第3回:内容

■はじめに

第3回「人と自然と生態学」市民講座では,第2回に引き続いて,生き物の間の様々な関係を紹介します。前回は花と虫でしたが,今回は「森」と「森にすむ小動物」との不思議で,ダイナミックな関係を紹介します。

生物間相互作用(せいぶつかんそうごさよう)をよく調べると,普段の私たちには分からないような,思いもよらない生き物どおしの関係が重要であったり,偶然(ぐうぜん)や人の無意識(むいしき)の行為(こうい)がその関係を大きく変えたりすることが理解できます。

こうしたソフトな科学としての生態学の面白さをお楽しみいただければと思っています。

(写真: ブナ)

■食べられないための工夫-ドングリの場合、そして野ネズミの対抗手段-

島田 卓哉 ( しまだ たくや )[森林総合研究所東北支所]

森林に生息する動物は、直接的あるいは間接的に森を食べて暮らしています。森を食べるといっても、その食べ方は動物の種類によって千差万別です。葉を食べるものもあれば、果実や種を食べるものもあります。森を食べることによって、動物は森林にどんな影響をもたらすのでしょうか。単純に害を与えるばかりではなく、植物の繁殖を支えたり、他の動物のすみかを提供する場合もあります。

森を食べることによって動物が森林の中で果たしている機能について、ネズミとドングリの話題を中心にしてお話ししたいと思います。

(写真: アカネズミ)

■普通の虫が普通でなくなる前に-日本最大級の蛾 クスサンの場合-

松木 佐和子 ( まつき さわこ )[岩手大学農学部]

「白髪太郎」や「クリケムシ」という名で親しまれて来た日本最大級の蛾をご存知ですか?学校の帰り道、栗の木を丸坊主にしてしまった主の姿を見てぎょっとした事がある方も少なくないと思います。食欲旺盛なこの毛虫は、人里近くの屋敷林や街路樹で普通に見られる虫でした。今年見かけたと思ったら、もう次の年には姿を消してしまっている、そんなあたりまえに居るけれどもそれほど大きな被害をもたらすような虫ではありませんでした。

しかし、現在北海道では、この虫が数年に渡って山奥でも大量に発生し、木々を枯らすような被害を出しています。なぜ被害が広まっているのか?東北では同じような被害が起きる危険性は無いのか?について、虫の生態や餌となる樹木の生態に迫る事で検証して行きたいと思います。

(写真: クスサン)

■松を食べるだけなら「松くい虫」にはならなかった-100年前、マツノマダラカミキリに訪れた転機-

中村 克典 ( なかむら かつのり )[森林総合研究所東北支所]

日本各地の松林を崩壊させ、岩手県でも被害が拡大しつつある「松くい虫」とは何なのか?松林の中で自然に発生する弱った木を食べてほそぼそと生活していたマツノマダラカミキリが外国産のマツノザイセンチュウという生き物と結びつき、世にもまれな森林被害の元凶と化してしまった成り行きを紹介しつつ、木を食べることの不利や困難、そしてそんな木を食べるための虫たちの苦労についてもお話します。

(写真: マツノマダラカミキリ)