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縁を切れば結婚はできる。でも家族から祝福されたい

齋藤直子『結婚差別の社会学』(勁草書房、2017年)

概要

開催日:2022年9月
課題本:
齋藤直子『結婚差別の社会学』(勁草書房、2017年)
参加者:Kimiko、berner、azusachka、midori、アントニン(聴講)
内容:同和問題を学ぶ
選書担当:Kimiko
議事録作成担当:Kimiko、azusachka
標題作成:Kimiko、azusachka

選書の理由

  • 前回、インターセクショナリティを学んだ。日本のケースで考えると、一例として挙げられていたのが「部落差別」だった(前回読書会課題本、あとがき参照)。

  • 自分自身、関西に住んでいた頃に「同和教育」を受けており、身近な存在だった。

  • 2022年は全国水平社結成100周年ということもあり、「同和問題」を学ぶのに良いタイミングだと思った。

  • 今まで歴史学を研究する中で、社会学の質的研究(インタビュー調査)を用いてまとめられた文章をあまり読んだことがなかったので良い機会だった。

  • 黒人女性への差別問題同様、部落差別問題を考えると部落出身男性の問題に焦点が当たり、フェミニズムの問題を考えると、非部落出身女性の直面する問題に焦点が当たる。部落差別・フェミニズム両者の問題に焦点が当てられて来なかった部落女性の問題について考えてみたいと思った。

感想

  • 読んでみてどうだった?

    • 部落には全く関わりない生活をしてきたので、結婚差別のなかで中絶の話とか、そんなことまであるのだと、体験談として聞くと心にぐっとくるものがあった。知らなかったことを恥ずかしく思った。知ることができて良かった。

    • 本書では結婚差別が取り上げられていた。差別には2つの視点での差別―自制度的な差別と個人間の差別があると考えるが、本書に描かれた問題は後者に焦点を当てていた。では、国が部落差別解消に向けて取り組むことはあるのか。

      • 政府の施策は、制度上の差別解消というよりは啓発が主のよう。(法務省のHPを確認)

        • (法務省サイト内の人権に関するアンケート結果「インターネットによる差別的な書き込み」から人権問題が起きていると感じるという項目のパーセンテージが高かったのを受けて)「住みたくない地域」が書いてある本やサイトがある。

        • でも、住んでいるところによっては旗を掲げているとこもある。プライドをもって旗を掲げている。

    • 「荊冠旗」というものの存在や、「同和主任教員」というポジションがあることも初めて知った。

  • 同和問題を学ぶ機会の違い――関西と関東

    • それぞれの地元で「同和問題」を学んだ経験はあるか?

      • 学校で授業の中で習った(関西に住んでいた頃)、逆に関東圏に住んでいた時はそこまで受けた記憶がない(神奈川に住んでいた頃)。

      • 同和教育を受けたことはない。聞いたことはあるけれど、あまり知らなかった(千葉出身)

      • 上に同じく。部落の場所や町名もぴんとこない(北海道・茨城出身)

  • 関西における「同和問題」を学ぶ・知る機会

    • 授業における人権についての教育:近所の公園・トイレに「〇〇(地域名)」と落書きする・差別言葉として属性を口にする・そうしたことをするのは良くないという教育を受けた

    • 今回の課題本の内容に関連した内容だと、同和問題という差別問題のせいで結婚できなかった女性が自殺してしまったというビデオを見たり、岡林信康「手紙」を聴き、被差別部落問題を考える教育を受けた。

    • 生活の中で「同和問題」にふれる機会:役所にある標語―東京だと非核三原則や世界平和、関西だと人権に関する標語が多いという印象だった

  • 関東における「同和問題」について

    • 「同和問題」について誤った噂の流布:自身の住む地域にも、知る人ぞ知るという感じで同和地区がある。その地域に行くと身ぐるみ剥がされる、という誤った噂が流れてしまっている。開発が進んだりすると記憶は薄れるけど、自分の両親は「あそこは部落でね」みたいに言うこともある。

    • そういった経験からも、実際に関東にもそういう場はある。開発が進んで、わからなくなってしまうことはあると思うが、東日本に部落がないというよりは、あったという記憶自体を消されてしまったのか。狭山事件だって、確かにあれは部落だったよなと思い出すくらい。忘れ去られてしまった。なぜ東日本・西日本でこうした差があるのか。

    • 関東には「同和問題」はない?――東京にも「同和問題」についての団体はある。ということは、東京(関東)にも同和地区はある。

    • 埼玉県で起きた狭山事件:判決を受けた人は被差別部落の人。無実なのに容疑をかけられた。

  • 結婚差別当事者のインタビューを読んで

    • 「同和問題」というと、ある特定の地域に住んでいる人たちを差別する(=土地差別)が主流だと思っていた。しかし、70頁で「血筋が違う」という話があったのが印象に残った。当事者ではない自分でも心がえぐられた。

    • インタビューに寄せられた数々の結婚差別に対し、支援のトピックがあったのが印象的だった。その中でも、「結婚差別の問題は多様。問題があったときは向き合って学んでいく姿勢が大切」という言葉がグッときた。(252頁)。他の差別問題にも言える。結婚したいときの差別は無知だからする。差別問題に無知だからこそ、意図的でなくても差別をしてしまう場合がある。(読書会で学ぶように)常に学んでいく姿勢が大切だと改めて感じた。

