安藤政輝リサイタル
「宮城道雄全作品連続演奏会 10」
2008/ 2/22
開催にあたって
安藤政輝
本日はお忙しい中をご来場いただきましてありがとうございます。
宮城道雄の全作品を連続して弾いてゆこうというこのシリーズも、1990年3月以来これまでに113曲を弾き、今回で10回目を迎えることができました。これもひとえに皆様の暖かいご支援の賜物と感謝いたしております。
前回は1929年(昭和4年の作品を中心に、曲名のみ存在していて内容が不明であったものが点字譜等から判明したものや新たに年代が判明したものなどを演奏いたしましたので、今回は1929年(昭和4年)から1931年(昭和6年)にかけての15曲をとりあげます。
それぞれの曲にはいろいろと思い出があります。
《一番星二番星》は、新宿の文化服装学院で「宮城道雄演奏会」があった折に出演させていただいたのですが、もう一人の演奏者が風邪で声がまったく出なくなってしまい、「ぼうや、一番星を弾きながら二番星の方も歌える?」と急に言われて困ったことがありました。1日前に伺っていれば、と思ったことでした。
《ピョンピョコリン》については、ある日お稽古の後で、喜代子先生から手書きの楽譜を渡されて「この次これをやってきてね。」と言われました。次のお稽古日まで3日間、難しい左手の猛練習をしてやっとまとめて行くと、「あら、歌だけでよかったのよ。」・・・。
《町の物売》に出てくる「納豆やさん」は子どものころに聞いた記憶がありますし、「豆腐屋さん」のラッパは最近まで聞こえていました。しかし、物売りの声はもう聞かれなくなってしまいました。
《春の水》は洒脱な内容の小品です。西条八十の作品はいつも最後にどんでん返しがあります。この詩は、男としてはいささかひっかかる点も無いことも無いのですが。
《雲のあなたに》は民謡風な歌曲で、「阿波の国にある眉山が遠く眉のように見える」と歌っています。何十年か前に、初めて吉野川橋を渡って徳島に入る時に、「ほら、眉山が見えますよ。」と同乗の方に言われて、その時はこの曲を知らなかったので何の事だがピンとこなかったのですが、その後数多く見ることになろうとは思いもよりませんでした。
《春の海》は、今や日本を代表する「お正月の曲」となってしまった感があります。ルネ・シュメーのヴァイオリンとの版が有名ですが、その他にフルート、オーケストラとの版もあり、箏の代わりにハープやピアノと洋楽器によるものなど、広く耳にされています。初めて着物を着て弾いた曲がオーケストラとの《春の海》でした。
終わりになりましたが、解説と年表をいただきました宮城道雄記念館資料室の千葉優子氏、10曲も演奏していただくことになってしまった藤原道山氏、賛助の皆様、その他会の開催にご援助・ご協力をいただきました皆様に、心から御礼を申し上げます。