(漢訳では第十巻の後半)
カッサパ菩薩が仏に申し上げた。
「世尊よ、如来は一切の病を離れ、苦しみもなく、恐れもありません。世尊よ、一切衆生には四つの毒矢があります。それは、貪欲・瞋恚(しんに)・愚痴・慢(おごり)です。この四つの毒が病の原因となります。
もし病人がいれば、それはまさにこの病より生じたもので、たとえば寒熱(かんねつ)・肺病・嘔吐・皮膚のかゆみや痛み・吐き気・胸のつかえ・下痢・赤痢・小便の不調・耳鳴り・目の痛み・腰痛・腹部の膨満・狂気・やせ衰え・悪鬼による憑依など、さまざまな身体や心の病があるのです。
仏たちはそのような病はすでに離れています。それにもかかわらず、如来よ、なぜ今日、文殊師利菩薩に『仏は腰が痛むゆえ、そなたたちは大衆のために法を説きなさい』とおっしゃったのですか?」
「世尊よ、病の苦しみを離れるには二つの因縁があります。一つは一切衆生を憐れむ心、もう一つは病人に薬を施すことです。如来は昔、無量無数の劫(こう)にわたって菩薩の道を修め、常に優しい言葉を用い、親しみと利益を与え、衆生を苦しませず、あらゆる薬を施して病人を救ってこられました。
それなのに、なぜ今日になって『病がある』などと自ら言われるのですか?」
「世尊よ、世の中の病人は、座っても横になっても安らかではなく、水や食べ物を求めたり、家人に財産の管理を託したりします。
けれども如来は、安らかに右脇を下にして横たわり、声を出すこともなく、声聞の弟子たちに戒律や禅定、解脱、三昧、正しい精進の行を教えようとされません。なぜ深く微妙な大乗の経典を説かれないのですか?
なぜ多くの方便を用いてマハーカッサパや諸々の大人(だいにん)に無上菩提の不退の位を授けようとされないのですか?
なぜ不浄な物を受け取っている悪しき比丘たちを罰しようとされないのですか?
世尊よ、如来には実際には病はありません。なぜ今、右脇を下にして静かに横たわっておられるのですか?」
大般涅槃経に戻る。
大乗経典に戻る。
トップページに戻る。