  • 同和問題の勉強は、他の差別問題にも活かせられる

    • カミングアウトに対する「関係ないよ」がダメな理由。参加できなかったYさんのコメントにもあったけど、もし自分が誰かからジェンダーについてカミングアウトを受けた際、どう受け止めて相手に伝えるべきか、の参考にもなった。

    • 部落地域の出身であることを結婚相手に伝えないケース。人種差別問題(異人種間結婚)における「パッシング」にも通じるものがある。黒人でも肌の色が薄い人は見た目でわからないので、自分に有色人種後が入っていることを隠して結婚することがある。それが「パッシング」。(ネラ・ラーセンの小説にも見られる)

      • 異人種間結婚のパッシングは、見た目ではわからないからできること。部落差別は土地差別の問題であり、見た目が違うわけではないのでパッシングしやすい環境。

    • 自分はリベラルだと自認していても、家族のことになると差別的になってしまうケース。映画「招かれざる客」でも、同様の問題が描かれている。

      • 自分(Kimiko)が学生時代に研究していたフレデリック・ダグラスという黒人男性も、白人女性と結婚する際、その女性の父親に反対された。父親はリベラルだったのに。

      • リベラルでいるためには努力が必要。何もしないのに、自然体でリベラルでいられることはありえない。

    • NHKのバリバラの部落差別特集で紹介された例。「部落地域の人に『家から帰ってきたら手を洗いなさい』と『教える』という差別」が提示された。黒人たちに「手を洗いなさい」と指導することを思い出した。「基礎的なことを教える」という差別。差別の仕方に共通点が見いだせてしまう。

  • 差別は人を殺す

    • 妊娠6ヶ月で中絶を強制された女性の話。そういう信仰でもしているのか、というくらい嫌っている。人の命よりも、コミュニティのほうが大事なのか。4ヶ月で早産しても助かることがあるくらいなのに6ヶ月だなんて…

    • 差別の行き着くところは、殺人。例えばホロコーストなども。

    • 差別された当事者が、心を病んで自殺してしまうこともある。差別は心だけでなく、体も殺す。

    • だからこそ、BLMのように「命(Lives)」に焦点が当たるようになった。差別の問題は切実な問題としてクローズアップされるようになった。

    • 差別解消を目指す方法には文化交流もあるけれど、それはある種の消費に繋がってしまい、本質に繋がらない。いかに差別問題を深化させるか、その一つが命にフォーカスすること。

  • その他

    • 「いとこが結婚する時に、あなたが部落の人と結婚したので結婚に反対、って言われたらどうするの」(45頁)と親から指摘された話。個人的な感覚として、「いとこ」はすごく遠い存在(自分自身は20年近く会っていない)なので驚いた。いとこの結婚に自分の連れ合いが関係してくるなんて。

    • ある人が、部落差別をするようになった理由。その人の実家はかつて遊廓のあった地域にあり、子供の頃、部落地域の子どもたちから「女郎屋」と呼ばれ、「俺のとこは同和だけで済んでいるけど、おまえのとこはもっと下だ」という感じでいじめられていた。このエピソードが個人的には重かった。人は自分よりも「下」の存在を見て溜飲を下げる。部落地域の人であってもそう。娼妓たちはそのように差別されていた。

    • 「直接、部落の知り合いが増えなくても、話題として部落のポジティブな面を知ったり、部落の人々の 活躍を知ることも、部落への認識を変えるきっかけになるだろう。 交友関係において、「友達の友達」 といった「拡張接触」することが、偏見の低減に寄与するといわれている」(230頁)という部分は前向きな言葉で、(こういう読書会をやっている自分にとって)励みにもなった。


«以下、都合により読書会に参加できなかったメンバーの感想を掲載します»

  • K

    • 無知ゆえの『関係ないよ』は、その場の回答としても、その後の周りのネガティブな反応に立ち向かえないという意味でも、かなり相手を傷つける。このことが「そういう面もあって難しいよね」ではなく、自明に近いような書きぶりだったのか新鮮だった

    • そう考えると、ほとんど無知で済む地域もあるように思われているが、そんなことは関係なく誰もが知っておくべきだと思った

  • Y

    • 1、読み終えての感想

      • 家族という極めて『個』の領域の問題を、個別の事例を丁寧に取り上げつつ類型化してあり、読みやすくかつ読み応えがある本だった。

    • 2、部落差別問題の特徴(?)と他の課題への理論的応用の可能性

      • 部落差別問題というのは、差別への闘争も集団として活発に行われていたし、理論面でもかなり体系化されている。

      • (私の大学のときの先生は、就職して労働者の立場になって闘うか進学するか迷っていたときに、活動家の先輩達に「働きながら活動をしているけれどそれだけで手一杯だ。だけど、正しいことの証明は誰かがやらなければならない。お前は理論をやれ」と言われ、院に進学したそう)

