安藤政輝リサイタル
「宮城道雄全作品連続演奏会 12」
2009/ 3/ 2
ごあいさつ
安藤政輝
本日はお忙しい中をご来場いただきましてありがとうございます。
宮城道雄の全作品を年代に沿って連続して弾いていくこのシリーズも、1990年3月以来これまでに146曲を弾き、今回で12回目を迎えることができました。これもひとえに皆様の暖かいご支援の賜物と感謝いたしております。
今回は、宮城道雄が各地の演奏会に引っ張りだこの多忙な年でありました1933年(昭和8年)の作品を中心に、11曲をとりあげます。《春陽楽》は4楽章からなり、編成も、1・2楽章、3楽章、4楽章と異なり、複数の胡弓・玲琴・笙を含む大作です。ベートーベンの《第九交響曲》のように、4楽章の〈さくら〉だけには歌がついています。この歌は当時の世相を反映して軍国的な部分もあったためか、後に同じ作詞者によって改訂版が作られ、現在はそちらの方が演奏されていますが、本日はオリジナル版で演奏いたします。なお、《金の鶏》も金鵄勲章の内容ですから、音楽の世界にも軍国的な事柄が忍び寄ってきていたことがわかります。
今回も子どものための「童曲」がありますが、その中で《まいまいつぶろ》は、作詞者・清水かつらの自筆ノートによれば「箏による子守唄の試み」という位置づけの曲です。『宮城道雄音楽作品目録』(1999年、財団法人宮城道雄記念館発行)によれば、曲の内容は不明でしたが、今回次のような事が分かりました。まず、曲名は《まいまいつぶり》ではなく《まいまいつぶろ》(カタツムリの別称)のようです。つぎに、出典も「1931年10月以前、京文社発行の『童謡唱歌名曲全集』」とされていましたが、その歌集(全8巻)には《まいまいつぶろ》という曲は載ってはいたのですが、島田芳文作詞、三宅延齢作曲の全く別の曲でした。曲名が同じということで混同されてしまったようです。ちなみに、北原白秋作詞、弘田龍太郎作曲の《まいまいつぶろ》も存在します。なお、この歌集には、宮城道雄の作品として知られている《お猿》《お清書》《お早う》《山の水車》《白兎》《お山の細みち》《うてや鼓》などが、同じ詩を歌詞としてそれぞれ別の作曲者によって作曲されていることも分かりました。最後に、時期については、詩が公開されたのは、花岡学院の機関誌・w楽園』第3号(1936年3月で、清水かつらの自筆メモによって1943年4月作曲と判明、同年にビクターレコードに録音されたということになります。
今回は、東京芸術大学博士課程で日本歌曲を研究され、以前にもこのシリーズでお願いしたことのある青山恵子氏に「歌曲」をお願いしました。《風の筒鳥》は、短かすぎるためか、あまり演奏されることがありません。《落葉》は、最近実感を込めて弾けるようになりました。《水三題》は、《山の筧》《大河の夕》《大洋の朝》の3曲からなるもので、単独で演奏されることも多くありますが、3曲通して聴くとそれぞれの個性が強く感じられます。
なお、1933年の作である《神仙調箏協奏曲》は、1994年の第8回の時に松尾葉子氏の指揮で《「平調越天楽」による箏変奏曲》 《壱越調箏協奏曲》《盤渉調箏協奏曲》とともに東京交響楽団と演奏いたしました。
終わりになりましたが、解説と年表をいただきました宮城道雄記念館資料室の千葉優子氏、 清水かつら作品についてご教示をいただいた別府明雄氏、賛助の皆様、その他会の開催にご援助・ご協力をいただきました皆様に、心から御礼を申し上げます。
宮城道雄全作品連続演奏会-第12回に寄せて