第8回:内容

■はじめに

バイオロギングという言葉を聞いた事はありますか?野生動物に電波発信機を付けてどこにいるかを調べる、ということは以前から行われてきましたが、最近ではこうした位置情報だけではなく、動物が何を見て、何を聞いて、どこに、どのように動いたのかを、動物自身に取り付けた観測機器によって記録していく手法が開発されています。つまり、「動物(bio)自らが記録する(logging)」 のが、バイオロギング。野生動物の行動を24時間観察する事は難しいことですが、こうした最新の機器を使うことで今までわからなかった動物たちの行動がわかってきました。 彼らの行動をちょっと覗いてみましょう。

■リアルタイムにカラスとクマを追跡する

東 淳樹(あずま あつき)岩手大学農学部

高橋 広和(たかはし ひろかず)岩手大学連合農学研究科

野生動物に小型の発信機をつけ、その行動をリアルタイムに追跡する。そんなアニメやSFのようなことが実現しつつある。(株)数理設計研究所が開発した、GPS-TXがそれだ。従来のGPS発信機は、発信機内部のロガーに記録された位置情報を得るために、発信機を再度回収する方法と、位置情報を衛星に送り地上でキャッチする方法とがある。しかしどちらの方法も位置情報を知りえるには、数時間から数日以上かかってしまう。GPS-TXは位置情報を地上に設置した受信局に送り、そこからインターネットを介してみることができるため、リアルタイムで対象物の居場所がわかる。このGPS-TXを盛岡のカラスと遠野のクマに装着し、調査を行なった。冬のカラスが向かった先は?クマの調査中に起こったハプニングとは?始まったばかりの研究だか、その取り組みを紹介したい。

【当日の講演が動画として公開されています】

■イルカの水中社会性を調べる

酒井 麻衣(さかい まい)京都大学野生動物研究センター

イルカは、その多くの種が群れを作って生活します。仲間同士がどのように良い関係を保っているのかを明らかにすることが私の研究テーマです。伊豆諸島の御蔵島では水中でミナミハンドウイルカの観察・ビデオ撮影を行い、イルカ同士の接触を伴う行動(ふれあい行動)や、動きの同調について調べています。一方、濁った水域にすんでいたり、深く潜ったりして水中観察が難しい種の研究には、バイオロギングが有効です。私は中国の揚子江でスナメリを対象に、複数の個体による同調した潜水の分析を行いました。本日は、大海原を泳ぎ回る野生のイルカの観察のしかた、どうやって記録装置をつけるのかといった野外調査の裏話や、野生イルカの水中観察とバイオロギングによって明らかにされた彼らの社会性について紹介します。

■海鳥へのバイオロギング

依田 憲(よだ けん)名古屋大学大学院環境学研究科

海洋で活動する鳥、海鳥(うみどり)の行動を観察するのは非常に難しい課題でした。どこへ行き、何をどのように食べているのか、そういった疑問に対して、近年バイオロギングという研究手法が大活躍しています。本講演では、小型のビデオカメラ、GPS(全地球測位システム)、加速度計などの工学機器を世界各地の海鳥に装着し、彼らの行動や、彼ら自身が「見る世界」を記録することによって得られた研究成果を発表します。特に東北地方で生活するウミネコやオオミズナギドリがどのようなパターンで餌を探すのか、そして毎年変わる海洋環境や、東日本大震災が行動や生態に与えた影響などについて紹介し、人と鳥と海の関係について考えてみたいと思います。