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2013年12月12日

学力世界No.1を取り戻せ!ニッポンの教育① 【中野 恵一

1) 批判よりも提案を!2) 思想から行動へ!3) リーダー

としての自覚を!の3つを議論のルールとしている、

BS-TBSの『ニッポン未来会議』【すべての回がYoutubeで

見ることができます。必見!】にて、教育がテーマとして

取り上げられた。

曰く、“第9回「学力世界No.1を取り戻せ!ニッポンの教育」。

番組内でも指摘があるとおり、“学力世界No.1”の定義が

不明な点もあり、ちょっと議論の対象が拡がりすぎで

深堀りが十分ではなかったものの、重要なキーワードは

ちゃんと出てきていたので、個々の現場での議論には

参考になるだろう。

プレゼンターの一人、福生でも一度、講演をしていただいた

ことのある、元文部科学副大臣・鈴木寛さんは、

“学力世界No.1”をPISAの順位として捉え、成績下位の

生徒の底上げが必要であり、その向上には効果的である、

という趣旨の話をされた。

PISA(21世紀)型学力が重要であることは間違いないし、

学力の“見える化”の手段としても有効であり、かつ、つい最近、

最新の結果が新聞報道されたタイミングでもある(ただし、

報道されたのは2012年の結果であるのに対し、寛さんが

引用していたのは2009年の結果)ので、わかりやすい材料

ではあるけれど、その結論はどうだろう?

もちろん下位層の底上げは重要だし、そのための取り組みは

当地、福生でも多くの方が努力されていると認識しているが、

これがもし“上位層はもう大丈夫”というメッセージとして

理解されるとしたら、非常に問題があると思う。

寛さんのプレゼンでは、「レベル5(上位層、最上位はレベル6)

は世界トップレベルに復活」「科学リテラシーは、OECD平均は

もちろん、米韓も凌駕」ということを証拠として挙げていたが、

参加国(地域)トップの上海との差は大きい、ということを

見落としてはいけないと思う。

シンガポールや香港とも同等レベルであり、「統計的に考えられる

順位の範囲は、OECD加盟国中では2位から3位の間、参加国

全体では4位から6位の間である」というのが実際である。

そして現状、日本の“18歳の全人口”が約120万人であるのに

対して、中国では“理工系の大卒者だけ”でほぼそれと同数か

それ以上がいると言われており、層の厚さが桁違いであること

をよく認識すべきだろう。

これは何を意味するか?

「教育の機会均等と国民一般の教育水準の向上を主たる狙い

とした戦後教育改革」によって輩出された人材が、日本の

高度成長期を支えたことは確かだ。

しかし今や、その人材において、量的には圧倒的に、そして

質的には一部かもしれないが、中国をはじめとする新興国の

存在感が際立つ状況となっている。

それに対して、「戦後教育のいわゆる画一主義」の限界は50年も

前に指摘されている【経済審議会(1963年):「経済発展における

人的能力開発の課題と対策」】ものの、少しも変わっていないのでは

ないだろうか?

つまり、このままでは、相対的に国力が衰えるに任せることに

なってしまう。

その結果は、私たちの父母あるいは祖父母の世代が戦後の

厳しい状況を乗り越え、私たちに味わわせてくれている、

この世界でも屈指の生活レベルを、私たちは、私たちの子どもや

孫の世代には引き継いであげることができない、ということだ。

そんなことが許されるだろうか?

私たちにできることは、子どもや孫たちの世代に、グローバル化、

情報社会化が進む世界の中で生き残り、そしてよりよく社会に

貢献していくことのできる力をつけてあげることしかないと思う。

幸い、これまでの工業社会においては、「工数」という言葉が

あるように、1人の人間の生産性が2人分や3人分になることは

まずないが、情報社会では創造力が鍵であり、その差は何百倍、

何千倍もの生産性の違いを生み出すことができる。

だから、伸びる余地のある子どもたちには積極的にその機会を

提供し、大いに能力を発揮し、そして世界で活躍してもらえるように

することが重要だ。

そのために今、何ができるか、よく考え、取り組んでいきたい。

参考:

我が国における人材育成の課題-強まる経済と教育システムの国際競争のなかで-

経済協力開発機構(OECD)前副事務総長 重原 久美春

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