The Lost Desire Society
The Lost Desire Society
Ethics and Cultures of our Consumer Society and ITS Future
ロスト欲望社会
消費社会の倫理と文化はどこへ向かうのか
勁草書房 2021.6. 3,200円+tax
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高度経済成長期の大量生産に支えられた画一的消費、
ポストモダンのきらびやかな記号消費を経て、
「欲望なき時代」の日本社会が生み出したユニークな消費スタイルとは。
歴史を整理する枠組みを提示、
衰退する日本の消費社会の今後を展望する【帯】
目次
橋本努編『ロスト欲望社会 消費社会の倫理と文化はどこへ向かうのか』勁草書房、2021.6.刊
目次
序 章 消費社会はどこへ向かっているのか? 橋本 努 7
はじめに
1 三つの消費文化
2 近代の消費社会とその批判
3 ポスト近代の消費社会とその批判
4 ロスト近代の消費社会とその批判
5 新しい消費理論の動向と現代
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Ⅰ 消費論の最前線
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消費社会にとって「快楽」とは?
第1章 快楽としてのエシカル消費─ケイト・ソパーによる認識論的転回 畑山要介 49
はじめに
1 エシカル消費の快楽性
2 フクロウを守るのは誰のため?
3 消費は意味的体験である
4 エシカル消費は私たちの日常と地続きである
5 定常経済とは私たちのリアリティの変容である
6 「賢い消費」を越えて
消費社会にとって「贈与」とは?
第2章 供犠としてのショッピング─ダニエル・ミラーの人類学的消費理論 小田和正 69
はじめに
1 供犠としてのショッピング
2 道徳的消費と倫理的消費
3 ショッピングの弁証法
4 考察
おわりに
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Ⅱ 家庭(オイコス)を超えて
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消費社会にとって「ハンドメイド」とは?
第3章 承認としての生産=消費─新たなプロシューマーの生成過程 神野由紀 95
はじめに
1 「女性の家」と手芸
2 新しい消費文化の萌芽
3 ソーシャル・マーケット出現以降のハンドメイド
おわりに
消費社会にとって「消費者団体」とは?
第4章 消費者運動の変遷と消費者団体の行方 丸山千賀子 125
はじめに
1 消費者運動の変遷
2 消費者団体の現在の課題
おわりに
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Ⅲ 環境への配慮
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消費社会にとって「顔の見える関係」とは?
第5章 「生の循環」構築のための責任ある消費者─産消提携と倫理的消費 根本志保子 153
はじめに
1 環境消費者運動としての産消提携
2 初期提携運動の社会経済思想
3 産消提携における「顔の見える関係」とは
4 「顔の見える関係」に内包された課題
5 消費社会にとって「顔の見える関係」とは
消費社会にとって「環境に配慮する生活」とは?
第6章 持続可能な世界のための消費実践─海洋プラスチック問題の現状と対策 斉藤 尚 177
はじめに
1 海洋プラスチック問題の現状と対策
2 日本で求められる制度デザイン
3 循環型経済における持続可能な消費
おわりに
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Ⅳ 顕示しない消費の台頭
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消費社会にとって「シンプルな生活」とは?
第7章 普通を究めるくらし─無印良品が提示する現代の「用の美」 鈴木康治 205
はじめに
1 無印良品と普通のくらし
2 普通のくらしがもたらす消費社会の変容
おわりに
消費社会にとって「消費しない生活」とは?
