湿原の花と虫たちのゆるやかな関係

鈴木まほろ(岩手県立博物館)

1.花と虫の共生

花には、実にさまざまな色や形があります。どうしてでしょうか?

花は種子を作る器官です。種子を作るには、おしべの袋から出た花粉がめしべの先につく(受粉する)ことが必要です。花は、花粉がより効率良くめしべにたどりつくような進化をした結果、現在のように様々な色や形になったと考えられています。

花の蜜や花粉を餌とする動物(=訪花者)はたくさんいます。花を訪れた際に多くの花粉を体につけ、結果として受粉の媒介をする動物を送粉者と呼びます。花と送粉者は、お互いに利益を与え合う共生関係にあります。

花と虫の関係は、レストランとお客さんの関係に似ています。

(写真上: ミツバツチグリ 下 : カンボク)

(写真左: コバギボウシ 右: サワギキョウ)

お客さんが行きたいお店を選ぶように、お店の側にもねらっている客層があります。それぞれの店のねらいが、店構えで表現されています。ファミレスは道からよく目立ち、気軽に入れる店構えです。一方、料亭や高級レストランはあまり目立たず、そこにおいしい店があると知っている人だけを待っています。

花にも、良く目立ち、様々な虫が訪れて餌を取ることができるファミレス型の花と、小さく目立たず、決まった虫だけが訪れる料亭型の花があります。また、入口が狭く、奥の方に蜜がある高級レストラン型の花もあります。

2.湿原の花と虫たちのつながり

湿原で花と訪花昆虫の関係を調べると、場所によって違ったパターンが見られます。湿原の中にはファミレス型の花が多く、ハエなどが多くやってきます。湿原の縁では、料亭型や高級レストラン型の花も多く、ハチやチョウも多くやってきます。湿原の外の環境がどうなっているかによっても、花にやってくる虫の構成は変わると考えられ、湿原全体では、多種と多種がつながりあうゆるやかな関係が見られます。

(写真: 春子谷地)