安藤政輝リサイタル
「宮城道雄全作品連続演奏会 13」
2009/ 9/ 2
ごあいさつ
安藤政輝
本日はお忙しい中をご来場いただきましてありがとうございます。
宮城道雄の全作品を年代に沿って連続して弾いていくこのシリーズも、1990年3月以来これまでに157曲を弾き、今回で13回目を迎えることができました。 これもひとえに皆様の温かいご支援の賜物と感謝いたしております。
今回は、1934年(昭和9年)の作品を中心に、23曲をとりあげますが、「箏曲のバイエル」とも言うべき『宮城道雄小曲集』のための曲が9曲と多く、 『宮城道雄三絃小曲集』のための三絃のみの曲も5曲あります。 『三絃小曲集』は、箏の『小曲集』と同じように、奏法を練習してから、その奏法を含んだ曲を学習するという構成になっています。 実際には箏をある程度学んだ人が三絃を始める場合が多いので、『三絃小曲集』の初めは箏と同じ曲になっており、 歌や曲の旋律がすでに頭に入っている馴染みのある曲から始めるようになっています。 しばらく進んで楽譜を見ることにも慣れてきた段階で、未知の曲へ進みますが、これらの曲を学習する過程で、 本調子の曲《うぐひすの》の他に、三絃の主要な調絃法である二上りの曲《霞立つ》、 三下りの曲《忘るなよ》《寝覚め》も体験し、最後の《みよしのは》では、本調子から二上りへの転調、 古典の「ツナギ(マクラ)」と呼ばれる前歌から手事への導入部分もあり、本格的な古典曲への足掛かりとなっています。
古典曲への足掛かりとしては、歌の部分で手との時間的ズレを学習することが必要とされ、 箏の『小曲集』においては《かざしの菊》がその役割を担っています。言わば「古曲のロバサン」となりましょうか。 ところで、《かざしの菊》の第5句は「久しかりけり」となっていて歌意が通じず疑問に思っておりましたが、 今回は原典(『古今和歌集』巻5秋歌下)のように「久しかるべく」といたしました。《小夜ふけて》は、《かざしの菊》よりも短く、 手事もないのですが、代わりにいろいろな奏法が含まれています。同じような目的を持って作曲されたのではないかと思われますが、 声域も広く、歌いにくい部分もあって、『小曲集』には採用されなかったのでしょう。
《いちごの実》の曲名については、手元の楽譜に《いちごの実》《いちご》《イーいちご》と三通りのものがありますが、 初の随筆集『雨の念仏』(1935年)の作曲目録に初出する題名としました。
今回の会場である旧東京音楽学校奏楽堂は、1891年(明治23年)に建てられた日本で初めての洋風建築によるコンサートホールとして歴史的価値の高いものです。 東京芸術大学構内から1987年(昭和62年)に移築されました。木造建築による温かい音の響きは他のホールでは得難いもので、箏や三味線とよく合うと思います。 宮城道雄先生ともゆかりが深く、《さしそう光》など多くの曲がここから生まれています。私も学生時代に何回か演奏いたしました。 室内を鳩が飛び交い(ときどき「落とし物」をし)、また、舞台袖に置いた石油ストーブで直前まで手を温めてから弾き出すのですが、 すぐに手がかじかんできて困った覚えがあります。
終わりになりましたが、解説と年表をいただきました宮城道雄記念館資料室の千葉優子氏、柴田旺山氏をはじめ賛助の皆様、 その他会の開催にご援助・ご協力をいただきました皆様に、心から御礼を申し上げます。