GISとは地理情報システムの略です(Geographic Information Systems)。PCでデジタルな地図を作り、その上にデータを重ねて見える化、分析するシステムです。珍しいものではなく、みなさんの身近に存在します。地図やナビゲーションアプリもGISです。
加えて、通常は結合できないデータを地理空間情報を元に結合することで新たな分析を可能にします。
図の左側のように4種類のデータがあった場合、データ形式が異なるためお互いに関連づけた分析はできません。しかし、右側のようにGISを用いてデータを重ねるとで関連性が見えてきます。例えば、濃い青色は津波の浸水深が深いことを示し、赤色の〇は保育所の位置を、□の中の数字は□の中に居住する4歳以下の人口を表しています。避難計画策定や、拠点配置等色々な分析を行うことが可能です。
文字だらけの報告書のようにわかりづらくなく、地図で多くの情報を見ることができるので、誰でも理解できます。また、専門職間だけでなく住民にも情報を理解してもらいやすく、思考のスタートラインを一緒にできることも重要なメリットです。
地域診断といえば、膨大な統計資料や計画や報告書と向き合い「これは大変だ。忙しい中でどこから始めたらいいかわからない(白目)」と思われた方もいらっしゃると思います。
GISを用いると手元のデータが地図でカラフルに表現されます。実際にQGISで実施すると人口分布がパッと地図になっただけでも「おお!楽しい!違うデータを追加してみたらどうなるんだろう。ワクワクする」という感覚が得られます。
この「楽しい!」「ワクワクする!」感覚をG-CHAMではとても大切にしています。モチベーションが上がらない作業は苦痛になって嫌いになってしまうことがあります。地域診断を好きになってほしいです。
大阪市淀川区におけるG-CHAMの例。1丁目2丁目ごとの詳細な人口分布に加え、交通機関、医療機関、保育所、用途別建物データなどが含まれています。背景は空中写真であり地上の様子とデータを重ねて分析できます。
"平時の地域診断は災害時に備える事前診断である"。これはまさにそのとおりです。平時に地域診断を実施し、災害発生時の地域診断と比較することで差分や復旧の基準を明確にすることができます。これはBCP、BCMにも通じる内容です。保健師だけでなく医療や福祉においても同様です。
災害発生時の被害状況把握や要配慮者の安否確認、避難所への部隊展開、個別訪問実施時のエリア区分など、災害発生時には地図やGISが活躍します。GISをベースにすることで多様な情報の一元把握が可能になります。
市区町村と都道府県の両者において業務は違えども、被災自治体であっても派遣自治体であってもGISは有効です。災害発生時だけでなく、平時の訓練や受援体制の構築に利用することで災害時保健活動の実現可能性を高めます。
令和6年能登半島地震及び9月20日からの豪雨災害では、多くの機関から様々なオープンデータが提供されています。避難者数や孤立地域、道路開通状況、発災後の地上の写真などです。これらのオープンデータをGISで可視化することで災害時の対応が促進されます。
2024年6月より内閣府の新総合防災情報システムが始動しています。GISがシステムの基盤となりあらゆる情報が集約されます。保健部門も漏れなくD24Hをはじめとする地図上での可視化を行うことが閣議決定されています。これから発生する災害では、必ずだれもがGISを使用することとなります。
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学習指導要領の改正により、2022年度より高校でGISを含む地理総合が必修化されました。学習指導要領では"地理情報システム(GIS)の有用性に気付き、それらを用いる地理的技能を身に付ける"とされています。
保健師養成として4年制大学を仮定すると、2029年度の新卒保健師は全員がGISを履修済みの世代となります。事業を分析するとき、地域診断を行うとき、「GISが使えるな」という感覚を全新卒保健師が持っていることになります。これは保健師活動の転換点になり得ます。それまでに所属としてGISを活用できる環境を整備することが必要と考えます。
GISで使うデータは非常に大きく分類すると2種類です
①GISソフトに直接投入できるファイル形式(GeoJSON、FlatGeobufなど)のデータ
→例:国土数値情報で公開されている医療機関や行政区域、洪水浸水想定区域など、ダウンロードしたらそのままQGISに放り込める便利なファイル。
①をGISで表示する場合は前述の通り簡単です。インターネットからダウンロードし、GISに投入すれば地図にデータの分布が可視化されます。
②GISソフトに投入する前に処理が必要なデータ
(1)1丁目2丁目ごとの人口
②は少々厄介です。丁目ごとの人口をGISでデータを表示するには、複数の丁目を示す複数の境界線である"多くの箱"と箱に入れるためデータである"多くの中身"が必要です。しかも箱も中身も複数ありますので、正しい組み合わせで箱と中身を紐づける必要があります。
以下の例では、丁目の境界線のデータに人口のデータを組み合わせています。両者の紐づけはデータ1列目のKEYCODEを用いて実施します。
(2)緯度経度が含まれていない住所
住所をGISで表示するには、住所を緯度経度に変換する必要があります(コレ大事)。
以下の例では大阪市淀川区役所の住所を調べ、緯度経度に変換してQGISに表示しています。
地域診断では食料品店や自治会レベルの集いの場などをマッピングすることもありますが、緯度経度がない場合はすぐにQGISでマッピングできません。
施設や対象者宅など、位置に関する情報は住所と緯度経度がセットであると覚えておくと便利です。
