安藤政輝リサイタル
「宮城道雄全作品連続演奏会 18」
2018/ 4/23
ごあいさつ
安藤政輝
本日はお忙しい中をご来場いただきましてありがとうございます。
宮城道雄の全作品を、年代に沿って時代背景を考察しながら連続して弾いていくこのシリーズも、1990年以来これまでに219曲を弾き、今回で18回目を迎えることができました。これもひとえに皆様の温かいご支援の賜物と感謝いたしております。今回は、1940年(昭和15年)から1943年(昭和18年)の作品7曲を演奏いたします。
《寄桜祝(さくらによするいわい)》は、日本文化中央聯盟の委嘱によって佐藤春夫の詩「寄桜祝(きおうしゅく)」に作曲したものです。1箏・2箏の中が甲・乙、さらに甲がa・bのパートに分かれていますが、bはaを簡略化したもので、より大勢の演奏者が参加できるように考慮されたのでしょう。初演時は混声4部だったようですが、現行は女声3部合唱で、今回は弾き歌いで演奏いたします。それにしたがって、甲bのパートを歌に即するよう一部変更いたしました。
《萌ゆる若葉》は、箏と尺八との二重奏です。「燃ゆる若葉」という従来の読み方に対しては疑義が呈されていましたが、今回は本来の語法と思われるタイトルといたしました。
《七つの胡桃》は、清水かつらの詩に作曲した童曲で、久しぶりに子どもたちの登場です。100曲以上といわれる童曲のほとんどは葛原しげるの作詞によりますが、この曲のように三味線が伴奏に使われたものはありません。清水かつらの作品としては、この他にも同年作曲の《日の丸兎》《春遊び数え唄》、1936年(昭和11年)作曲で第12回に演奏した《まいまいつぶろ》があります。
《大空の歌》の原曲名は時節柄《空の精鋭》で、トレモロが広い空を、また十七絃の低音や打物がプロペラや機銃の音を感じさせる部分があります。
《秋の流れ》は歌曲です。歌曲の登場も久しぶりです。歌曲には箏と尺八が伴奏するものが多いのですが、この曲は珍しく箏のみの伴奏で、平調子の高音域を広げた巾十調子です。今回は弾き歌いとしてみました。
《漁村の曙》は、箏と尺八の二重奏です。静かな漁村の明けていく様子が描かれた冒頭部は印象的です。後半は一転して陽が昇った後の活気あふれる漁村の様子が、ポンポン蒸気の音とともに描かれています。
《防人の歌》は、箏独奏部のある大合奏曲です。4500余首が収められている『万葉集』には、北九州の防衛に東国から駆り出された防人とその家族の素直な感情を表した「防人歌」が98首あります。この曲に採られた8首のうち、戦争遂行を鼓舞する内容のものは1首だけという点が、作曲者の心情を表しているように思えます。この曲も弾き歌いで演奏いたします。
終わりになりましたが、解説と年表をいただきました野川美穂子氏、賛助出演の皆様、その他会の開催にご援助・ご協力をいただきました皆様に心から御礼を申し上げます。
宮城道雄全作品連続演奏会
-第18回に寄せて
東京藝術大学講師 野川美穂子
本日演奏される宮城道雄(1894-1956)の作品7曲のうち、《寄桜祝》は昭和15年の作品、《漁村の曙》《大空の歌》《防人の歌》は昭和16年の作品、《萌ゆる若葉》《秋の流れ》は昭和17年の作品、《七つの胡桃》は昭和18年の作品です(以上、作曲順)。太平洋戦争勃発の1年前の昭和15年から、真珠湾攻撃を契機に太平洋戦争に突入した昭和16年、本土への初空襲があった昭和17年、戦地での敗北・撤退・玉砕などが続き、戦況悪化が深刻になっていた昭和18年の作品をとりあげます。
以下、本日の演奏順にご紹介しましょう。《寄桜祝》は、箏・十七絃・胡弓・尺八・笙・打物による合奏合唱曲。本来は「さくらによするいわい」と発音しましたが、講習会で配布された楽譜の振仮名には「さくらによせるいわい」とあります。初演は、昭和15年11月26日の「新日本音楽並第二回交響作品発表演奏会」です。この演奏会は、昭和15年1月から始まった、皇紀2600年を祝う「芸能祭」の一事業として行われました。第一部が新日本音楽で、宮城道雄の《祝典箏協奏曲》(前回演奏会で紹介)と《寄桜祝》、第二部が交響曲で、山田耕筰の《神風》と信時潔の《海道東征》というプログラムでした。佐藤春夫の詩をうたう《寄桜祝》の合唱は東京音楽学校の生徒が担当しました。《萌ゆる若葉》は、昭和16年に発表された箏・尺八・オーケストラ版を原曲としますが、この編成では現行せず、現在には、翌年の演奏記録がある箏と尺八の二重奏曲版が伝わります。昭和17年5月3日の春秋会のおりに、宮城よし子の箏、廣門伶風の尺八で演奏されています。《七つの胡桃》は三絃伴奏の童曲。作詞者の清水かつら(1898-1951)は、《靴が鳴る》《叱られて》の作詞者として有名です。《大空の歌》は箏・十七絃・打物による合奏曲で、戦闘機の活躍を音で描写します。この曲が作られた昭和16年9月には、その3ヶ月後に真珠湾攻撃に参戦する五航空戦隊が編成され、その活躍に期待があつまっていました。もとの曲名を《空の精鋭》と言い、昭和48年の講習会のおりに《大空の歌》という曲名に変わりました。《秋の流れ》は箏伴奏の歌曲。作詞の吉田絃二郎(1886-1956)は、当時を代表する人気作家。美しい秋の自然と人間の繊細な思いを歌う歌詞の世界が、宮城道雄の音楽と調和しています。宮城道雄は「秋は、四季の中で一番音楽にふさわしい時期です」(宮城道雄『夢の姿』昭和16)と述べています。《漁村の曙》は箏と尺八の二重奏曲。曲名は、昭和16年の歌会始の勅題「漁村曙」にちなみます。昭和17年5月3日の春秋会の曲名に《漁村の朝やけ》とあり、同じ曲である可能性が指摘されています。そのときの演奏者は箏が宮城道雄、尺八が吉田晴風でした。《防人の歌》は箏・十七絃・胡弓・尺八・打物による合唱合奏曲。『万葉集』に収録される防人の歌を歌詞とします。昭和16年11月23日の第3回春秋会で初演されており、初演時にはフルートも使われていました。