安藤政輝リサイタル
「宮城道雄全作品連続演奏会 1」
1990/ 3/16
安藤政輝HPから転記中です。
演奏会によせて
宮城喜代子
「宮城道雄先生の作品を世界中の人に聞いてもらいたい」 今から20年ほど前になるでしょうか。安藤政輝さんのリサイタルのごあいさつにこう書いてあったのを思い出します。
あの時から、また20年の歳月が流れました。
現在の安藤さんの活躍については、ここにあらためて申し上げるまでもないことと存じますが、あらゆる場で一歩一歩、着実に前進を続けておられること、大変に嬉しく思います。
さて、4年後の平成6年(1994)には宮城道雄の生誕100年という記念すべき年を迎えることになり、現在いろいろな企画が立てられています。
明治27年(1894)4月7日、神戸に生れた宮城道雄は、盲目というハンディキャップと幾多の困難を乗り越えて、処女作「水の変態」を始め、多くの人々に親しまれている「春の海」など、多数の作品を世に残しました。また優れた演奏家、教授者、随筆家としての偉業も、既に皆様ご承知のことと存じます。
このたび安藤さんは、その宮城道雄の作品を連続して取り上げる演奏会を催されることになりました。時宜にかなった有意義な企画と思います。
随筆家、内田百閒氏は「宮城道雄は後世に傳へなければならない」と書いています。
宮城道雄没後、既に30数年経ちましたが、ますます、その作品が光を増しているように思われますのは、安藤さんのように、宮城道雄を目標とし、また精神的な拠りどころとして精進している多勢の門人の皆さんのお蔭でしょう。ありがたいことと思います。
安藤さんには今後いっそうこの道に精進され、国際的な箏曲家として大いに活躍されますよう心から期待いたします。
演奏史上画期的な壮挙に敬意
宮城道雄記念館館長 吉川英史
来る1994年は「春の海」の作曲者、「現代邦楽の父」宮城道雄の生誕百年に当たります。そのための記念事業が、いろいろと企画されていて、すでに着手されているものもあります。
しかし、個人の企画として、安藤君の「宮城道雄全作品連続演奏会」ほど、長期的で、気宇壮大な企画はありますまい。いや、このような企画は、技量と才能だけでは実行できるものではありません。「全作品」といっても、宮城の作品の数の多いことは、峰崎勾当や山田検校や十代目杵屋六左衛門たちとは比べものになりません。
この連続演奏が、5年や6年で打ち上げになるとは思われませんが、そのような長期的企画を思い立つ所に、安藤君の恩師宮城道雄先生に対する追慕の念の、並大抵ではないことが知られます。
安藤君が宮城先生に弟子入りしたのは、まだ小学校2年生の可愛らしい坊やの頃でした。道雄先生のお喜びは一通りではなかったようです。恐らく、それまで道雄先生にはあどけない坊やの弟子入りはなかったのでしょう。
この坊やの弟子第1号は、めきめき上達して、東京新聞の邦楽コンクールで、三曲の児童部門の第1位に人賞しました。その頃審査員の一人として、舞台や新聞で講評も受け持った私は、政輝(当時正照)君の頭を愛撫したものでした。
やがて正照少年は成長して、日比谷高校から慶応大学を経て東京芸術大学大学院に入学し、博士課程に進んだばかりか、遂に邦楽出身の学術博士(第1号) を贈られました。恩師宮城先生のお喜びもさこそと推察しましたが、今回の「全作品演奏会」で、一層恩師に報いようとしている政輝君に、私からも大きな拍手を送りたいと思います。
さて、第1回の演奏曲目は、処女作「水の変態」から「都踊」までで、今の数え方(満)では14歳から20歳までの、正に少年期の作品であります。それなのに、今も名曲として愛奏される曲が4曲もあることは驚嘆の至りです。天才というほかはありません。
宮域先生の創作活動とその背景についての話をせよと、安藤君に頼まれました。結婚式の仲人なのだから、その位は当然だといいたげな顔です。しかし、やる中身が全作品の連続演奏という健気な企画でなかったら断りたいところでした。しかし、何しろ宮城先生の作品とあっては断れません。安藤君もそこを承知した上での依頼でしょう。
だが、この連続演奏が完了するまでは、うかつに死ねない。そう考えると、安藤君は命の恩人かも知れません。中途で挫けないで完遂してくれることを祈ります。
宮城道雄全曲演奏会を始めるにあたって
安藤政輝
本日はお忙しい中をご来場いただきましてありがとうございます。
宮城道雄の作品は約300曲といわれていますが、一人の作曲家の作品としては珍しく、「パイエル」に相当する手はどき用のものから洋楽の声楽家を対象とした歌曲、オーケストラとのコンチェルトまで分野が広く、また次代を担う子供のための「童曲」も約100曲を数えます。
いつの日かその全作品を弾いてみたいという"夢"を抱いておりましたが、1994年に宮城道雄生誕100年を迎えるにあたり、いよいよこの遠大なシリーズに挑戦することを決意しました。
しかし、なにぶん曲数が多いので10年くらいかかるのではないかと思われますが、作曲年代に沿って、宮城道雄先生の"心"を弾いていきたいと考えております。
なお、今回は処女作「水の変態」(1909年作曲)から1915年作曲「都踊」までを演奏いたしますが、1915年作曲の「かけひの音」(大和田建樹作詞)のように、作曲年表に曲名は載っていても楽譜が散逸してしまった曲もあります。楽譜の所在にお心あたりの方は、ぜひご一報下さいますようお願い申し上げます。
終りになりましたが、おことばをいただきました宮城喜代子先生、吉川英史先生、快くご出演をお引き受け下さいました山本邦山氏をはじめ、会の開催にご援助・ご協力をいただきました皆様に、心から御礼を申し上げます。