第18回
”ハッシュタグだけじゃ始まらなかった”BLM
”ハッシュタグだけじゃ始まらなかった”BLM
バーバラ・ランスビー『ブラック・ライブズ・マター運動誕生の歴史』(彩流社、2022年)
開催日:2022年6月
課題本:バーバラ・ランスビー『ブラック・ライブズ・マター運動誕生の歴史』(彩流社、2022年)
参加者:Kimiko、berner、azusachka、アントニン
内容:BLMの歴史について学ぶ
選書担当:アントニン
議事録作成担当:Kimiko、azusachka
標題作成:Kimiko、azusachka
(※標題は『ハッシュタグだけじゃ始まらない 東アジアのフェミニズム・ムーブメント』へのオマージュです)
自分自身がアメリカのフェミニズムについてどういうトピックが一番いいかな、と考えた際に思いついたのがBLMだった
アメリカにおける公民権運動;思い浮かぶのはキング牧師など男性活動家ばかり
しかし、ここ最近バズワード的に普及しているのはインターセクショナリティ
例えば黒人はマイノリティだけど、さらなるマイノリティは女性やLGBTQ
一番取り上げられるべき人たちが今まで重要視されていなかった。
それが差別構造を温存させてしまっている
BLMは黒人で、女性である という二重に差別されてしまっている人たちが起こした運動
かなりまとまった形で動き出したのがBLM
3人の女性やクィアな人々
レイシズムの問題を新たな切り口で切り開いていった
そもそも女性で性的マイノリティの人々が主導していった それが大きく広がった 新たな社会運動の形
日本ではそもそも社会運動があまり盛んではない。
安保法制が記憶に新しいけど、それ以降まとまった形での運動はない。社会運動の基盤がない
でも他の国を見ればこういうムーブメントがある。
ここから色々と日本の社会運動に足りないものなどを学べる(アメリカの運動の抱えた問題点も含めて)
BLM運動に関わった団体や名前が掲載されていることで、彼女ら・彼らの思いを知ることができて良かった。
この本に出てくるのは「名もなき人々」。でもそれぞれに成長物語があり、人生がある。
人名を通じて知らない文化圏に出会えた
英語だけど馴染みない名前多い
ここ最近、米国社会において名前の付け方はルーツに即した形でつけることが多い
西欧風の名前をつけるのが社会的な慣習ではあったけど、
あえて自分の出身地やルーツを意識した名前をつけることがここ数十年のトレンド
BLMは自然発生した運動ではなく、アクティビストが作り上げたもの
ローカルなコミュニティ・ネットワークを基盤にしている
米国の社会運動を考えるうえで興味深い
SNSのハッシュタグだけではない
以前から脈々と続いてきた黒人運動
昔は公民権運動などが中心
今は、生活の中で生まれた人種主義などを打破していく(警察暴力など)
既存の公民権運動はあまり取り組んでこなかった、生活に根ざした運動
2020年から始まったのではなく、2013年くらいから始まった運動。
思っていたよりもずっと長い運動だった。
BLMはトランプ政権への批判だという一般的な誤解があるが、オバマ政権のときに始まっている
初めての黒人大統領が誕生したが、それが逆にレイシズムを不可視化させてしまった
街場で起きている差別 オバマですら切り込めなかった
BLMに対するオバマのトーンポリシングに驚いた
2015年、フレディ・グレイの死の後に起きた抗議活動(inボルティモア)
黒人の政治的怒り(Black Political Rage)
これに対するオバマ大統領の発言「怒ることが常に創造的であるとは限りません。
黒人たちの怒りがむしろしばしば本当の問題の解決から関心を逸らせてしまうのです) ※116頁
選挙運動の際、彼は戦略的に黒人メディアには出なかった。
白人コミュニティに支持してもらうため、黒人メディアとの付き合いを控えた。
アメリカの大統領はどちらかに立ってはいけない、というのはあったけどそれが黒人の不審を買った
BLMは自分が想像していたよりもずっと戦略的だった
日本のメディアだとBLMの戦略的な点が描写されていないけど、この本ではそれは違うというのがよくわかった
単に路上に出て声を上げる運動ではない(そういうイメージは偏見)。
かなり組織的な、しかも平和的な、若者たちのムーブメントだった。
運動やデモだけじゃなく、読書会や勉強会もやっている組織の話もたくさん出てきたのが印象的だった
米国のマイノリティに対する日本の報道機関の解像度の低さ
NHKの「これでわかった!世界のいま」という番組における黒人の描写の問題
ステレオタイプがこれでもかというくらいあからさま
筋骨隆々な黒人イメージ
怖い声で「俺たちは差別されてきたんだ〜!!!」と叫んでいる、火事になった暴動、など
BLMで暴動が起きたのは1割にも満たないのに、平和的な運動なのに
報道番組で「米国の黒人は怖い」というステレオタイプが再生産された。
著者のバーバラ・ランズビーは研究者だけど直接運動にも関わっている。それがすごい
研究者と運動家、噛み合わないことも多いけど…彼女すごい
自分(メンバーの一人)は研究をしながら何かの形で運動に関わりたいという気持ちはある。
でも、現実的にリソース(時間)が割けないというジレンマもある…
運動と研究では違う能力が必要。それがかちっとはまることもあるけど
日本とは違い、学者が研究したことを社会運動にも提供していく素地がある?
