第16回:大きな森を枯らす 小さな虫の話

開催日:2017年7月2日(日)

会場:アイーナ8階会議室804

森の木が枯れて、そこにたくさんの虫がはびこっているという事態に遭遇したとき、私たちは驚愕し、またある種の恐ろしさを感じるかも知れません。いつもそこにいたはずの虫たちが、なぜ突如として森林被害をもたらすようになるのか?虫にやられた森林はその後どうなっていくのか?また、森を枯らす害虫となってしまった虫たちをどのように抑え込むことができるのか?答えは虫の種類によって様々なのですが、虫ごとに異なる事情を知ることで、森林被害をもたらす虫たちに対する「得体の知れなさ」が少しでも解消されるのではないかと思います。

今回の講演会では、最近、岩手・東北地方で問題となっている森林害虫から話題を取り上げ、その特徴や背景を探ります。虫により、木の種類によりどのような被害が森の中で起きているのか覗いてみましょう。

【話題】

1. 樹氷の森から ―木々を枯らした蛾の大発生と被害を鎮めた天敵たち―

磯野 昌弘(国立研究開発法人森林総合研究所東北支所)

今から遡ること4年、東北地方のとある樹氷の森での出来事です。山麓では、ブナの黄葉もそろそろ終盤を向かえようとしている秋の終わり、山頂付近では、常緑樹であるはずのアオモリトドマツの葉が一面真っ茶色になる異変が起こりました。原因は、大量に発生した小さな蛾の幼虫による食葉被害でした。激しい被害を受けた木々は、翌春の雪解けとともに葉を落とし 、再び芽吹くことなく、そのまま枯れてしまいました。蛾の発生は翌年以降も続きましたが、この森で蛾とともに細々と生きてきた捕食寄生性のハチや昆虫病原菌が徐々に数を増していったため、蛾の密度は急速に減少していきました。講演では、 現場を訪れてから、加害種を特定するまでの道のり、そして、蛾と共に大量のハチが出てきて驚いた事など、終息に至るまでの一連の出来事を紹介しながら、害虫も益虫も含めた多様な生き物が生態系の中で共存し続けていることの大切さや、その恩恵について考えてみたいと思います。

2. 変わりゆく世界と岩手の森林被害 -キクイムシ被害を中心に-

升屋 勇人(国立研究開発法人森林総合研究所東北支所)

現在、世界の森林は深刻な危機に見舞われています。その中でも特に重要なものとしてキクイムシなどの森林害虫や色々な樹木病害があげられます。外来の樹木 病害や害虫に加えて、これまで被害がなかったはずの病害、害虫が世界各国の森林に深刻な影響を及ぼしているのです。これは日本でも同様で、ナラ枯れなどが代表的な事例です。本講演では、国内外の代表的な森林被害の現状について、樹木病害やキクイムシ被害を中心にご紹介します。また岩手県で、より身近な被害になりつつあるナラ枯れとはどのような現象かを解説します。そして、世界各国の病虫害による大規模森林被害について類型化を試みることで、様々な森林被害の発生が何に起因するのか、そしてそれに対してどのように対処すべきかについて考えていきます。