安藤政輝リサイタル
「宮城道雄全作品連続演奏会 11」
1990/ 3/16
ごあいさつ
安藤政輝
本日はお忙しい中をご来場いただきましてありがとうございます。
宮城道雄の全作品を連続して弾いていこうというこのシリーズも、1990年3月以来これまでに128曲を弾き、今回で11回目を迎えることができました。 これもひとえに皆様の暖かいご支援の賜物と感謝いたしております。
今回は、昭和6年(1931年)と昭和7年(1932年)の作品の中から18曲を演奏いたします。 《さあくら咲いた》は、これまで随筆『雨の念仏』の作曲目録に「童曲(伴奏付キ)」として曲名だ・ッ存在していましたが、 前回の会の・スめに玉置光三の・カ謡詩集『山のあなた』で《赤い牛の子》の歌詞を調べているとき、巻末にあった宮城道雄作曲《櫻咲いた》の五線譜を偶然発見しました。 《虫の武蔵野》演奏記録の初出は、昭和7年(1932年)11月5・6日(土・日)の両日に東京音楽学校奏楽堂において開催された演奏会ですが、 そのプログラムを見ると、ゴシックで「胡弓 宮城道雄」、その他に三絃・箏各5名の記載があって、現行のような箏・三味線・尺八による合奏ではありませんでした。 宮城先生の胡弓と言うと大合奏のための「宮城胡弓(大胡弓)」が有名ですが、それ以前は旧来の小型の胡弓を弾いていらっしゃったはずですし、 この場合も三曲合奏形式と考えて小型の胡弓を弾かれたと思われます。 翌昭和8年11月25日に行われた「宮城道雄作曲発表会」には尺八による演奏記録がありますが、 本日は、現行の尺八パートを小型の胡弓で演奏いたします。
今回は《ロバサン》をはじめ『宮城道雄小曲集』に所収されている曲が数多くありますが、 これらの曲を教えている通りに弾こうとすると意外と難しく、お弟子も苦労しているのだなと感じました。 昔、『宮城道雄小曲集』の教習カセットを製作したときに、宮城数江先生が、「小曲集も結構難しいのよ」とおっしゃっていたことが思い出されます。
子どものための「童曲」も多いのですが、《ワンワンニャオニャオ》の胡弓を弾かれながらニコニコしていらっしゃった宮城先生のお顔が忘れられません。 私が胡弓を弾くようになって、家で練習していると、庭の犬が「ワンワン」と答えてくれるのがうれしく、何回も「問答」を繰り返したものでした。 しかし、2番の「ニャオニャオ」となると、ちっとも反応してくれません。猫が前の道を横切ってもうるさく吠えるのに・・・。 そんなことを塚越清子先生にお話しすると、「音程どおりに啼く猫なんかいないわよ」と笑われてしまった思い出があります。
終わりになりましたが、解説と年表をいただきました宮城道雄記念館資料室の千葉優子氏、 柴田旺山氏をはじめ賛助の皆様、その他会の開催にご援助・ご協力をいただきました皆様に、心から御礼を申し上げます。