安藤政輝リサイタル
「宮城道雄全作品連続演奏会 15」
2014/ 6/ 9
ごあいさつ
安藤政輝
本日はお忙しい中をご来場いただきましてありがとうございます。
今年生誕120年を迎えた、宮城道雄の全作品を年代に沿って連続して弾いていくこのシリーズも、1990年3月以来これまでに197曲を弾き、今回で15回目を迎えることができました。これもひとえに皆様の温かいご支援の賜物と感謝いたしております。
今回は、1937年(昭和12年)の作品を中心に8曲を取り上げます。前回までの「童曲」は影を潜めてしまいます。また、内容的には、世相の変化によって、音楽の世界にも戦争の波が押し寄せてきていることが分かります。
《満州調》は、1936年に作曲されたものですが、打楽器を生かした明るい雰囲気の曲です。
《歓迎歌(ヘレン・ケラー女史に捧ぐ)》は、4月29日に日本青年館で行われた陽光会主催の音楽会で宮城先生の弾き歌いによって初演されたものですが、今回は、宮城先生が講師を務め、ヘレン・ケラーも来日の際に立ち寄った東京盲学校(現・筑波大学附属視覚特別支援学校)の生徒・卒業生の方々に歌をお願いしました。
《からころも》は、『伊勢物語』第9段(東下り)で、三河の国(現・愛知県知立市)の沢のほとりに咲いていたカキツバタを折り込んで旅の心を詠んだ歌とされています。
《古戦場の月》は、「童曲」を多く手がけた葛原しげるの作詞ですが、原題は《月下の古戦場》として1934年7月3日から15日の間に作詞をしたという「メモ(草稿記録)」の存在が確認できました。その「メモ」と現在の歌詞とではいくつか異同が見られます。中程には機関銃やラッパの音など、戦場を彷彿させるシーンもありますが、根底にあるのは「平和」であると感・カられます。
《送別歌》は、7月の盧溝橋事件を境として戦時的雰囲気への世相の転換により、JOAKの委嘱によって作曲された時局的作品第1号です。10月4日から9日まで、正午のニュースの前の「国民歌謡の時間」で毎日放送されました。戦場に家族を送りだす心情を描いた佐藤春夫の詞は、与謝野晶子が『明星』明治37年9月号で旅順口包囲軍の中に在る弟を「君死にたまふことなかれ」と詠んだ心に通じるものがあります。
《壱越調箏協奏曲》は、1994年(平成6年)に国立教育会館虎ノ門ホールで行った「第8回」で演奏したのですが、今回は、オーケストラの部分を箏群(箏3、十七絃)に編曲したもので演奏いたします。この曲には「オケ版」の他に下総皖一によるピアノとの「二重奏版」がありますが、どちらもあまり弾かれることがありませんでした。今回、多様なレベルに応じたパート構成による「邦楽器版」ができたことによってより多くの方に弾いて(聴いて)いただけるようになることを願っています。
終わりになりましたが、解説と年表をいただきました野川美穂子氏、賛助出演の皆様、会の開催にご援助・ご協力をいただきました皆様に、心から御礼を申し上げます。