第16回
性的搾取に基づく商売のあらゆる害とその廃止への提言

森田成也『マルクス主義、フェミニズム、セックスワーク論:搾取と暴力に抗うために』(慶應義塾大学出版会、2021年)

概要

開催日:2022年4
課題本:森田成也『マルクス主義、フェミニズム、セックスワーク論:搾取と暴力に抗うために』(慶應義塾大学出版会、2021年)
内容:大正時代の芸娼妓の自由廃業や労働運動について

参加者:berner、midori、、azusachka、アントニン(聴講)
内容:性風俗産業(売買春、ポルノ)の問題をマルクス主義フェミニズムの視点で論じる
選書担当:berner
議事録作成担当:azusachka
標題作成:薪

選書の理由

  • 『遊廓のストライキ』を読んで、セックスワーク関連の理論を学ぶ必要があると感じたため。

  • コロナ禍におけるセックスワーカーの問題がニュースでも取り上げられた

  • 18歳以上成人 AV出演?そのときにフェミニズムを勉強するにあたってどのようにセックスワーク業を理解するのか

  • フェミニズムにおいてどのようにセックスワークが捉えられているのかを学びたいため。

感想

  • 構造を問う本

    • 近年、個人の行動よりも構造を変えなきゃいけないという本は多い

    • この本も同じ。セックスワークについて構造の部分を論じている

  • セックスワーク論(※)を否定する立場を明確にしている

    • (※「売春はどの仕事とも同じ仕事の一種である」との考えからセックスワークの包括的非犯罪化を目指す立場。(p140-141参照))

    • かなり強い言葉と闘争的な執筆姿勢でセックスワーク論の矛盾を突く内容だった

    • マルクス主義や日本共産党がなぜセックスワーク廃止を目指すのか、その理屈が理解できた

    • 具体的な提案もたくさんしている。細かい部分の議論まで考えられるようになった。現状、完全な廃止は難しいけれど、最終的には廃止のほうがいいかな、と考えるようになった。

    • でも著者の反対の立場のセックスワーク論者の本も読んでみたい。(かなり強い言葉で書かれた本だったので)

  • セックスワークに関する議論の難しさ

    • セックスワークを自分で選択したから良い、という問題でもない。文化的にそう考えさせられているのかもしれないし、経済的に選択せざるを得なかったのかもしれない。また、自由にやめられないのに「自由意志」でその職業を選択したとは言えないと思う。

    • 問題は複雑に絡み合っている。当事者、サポート団体、研究者など、それぞれの立場によって考えが違うし、どんな抑圧と戦おうとしているのかでも考えが変わる。なので議論も噛み合わなくなくなりやすい。目指すところは同じなのに。

  • 気になった部分

    • 最終的な目標が(性風俗産業の)廃止である、というのは理解できるけれど、現状、今すぐに廃止するのは難しい(例;社会のセーフティーネットが十分ではない等)。廃止論は性風俗産業に従事する女性たちのスティグマ化に繋がる言説に回収されやすい、という懸念もある。今まさに困難な状況にある当事者にとってすぐ必要なサポートが何なのかについて、もっと議論されても良かったと思う。

    • 「第二章 日本国憲法と平等権 - フェミニズムから読み解く戦後平等権論争」の内容は全体から少し浮いているのでは

    • 第四章 注(29)「この『性的安全権』という概念は、現在極めて先鋭な論争問題となっているトランスジェンダリズムを批判的に考える上でも決定的である。」など、トランスジェンダーに関する記述には疑問を持った。どういう状況を想定して述べているのか分からないので、批判しようにも材料が足りない。注で簡単に書いて終わらせて良い部分ではないのでは。

  • その他

    • セックスワーク論者には男性が多い(アムネスティなど)。当事者女性がセックスワーク論を唱えているというよりは、男性や団体が後押ししている。とこの本では説明していた点が印象に残った。

    • 「被買春女性」という言葉遣いが興味深かった。「売春女性」ではなく「買い手側」を主体にした言葉で、なおかつ「セックスワーカー」のようにオブラートに包んでもいない。

オリジナルサブタイトル

※読書会のまとめとして、自分なりのサブタイトルを各自で考えて発表しています。詳しくはこちらをご覧ください。

  • 「被買春女性の受ける暴力と憲法から消費生活に蔓延る買春構造を解説」(midori)

  • 「売買春廃止に向けた社会変革への指南書」(berner)

  • 「性風俗産業を構造から問い直す」(azusachka)