費用関係については大きく二つに分けることができます。被験者に支払う費用と、施設に支払う費用です。
まずは、被験者に支払う費用についてです。これも二種類あって、一つは負担軽減費、もう一つは保険外併用療養費の支給対象外経費というものです。
負担軽減費とは、患者さんが治験のために来院する毎に、1回7千円とか1万円を支払うというものです。交通費や食事代という位置づけです。入院の場合は、通常は、入退院1回につき同じ金額を支払います。この金額が高すぎると、患者さんをお金で誘導して治験に参加させていると解釈される恐れがありますので、通常の金額から外れるときは、慎重に対応しないといけません。通常は、7千円か1万円の定額ですが、治験の内容や施設の立地によっては、それ以上の負担軽減費を支払いたいと、施設から要望を受けることがあります。そのような場合は会社へ持ち帰り、上司に相談する必要があります。また、有害事象の検査や治療のための来院でも支払えるかといった質問を受けますので、事前に担当するプロジェクトのルールを確認しておきましょう。
負担軽減費の内容は、IRBへ提出する「被験者への支払いの資料」と、「同意説明文書」にも記載しています。これらの内容と、治験契約書や費用の覚書に不整合が生じないように注意しましょう。
そして次に、保険外併用療養費支給対象外経費についてです。健康保険制度の中で、治験薬投与中に行う検査・画像診断費と同種同効薬の費用は、全て、治験依頼者が負担することになっています。
ポイントは二つあり、一つは検査・画像診断費と同種同効薬については全て、つまり治験に関係するかしないかにかかわらず全てということです。少しくどいですが、治験薬投与期間中の話です。もう一つは、その全額という点です。この部分は制度そのものですので、特に施設から異議が出るようなことはありませんが、同種同効薬の範囲について、薬剤名ベースで質問を受けると思います。同種同効薬の薬剤名リストが有る場合には、印刷して用意しておきましょう。
そして、この費用の話が複雑になるのは、この制度だけですと、ちょっと不都合なことが起こるからです。制度が対象にしているのは、治験薬投与期間中だけですので、治験参加の同意をしてから治験薬の投与が始まるまでに実施する検査代などは、通常の保険診療になります。この期間にたくさんの検査を実施する治験では、治験に参加することによって、患者さんの費用負担が膨れ上がることになってしまいます。また、治験薬の投与が終わって、後観察期の検査が実施される場合も同様です。
そのため、同意から治験薬投与までの前観察期や、治験薬投与が終了して治験が終わるまでの後観察期での検査・画像診断費の扱いについては、治験に参加した患者さんの負担が増えないように、治験毎に独自ルールを作って、施設に提案するケースが多いです。例えば、治験に関係する検査・画像診断に限っては、被験者の負担分のみを治験依頼者が負担するというような提案です。これに対して施設によっては、治験に関係する検査・画像診断に限らず、全ての検査・画像診断費を依頼者負担にして欲しいなどの要望を出されることがあります。そのような場合、施設要望の内容を正確に理解した上で会社に持ち帰り、プロジェクトで規定された手順を踏んでから施設へ返答しましょう。金銭に関わる事柄は、CRA側で理解を間違えたり、単独で判断して対応してしまうと、後で大きなトラブルになることがあります。治験の開始後、本来支払えない費用の請求書を受けて、その時に認識の違いが明るみに出ることもあります。
保険外併用療養費の話をする時の注意点が一つあります。「治験中」という言葉を使わないことです。
保険外併用療養費の制度の中では、「治験中」とは「治験薬投与期間」を意味しますが、通常「治験中」とは、同意を取得してから全ての検査・観察が終了するまでを指します。この違いが、認識の違いを発生させて、「治験薬投与期間中」のつもりで「治験中」と言っても、相手は「同意から後観察終了まで」と理解してしまうことがあります。そうすると、支払える費用の内容や範囲について、認識違いが起きてしまいます。
そのため、保険外併用療養費の打ち合わせをする時は、「治験薬投与期間中」と「投与期間外」の区別を強く認識して、説明することをお勧めします。