社会における市民参加』(2021年、放送大学教育振興会、共編著)など。

【日時等の詳細】

開催日時:2022年8月17日(水)20:00~21:30

場所:Zoom

料金:1500円(税込)※高校・大学・大学院生は無料です(数量限定)。

※後日、アーカイブの準備が整い次第、Peatixより動画へのリンクをお送りします。

【注意事項】

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