また、地区踏査の際にGPSロガーアプリを用いると、現地で発見した資源やデータをその場で緯度経度と結びつけることができるため便利です。
(3)PDF形式の地図や画像
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住所とともに緯度経度をデータに含める。これは親切だからではありません。官民データ活用推進基本法(平成28年法律第103号)に基づくオープンデータとしての対応であり、デジタル庁が整備したルールです。
例えば施設一覧をPDFで公開することはオープンデータとは言えません。CSVで編集しやすく、なおかつ緯度経度等を含めて利便性を高めることが必要です。
オープンデータを使用した作成したデータは可能な限りにオープンデータとして公開しましょう。CKANなどのオープンデータカタログサイト、GitHub、自治体HPでも構いません。オープンデータを使う→公開するの循環を進めることで埋もれているデータを多くの人が利活用でき、あらたな知見の発見につながります。
G-CHAMで使用するGISはQGIS(きゅーじーあいえす)です。QGISはフリー(無償)かつオープンソース(ソフトの設計図が公開されている)です。誰でもダウンロードすることで使用でき、自治体での導入例もあります。フリーソフトですが機能は非常に豊富なため、地域診断を十分に実施できます。
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様々なオープンデータがあらゆるwebサイトで公開されています。
特に国土交通省が運営する国土数値情報は地域診断に役立つデータが豊富です。
もちろん厚生労働省や地方自治体も公開しています。
オープンデータ一覧のページに活用できるリストを掲載しています。
GISで表現するデータをレイヤと呼びます。レイヤは主に3種類あります。
ポリゴン:四角形や多角形で表現されるレイヤ
例:行政区域ごとの人口、小学校区、土砂災害警戒区域など
ライン:線で表現されるレイヤ
バスや鉄道の路線、避難経路、道路データなど
ポイント:緯度経度によって表現されるレイヤ
要配慮者の自宅、医療機関、避難所、保育所、健診場所など
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shpファイルは使用していません。代わりにGeoJSONファイル形式を使用しますがデータ容量が多くなると動作が重くなります。そのためG-CHAMではFlatGeobuf(以下FGB(えふじーびー)ファイルと呼称)を標準として使用しています。
QGIS体験で使用するデータはほぼすべてFGBファイルで作成しています。読み込みが早く動作も軽いためです。
コミュニティアズパートナーモデルでは、アセスメントする情報を12のシステムに分けています。歴史、人口統計、民族性、価値観と信念、物理的環境、教育、安全と交通、政治と行政、保健医療と福祉、情報、経済、レクリエーションです。特に歴史と人口統計、民族性、価値観と信念はコアシステムと呼ばれる重要な要素です。システムは独立せず互いに複雑に絡み合っていることが、地域診断を進めると理解できます。絡みあうシステムを理解することは難しくもあり面白いです。GISが手助けします。
G-CHAMでは、地域アセスメントとして12システムを9つにリカテゴライズし取り組むシステムの順番もモデルより変更しています。地域診断を少しでも効率的に取り組むためです。そして情報はスライドにまとめられます。GISで作成した主題図(目的によって作成した地図)を用いて、様々な情報を要約し推論し記載します。作成者の思考を再現できるだけでなく、他者の理解も促進することでグループ間でもディスカッションを促進します。
地域診断は一度実施して終わりではありません。事業実施や評価にも必要不可欠であり、健康課題抽出の根幹です。事業や対人支援が保健師の実践と思われがちですが、地域診断は重要な実践です。特に入口となるアセスメントでは様々な情報を収集するだけでなく、地域や地域の人々の健康*に影響を及ぼす因子(肯定的なもの、否定的なもの)を見極め、分析することが大切です。
コミュニティアズパートナーモデルに基づく地域診断は、地域全体を包括的な視点で捉え、分析から介入、評価までを実践的な過程で示したモデルです。地域に、住民に影響を及ぼす要素を見極め、理解するためには膨大な情報に立ち向かう必要があります。コミュニティアズパートナーモデルは道しるべとなります。さらにGISによる分析は情報の理解と活用を促進します。
GISを含めて様々なオープンデータを利用します。オープンデータとは、誰でもインターネット等を通じて用意に利用(加工、編集、再配布等)ができる公開されたデータであり次のすべてを満たすものです。①営利、非営利を問わず二次利用可能②機械判読可能③無償です。特に加工、編集ができる点は非常に重要です。PDFや紙で提供されるデータは加工や編集が困難であり、オープンデータとは呼びづらい場合も多いです。官民データ活用推進基本法(平成28年法律第103号)において、国及び地方公共団体はオープンデータに取り組むことが義務付けられています(デジタル庁より)。当サイトでは地域診断に役立つオープンデータをリンクしています。
地域診断で扱う情報はデータだけではありません。地域の声や地区踏査で観察された情報も重要です。ですがこれらの情報は主観が入りやすく取り扱いにはコツが必要です。取り扱う際には、取得された期間や範囲、属性もセットで記録し主観の裏付けを行うと客観的に利用できます。位置情報の利用も有用です。G-CHAMで行う地区踏査では、スマホアプリを用いて実践できます。