選定調査とは、GCP の要件を満たしているかどうか、今回の治験で要求している要件は大丈夫か、それから今回の治験の対象となる被験者が十分にいるかどうかなどを調べる調査です。例えば治験実施医療機関の調査で言いますと、GCPでは第35条に規定していますが、十分な設備があるか、十分なスタッフがいるか、緊急時の対応はできるかなどです。
治験責任医師の要件については、GCPでは第42条に規定があって、治験をするのに十分な時間を持っているか、知識や経験上、適切に治験を実施しうるか、十分な治験スタッフを確保し、適格な被験者を治験実施期間内に集めることができるかなどを調べます。
治験審査委員会(IRB) についても調査します。GCPでは第27条から第29条に規定されていること、特にIRB委員が5名以上入っているか、非利害関係委員や非専門委員が入っているかなどです。非利害関係委員とは、GCP第28条の第1項にある、治験実施医療機関と利害関係を有しない者(4号委員)と、治験審査委員会の設置者と利害関係を有しない者(5号委員)のことで、同じ人が、4号委員と5号委員を兼ねていても構いません。しかし、その人が欠席してしまうとIRBが成り立たなくなりますので、複数の非利害関係委員がいる方が理想です。もしも一人しかいない場合は、その人の出欠次第で、適切な時期にIRBを開催できない可能性を考慮して、選定調査の中で問題となることがあります。
それから、非専門委員というのは、医療又は臨床試験に関する専門的知識を有する者以外の者(3号委員)をいいます。先ほどの非利害関係委員が、非専門委員にも該当するケースがあると思いますが、非利害関係委員としてIRB委員に加えられている人は、非専門委員としてはカウントできないことになっています。こちらもやはり、複数の人が入っている方が良いです。
GCP要件とは別に、今回の治験で求める要件があります。その治験で使用する測定・検査機器等があって、その精度管理ができているか、治験薬や検体を保管するための冷蔵・冷凍庫が有るかどうか、その治験特有の手順や評価を実施できるスタッフを確保できるかどうかなどです。
また、システム関係も調べます。電子カルテについて、一人ずつIDを持っていて、一人のIDを複数の人で使いまわしたりせず個々に管理しているか、修正した場合の履歴が残るかどうかや、モニター用の読み取り専用のアカウントを発行できるか、データの長期保存に問題がないかなどを調べます。一人のIDを色んな人で使いまわしをしていたら、そのカルテを誰が記載したのかがわからなくなりますので、そういう施設では、治験の実施は難しいと思います。
例えば、責任医師のアカウントを治験コーディネーター(CRC)が使用していたら、CRCに不正の意図は無くても、物理的にはCRCが責任医師になりすまして入力ができてしまいます。これでは、カルテに入力されたデータは、本当に責任医師が入力したのか、科学的に正しいのか、信頼性がなくなります。このようなことがないように、調査の時点で、システムの動作以外に、施設内での運用も聞き取り、リスクを取り除いておきましょう。
調査項目は広範囲に渡りますが、試験ごとに選定調査用のチェックリストが用意されています。そのチェックリストを使って実施していくと、GCPで求める要件、今回の治験で求める要件を満たしているかどうかを、調べていくことができます。
但し選定調査の中でも特に重要な、登録見込み症例数の調査は、モニターの経験が求められます。例えば糖尿病や腎臓病の試験で、対象の患者さんは2型糖尿病ですとか、慢性腎不全の患者さんですというだけでは、登録可能な症例数の見込みが立ちません。選択基準を全て満たしていて、かつ除外基準には一つも当てはまらなくて、併用禁止薬を服薬していない患者さんというふうに、絞っていかないといけません。全体で、2型糖尿病の患者さんは200人いてますよと言っても、そのうち選択基準を満たす患者さんは100人くらいで、そして除外基準に引っかかる患者さんを除くと20人くらいになって、さらにそのうち、併用禁止薬の基準に抵触しない患者さんは15人くらいかな、というような話になります。そして更に、治験の説明をしたら同意してくれそうな人は7人ぐらいで、さらに、スクリーニング検査をクリアできる人は3人くらいかな、という風にどんどん絞られます。最終的な3人という数字が、登録可能な見込み症例数になります。
ところが、この調査に慣れていないと、見積もり症例数が大きくなりがちです。例えば、選択基準・除外基準の治験責任医師(PI)への説明が足りていなかったり、併用禁止薬の話をしていなかったりすると、治験責任医師(PI)は、本当は登録できない症例も候補として考えてしまうからです。また、適格性を満たしていても、治験参加に同意していただけない方の人数や、同意後のスクリーニング検査で脱落する症例数の見込みも考慮していないと、その分過大な見積もりになってしまいます。
先ほどの例ですと、正確に見積もれば3例なのに、甘く見積もって10例などとしてしまうと、治験が始まってから見積もり通りの症例数を確保できず、治験全体の進捗にも悪影響を与えてしまうことになります。
したがって、見込み症例数の調査については、モニターがプロトコルの適格性の基準や併用禁止薬をよく理解しするだけではなく、責任医師候補とよく協議が出来る経験が求められます。