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フェミニストが保守派の草の根運動から学べること

山口智美・斉藤正美・荻上チキ『社会運動の戸惑い - フェミニズムの「失われた時代」と草の根保守運動』(勁草書房、2012年)

概要

開催日:2022年10月
課題本:
山口智美・斉藤正美・荻上チキ『社会運動の戸惑い - フェミニズムの「失われた時代」と草の根保守運動』(勁草書房、2012年)
参加者:Kimiko、berner、azusachka、midori、アントニン
内容:統一教会を含む保守派の社会運動について知る
選書担当:azusachka
議事録作成担当:Kimiko、azusachka
標題作成:Kimiko、azusachka、アントニン(Special Thanks)

選書の理由

  • 今年7月の安倍晋三殺害事件で話題になった、統一教会と世界日報

  • 世界日報について調査した本、ということで事件以来話題になっている

  • Youtube番組「ポリタスTV」に斉藤正美さんが出演した際(2022年7月)、「今、新しいフェミニズムが盛り上がっているけれど、フェミニズムのやってきた歴史が繋がっていない、蓄積が忘れられている。そのあたりでとんちんかんなことになっている」と指摘していた。「フェミニズム」と「歴史」をテーマに勉強している自分にとって、この言葉が強く言葉に残り、どういう意味なのだろうかと掘り下げたかった。

感想

  • 勉強になったところ

    • フェミニズムの本はこれまでに読書会で読んできたけれど、現在の日本のことではなく歴史に目を向けてきたので、現在の日本のフェミニズムを取り巻く現状については勉強不足だったと感じた。

    • フェミニズムがバッシングを受けやすい歴史、なかなか広まりにくい歴史が理解できた

      • 「ジェンダー・フリー」という言葉が誤解されて日本に入ってきてしまった点(第一章)

        • 本来なら「ジェンダー・センシティブ」であるべきだった、という内容が勉強になった。誤解が広まってしまったのが、フェミニズム活動が行き詰まった理由なのか。

        • 誤解されて広まった概念、つまり「ない」概念がバックラッシュに攻撃されてきたということになる。それでフェミニズムが否定されることになってしまったのは残念。

      • ユー・アイふくいの図書問題(2006年、福井県の公共施設所蔵の書籍が「男女共同参画にふさわしくない」とされて撤去された事件)について(第五章)。該当書籍の著者である上野千鶴子は「著者の権利」が侵害された、と抗議した。一方、寺町みどりは「不利益を受けるのは県民や施設の利用者」だと述べていた。そういったズレが対抗運動側の弱くなってしまったところであり、ひいてはフェミニズム運動の上手くいきにくいところなのだと思った。

        • いつも読書会の本を探すとき、地元の図書館のHPで探すが、男女共同参画センター所蔵の資料がヒットすることも多い。そのため、自分にとっては男女共同参画センターを利用する機会は多い。

        • そうしたことを鑑みると、ユー・アイふくいのケース(一部の図書が撤去された事例)は心が痛かった。

        • 書店であると書店員といったスタッフの好みで選書し、販売することも多々あり、ディスプレイされる書籍の思想が偏るのは仕方ない面もある。しかし、男女共同参画センターといった、公共の場では、ユネスコの公共図書館宣言に則ると、図書を撤去されるようなことに対する圧力に屈してはならないと思う。そういった意味で福井のケースは悲しさが残る。

    • 保守派の運動が優れている

      • 保守派は地域に協力者が多い。お金の面もだけど、人的なネットワークが強い。地道な草の根運動の実績の積み重ねがある。地元の中小企業とも繋がりを持つなど。

        • 男女共同参画を「中央から押し付けられる」ことへの反発があった、という話が本の中にも出てきたけれど、そういった感情と地域のコミュニティが上手く結びついている。

        • バックラッシュ側の人の顔を想像しづらかったので、勉強になった。

      • フェミニズム側は政治との繋がりも希薄。

      • 最近はフェミニズム側のプレゼンス力も昔に比べたら上がっているけれど、今でも保守側のほうが上手。

      • これは正直、フェミニズム負けるよね、とは思う

    • 意見が異なる人とどう向き合うのか

      • 山口智美氏が日本時事評論の編集長と記者、宇部市の浄土宗寺院の住職と意見交換した際の話が印象に残った;「この三名の男性たちはフェミニズムの主張についてかなり勉強を積み重ねて」おり、「フェミニズム文献を読み、理解し、それへの違和感をわかりやすい言葉で語ることができる人たち」だった、という内容(第二章、52頁)。