第8章 消費ミニマリズムの倫理─〈下からの啓蒙〉が変える消費社会 橋本 努 231
はじめに
1 消費ミニマリズムの時代
2 ミニマリズムの諸類型
おわりに
あとがき 橋本 努 255
人名索引
事項索引
執筆者一覧
以下では各章を概説し、あわせて(ユーチューブを含む)関連資料をご紹介します。
橋本努 Hashimoto Tsutomu
序章 消費社会はどこへ向かっているのか
私たちの消費社会は、どこへ向かっているのでしょうか。
資本主義社会の成熟とともに、日本では多様な消費文化が花開いています。でも、その文化は「消費主義」とも呼ばれ、批判の対象になってきました。豊かな社会のなかで、私たちの消費文化は成熟していないのではないか。もっと賢い消費のスタイルがあるのではないか。もっと理想的な消費生活があるはずではないか。……
消費社会論はこれまで、このような問題関心から、未熟な消費生活を克服するための、さまざまな方法を探究してきました。では、成熟した消費社会とは、どのようなものでしょう。
本章では、戦後日本の消費文化を振り返りながら、現代の消費社会を論じるための「思考の枠組み」を示します。
日本の高度経済成物語
畑山要介 Hatayama Yosuke
第一章 快楽としてのエシカル消費
ケイト・ソパーによる認識論的転回
従来、エシカル消費論では、人々がいかに自己の関心や欲望を断ち切って、いかに「賢い消費者」となるか、ということが問題として立てられてきました。しかし、エシカル消費は「賢い消費」でなくてはならないのでしょうか。
ケイト・ソパーは、社会や環境に配慮する消費者の欲求充足を擁護して、エシカル消費の積極的な可能性を展望しています。ソパーは、無反省的な消費主義を肯定するわけではありません。私たちの市民性を自己利益から切り離さずに、私たちが「良い生活」を追求するための、「もうひとつの快楽主義」があると考えます。
ソパーの議論を通じて、私たちはエシカル消費、さらにはその先にある持続可能な社会のモデルを、快楽という観点から構想できるようになるでしょう。
畑山要介, 2021 「消費の倫理と『もうひとつの快楽』の精神」『ASSEMBLY』7号 22-24.(インタビュー記事)
畑山要介, 2020 「倫理的消費ともうひとつの快楽主義――K.ソパーによる消費主義批判の刷新」 『経済社会学会年報』 42号, 55-65.
Hatayama, Yosuke, 2019 "The Fair Trade Consumer as a Citizen-Consumer:
Civic Virtue or Alternative Hedonism?" The Journal of Fair Trade 1(2), 32 -39.
ソパーに関する英語記事の資料: The Trouble with Consumption
畑山要介, 2016 『倫理的市場の経済社会学ーー自生的秩序とフェアトレード』学文社.
小田和正 Oda Kazumasa
第二章 供犠としてのショッピング
ダニエル・ミラーの人類学的消費理論
社会人類学者のD・ミラーによれば、現代人の消費行為は、個人主義的でも快楽主義的でも物質主義的でもありません。多くの場合、ショッピングの営みは、家族や親族といった「親密な他者」のためになされています。それは献身的な営みであり、自己犠牲的で、利他的な贈与を含んでいます。
そうはいっても、親密な他者のための消費は、自然環境を保全するとか、発展途上国の労働者を配慮するといった「倫理」までを含んでいるわけではありません。道徳的な消費の営みは、しばしば親密圏の外にいる人たちへの倫理的な配慮を欠いています。
いったい、私たちの道徳的な振る舞いは、なぜ倫理と矛盾するのでしょうか。どのように解決できるのでしょうか。本章では、ミラーの消費論について紹介し、批判的に検討します。
小田和正, 2021 「Reiner Kellerの知識社会学的言説分析」『社会学評論』71(4)
小田和正, 2020 「ホーリズムとしての知識社会学」『現代社会理論研究』14
小田和正, 2020 「社会学的時代診断学の基本構図と諸機能 K. Mannheim による構想を起点として」『ソシオロジ』64(3)
小田和正, 2016 「マンハイム知識社会学における「存在拘束性J概念と認識・知識の個体性」『西日本社会学会年報』14
ダニエル・ミラー「消費とその帰結」
神野由紀 Jinno Yuki
第三章 承認としての生産=消費
新たなプロシューマーの生成過程