      • そういった部落差別との闘争の蓄積もあり、『結婚差別』というものを構造化して捉えられている。

      • この分析の枠組みは、部落差別問題に限らず、国際結婚・異民族間の結婚・同性婚などで起こる問題を分析する際にも当てはめていけるものだと感じた。

      • 国際結婚に関しては、多くの研究がありそうな気がするが、不勉強で知らない…。

      • 異民族間というのは、例えば、アイヌ差別等でも結婚差別の話は聞く。※azusachkaさんが主催してくれているアイヌ関連の読史会で読んだ本にも、そういった記述あり。

      • 同性婚は現状の日本では認められていないが、今後認められてもこういう問題はありうる。特にトランスでは見た目だけではわからなかったりするので。現状でも、同性パートナーの家族へ紹介するハードルは高い。そういった問題を乗り越える議論の礎になるのでは、と思った。

      • この本に出てくるように、部落では問題について当事者の若者が学び、差別と闘う理論を身に着ける場がある。「部落にいると部落のことばかり」という状況に反発する者もいるのかもしれないが、理論が内面化されていることで結婚差別にあっても自ら闘えている例もあったと思った。

      • 差別問題に関する社会的関心の薄まりと、それによって取りこぼされるインターネット上の差別問題と差別の再生産についても、事例の整理と分析がされていて良かった。ネットレイシズムとも通じる状況がある。現代の大きな課題だと思う。

    • 3、差別について学ぶこと、差別意識を克服することの意義

      • 「差別は社会構造」「差別意識は差別者・被差別者ともに内面化されたもの」であると私は思う。そこに対して、学ぶことが武器になりうる、ということを改めて感じた。

      • 前述の大学時代の先生のゼミで、「不幸なのは結婚差別をされたほうよりも、むしろしたほうなのかもしれない」と言われて、はっとしたことがあったのを、今回の選書で思い出した。

      • そのとき出てきたのは「部落出身の方と結婚したために両親から縁を切られた、子どもの顔も見せてない」という体験談で、私はその人が可哀想だとしか思わなかったのだが、先生(おじいちゃん、と呼ぶような年齢の方)が「結婚差別なんかするから、幸せになってほしかった子供と縁切りになって…。可愛い孫の顔も見られないなんて、どっちが可哀想だか分からない」と仰っていて、はっとした。

      • 人間は大なり小なり偏見や差別意識を持ってしまうものだと思う。そこから脱するには学ぶ機会が必要。自らが囚われていることに気付き、向き合い、克服しなければ周りも自分も不幸になってしまう。学ぶことと幸福の関係性。

(学びと幸せが必ずしも相関しないのも世知辛いところなのですがね…)

読書会中に紹介された本やサイト

オリジナルサブタイトル

※『結婚差別の社会学』に続くサブタイトルを考えました。読書会のまとめとして、自分なりのサブタイトルを各自で考えて発表しています。詳しくはこちらをご覧ください。

  • 法制度上は存在しないはずの「ガラスの壁」(azusachka)

    • 制度上の差別は存在しなくても、個人間の差別が残っている。「ガラスの天井」になぞらえて、それに焦点を当てた表現にしたかった。

  • 親族と差別をどう向き合うのか?(berner)

    • 作中には、「こう向き合いました」という成功例もあるが、自殺した例もある。

    • 家族の同意を得られなくても結婚はできる。しかし、家制度のしがらみがあったり、家族からの祝福やサポートがほしかったり…などの理由により、家族を断ち切ることはなかなかできない。

      • 子どもが親の面倒を見る時代ではなくなっているので、縁切りはむしろ子どものほうに不利、という説明もあった。

  • 「知らなかった」ではすまない結婚差別(Kimiko)

    • 関西に住んでいた経験があるが、関西を離れて長い。子供の頃は結婚差別のことはわからなかった。今の年齢になって学んだから、深く理解できた。

    • 子供の頃に同和問題を学んだ際、同級生から「今は差別がなくて良かった」という感想が出てきたことがあった。「今は差別がない」から「掘り起こさなくていいんじゃないか」という意見になってしまう。いわゆる「寝た子を起こすな」論。しかし、そういう部分から差別が起きる。

    • 知識を得て、自分はどういう考えに至ったのか。こういう読書会の場で共有するのは大事。

    • 自分自身の生活に部落差別が関係なかったとしても、学んだことは色んな問題に応用できる。

  • 知らなければ突き詰めることを大事にしよう(midori)

    • 作中に、差別について知ろうとしない人が出てきた。でも、それでは話が進まない。「知ろうとしない」ことによって「ない」ことにできる。

    • 結婚に反対する人は、部落に対して「貧困」「犯罪」など怖いイメージを抱いているのかもしれないけど、そのイメージは本当なのか?と知っていくこと、不安があるなら話を聞いていくことが大事。

    • 例えば労働災害でも、アスベスト問題は国が税金を使って補助をしているが、今はだんだん労働災害が減ったので、もしかしたら将来的に「予算を減らそう」という話になってしまうかもしれない…という懸念を自分は持っている。今もまだ治療をしている人がいるのに。問題を「過去のもの」ではなく「現在進行形のもの」として認識して、学び続けることが大事。