第17回:沿岸の震災復興と生き物たち

日時:2017年12月23日(土・祝) 午後2時~4時30分 (開場は午後1時30分)会場:アイーナ8階会議室804

6年8ヶ月前、東日本大震災の直後には「沿岸の生き物は大丈夫? 生態系は回復するの?」という問い合せをしばしば受けました。あまりに大きな出来事に、すぐに調査に乗り出すことは難しかったのですが、少しずつ調べているうちに、それまでの私たちの理解を超えた動植物たちのたくましさ、しなやかさが分かってきました。こうした生き物たちの性質は、長い進化の過程で培われてきたものだと考えられますが、目まぐるしく変化する人間活動の影響はどうでしょうか。

今回の講演会では、海底にすむ動物たちの復活のようす、人の手で再建されつつある陸前高田市の古川沼と高田海岸の小動物や、岩手県沿岸の砂浜に生育する植物達の現状を紹介し、岩手の自然と人とのつながりを考えます。

話題-CONTENTS-

1. 津波被害を受けた海底の生き物たちの復活劇:ゴカイとアサリの物語

阿部 博和(岩手医科大学)

海底には様々な生き物たちが住んでいます。水産物としてもよく知られるエビ・カニ・貝類、そして釣り餌として利用されているゴカイ類などが海底域の主役です。海底の生き物たちは、海底に降り注ぐ有機物を消費することで水質や底質の浄化の働きを果たし、また、魚や鳥などの重要な餌になることで、海の豊かさの基盤を形成しています。そんな海底の生き物たちも、2011年の津波の被害を受けました。サカナのように素早く泳ぐことができない生き物たちは、津波が来ても逃げることはできなかったはずです。彼らは津波によってどのようにダメージを受けたのでしょうか? また、そのダメージから回復することはできたのでしょうか? 本講演では、津波前から津波後まで継続的に行われた調査の結果をもとに,宮城県女川湾のゴカイ類と福島県松川浦のアサリが津波の被害から復活してきた様子をご紹介しながら、海底の生き物たちの恩恵や人とのつながりを考えてみたいと思います。

2. 岩手の海岸動物の特殊性と古川沼・高田海岸のこれから

松政 正俊(岩手医科大学)

昨年(2016年)の夏、広田湾奥・陸前高田市の高田海岸に、延長約200メートルの砂浜が試験的に再生されました。秋には、スナガニというカニの仲間が住みつき、今年の夏にも沢山の巣穴や個体が見られました。このカニは干潮時に巣穴から出て来て活動します。十数年前までの分布北限は秋田、その後は函館、そして最近になって室蘭から記録されていますが、岩手県内で見つかることは稀です。室蘭、函館、宮古、陸前高田の昨年の年平均気温は、それぞれ9.1度、9.7度、11.4度、11.8度であり、岩手よりも寒い函館や室蘭にはスナガニが生息していて、岩手ではなぜ珍しいのでしょうか。その秘密は、北日本沿岸の海流とスナガニの生活様式にあるようです。

今回は、岩手県の沿岸環境の特殊性と、岩手県の最南部に人工的に再生された砂浜(高田海岸)および汽水性潟湖(古川沼)に移入した生物の現状を紹介し、人と自然とのつながり方ついて考えます。

3. 砂浜の植物たちの現状とその保全

島田 直明(岩手県立大学

東日本大震災を引き起こした津波や地盤沈降によって、海岸部の砂浜植生や防潮林は大きな影響を受けました。しかし、砂浜植生は発災当年から再生している場所もあり、地下部に根茎が残存している場所では、比較的速やかな再生が見られました。一方、地盤沈降によって、海浜植物の生育範囲が狭まることによる影響が大きかったと考えています。その後、復旧工事によって砂浜植生に更なる影響がありました。

今年度になって復旧工事が終了した海岸もみられるようになってきたことから、工事後の植物相の調査を行いました。工事前の植物相と比較し、復旧工事による海浜植物への影響を考えてみようと思います。

また、復旧工事による影響を小さくするために、講じた保全対策について、自分が関わることができた事例を紹介します。