戦後の日本社会は、男女に「生産する性」と「消費する性」という異なる役割を担わせてきました。しかししだいに、女性たちは単なる消費者ではなくなりました。例えば家庭内の「手芸」趣味は、1990年代には「ハンドメイド」と呼ばれるようになります。女性たちは、自らの作品を積極的に販売し、同時に、互いの作品を購入するようになりました。こうした女性たちの変化は、何を意味しているでしょうか。
本章では、手芸の文化がハンドメイドの文化へと転換していく過程について、これをとりわけ女性の性別役割分業の変化という観点から、検討します。
具体的に、1985年にインテリア雑誌の姉妹誌として創刊された『私の手作り』を取り上げて、2000年代初頭までの誌面の変化を検討します。また、現在ハンドメイドの制作と販売を行っている女性にインタビュー調査した結果をもとに、今日の女性の消費文化の意味を明らかにします。
神野由紀『趣味の誕生 : 百貨店がつくったテイスト』勁草書房 1994年 目次+序文
神野由紀『子どもをめぐるデザインと近代 : 拡大する商品世界』世界思想社 2011年 目次+序文
神野由紀『百貨店で「趣味」を買う : 大衆消費文化の近代』吉川弘文館 2015年 目次+序文
丸山千賀子 Maruyama Chikako
第四章 消費者運動の変遷と消費者団体の行方
現代の消費社会においては、欠陥商品、食品偽装、誇大広告、金融詐欺、等々、さまざまな消費者被害が発生しています。また、食品ロスやプラスチックごみ問題など、地球環境の問題も切実です。こうした問題に対処するために、私たち消費者は、どんな取り組みをすべきでしょうか。
本章では、世界の消費者団体がこれまでどんな活動(運動)をしてきたのか、そしていまどんな課題に直面しているのかについて振り返り、その中から未来の方向性を探ります。
前半では、世界の消費者運動の歴史を五つの段階に分けて捉え、それぞれの段階で、消費者運動が成し遂げてきたことを整理します。後半では、現在の日本の消費者団体の課題を整理します。消費者個人の力に限りがあるように、個々の消費者団体の力にも、やはり限界があります。しかしそのような力の制約を超えて、消費社会をよりよくするために、いま消費者に求められている活動とは、どんなものでしょうか。過去の経緯から現在の状況を見据えて、展望します。
丸山千賀子「消費者政策における消費者団体の役割と有用性」『現代消費者法』No.45【特集】新時代のあり方を、消費者視点で考える、2019年12月、所収
丸山千賀子「世界の消費者運動から日本の課題を考える」シノドス、2018.08.10 Fri掲載
丸山千賀子「海外動向からみる消費者団体の課題と方向性」『消費者情報』480号(インタビュー記事)
丸山千賀子「消費者運動 昔・今・これから 第7回 世界の消費者運動の流れ」2016年12月号(No.53) | 丸山千賀子「消費者運動 昔・今・これから 第8回 世界の消費者団体とさまざまな課題」2017年1月号(No.54) | 丸山千賀子「消費者運動 昔・今・これから 最終回 消費者運動の国際比較」2017年2月号(No.55) 以上の論説はこちらから。
公益財団法人 「関西消費者協会」の公式YouTubeチャンネル
「大学生のための消費生活入門」札幌市のパンフレットです。ネットで公開されています。
アメリカにおける消費者運動の歴史
America At Risk - A History of Consumer Protest - Consumers Union Documentary
根本志保子 Nemoto Shihoko
第五章 「生の循環」構築のための責任ある消費者
産消提携と倫理的消費
私たちはある商品を買うときに、誰がどこで、どのように生産したのかについて、またそれがどんな流通経路で届いたのかについて、ほとんど知らなくても生活していくことができます。その一方で、私たちは消費を通じて地球環境に大きな負担をかけています。自らの消費や生活を見直そうとするとき、何を手がかりにすればよいでしょう。
その方法の一つに「顔の見える関係」があります。私たちは自分の消費する食べ物や衣服が、誰かによって作られていることを知ることで、安さだけを求めるような買い方を変えられるかもしれません。
本章では、この「顔の見える関係」のルーツである、日本の初期の有機農業運動と、それを支えてきた「生産者と消費者の提携運動(産消提携運動)」について検討します。
戦後日本の消費者運動のなかで、「顔の見える関係」は、とりわけ食の安全性や環境に関心を持った人たちのあいだで追求されてきました。それは私たち消費者が、生産のあり方や自然環境の問題に「当事者」として関わるための変革運動でもありました。産消提携運動が示した当事者性の倫理とは、どのようなものでしょう。今日の私たちの消費に、示唆を与えてくれるでしょう。
