第26回
女子学生よ、大志を抱け
女子学生よ、大志を抱け
ヴァージニア・ウルフ著、片山亜紀訳『自分ひとりの部屋』(平凡社、2015年)
概要
開催日:2023年7月
課題本:ヴァージニア・ウルフ著、片山亜紀訳『自分ひとりの部屋』(平凡社、2015年)
参加者:Kimiko、midori、berner、azusachka、アントニン(聴講)
内容:ヴァージニア・ウルフの古典的名著を読む
選書担当:berner
議事録作成担当:azusachka
標題作成:azusachka
選書の理由
前回の『科学史から消された女性たち』で扱われていた17-18世紀は、女性が比較的自由な時間を持っていて、学問や自宅での実験に参加していたが、ウルフの『自分だけの部屋』(1928年)では、小説を執筆する女性には、自分だけの部屋と経済的な自立が必要であると主張していた。『空間』という点で、女性たちの置かれた状況が気になったから。
フェミニズムの本で、頻繁に紹介される本だから読んでみたかった。
感想
読む前のイメージとの違い
読む前は『自分ひとりの部屋』を比喩だと思っていたので、そうじゃなかったというのに驚いた。「自分ひとりの部屋」を持つことをこの時代に言及しているのにも驚いた。
創作的なたとえ話も多かったけれど、現実的なこともたくさん書かれていた。
学生時代に授業で読んだときは「ふーん」という感じだった。でもフェミニズムについて勉強してきた今あらためて読むと、この本を大学の必修科目で読んだことには意味があったんだなと思った。
気になったところ?
これは主に女子大生向けの講演会をベースにした本。「努力すれば自分ひとりの部屋と収入を得られる」という、経済的に余裕のある層に向けた言葉。余裕のない層の女性に対しては、ウルフはどう声をかけるのか気になった。
結婚や出産など女性として生きることに満足してはいけない、さらに上を目指しなさいというエンパワーメント。「500ポンドの収入」は今の日本円の価値に換算すると500万円前後。かなりの稼ぎになる。ちょっと非現実的。
でも、物語の中に出てくる女性像が極端すぎることや、女性が歴史に残らないことや普通の女性の生活はどんなふうだったのかが分からないこと、戦争についてばかりが歴史に残っていることについてもウルフは言及していた。また、生きる価値を男性目線で決めないでほしい(男の決めた土俵に乗ってはいけない)という主張もしていた。自分で稼ぐことだけが自由になる手段ではない。締めくくりはおや、という感じだけど。
女性差別の構造の話にも言及していたのに、最後で突然違う話になった。
まとめでは、男性と女性という性別の話ではなく「自分自身で頑張りなさい」というメッセージになった。女性文学史を通して女性の歴史を追い「昔の女性作家よりもあなたたちは自由になったからがんばりなさい」というポジティブなメッセージだと思う。
女性が自分で株すら買えない時代から考えたら、すごく変わった時代だった。だからこんなにポジティブだった。
1928年なのでまだ恐慌も起きていない。モダンガールが流行っていた時代。思想的にはリベラルになってもおかしくない。
「昔と違うんだから頑張れ」と言われても今は今の難しさがあるんだから…と反発する気持ちと、「たしかに時代は進んだのだから…」と納得する気持ち、両方ある。
現代との共通点
女性と貧困の問題は今でもある。ウルフが指摘した内容には、100年経っても変わっていない部分がある。100年後には変わるという話もしているけれど、今も暗い話ばかり。
「すべての暴力的で英雄的な行為にはどうしても鏡が欠かせません。…」のくだり(64頁)の文学的表現が面白かった。
「実人生では女性が街路で顔も出せないのに、舞台では女性が男性と対等かそれ以上という矛盾」(79頁)のくだり。今も男性向け萌えアニメとかでよくある。10代の女の子が男性の力に頼らず活躍するフィクションがたくさんあるけど、現実でも同様になるよう望まれているわけではない。
分からなかったところ・もっと詳しく知りたかったところ
「シェイクスピアは両性具有的」という主旨のことを述べていた箇所があったけど、シェイクスピア作品ってそういうものなのか。
『両性具有のシェイクスピア』という本を見つけた。
『シェイクスピアとジェンダー : 序説』という論文もあった
フェミニストってわけじゃないんだろうけど、当時としては「進んでる」(だから当時も今も女性ファン多い)という感じ?
「時折、女性は女性を好きになるものなのです」(143頁)というくだりがあったけれど、当時のイギリスで女性同士の愛はどういう扱いだったのか?
『論点・ジェンダー史学』に書いてあった。18世紀頃のイギリスには「ロマンティック・フレンドシップ」という「女性同士の親密な友情」があったという研究がある。(当時は「肉体的な愛のない関係」と理解されていたけれど、現在では「肉体的な愛のパブリックな顔」とする人が多いらしい。)ウルフによる女性同士の愛への言及は、そういう歴史の延長線上にある。
オリジナルサブタイトル
※『自分ひとりの部屋』に続くサブタイトルを考えました。読書会のまとめとして、自分なりのサブタイトルを各自で考えて発表しています。詳しくはこちらをご覧ください。
「自分自身でいるためのフェミニズム指南書」(berner)
「『充実した生活』をおくるために~女性小説家が女性学生に送る言葉」(Kimiko)
「現実を生きよ」(midori)
「年収500ポンドの女になるためには」(azusachka)