第15回:私たちのエネルギーと生物・生態系

会場:アイーナ8階会議室804

開催日:2016年8月21日(日)

電気を使わずに生きていくことは,現代社会では困難なことです.私たちが使う電気は,火力,水力,原子力,風力,太陽光などを用いた発電所によって作られています.福島第一原子力発電所の事故によって,事故があった場合の社会的・環境的影響が甚大であることが明らかになりました.これを契機に,再生可能エネルギーのより一層の活用が求められ,大規模な風力発電所,太陽光発電所の建設も進められています.しかし,再生可能エネルギーによる発電所も,環境に負荷を与える可能性があることはあまり知られていません.今回の講演会では,原子力発電所・風力発電所と生き物・生態系との関わりについて取り上げ,私たちが生きていく上で必要なエネルギーと環境との関係について考えてみたいと思います.

【話題】

1. 福島第一原子力発電所事故が森林に住む野ネズミに与えた影響

島田卓哉(国立研究開発法人森林総合研究所東北支所)

福島第一原子力発電所の事故(2011年3月)によって大量の放射性物質が大気中に放出され,広大な地域が放射性物質によって汚染されました.森林に降り注いだ放射性物質(大半は放射性セシウム)の森林生態系内での動態を明らかにするために,森林総合研究所では事故の約半年後から調査を始めました.森林に降下した放射性物質は,時間の経過と共に落葉層や土壌の表層に蓄積することが分かっています.野ネズミなどの小型哺乳類はこのような地表・地中を生活圏としているので,森林生態系における放射性物質の蓄積動態を解明し,影響を評価するために適した動物であると考えられます.私たちは上記の調査の一環として,野ネズミなどの小型哺乳類を対象として放射性物質の蓄積程度,そしてその影響について研究を行ってきました.今回はその結果について,チェルノブイリ原発事故の事例との比較もまじえながら,お話しします.

2. 岩手県の風力発電と生物多様性

由井正敏(岩手県立大学名誉教授、東北地域環境計画研究会)

岩手県には現在4ヵ所に風力発電基地がありますが,今後大幅に増強する予定です.原発事故を受けて再生可能エネルギーの利用拡大は避けては通れません.しかし,風車の立つ場所の多くは牧野で,そこには日本一多くのイヌワシが生息しています.生態系の食物連鎖の頂点に立つイヌワシを保護することは,その広大な行動圏の中に生息する多くの生き物たちを保護することに繋がります.今回は風車とイヌワシの共存策を探ってみます.