第6回:内容

■はじめに

震災の影響で7月開催となった第6回市民講座は、岩手県内の鳥類研究者3名に登場していただきました。

小さくて身近な鳥から大きくて絶滅が心配される鳥まで、スケールを変えてお話していただきたきます。

■スズメの生態学

三上 修(みかみ おさむ)岩手医科大学

スズメが減ったら困ること

生態系といえば、森があり川が流れ、たくさんの種類の生物がいるところを想像するかもしれません。でも、生き物の少ない砂漠にだって生態系はありますから、生態系というのは生き物が豊かな場所とは限りません。生物が棲んでさえいれば、そこには生態系があると言ってもいいくらいです。

そういう観点でみると、私たちが住んでいる「まち」にもまた独自の生態系があります。その「まち」の生態系を代表する鳥がスズメです。このスズメですが、最近減っていると言われています。本当に減っているのか、そうだとしたら何が原因なのか、スズメが減ったら何か困ることがあるのか、そういったことをご紹介したいと思います。

■里山にはぐくまれる猛禽類―サシバ

東 淳樹(あずま あつき)岩手大学

「サシバ」、変わった名前ですが猛禽類の1種です。近年の里山ブームのおかげで少し市民権を得つつあるようです。ツバメなどと同じように、春になると東南アジアなどの暖かな地域から渡ってきて子育てをします。子育てをする場所は里山です。とくに田んぼあり、そのまわりに林があるようなのどかなところがお好みです。カエルやヘビが大好物で、ネズミやモグラなどの小型哺乳類、セミやバッタ、ガの幼虫などの虫も食べます。でも、サシバが好んで食べる小動物は、暖かい熱帯の森には1年中たくさん

いるはずなのに、なぜわざわざ日本の里山に渡ってきて子育てをするのでしょうか?そのわけは、里山の生きものの豊かさと、狩りのしやすい景観の構造にあるようです。

近年、山あいの田んぼの耕作放棄が目につくようになってきました。田んぼが草で覆われると、サシバは狩りがしづらくなります。水のない田んぼからはカエルがいなくなり、それを食べるヘビもいなくなります。そしてやがてはサシバも姿を消してしまうのです。サシバはまさに、里山に育まれる猛禽類なのです。

■森の国で生きるニホンイヌワシの奮闘

前田 琢(まえだ たく)岩手県環境保健研究センター

北半球に広く分布するイヌワシには6つの亜種がいます。その多くが草原、荒野、裸地など開けた環境に生息していますが、日本に生息する亜種・ニホンイヌワシは、例外的に森林を生息場所としています。亜種のなかでもニホンイヌワシが最も小型であるのは、障害物の多い林内で動きやすいためとも言われていますが、それでも広げると2メートルある翼を持ちながら、森林国・日本で生きていくのは簡単ではありません。不利な環境条件を乗り越えるため、さまざまな適応がみられます。

岩手県・北上高地は国内でも有数のイヌワシ生息地です。ここではイヌワシは里山の鳥であり、人間の生活圏に共存しています。この地がイヌワシに選ばれてきた理由には、農林畜産業など人の営みへの適応がありました。しかし、その関係に変化が進んでいる今日、イヌワシたちは子孫を増やせず、絶滅を予期させるサインも示し始めています。北上高地の森で必死に生きるイヌワシの状況についてお話します。