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2012年6月9日

教育におけるPDCAと、それを支える科学的スキルの醸成 【中野 恵一

品質管理の父として知られるデミング博士にまで

さかのぼるPDCA【Plan(計画)→Do(実行)→

Check(評価)→Act(改善)】という言葉が、教育の場

でも盛んに聞かれるようになったのは、教育振興基本

計画に関しての、中央教育審議会の答申(2008年)

あたりからでしょうか。

教育に限らず様々な行政施策も含めて、より良い成果を

得るために、過去の取り組みを振り返り、それを評価

して次に実施すべきことへと反映させることは重要です。

中でも、デミング博士が、後にStudyと言い換えPDSAと

したことにも表れているとおり、評価(Check)が

的確に行なわれなければ、それを受けて実施される

「改善」は、方向性を間違えたり、効果の乏しいものに

なることは容易に想像できます。

そのような問題意識から、「行政Watching」で

取り上げている福生市教育委員会の状況について、

3つの提言あるいは指摘をさせていただきたいと思います。

1.PDCAのサイクルを、高速に回そう!

2.PDCAのC「評価」は、「科学的」にやろう

(「理数教育推進事業」も立ち上げたのですから)

3.教育施策の効果は、長期的な視点が必要

1.PDCAのサイクルを、高速に回そう!

高度経済成長期、追いつけ・追い越せの時代は、ただ

ひたすら前を行く目標を追っていればよかったわけ

ですが、成熟期にある日本においては、自ら試行錯誤を

しながら、より良い社会を目指していくことによって

しか、今の水準の生活レベルの維持さえも覚束ない

状況にあると思います。

そういう状況にあっては、良いか悪いか、単純に判断

できることはほとんどなく、少しでも良い方向に

進めるように、トライ&エラーで微修正を重ねていく

ことが必要です。

そのためには、今何が起きているかを共有し、衆知を

集めて次の策を立案し、実行して、それを評価して、

次の改善につなげる、というまさにPDCAサイクルを

「高速に回す」ことが必要です。

そしてそれができれば、大きな失敗になったり、多大な

コストがかかってしまう前に方向修正が可能になります。

さて、「行政Watching」のページでも分かるとおり、

教育委員会の定例会の会議録の最新版は、昨年12月、

半年以上前のものです。

また、現在公表されている「教育委員会の点検及び評価

報告書」は平成22年度のものです。この掲載日は昨年

9月27日ということなので、平成23年度のものが

出てくるのもやはりその頃になるんでしょうか?

この元になっている、推進プランの取組状況は6月に

出ているので、こちらは、もうじき出てくるものと

思いますが。

それはそれとして、今年度(24年度)の事業その他は、

(書面として整って公表されるのにかかる時間とは

別に)きちんと昨年度(23年度)の点検(評価)に

基づいて行なわれているものと、思いたいところです。

それにしても、「公正で開かれた市政の推進や市民参加

によるまちづくりを目的」としているのであれば、

上記の通り「衆知を集める」ことは不可欠であり、

そのための事務処理は「高速」化が必要です。

これを阻害しているのが、もし「無謬主義」である

ならば、まずそれを早々に脱却する必要があるもの

と思います。

(同時に、市民を始めとするステークホルダーの意識

改革も進むことが前提になると思いますが)

2.PDCAのC「評価」は、「科学的」にやろう

(「理数教育推進事業」も立ち上げたのですから)

現時点で公表されている、推進プランの平成22年度取組

状況を見ると、残念ながら、作成方法が適切でないグラフがあります。

本件については、過去にも、関係者を通じてお手紙の

形で直接、指摘させていただき、その際は修正された

記憶がありますが、おそらくそのような引継ぎはされて

おらず、何となく、見よう見まねで前年度と同じような

資料を作成し、その際にExcelのデフォルトの設定を、

その意味を理解しないままに使っているように思われます。

これが単に、報告書で見せるためだけに使われている

のであればまだよいですが、それを見ての「印象」で

施策が議論、執行されているとすると、問題であると思います。

例えば、不登校出現率の推移を表したグラフがあります。

取組状況に掲載されている、このグラフに対応する

説明には、<東京都からの「登校支援員活用事業」の

調査研究の委託を受け、4校(小学校1校、中学校

3校)に登校支援スタッフを派遣した。登校支援

スタッフは、家庭訪問や登校時の支援等を行い、

小・中学校共に不登校出現率の減少に寄与した。>

とあります。

個人的にも、登校支援に関わる方々がご苦労されている

状況は承知しておりますし、このグラフを「印象」

だけで捉えると、「中学校は22年度で大きく改善し、

小学校は年々着実に改善されている」と受け止める

ことができるように思います。

特に、「登校支援員活用事業」は平成21年度からの

取り組みになりますから、中学校ではその効果が顕著に

現れた、と読み取る人がいてもおかしくないように思われます。

ここで、各年度の事務報告を参照すると、この算出に

用いられている、不登校者の数が集計されるように

なったのは平成18年度からのようですので、そこから

必要な数値を拾って、「統計を作るときの注意が

足りなかったためにあまり信頼できない統計とか、

作った人には悪気(わるぎ)がなくても、それを

見た人が誤解しがちなもの(このリンク先の、

エピソード5、6はぜひご覧ください) 」とならない

ように注意して作成したグラフを見てみましょう。

(上記、事務報告にある数値を用いると、取組状況に

記載された数値と微妙に異なる結果が算出されますが、

以下の議論への影響はありません。)

こちらを見ると、どのようにお感じになるでしょうか?

関係各位のご尽力により、幸い、徐々にではある

ものの改善は進んでいるように思われますが、

「特定の施策」にどれほど効果があったかはなかなか

評価が難しいように思われます。

この2つのグラフを見て最も変化が大きいのは、

小学校(左)の、H18年度からH19年度への減少です。

しかしそのタイミングでは中学校(右)で増加して

いますから、ここは、H18年度の小学6年生が比較的

多く、その進学に伴う変化であると思われます。

確認のため、出現率という割合ではなく、実数の変化を

グラフにしてみると:

というわけで、やはり、進学による自然減(自然増)の

要素が大きいように思われます。この伝で行くと、

もしかすると、中学校におけるH21年度からH22年度の

間の減少は、H18年度の小学6年生が中学を卒業した

ことの影響が大きかったのかもしれない、という疑問が

湧いてきます。

【年代別の数値は公表されていないので、推測的な

言い回しばかりで恐縮ですが】

以上より、少なくとも、ある「施策」の効果を測る

には、適切な補正(小学校、中学校で括る場合、

経年変化を見るのであれば、6年生の移動、

中学3年生の卒業に配慮する)が必要ということが

わかります。

また、そういう変動要素の影響をできるだけ排除

しながら様々な施策の効果を評価するには、相当

長い期間を対象とすることが必要であり、事業計画が

3年間だから、3年間のデータを見ればいい、といった

性格の話ではない、と思います。

というわけで:

3.教育施策の効果は、長期的な視点が必要

であり、それに寄与する情報を、できるだけ正確に

提示することが欠かせない、と思います。

正しい分析を元にした、建設的な議論の上での施策

決定と、その実践がされることを期待します。

<参考>

誤解を生じるグラフ等の話題

以上の見解は、執筆者個人の意見であり、特別に

断り書きがある場合を除き、本会はもちろん、

執筆者が所属するいかなる団体・組織をも

代表した見解ではありません。