1st. blog by Kori
私たちは2024年5月に愛媛県は大三島で開催された「しまなみテクノロジー市民大学講座(しまテク)」1周年記念イベントに参加し、建築・ものづくりの楽しさを島のこどもたちに知ってもらうことを目的に、今治市とも連携し、「建築ものづくり体験会」を実施しました。
私自身、このようなイベントの企画は経験のない試みでしたが、企画からイベント当日までのメイキングストーリーをブログに残しておきたいと思います。
しまテク1周年記念イベントにふさわしい企画はなんだろう…。
どんなことができるだろうか…。
五里霧中のなか、社内で検討をはじめました。
海外部門の営業をしていると、普段から世界各地のビジネスパーソンとやりとりする機会があり、思いもよらぬアイディアをもらうことがあります。
当社では国内・海外を問わずプロジェクトを通じて様々な新しい技術や取り組みにチャレンジするなかで、今回のチームスタッフからも「海外の技術を取り入れるのも面白いかもしれない」、「大三島で行うのだから島の皆さまを巻き込んだ魅力ある企画が良いだろう」、「未来を担うこどもたちに建設の魅力を知ってもらうきっかけになるといいな、、」など、いろいろと意見が出てきました。
その中で、当社シンガポール拠点と付き合いのあるシンガポールのSuperstructure社の活動に着目しました。
出典:Superstructure社 ホームページ
同社は、自社で設計したデジタルデータを機械に入力すると、その機械で資材を自動でカット・穴あけし、パーツを制作できる技術を持っています。
重機や熟練の職人さんは不要で、それらのパーツを簡単な工具を使ってつなぎ合わせていくと、一つの建造物ができるというものです。
これを大三島の皆さまと作り上げていくことで、皆さまに親しみを持ってもらえるものが作れるのではないかと直感しました。
人手不足が深刻なのはどの業界でも同じと思いますが、労働集約型の産業である建設業においては特に担い手不足が深刻で、熟練工の技能継承やノウハウのデジタル化が課題となっています。
同社の技術は、そうした重要な課題である施工自動化技術の研究の一環として、当社シンガポールの技術研究所と共同研究をしてきたものです。
イメージは、レゴブロックの巨大版といえばわかりやすいでしょうか?
パーツによっては経験のないこどもたちでも簡単に制作ができるため、島のこどもたちとパーツを組んでいき、一つの建造物を作っていく、というのは面白そうです。
この企画を軸に、では何を作ろうか、とアイディア出しを始めました。
大三島にちなんで、みかんの形はどうか―。
大三島の暮らしに親しみのある船の形はどうか―。
構造や強度の制約がある中で、島の方々に親しまれ、工作というよりも全体が覆われている建物をイメージしたいなど、今治市の皆さまとCDEメンバー、シンガポールの技術研究所メンバーで何度も打ち合わせを重ねました。
我々の要望を、Superstructure社が粘り強くデザインに反映してくれました。
そうして完成したのが、しまなみともしびボールのデザインです。
32個の木造パーツを組み合わせていくと、高さ約150cmの32面体オブジェが完成します。
パーツの一部には今治市の3つの島である大三島、伯方島、大島の型が抜かれており、こどもがオブジェの中に入って型から外を覗いたり、顔を出したりして遊ぶことができます。
こどもたちと組み立てを楽しんだ後は、今治市の公共施設に設置いただけることとなりました。
ちなみに、ネーミングにある「ともしび」ですが、心の「灯火(ともしび)」は夢を懐くという意味もあり、沢山の夢をもつこどもたちのイメージや、寄り添う、心を和ます、という願いを込めました。
しまなみ地域の方々とCDE活動が共にある、その活動のシンボルになれれば―。
今治市、CDEの皆さまのおかげで素敵なデザインが完成し、イベントまで制作納期もタイトななか、詳細設計が進みました。
パーツデザインが出来上がると、一度シンガポールでパーツを組み立てるリハーサルを行うことにしました。
日本側関係者も、ビデオでその様子を確認しました。
当初の目論見どおり、簡単な工具を使えばこどもでも制作できることを確認しましたが、パーツを重ねていくとかなりの重量がありました。
また、パーツを繋げる過程で組み合わせる角度に精度が必要な場面もあり、対象年齢の引き上げと多くの大人のサポートが必要となりそうだと分かってきました。
当日に備えて、社内のスタッフ体制も見直していきます。
オブジェパーツの運搬も課題でした。
シンガポールから大三島までどうやってパーツを運ぶのか。
シンガポール現地法人の協力を得ながら、運送会社と相談して、大三島まで、決して壊れず安全に運搬する方法を模索しました。
忙しい当地の方々の強力なバックアップをうけつつ、何とかシンガポールから搬送することができました。
あとは、無事に会場まで届くことを祈るばかり…。
航空便で無事に日本に到着した、という知らせを受け、関係者全員、ホッと胸を撫でおろしました。
イベント前日。
現地確認や準備のため、我々スタッフは大三島に移動しました。
無事に大三島までパーツが届いてくれるかな、こどもたちは集まってくれるかな、オブジェは無事に完成するだろうか…、沢山の不安が頭の中でぐるぐる回り、移動中も落ち着いていられません。
今回は、東京から広島空港まで飛行機で移動し、忠海港から大三島の盛港にフェリーで移動するルートでした。
広島空港から車で40分程、忠海港につくと目の前に穏やかに広がる瀬戸内海が見え、遠くに島々が見え、東京の日々の喧騒から離れ、心身ともにデトックスされていきました。
フェリーから見える、日光に反射してキラキラと輝く水面や、島々の厳かなたたずまいにも癒され、頭の中を占めていた沢山の不安が一つひとつそぎ落とされていくような感覚に、「天気はいいし、海は穏やかで、なんて気持ちがよいのかしら!」というただただ晴れやかな気分に変わっていったことを覚えています。
イベント直前にそんなのんきな心境でいいのか、という気もしますが、考えすぎていた頭が大三島の偉大な自然の力でリセットされ、こどもたちに純粋にイベントを楽しんでもらえたらいいな、と初心に戻れた、とでもいいますか。
すっきりした気分で大三島に上陸したことを覚えています。
とはいいつつ、前日の準備も入念に、イベント前夜には小型のしまなみともしびボールのモックアップ(模型)で組立テストを行い、当日の流れや役割を確認しました。
あとは当日を迎えるのみ…!
