治験実施医療機関を訪問する前に、その医療機関の治験の実施に関する標準業務手順書(SOP)、治験審査委員会(IRB)のSOP、 そして IRB 委員名簿は、先に入手します。大きな病院でしたら、ホームページで公開しているところもあります。ホームページに無い場合は、治験事務局にPDFファイルの提供を依頼します。その際、いずれも最新版であるかどうか、念のために確認をしておきましょう。それらを入手したら、書類の内容からわかる選定調査内容は、あらかじめ調査のチェックリストに反映しておきます。わざわざ現地に行って確認しなくてもできることだからです。 例えばIRB に関することは、IRB 委員名簿で、委員の人数や、非利害関係委員や非専門委員がいるかどうかなどが概ねわかります。このようにして、施設訪問した時には、書面上ではわからないことに的を絞ってインタビューできるように、段取りをします。
また、選定調査で訪問した際に、施設から提供を受けたい書類が有る場合、例えば責任医師の履歴書やFDF(財務状況の開示)の入手を予定している場合には、事前に施設スタッフに依頼をしておきます。当日に突然依頼しても、用意されていない場合もありますから、予定している初回IRBまでのスケジュールに余裕が無い場合などには、特に忘れないように気を付けておきましょう。
治験依頼者によっては、営業部のMRに連絡が必要なことがあります。いつ、どの先生に、どのような用件でアポイントを取っているかを、メールか電話で伝えます。治験に参加される先生は、MRから見ても、非常に影響力のある、重要な先生である場合が多いので、MRが同行を希望されることがあります。院内の仕組みや人間関係などは熟知しているので、必要な場合には教えてもらうこともできます。
その他、依頼者によって必要な書類が異なってきますが、一般的には、機密保持契約や、個人情報保護に関する文書を取り交わしますので、それらも準備しておきましょう。
そして、いよいよ実施医療機関を訪問しての調査ですが、まずは治験責任医師候補とお会いして、治験薬やプロトコルの概要の説明をします。パワーポイントの説明用スライドを使用して説明することが多いでしょう。そして、この治験で求める要件をクリアできるかどうかをお聞きします。例えば、治験の検査や評価をするための設備やスタッフは十分か、治験薬の保管場所は有るか、分担医師や協力者は確保できるか、適格な対象症例を登録期間内に確保できるかなどです。調査内容に問題が出てきた場合も、その場で選定可否を判断する訳ではないので、一通り調べていきます。ただ、問題を問題のまま持ち帰るよりは、代替案を協議しておいた方が、選定可否を判断する時に役立つと思います。
治験の概要を説明すると、治験責任医師が思っていたより、対象となる患者さんがいないということがあります。こういうとき、どういう方法でエントリー対象を広げていくことが可能か、例えば併用禁止薬を服薬している患者さんのウォッシュアウトは可能か、一度スクリーニングで脱落した症例の再エントリーは可能か、新患をエントリーする場合に工夫すべきスケジューリングはあるか、ポスター等の被験者募集のツール類は使えないかなど、症例数を確保するためにどのような工夫が可能かの話ができるように準備しておきましょう。特に、どこの医療機関に行っても対象患者が少ない治験ですと、候補症例が少ないからといって、簡単に選定から外すという判断ができないことがあります。そういうときの線引きは、工夫をすれば症例が確保できそうか、工夫しても無理そうかです。
選定調査に行く時、依頼者側としては、なるべく早く候補施設を見つけたい、施設側としては、新規案件を獲得したいという思惑があります。その思惑に乗って、甘い調査をしてしまうと、選定しても症例が入らない恐れがあります。症例の見込み数は、医療機関やSMO側の言い値で受け入れるのではなく、可能な限り、根拠のデータを求めたいところです。どういう患者さんが何例いるので、最終的には何例登録できそうだというデータです。