      • 日本時事評論の編集長の指摘も印象的だった;「フェミニズム運動はレッテル貼りがうまく、(...)「敵/見方」「善人/悪人」といった単純な対立構造を仕立て、自己の正当性を誇示するが、違った意見を聞き入れる寛容性をもたないのではないか」「男女の対立を煽っているように見えてしまう」という内容(第二章、98頁)。フェミニストが実際どのような振る舞いをしているのかはさておき、保守側からはそのように見えてしまっている、というのが問題だと思う。

      • 相手を「話の通じない人」と「悪魔化」してしまうのは、自分自身もやってしまいがちだなと反省した。

      • バックラッシュという用語はよく耳にするけれど、意見が異なる人とどう向き合うのかがすごく大切だと感じた。

      • 日本時事評論社の社員の家で恒例行事となっているバーベキュー会に山口智美氏も参加した話(第二章、80,98頁)が面白かった。すごい空間。

  • 男女共同参画センターは何のため?

    • センターは官僚の天下り先になっており、活動内容もよくわからない、という話が印象的だった。

    • 千葉県の事例

      • 自分の地元は千葉県。本書で出てきた堂本暁子氏が知事だったのは自分(参加者の一人)が小学生のとき。今になって内情が分かった。

      • 男女共同参画センターも千葉県にあるのはわかっていなかった。利用者が少ないから?どういう人が利用しているのか疑問に思った。利用面に関して、施設へのアクセスは悪い。施設内に相談室はあるけど、女性同士やママ友の人間関係の相談が多いらしい。

      • 「パートナーちば」という無料冊子が公共の場に置いてあり、本書をきっかけに手に取ってみた。内容としてはおすすめ図書(本)の紹介などが書かれていた。おすすめ本の中にはかなり過激なタイトルのものもある

    • ヌエック

      • 施設のことは知っていたけれど、設立の経緯は知らなかった。

      • 自分が訪れた際は「鉄道と女性労働者」というテーマの展示が行われていた。

      • 駅徒歩20分ほどでアクセスが悪い。教育施設としては利用しにくい。

    • 東京ウィメンズプラザ

      • 学生時代の就活の際、企業説明会のために訪れた。男女共同参画と関係なくても利用できてしまう施設。

  • 今後、注視していきたいところーー地方政治の大切さ

    • 本を読んで実際に条例を読んでみた

      • 自治体、男女共同参画センターのなりたちや自分の住んでる区の宣言などを調べるきっかけを与えてくれた。

      • 自分の区のものを調べてみたら、2020年に性別表現の自由を条例で保障するというニュースがあったのを知り、興味深かった。

        • この「性別表現の自由」というのは、例えば、制服をはじめとした、服装の自由を保障するというもの(スカートかスラックスか)。前述したリーブラが開催する講座で、男女平等のみならず、ポリアモリー、アロマンティック/アセクシャルなどの講座も。こういった講座にも参加してみたいと思った。

      • こうした条例を見ていて思ったのは、対象にしているのは男女平等のみにかかわらず、民族、障害のある方など、想像していたよりも多くの方を対象としている条例であるということ。

      • 男女共同参画センターのみならず、近隣にある人権プラザ・ウィメンズプラザ等のHPも訪れてみようと思った。

  • 男女共同参画推進委員について(第五章)

    • 推進条例ができて、なにか良いことが起きたのか。ジェンダー平等に基づく法整備などには繋がらなかった。

      • 参加者A:区の推進委員について、区で公募されてるのを今回の読書会で初めて知った。自分もHPで調べてみたが、推進委員の実態や、取り組みの結果が世間にどのような形で反映されているのか、HPからでは分からなかった。あとは推進委員の募集要項についての書類を見ていたが、選考方法の基準なども外から見る限りよく分からなかった。本書でも、保守の人が推進委員に入ったという事例が出ていたが、そもそもどのようにしてその人を選んだのか疑問に思った。