24年5月18日、見事な五月晴れに恵まれ、しまテク1周年記念イベントが道の駅多々羅しまなみ公園第2駐車場で開催されました。
イベントでは、日産自動車の電気自動車活用や、パナソニック・日産自動車共催の、プログラミングで炊飯し美味しいカレーを競う小学生参加型企画、ポーラのハンドセラピーや地域のキッチンカーやワークショップ等も行われ、多くの地元のご家族や旅行者の方が楽しまれていました。
時間は前後し、当日の朝9時。
無事にシンガポールから無傷で届いたパーツを受け入れ、設営、準備を行いました。
開始時間近くには、何をするのかな、と見に来てくれる小学生もいらっしゃり、興味を持ってくれたこどもたちが飛び入り参加してくれました。
参加者10人と当社スタッフ、日本アイ・ビー・エムのスタッフ、日産自動車、パナソニックも参加下さり、「エイエイオー」の掛け声とともにイベントのスタートです。
大人もこどもも真剣な表情で説明書を見ながらパーツを組み合わせていきました。
「このパーツかな?」「あれじゃない?」「これじゃ入らないよ」と声をかけあい協力しあう様子や、パーツを組み合わせた後にこどもたちが「せーの」の掛け声で一斉にネジを止めている様子、少しずつパーツが合体し大きな建造物になっていくのを小さなお子様が不思議そうに見ている様子、こどもたちの沢山の笑顔がとても印象的でした。
完成したしまなみともしびボールには、ボールの中に入って、開口から顔を出したり、転がって遊ぶこどもや大人(?)の楽しそうな様子も伺え、無事に怪我人なく、事故なく終えることができ本当に良かったと心から安堵しました。
もちろん、制作過程や運営面での反省点・改善点もありますが、さまざまな企業さま、今治市、地元の方々のご協力・ご支援のもと、島のこどもたちにまなび・気付きの場を少しでも提供でき、充実したイベントになったのではないかと感じています。
また、四国支店や海外現地法人の応援、広報室への宣伝等を通じて、社内でのCDE活動の認知度を高めることができたことも個人的には大きな収穫でした。
イベントが終わった後、チームの方が道の駅の売店で売っていたレモンとオレンジの凝縮生ジュースを買ってくださり、スタッフで乾杯しました。
驚くほどの濃厚な味わい、かつ柑橘の爽やかなテイストに、乾いた喉がうるおい、イベント完了の疲労感が一気に吹き飛びました。
大三島から、お疲れさまのご褒美を頂いたような気持ちになりました。
もちろん、イベント慰労会でのビールが美味しかったことは言うまでもありません…。
◎初めて大三島を訪れた、白鳥さんからのメッセージ
「大三島に行くまでは準備のことでアタマがいっぱいでしたが、盛港からのフェリーに乗船し、ゆっくりと島に近づいていくにつれ、
瀬戸内ののどかで暖かな自然風景に圧倒される自分がいました。大三島に住む方々や、CDEのメンバーも同様にとても魅力的で、イベントに参加いただいた皆さんから大いに元気をもらいました。次回はぜひプライベートで訪れたいと思います!」
◎越島さんからのメッセージ
「シンガポールで設計制作し部材を大三島に運ぶまでのロジスティクスは大変ではありましたが、果たしてこちらの意図通りにこどもでも組み立てられるかというのが一番の心配でした。子供たちが2Dを3Dにする過程を体験し、最後に出来た「ともしびボール」の中に入って大喜びしているのを見て、「ああ、灯がともった」と思いました。
「ともしびボール」はコツをつかむと解体も組み立ても簡単に出来ます。今後他の島のこどもたちにも体験してもらえると嬉しいです。
ボールの中に照明を入れると大きなランプのようになります。これを船に乗せて暮色の瀬戸内海の島々を渡っていくというのも詩的で良いでしょうね。」