Shihoko Nemoto, "Socio-economic Thought of the Teikei Movement and the Early Organic Agriculture in Japan: Overcoming 'Natural and Human Alienation'. "
根本志保子ほか「日本の初期有機農業と産消提携運動の 社会経済思想-自然・人間疎外の克服」(日本大学経済学部経済科学研究所研究会, 2020年12月24日,2018~2019年度共同研究B成果報告)
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「所沢生活村」ブログ |
斉藤尚 Saito Nao
第六章 持続可能な世界のための消費実践
海洋プラスチック問題の現状と対策
2018年の国連環境計画(UNEP)の調査レポートによれば、日本人の一人当たりのプラスチック包装容器の使用量は、世界2位です。私たちはどのようにすれば、プラスチックごみを減らすことができるでしょう。
本章では、この問題のなかでも、「海洋プラスチック」の問題を取り上げます。現在、私たちが用いたプラスチックの一部は、海洋プラスチックごみとして海洋に流出し、海洋汚染によって様々な生態系に影響を及ぼしています。日本近海は、海洋プラスチックごみのホットスポットであり、近海に含まれるマイクロプラスチックの数は、2016年の調査において世界平均の約27倍であると言われています。また日本人は魚を多く食べる文化習慣があり、他国の人びとと比べて、海洋プラスチックを体内に多く摂取している可能性があります。
本章は、環境NPOや地方自治体や市民による、さまざまな取り組みを紹介しつつ、消費社会において、環境に配慮する生活とはどのようなものかについて考えます。
斉藤尚『社会的合意と時間 「アローの定理」の哲学的含意』木鐸社、2017年刊行
鈴木康治 Suzuki Kouji
第七章 普通を究める暮らし
無印良品が提示する現代の「用の美」
消費社会はこれまで、私たちの日常生活をきらびやかに演出してきました。ところが近年になって、生活を華美に彩るよりも、彩らないことの良さが再発見されるようになりました。例えば、無印良品は、「普通のくらし」を提案することで、日本の消費文化をリードし、今や世界の消費文化を導くブランドへと発展しています。
私たちの消費文化は、この無印良品を中心に、「普通さ」を積極的に求める方向に転回しています。本章では、無印良品の経営戦略を手がかりに、普通のくらしの良さについて考えます。
まず、無印良品の経営戦略を分析して、同ブランドが一貫して、普通のくらしを追求してきたことを確認します。次に、普通のくらしは、「合理性」と「空っぽの器(自在性)」という、二つの価値理念によって支えられることを指摘します。そのうえで、普通のくらしの追求は、「清潔」を重要な価値としていること、またこの清潔の価値は、現代において、「用の美」という日本の民芸文化を継承する観点に接続されることを、それぞれ論じます。普通の生活には、華美な生活とは別の快楽があります。その意味について検討します。
第八章 消費ミニマリズムの倫理
〈下からの啓蒙〉が変える消費社会
博報堂買物研究所の分析によると、2015年は、消費社会の分岐点となりました。この年を境に、人々はあまりモノを買わなくなったようです。ネットで商品情報を検索しているうちに、欲求そのものが流れ去ってしまう。そのような「欲求の流去」の現象が生まれました。
これと並行して、最小限のモノで暮らす「ミニマリズム」への関心が高まりました。ミニマリズムという言葉は、2015年の流行語大賞の候補(五〇語)の一つにも選ばれました。生活をできるだけシンプルにするというミニマリズムの運動が、にわかに人々の関心を集めるようになりました。
もちろん、生活をシンプルにしようという運動は、さまざまな時代にありました。しかしでは、2015年になって、なぜ消費のミニマリズムが注目されるようになったのでしょうか。本章では、この現代版のシンプル生活の現象を読み解きながら、消費社会において「消費しない生活」とは何かという問題について考えます。
橋本努「ミニマリズムで脱・資本主義」『エコノミスト』2017年5月9日号、40-41頁、所収
ミニマリズム映画「ハッピー・オールド・イヤー」(タイの映画です。)
ミニマリズムのドキュメンタリー。
Minimalism: A Documentary About the Important Things (Official Trailer)
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