      • 参加者B:千葉県の推進委員について、千葉県も選考基準など詳細は不明。ただ、各区域2人×6地域と、地域別に均等に委員が選ばれるようだ。

  • 地方自治にどのようにコミットしていくか

    • 本の内容はとても面白かった。津田大介の配信(ポリタスTV、2022年7月配信)も見た。配信の内容の復習にもなったし、映像では語られなかったことを今回の書籍ではまとめて書いてくれていた。問題について考えるうえで大事だった。

    • 地方自治にどれだけ関心を持てるかが重要なことであると思う。千葉県のことが取り上げられていたけど、実際、県でどういう議論が行われていたのか、自分自身それまであまり考えていなかった。ある種、人々の無関心をうまいこと利用し、(本で取り上げられていたような結末に)なった。そういう意味での怖さを感じた。ジェンダーと地方自治の話については、地元密着の保守運動に人々がどのように入っていくかが問題だと思う。そのため地元の動き等をきちんと押さえなければならないと感じた。

    • こうした問題を解決するうえで大切なのは「センシティブ」な姿勢。ひとつひとつのことを地方政治単位で変えていく、といった、細かい構造を変えていくことが大事だと思う。

    • 時事評論社の山口編集長の話;保守運動側は、着地点をもって、現状に合わせて地元に根ざした解決策を探っているとあった。そうした考え方は合理的で的を得ていた。そして、そこでは抽象的なスローガンではなく、地域密着型の計画が作られていることが分かった。

    • なぜフェミニズムが揶揄され、広がらないのか。運動の展開の仕方に対する問題提起が本書には提示されていた。

    • 運動論として関心をもって読んだ。

    • これからどういうふうにフェミニズムに基づいた運動をするのか。そういった問題点を本書は明らかにしたと思う。

    • SNSでのハッシュタグ運動がスピード感をもって国政に反映されるケースは少ないけれど、地方政治の場合はハッシュタグ経由で地元議員が話を拾い上げてくれることもある。実際、自分が今フォローしている地元の開発問題でそういうことがあった。ローカルなテーマならSNSのハッシュタグも効果的。

  • その他

    • 千葉展正氏に会う前に山口智美氏が抱いていた印象について;「さらには千葉の著書やブログでも常に旧仮名遣いを使って 文章が書かれており、その内容も、フェミニズムに対して厳しい批判が多かった。そして、会う約束 をするために何度かやりとりしたメールでも、旧仮名遣いが使われていた。」(第三章、125頁)という部分が面白かった。旧仮名遣いを使う人の「ヤバそうな人」感、とてもよくわかる…

    • 自分にとってのフェミニズムや女性学は、「結婚」や「家庭と仕事の両立」など、社会へ向けた発信ではなく自分とパートナーの関係をどう解決するか、という問題だった。でもこの本を読んで、そういう問題は政治的問題という大きな視点をもって考えていくべきものなのだと改めて思った。

  • 斉藤正美さんの指摘の意味は?

    • 「今、新しいフェミニズムが盛り上がっているけれど、フェミニズムのやってきた歴史が繋がっていない、蓄積が忘れられている。そのあたりでとんちんかんなことになっている」という内容

    • この本が発行されたのは2012年。10年前の内容が改訂されることなく重版となり、2022年の今も新鮮な驚きをもって読めてしまう。条例運動に対抗する動きがあまりなく、この本の問題提起が上手く継承されなかった、次のステップに繋がらなかった、という意味だと思う。

オリジナルサブタイトル

※『社会運動の戸惑い』に続くサブタイトルを考えました。読書会のまとめとして、自分なりのサブタイトルを各自で考えて発表しています。詳しくはこちらをご覧ください。

  • 「突撃!保守運動の当事者へインタビュー」(azusachka)

  • 「実績の『歴史づくり』に乏しいフェミニズムの現状」(midori)

  • 「今後のフェミニズム運動に向けた処方箋」(berner)

  • 「フェミニズム運動~個人的問題から社会へ目を向けて~」(Kimiko)

  • 「草の根保守運動からのフェミニズムへの教訓」(アントニン)