著者は歴史学者ではあるけど、社会運動に密接に関わりやすい環境にあったので、社会学者っぽさもある
黒人運動におけるセクシズムなどへの批判
60年代の運動;女性が下に見られていた
過去にあったジレンマ;”指摘すると水をさしてしまう…”
でも今の運動は批判もできている。運動は進化してる
ランズビー自身も黒人でありながら、黒人の公民権運動の歴史を批判している。その点が”歴史家”だなと思った
BLMの”Lives” について
日本の報道だと「命」というニュアンスで報じられていた。
でも、この本だと「生活」を併記していたのが印象的だった
白人警官による暴力と、それへの反発 という報道になりがち
でも、それだと加害者個人の罪のみに帰結してしまいがち
黒人が置かれている制度的人種差別が、アメリカ社会に根ざしているのがよく分かる
大きな発見として、従来の米国の社会構造を根本的に変える変革運動がBLM と捉えることができた
BLMというフレーズは、たった3つの簡単な単語で構成されているにも関わらず、日本語に訳すとしたら奥が深い…
(翻訳家)柴田元幸氏がBLMをどう訳すか?をtwitterで当時問題にしていた
黒人の命「は」大切だ「も」「こそ」など様々な表現があり、奥深い
様々な訳が出来るということは、BLM自体が単に差別に反する運動なだけでなく、社会全体の問題を提していると言える
警察暴力の話だけではない
BLMを考えるうえで「インターセクショナリティ」の視点は大切なキーワードであり、
インターセクショナリティが捉える「社会的地位」や「性別」「国籍」「障害の有無」などの視点も含めて
観察しなきゃいけない、ダイナミックで大きな運動
2018年の本なので、ジョージ・フロイド事件やコロナについては触れていないので、今の状況も調べたら面白そうと思った
インターセクショナリティ 今ホットなテーマ
経済格差など、全ての問題を包含して”Lives”と使ったほうがいい。全部まとめられる言葉なのがすごい。(それだけ根深いということでもある)
BLMは「社会の構造そのものを問題にしていく」という点で画期的な運動
(米国における人工中絶権を合憲としてきた判決が覆ったニュースを受けて)中絶の話で一番割を受けるのは有色の女性たち。
どうしても中絶という選択肢をとらざるをえないにも関わらず、憲法で保証されなくなってしまうことによって、有色の女性たちがさらに追い込まれてしまう。
これは構造と社会福祉の問題
BLMと交通の関わり
自分(メンバーの一人)の専門が交通なので、これも考えなきゃいけない問題
transportation justice(交通正義)
交通に関しても無関係ではない
ハイウェイ;
もともと黒人の居住区だったのが、通常よりも安い価格で買収されてしまった。
居住していた黒人はコミュニティを壊された
きちんとした収入を得るには都市に行かなきゃいけないから公共交通機関を使わなきゃいけないけど、アメリカは公共交通が脆弱。
なかなか高収入が見込まれる都市部へのアクセスがそもそも難しい
差別的な構造があり、なかなかそういうところに路線を引きたがらない
自分の専門と無関係ではない
印象的な話:加害者個人(白人警官)の責任問題のみに帰結するのは間違っている
殺された黒人の母が「加害者である白人警官を監獄に入れるのは簡単だが、
罰するだけでは社会は良くならないので、教育制度を整えていくなど、
社会がより良くなるような仕組みを整えてほしい」
「個人の問題」ではなく「社会全体の問題」として考えている
2020年 Defund the police(警察に対する資金凍結)を実施すると治安悪くならない?という反論が聞こえてきそうだけど、
そもそも警察にけっこうな予算がかけられていて、警察が抑圧になっている。
公共政策のほうにお金をかけるべきではないのか?
身近に使われている製品が受刑者の労働によって作られているが、
刑務所ではなく福祉に充てるべきだ、という議論
警察暴力について
マイノリティとマジョリティとで見えている景色が全然違うのだなと思った。それはきっと日本でも。
※読書会のまとめとして、自分なりのサブタイトルを各自で考えて発表しています。詳しくはこちらをご覧ください。
『制度的人種主義に抗するローカルな努力の積み重ねの軌跡』(アントニン)
『BLM―3語がつむぐ大きなヴィジョン』(Kimiko)
『誰もがsomebodyとされる運動』(berner)
『ローカルな団体からハッシュタグへ』(azusachka)