1701.人工知能
1.調査テーマ
人工知能技術の出願動向
2.調査目的
2016年は、人工知能(AI)が話題になることが多かった。
将棋や囲碁でAIソフトがプロに勝利したり、自動運転や人型ロボットの実用化も目前に迫ってきた。
このように人工知能がようやく実用段階に入りつつあり、2045年には人間の能力を越え、一部の仕事は人工知能(AI)に取って代わられるのではないかということも話題になった。
そこで、今回は、人工知能に関連する特許の出願状況を分析することにより、人工知能に関する技術開発の現況および今後の動向について調べるとともに、人工知能がどのような技術分野で利用されるようになってきたかを調べることとした。
3.調査対象
使用DB :SRPARTNER
対象公報:公開特許公報
対象期間:2011月1月1日〜2016月12月31日の発行
対象技術 : 人工知能全般
4.概要
(1)全体の状況
この調査では、人工知能一般、学習、遺伝的アルゴリズム、ニューラルネットワーク、エキスパートシステム、運転支援、ロボットの7項目をサブテーマに設定し、これらを全て併せてテーマ全体の母集合(分析用集合)とし、分析することとした。
調査対象は2011月1月1日〜2016月12月31日発行の公開特許公報である。
この期間に発行された人工知能に関する公開特許公報の単純合計件数は2,815件であったが、重複を除くと2,656件であった。
この2,656件を年別に集計した結果によれば、人工知能全般に関する公報件数は、2014年に急減したが、その後は着実に増加している。
(2)分類コード別の出願状況
分類コード別に集計した結果によれば、B:学習は2013年から増加傾向を示しており、特に最終年では急増している。
(3)出願人別の出願状況
本テーマの分析対象公報を出願している出願人数を発行年別に集計した結果によれば本テーマに関係している出願人数は21012年に急減したが、その後は継続して増加傾向を示している。
発行件数か発明者数が増加傾向にある出願人を選択すると以下のようになった。
日本電信電話株式会社
キヤノン株式会社
トヨタ自動車株式会社
日本電気株式会社
株式会社デンソー
株式会社日立製作所
富士通株式会社
マイクロソフトテクノロジーライセンシング,エルエルシー
(4)注目技術の詳細分析
上記分析の結果、現在における人工知能の中心技術は学習関連と運転支援であると思われる。
学習関連では日本電信電話、キヤノンが中心であり、運転支援ではトヨタ自動車とデンソーが中心であった。
そこで、この4社を学習関連の2社(日本電信電話、キヤノン)と、運転支援の2社(トヨタ自動車、デンソー)に分け、さらに出願人別に詳細に分析したが、その結果は以下のとおりである。
[日本電信電話株式会社]
・公報グループB:学習の公報発行件数は2015年に一旦減少したものの全般的には増加傾向を示している。
・重要技術としてはB03:自動言語解析が抽出された。
・課題としては精度向上が突出している。
・新規技術サンプルとしては欠損値予測、トランスデューサの構造推定、物体表面の摩耗検出、ユーザの行動予測、言語モデル作成などが抽出された。
[キヤノン株式会社]
・公報グループB:学習の公報発行件数は2012年に急増したものの、それを除けば2011年から全般的に増加傾向を示している。
・重要技術としてはB10:学習型アルゴリズムによる認識が抽出された。
・課題としては精度向上が突出している。
・新規技術サンプルとしては画像認識、画像検索、画像照合などの画像処理技術が多かったが、ロボット制御も抽出された。
[トヨタ自動車株式会社]
・公報グループF:運転支援の公報発行件数は2013年に急増したものの、その後は元に戻り、そのまま横這い傾向を示している。。
・重要技術としてはF12:ナビゲーシヨンが抽出された。
・課題としては精度向上が急増している。
・新規技術サンプルとしては燃費を向上する車両制御、クラッチに関する学習、レゾルバの学習、道・路形状検出などが抽出された。
[株式会社デンソー]
・公報グループF:運転支援の公報発行件数は2013年から2015年にかけて減少したものの、2016年は増加し2014年と同件数に戻っている。
・重要技術としてはF03:乗員・歩行者を負傷から保護・防止、F08:運動制御パラメータの推定・演算、F13:衝突防止システムなどが抽出された。
・課題としては車載可能化、安定化などが急増している。
・新規技術サンプルとしては運転支援、走行区画線認識、周囲状況に応じた危険予測、運転者に対する違和感または不快感の低減などが抽出された。
予想と異なり、全体的には低調であるが、自然言語解析、学習型アルゴリズムによる認識、運転支援などは今後増加しそうである。
しかし精度向上が中心課題であることを考慮すると、実用化、普及にはまだ基礎的な研究・開発が必要であるように思われる、
用途としては、運転支援、医療診断支援などが目立つが、判断、予測、制御、管理、支援、アドバイスなどが必要な技術であれば他の分野にも適用可能であるので、参入余地は極めて大きいと思われる。
※ 作成した図表は37図と14表